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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数745件
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傑作。久々に濃密で爽快な読書体験でした。
海外作品なのに読みやすく、かつ戦争物は堅苦しいというイメージを払拭するユニークな作品です。 正直、本書は意味不明なタイトルと戦争小説のイメージから記憶に留めていませんでした。 きっかけはハヤカワ・ポケット・ミステリの情報を調べていた時に、2010年のリニューアル第1弾として本書が選ばれている事を知り注目。何かが変わる時の作品は関わる人々の強い思いが込められた物になっているだろうと言う点と、世の評判が良かったので手に取りました。 祖父から当時の戦争の様子を語ってもらうシーンで物語は始まります。 舞台はレニングラード包囲戦。第二次世界大戦、ドイツ軍が大都市レニングラードを包囲し食糧の供給が断たれた飢餓地獄の街。食べ物が無い為、図書館キャンディと称する本を口にして糊付けに含まれる蛋白質を補給して栄養を取ったり、人が死んでいれば死体の持ち物を物色するなど凄まじい状況が描かれています。 主人公の青年が仲間と共にドイツ兵の死体から所持品を物色していたところ、運悪くソ連の秘密警察に見つかり略奪罪として捕まってしまう。射殺されてもおかしくない状況で、秘密警察の軍の大佐から5日後に行われる娘の結婚式にケーキを作ってやりたいから卵を1ダースもってこい。と命令を受ける。 卵はもちろん鶏も犬猫もいない飢餓状況の重苦しい状況において、ケーキを作るというなんとも皮肉でユーモアな目的が描かれているのが面白いです。邦訳のタイトルが逸品で本書はこの卵をめぐる冒険小説となります。 (全然違うのですが、『走れメロス』のタイムリミット感や『宝島』のワクワク感のようなものを感じました。) 道中は超お喋りな青年コーリャと旅をするわけですが、このコーリャがとても良い味をだしています。詩の引用をふりまいたり、思春期の男の子なので、女の事や下ネタ話など思うがままに喋りまくる。そしてこの会話文が非常に楽しく絶妙です。舞台設定は非情な戦争背景を描いていながら、物語の進行は主人公とこの青年コーニャのおかげで、とてもユーモアに仕上がっています。 戦争背景、残酷な描写、ハラハラドキドキな冒険、青年達の成長、バカ騒ぎ、ロマンス、活劇、etc……。これらが軽妙な文章で描かれていまして、小説ならではの面白さを堪能しました。しゃれた翻訳が素晴らしかったです。 死の緊迫状況があれど祖父が語る昔話なので、祖父はちゃんと生きているという安心感が根底にあるのも良いです。ミステリとしてどうなのか?と言われると、これは広義のミステリーですね。ポケミスが良質なエンタメ作品を扱っていくという思いや、質の高さを改めて感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『これは推理小説を模った魔術師の物語』
事件や謎が生まれて、魔術師や魔法が存在する世界なのですが、ミステリやファンタジーと区別ができない物語。ただ『本格ミステリ・ディケイド300』に掲載されていますのでミステリとして認識されている本ですね。当時ミステリとして不思議な影響を与えた作品なのだと思います。あまり見かけない特殊設定本です。 最初の事件は、学園の屋上で行われた顔を潰された被害者の謎。屋上へ向かった犯人の姿は監視カメラになく、被害者も一命を取り留めた。視線の密室や、何故とどめを刺さなかったのか?といった犯行理由の推測などミステリ模様は豊富。 読者は魔術が存在する世界の為、魔法で何かできるのではないか?と考えようとします。 ですが、その魔術が一体何なのか全貌が説明されていません。その為、魔術で出来る事・出来ない事が不明で、論理的に事件を考える事ができず、傍観者の気分になってしまうのが残念。 ただ、このモヤモヤした感覚は、終盤のある事柄に対して効果的なので、まったく悪いわけでは無いですね。ややこしい事をしているのに、雰囲気が軽いから、なんとも不思議な作品に仕上がってます。 文章は読みやすく、学園もので明るい作風は楽しめました。佐杏先生や主人公のキャラが特出していて良かったです。反面、他のゼミの子達の区別が分かり辛かったのが難点ではありますが。。。 変わり種で楽しめたので、続編も読んで見ようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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好みの本でした。
