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涙香迷宮
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涙香迷宮の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点2.46pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全10件 1~10 1/1ページ
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ミステリーというか、推理小説の体を成してはいますが、いろは暗号も事件も牧場さんが最初から最後まで全て解く物語。黒岩涙香さんという傑出した人物を活用し、いろは暗号を作り上げ、推理小説風の物語に編み上げることが目的であって、最初から読者への謎解き挑戦を目論んでいないと思われます。仮に、いろは暗号を解くとなると、作者がこの暗号を作り上げるのに要した時間は最低限必要でしょうから、おそらく、通常読み下す読書時間では到底解けないと思われます。いろは暗号をいかに鑑賞するかが、この物語を楽しめるかどうかにかかってくると思います。 ミステリー的といえば、秋水のクイズの解答は明かされなかったけれど、おそらくは・・・・・だと思います。 | ||||
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読む巻措くをあたわずというような、ぐいぐいと読者を引き込み、次はどうなるのだろうとページを繰る手の止まらないミステリーが傑作であるのは言うまでのないところでありますが、本作はそれらの作品とは趣きを異にします。 端的に言えば、本作は読者に立ち止まることを要求するミステリーなのです。 ページをめくろうとはやる気持ちをぐっと抑え、手