こういうのが読みたかったと思えた作品。ミステリを読み始めた頃の懐かしさと新しさのバランスがうまく取れていて好みでした。 期待させると落胆させてしまいそうなのですが、ミステリの驚きや濃さとか人間味とか、そういうのを求めると浅いと感じられてしまうかもしれません。ただ、楽しいミステリってこういうのだよ。と改めて認識できた作品でした。 星読館という天体を観測する館。そこに住まう博士。孤島に集められた7名の男女。 好みのシチュエーションの中で起きる事件。何故事件が起きたのか。理由や動機は?これらミステリ模様は読んでいて楽しいです。ライトノベルの作者なのでキャラクターは軽めなのですが、おっさんやヒロインなど定番だけど分かりやすくてよい感じ。 読書前と後で印象が変わりました。ミステリ・フロンティアのレーベルだったこともあり、読書前は重いコテコテのミステリを想像していたらライトで違う。でも、これはこれで面白くて、最後は納得で綺麗にまとまるのが見事。 個々の要素は見知った定番ネタなのに、使い方と整え方が凄く綺麗です。天体観測や流れ星や願い事などの雰囲気もロマンチックで楽しめました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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犯人は○○だよ。冒頭1ページに神様からの指摘で始まる連作短編小説。
ミステリ世界の中で絶対的な真相を提示する名探偵の枠を超えた神様と言う存在が凄まじいです。 通常ミステリで『偶然こんな事が起きたから、犯人は○○』と言われても納得できないのですが、『犯人は○○で確定。その為にはあの時偶然にもこんな事が起きなければならない』と、通常だと考えないような偶然をも考察するのが、本書ならではで面白かったです。 そんな展開で進む中の4作目『バレンタイン昔語り』は、本書の設定を活かした作品で一番好みです。この4作目以降は、設定に意味がある話作りで凄いなと思います。 小学生らしくない子供たちですが、サンタクロースを信じるように神様を信じさせる為には小学生の設定は必要なのでしょう。この辺りも最後まで読むとちゃんと作者の意図を感じられる為、特殊設定ミステリとして斬新で細部まで考えられた素晴らしい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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90年代の新本格物。たまたま検索していて見つけ、"密室"・"講座"のタイトルに釣られて購入です。
あらすじ通り、閉ざされた空間で連続殺人もの。誰が犯人で、どんなトリックで、目的は何なのか?と、コテコテの展開が楽しめます。お約束な展開そのままで隠れた名作なのでは……?と思いながら読みました。 ただ、300Pぐらいの本で、200P終盤まではワクワク・ドキドキ楽しめていたのですが、収束の仕方が盛り上がらず、残念な気持ちになりました。パズル小説としての展開は良かったのに妙に人間的になってしまったからでしょうか。キャラクターが無駄に不快になり、拍子抜けでがっかりでした。 "密室講座"も舞台の設定なだけで期待するようなものはありませんでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ミステリの手法を使ったSFの名作という事で読書。
SFだからと言って難しい言葉はないですし、登場人物も少ない為、把握しやすいのが良い。 50年以上前の古典作品に分類されていますが、今読んでも分かりやすく楽しめました。 人々はドーム型のシティの中で生活しており、外気や日光は直接浴びず、食糧危機の影響により子供の出生数や食事の内容と量まで制限を受けている窮屈な世界。知能・技術に優れた宇宙人との交流や、ロボットの発達により人間の仕事が奪われてロボットが憎まれているなど、現代でも少し感じる所があり、SF作品として興味深かったです。 人々は皆、懐古主義者で、地球が唯一の世界であった時代を思い出すさまに哀愁を感じました。 これらの世界観を土台に宇宙人が何者かに殺された事件が起きます。 ロボット工学三原則により、ロボットは人に危害を与えられない。地球人も心理的理由から殺人を犯せない。本書のSF世界観ならではの謎で、作品を読んだ時に感じるテーマに沿ったミステリ要素が見事でした。 ミステリとして期待してしまうと斬新な驚きはないのですが、世界を味わう感じで読むと楽しめます。 希望に満ちた未来を感じる読後感も良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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不思議な読後感を得る作品です。重くもなく軽くもなく、何が心に残ったのかうまく言えないのですが、タイトル文を借りると謎の弾丸で撃たれた気持ちであるわけで、何かを受けた気持ちになっています。
結末は冒頭にて明かされており、その内容は単語としては悲劇なのですが、本書を読んだ後だと単純な悲劇だけでなく救済とも感じられます。が、この感覚は読者によって見え方が変わるでしょう。 他者の感想によって、本書の感じ方が影響を受けるわけでも無いと思います。何となくですが、作中にでてきた心理テスト同様に本書を読んでどんな感想を描くのかで心理面が覗かれそうな気持ちになりました。 私自身、作品を読んでどう思ったかと言うと、主人公の山田なぎさや、海野藻屑ともどもには、何とも思わずそういう世界に触れたのかなとか、義務教育を終えるまでは誰かに依存する事になり、自己や自由を手にする事ができない為、設定された環境の中でどう生きるか考える必要があるな。とか思っている次第でして、これは無関心や他人事のような心理を分析されたような気持ちになりました。 読む時期によって得られるものに変化が起きそうです。 同世代の学生なら、子からの視点で選択肢のない無力感を味わい、大人の視点では手段の知識を得ていても実現できない無力感を感じるのでしょうか。と、これも人それぞれの感想だと思います。 なんとも不思議な文学作品を味わいました。 |
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書物が駆逐された特殊な世界でのミステリ。
書籍がなく情報規制がされており、メディアは耳で聞くラジオが主。『殺人』や『探偵』とはどういう事なのか?そもそも言葉の意味もわからないような空間での物語です。箱庭の世界の中で首なし死体が発見されても『殺人』と言う意味が存在しないため、『自然死』として処理されてしまうような常識が異なる村の中で、どういうミステリになるのか全く予想できずでした。 文庫版解説にもありましたが、序盤で感じたのはシャマラン映画の『ヴィレッジ』の雰囲気そのものでした。 ファンタジーだから何でもありなのかなと思いきや、ある1つの事が明らかになった瞬間、不可解な謎が一斉に解決する終盤は本格ミステリ模様で見事でした。 童話的な物語は、デビュー時の城シリーズから比較すると、意味があり面白くなっているのがとても感じます。 また、特殊設定の中で、ガジェットと呼ばれる結晶の設定が面白いです。 昔の人が、ミステリをこっそり世に残そうと、細分化された要素(『密室』『首切り』など)をガジェットという結晶に詰め込み装飾品として世に散らばっているエピソードなのですが、どの結晶が今回の事件に影響しているのか?と考える楽しさもありました。 その他、深読みですが、メディアの情報規制や電子書籍に代わる出版業界の今後も感じ取れました。 得られる情報を規制して与えた内容が正しいと刷り込まれた人々の姿は、自分から調べないTVやラジオの話に見えますし、書籍がない空間は電子書籍への暗示にも感じます。 結局の所、どこまでの情報が得られた世界なのかが分かり辛い為、整合性や現実的な事を気にする場合は好みに合わなくなると思います。細かい事は気にせず不思議な童話を読んでいたら実はミステリだった、ぐらいの感覚がとても楽しめる読書だと思います。 著者の作品で、ミステリ要素以上に世界観が楽しめたのって初かもしれません。次作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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最近、特殊設定ミステリを好んで読んでます。本書もその1冊でファンタジー×ミステリ。
魔人復活を阻止すべく運命の神に選ばれし6名の『六花の勇者』。ただ、約束の地に集まった勇者は7名だった。 何故7名いるのか?世界の法則がおかしいのか?偽物が紛れ込んでいるのか?という疑心暗鬼もの。 現実的なミステリならスパイ小説辺りになる内容に、勇者の能力(魔法)要素を足してファンタジー世界での特殊設定ミステリに変貌させているのが面白いです。 本書はシリーズで数冊出ていますが、1巻で区切りがついていますので本書だけで楽しめます。あと補足ですが、2巻目のあらすじが1巻のネタバレなので閲覧は注意です。 閉ざされた神殿内部で結界魔法が発動された謎は、密室問題として扱っていたり、真相究明の推理場面が存在してはいますが、ミステリ要素は低めです。ただ、誰か1人が裏切り者かも?という疑心暗鬼が効果的で、勇者同士の戦闘も誰と共闘するか、誰が味方か、負傷者と犯人かもしれないあいつとを一緒にいさせてよいのか?といった戦略が楽しめました。キャラクターも良く、各人の抱えている過去だったり、主人公アドレットの熱い信じる心だったりと、物語が面白かったです。 序盤、何の能力も持たないアドレットが地上最強の男だと自称するあたりは痛い勇者で、ラノベ雰囲気抜群でしたが、後半になると良い味になるのも良いです。 シリーズは続いているみたいですが完結していないのですね。 2作目以降は様子見。1巻だけで終わらせても勇者の戦いは続いているんだなと、その後の期待感を読者の想像にお任せとして楽しめます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは傑作。そして読後感も好み。気持ちの良いものを読みました。☆8+1好み補正。
90年代のSFライトノベル。時間跳躍によって過去と未来を行き来する話ですが、特徴的なのは同じ時間を繰り返さない事です。既に行動した時間へは戻らずバラバラになった時間軸を飛び回る為、現時点で状況が分からない設定も後々過去に進むとそういう事だったのかと発見する楽しさが味わえます。 『本格ミステリ・クロニクル300』で紹介された本でもあるので、ミステリとして話が構築される楽しさや伏線の妙を楽しむ事ができます。 先にちょっと難を言いますと、古い小説なので見慣れた展開やテンプレ通りの流れで驚きを求める人には向かないかもしれません。ただ、その分非常に安心して楽しめる1冊であります。 女の子が急に時間跳躍に巻き込まれ困った所、学園内の秀才の和彦に相談。最初は冷たい反応だけど、徐々に相談に乗ってくれて頼れる男子になるわけですが、もうこのベタベタな展開が安心に繋がり、何とかなるんだと気持ちのよい読書が続くのがよいです。友人たちも良い子なので学園・青春小説としても気持ち良い本でした。 パズル小説として二度読みすると随所の作りに巧いなぁと発見があるのも楽しいです。 素晴らしい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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漫画『DEATH NOTE』のノベライズ。物語の時代設定は漫画より過去で、南空ナオミがLと知り合うきっかけになった事件です。
漫画を途中まででも読んでおり、ミステリ小説が好きな方には、お薦めの小説です。原作の設定や読者イメージを効果的に使ったミステリに仕上がっていました。スピンオフ作品としては十分なクオリティで楽しかったです。 多少原作を知っている前提なので、キャラ紹介や死神の能力などはあっさりとした説明になっており、余分なページを削っています。全ページ数は180Pぐらいで無駄がないと感じます。 私自身、連載中の漫画を読んでいたぶりの読書なので、南空ナオミって誰だっけ?程度の記憶だったのですが、そのぐらいが寧ろキャラの性格に影響を受けず、丁度よい読書だと思います。 物語は既に起きた3つの猟奇事件について、FBI南空ナオミがLから連絡を受け捜査に乗り出します。 密室状態の事件現場、藁人形の見立て、異なる殺害方法、被害者のミッシングリンク。事件は既に起きている為、小説の中身は推理と謎解きが大半を占めています。異常思考での事件な為、読者はついていけない展開なのですが、Lの超思考だから追いつけるのかも。と変に納得できる推理の展開が見事です。 見立てまで行い、明らかに他殺なのに何故密室にするのか?この扱いも個人的には逸品だと思います。 全貌がわかった時、この原作だからできる特有の内容を感じられ凄いと思いました。 賛否両論な世の中の評価も、 △:原作好き+小説読まない層 △:原作知らない+小説読む層 ○:原作知っている+小説読む層 という風に感じます。 合う場合は埋もれた作品だと思います。たまたま見つけて読んだ次第ですが、予想以上に満足でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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デビュー作の『罪色の環』が個人的にツボだったので2作目はどうなるのだろうと楽しみにしていた所、作風が一気に変わった装いに驚きました。表紙からミステリなのか判別つかなかったのですが、とりあえずファンタジーも好きなので手に取り読書。
ライトノベルが好きな読者に対しては、本書は綺麗にまとまった内容なのでお薦めですが、ミステリ志向な方にはそぐわない内容かと思います。一応ファンタジー×ミステリです。 著者は元警察官という経歴であり、留置場での看守時代、留置人との会話の実体験が本書に活きていると述べていまして納得。 階級が烙印として体に刻まれており、上の者からの指示は絶対で逆らうと烙印の影響で死んでしまうという世界観。今回は被疑者や身分が違うものとの関わりが強く感じる物語でした。 数年前の『執事×お嬢様ブーム』の影響か、本書もその手の会話がありまして序盤は楽しめましたが、終盤のシリアスな佳境においては雰囲気が崩れてしまった気がします。ちょっと狙い過ぎかなと。 ミステリとしては、オカルト実験のスクエアで起こる殺人の謎が提示されます。暗闇の中、四隅に人を配置して、壁伝いに前の人をタッチして周る定番のやつですね。 このネタは有名過ぎて、不可解な状況が起きても仕掛けが思いついてしまうのが難点で、ファンタジーの怖さやミステリの謎に魅力が弱かったのが正直な感想です。 ただ、本書の魅力は設定が全てなわけではなくて、王女アリシアと拷問官ジグの絆の物語が楽しめます。 王女のアリシアは我儘だけど脆くて可愛いし、ジグは暗殺者の過去と現在の優しき二面性があり、キャラ物として安定して好み。無実の王女を、命令だからという理由で意志のない人形のように行動した序盤とは違い、段々とジグの思いの変化が感じられました。 世界観や話の伏線も丁寧なので個人的に新作が楽しみな作者さんになりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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んー…これは評価が分かれそうな小説ですね。
特殊な舞台での本格ミステリ。幾人による推理合戦や一筋縄ではいかない結末が非常に面白い。ただ、粗がとても目立ち、共感できない所が多々あります。細かい事を気にせずミステリの謎を楽しむのか、世界観を含めて楽しむのかで好みに影響するかと思います。 物語は、新型ウイルスの影響で肉が食べられなくなった後、自身のクローンを食用肉として認可された世界。食用クローンとして、人間を飼育して加工する施設で働くものを視点としたミステリです。 ドロドロした内容はないのですが、人を飼育したり加工したり食したりという雰囲気に気持ち悪さを感じる人は避けた方がよいでしょう。 個人的には特殊な世界観で、ぶっ壊れた刺激も好むので面白く読めました。登場人物達も倫理観が程よくずれているのもよいです。毎日食用人間の首を切断する加工部の人間と、こっそり育てられた食用人間のチャー坊。どちらも人間であるので牛や豚と違って言葉を話すんですよね。『てめぇは食べるために作られたんだ』といった会話が中々強烈です。 人々の会話は非常に面白い反面、世界観が舞台装置の記号・設定になってしまていると感じました。 人間を加工する部署がある。廃棄物処理センターがある。施設の入り口はここにある。という感じで舞台は説明調なのです。人間が飼育されているので、生生しい声が聞こえたり、匂いがどうだとか、その場の雰囲気がありそうなのですが、五感による空気感が感じられなかったのが残念です。 この工場は人間を加工しており、世界が注目するかなり特殊な工場だと思うのですが、セキュリティが甘々です。人が簡単に侵入できそうだったり、不審者がどうだとか、社員は自由に徘徊するなど、現実的に考えたらいろいろ納得できない所が生まれてしまい、齟齬が生じている気持ちになります。首だけ切り落として出荷って、毛や皮膚や内臓はそのままなの?冷凍じゃなくて常温?とか。細かい場が描かれず、謎解きの為に必要な設定だけが並べられていると思った次第です。 逆に言えば、描かれている事は謎解きの為に散りばめられた伏線だったり、推理合戦の材料だったりするわけなので、冒頭に書いたミステリの謎で楽しむのか、雰囲気も考慮して楽しんでいるかで作品の評価が変わると思う次第なのです。 細かい所はネタバレで。タイトルと表紙の気持ち悪さは好み。 文章は読みやすく強烈な設定が楽しめるので、今後の作品に期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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1957年の古典作品。永らく絶版で幻の名作となりましたが、創元推理文庫創刊50周年での復刊希望リクエストの読者投票で選ばれたのを機に新訳で復刊。その2009年の新訳版を読みました。
冒頭に記載されているのでネタバレではないですが、本書は『信頼できない語り手』の作品です。 叔父の遺産を相続し大金を得た事と、氷に足を滑らせて頭を打って断片的な記憶喪失になってしまったのを機に、仕事を辞めて故郷に移住した主人公。記憶障害の影響か、なんだか物はなくなり、住人に違和感もある、何か事件に巻き込まれているのか?いったい何が起きているんだろう……。という作品。 古い作品の為、現代ミステリでは見慣れた設定を多く感じ、これってもしかして、あれではないか?、これかも?と、読者は想像を巡らせると思いますし、その枠を大きく飛び越える事はないかもしれません。が、技の使われ方や場の雰囲気がうまく、ただの既読感で終わらないのが凄いです。 実は正直な所、新訳本での読書であるのに文章が読み辛く感じてましたし、語り手の曖昧さから内容の把握が困難で、中盤まで面白くなかったです。古い本だからハズレだったかなと思ったのですが、途中である仕掛けが発動して驚くとともに、それだけでは終わらず、その先へ継続するストーリー展開に惹き込まれました。 現代では、新しさを感じないと思う所が残念ですが、ネタの複合や使われ方でこう面白く化けるのかと上手さを感じる作品でした。タイトルも逸品で完成度の高さを感じます。 点数は、既読感の仕方なさと読み辛さの好みでこの点数。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは1作目を読んでからの方が良い作品です。ストーリーの繋がりはないのですが、作風を事前に知る意味でです。
デビュー作の『○○○○○○○○殺人事件』では、ネタ本なんだけど、ただのネタだけで終わらず意外にも真面目で本格志向だ!と感心すると同時に、この作風からして2作目はどうするのだろう?と色々思っている所に早速2作目が刊行。『上木らいち』が探偵役の短編集。 援交高校生の名探偵の設定通り、下ネタや過激なネタを活用しているのですが、それが単純なネタだけでなく、その設定を活かしたミステリにしているのが見事。人によってはバカミスの部類になると思うのですが、前作同様に骨格は真面目にミステリをしているのがとても感じるのが良いです。 まぁ、ただホント、人を選ぶ作品ですね。 読後感として、後半の『橙』と『赤』の章は正直好みではありませんでした。『赤』の章に関してはやっている事は凄いのですが、それが面白さに感じられませんでした。『橙』自体も作風が変わってしまい、補足する為だけの存在に思えて可哀想になりました。この2章は他の作品に比べると後付けに感じてしまいました。 それ以外は総じて面白かったです。 『黄』の章の短いながらもしっかりミステリをしている話。『青』の本作ならではの、ぶっ飛んだ仕掛けは脱力ものです。 『上木らいち』自身もキャラが確立していて好感。サバサバしていて性格も良いですし特殊設定の探偵として個性的。読んでいて楽しいです。 この作風、3作目はどうするのだろう。。。と心配と共に期待してしまう気持ちがありますが、 作風が変わったとしても、作者の本格好きはとても感じるので次回作を楽しみにしてます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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素晴らしい作品でした。傑作。
いわゆる美術ミステリのジャンルなのですが、なんでしょう、薀蓄を語る系ではなく、自然と芸術世界の中に読者を連れて行ってくれるような万人向けの作品です。 絵画やクラシック音楽などの芸術作品は、その作品が作られた背景や作者の想いを読み解いていき、ミステリのように謎を明らかにしていく楽しみがありますが、事前に予備知識がないと楽しめない敷居の高さを危惧するところがあります。 ですが、それらは本書には杞憂で、美術を知らない人が読んでも楽しめる事に趣を感じます。 美術の知的好奇心くすぐる話も然ることながら、古書によるルソーとピカソの物語、織絵とティム2人の物語、ティム自身が上司になりすましたハラハラ感など、楽しみ所が豊富で夢中でした。これらが、堅そうな美術ミステリのイメージを払拭してくれます。 あとはなんと言っても美術に対する熱い想いがとても感じられる点。特に後半のピカソがルソーに投げかける言葉には熱いものが込み上げてきました。 さらに本書の素晴らしい所は、物語を読んで『はい、おしまい』ではなく、作中に出てきた絵画を知りたいと読者の未来の行動に影響を起こさせている点。今はネットがありますから作品名を検索してどんな絵画なのか調べてしまう事間違いなしでしょう。 物語を楽しみ、改めて絵画と向き合う。読者は本書と現実世界で再度体験できるわけです。これは凄い。 皆さんのレビューを見て、初めて手に取った作者でした。 よい作品を知り充実した読書でした。おすすめ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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多くの死傷者を出した爆発事故の最後の1分間について、1章を1秒間として描く物語。
試みが非常に面白くて興味がわきました。最後の1分間を深く掘り下げ、爆発事故の被害にあった、ごく普通の一般人の人生の一コマを描いているわけです。 ただ、たった1分間の物語なのに非常に内容が把握し辛かったです。 まず、1秒を描く特性から場の状況を事細かに説明されます。会話文は秒数が掛かるので殆ど使用せず、誰々がどこにいて、何があって、周りはこんな状況でと言った具合の文章。さらに登場人物が60数名もいるので、人物と場面切り替えが頻繁で把握が困難でした。 これだけ多くの無関係の人々が一瞬の爆発事故で被害にあったんだと言う訴えはよく感じましたが、小説の面白さとしては、主要人物は10人以下でもう少し把握しやすかったらよかったのにと思う次第でした。 せめて被害者一覧や現場状況の図は本書冒頭にほしかったです。名前や場所が把握できるだけでも本書は随分楽しめやすくなると思います。 1秒の描写にしてはとても長く感じられるのも違和感でした。最後の5秒ぐらいはテンポが良かったです。 勝手な想像で、もしかしたら個々の行動を正確に追っていくと、被害者の入れ替わりや、事件の黒幕が中にいると言った仕掛けがあるのかもしれません。が、本書にはそれを読み解きたくなる魅力が得られなかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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セックス×ミステリと言うコンセプトで作られた6作の短編集。
これは商品キャッチとしてはとても強いなと思いながら、どんな話を読めるのかと期待でした。 セックス物で思いつくのは、ハードボイルドの男女の関係や、女スパイ、くノ一等、ミステリと混ざると結構真面目な本が思いつきます。信頼関係を得て情報を得たり、裸の傷を調べたりと、行為に関係した何かによる刺激を期待してしまう所でしたが、本書は記憶のそれらと違い、半分は単純なエロ構成で、それが本当に必要なのか?と、読み進めるにつれて疑問を感じてしまったのが正直な気持ちでした。 官能部分も真面目というか固いというか、いやらしい湿り気ではなく、カラッとしていて妙なちぐはぐを感じた次第。 「おうっ」「ひゃうっ」「じゅん」と言った表現がすごく印象に残ったのですが、エロくて興奮とは違い、不思議な表現で覚めてまったというかクスっときたというか、表現が毎回同じなのは狙っているのかとか、余計な考えが浮かんでしまいました。 なんだか煮え切らない読書でしたが、『カントリーロード』は傑作の部類。 本書のセックス×ミステリ、男女の関係、短編での構成が見事に決まり面白かったです。 あと『見下ろす部屋』は、エロの必要性は感じませんでしたが良かったです。 短編集の短編の並びが、うまく落ち着いていると感じました。 作者らしい作品、表題、後半に真打、ラスト綺麗に終わる。並びが初出順ではなかったので、考えられていると思いました。 表題にもなっている『相互確証破壊』の結末については、思う所をネタバレに書いてみます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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扱うテーマは「生と死」であろうか。自殺願望、孤独、児童養護施設、ホスピス。絶望や希望の内面を描く物語。ミステリにおける事件が起こるわけでもないので、求心力が弱く感じましたが、文面は整然としいて読みやすく読書はあっという間でした。
作品内容の為か、登場する人物達にまったく共感ができなかったです。 正直扱いがアレでしたが、一番共感して、まともだと思えたのはベンツ(あだ名)でした。 なので釈然とせず、作品の意志と共感できない所が多い為、好みに合わずでした。 1年間何があったのか。その話の全容が分かった最後にやっとミステリらしくなって、なるほど。と楽しめた作品です。 テーマのわりに、終わりが爽やかにまとめているのが良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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特殊な環境の心理模様に定評がある著者の作品ですが、この作品は正直好みに合いませんでした。
あらすじ通り、ゾンビが存在する世界を演じる物語。 『死体が蘇る……』と訴える精神病を患ってしまった深雪の為に、ホームセンターの閉ざされた空間内でゾンビが存在する世界を演じて、深雪を認めてあげながら徐々に正気を取り戻す治療を試みるお話。 読者に対して序盤から虚構を明かしている為、ゾンビに襲われる!というイベントが起きても緊迫感がありません。 ホームセンターやら演出などは確かにゾンビ映画の定番を活用しており、分かるネタが見つかるとクスっときますが、それでも何か滑稽な演劇を見ているような気分でした。 思わぬ闖入者が混じり虚像劇がうまくいかない展開や、そもそも何故深雪がこのような精神病になっているのかなど、謎やサスペンスの要素はある事はあります。 ただどうも他の著者の作品と比べると、脱出したい、生き残りたい、といった渇望の目的がありません。今回は各人の狙いがバラバラで根幹となる目的がよく分からず、どこにも感情移入ができなかったので面白さが感じられませんでした。 面出しの状態で本屋で並べてあったのですが、、、何か話題になったのか。ただの書店員の好みだったのかと不思議に思う次第。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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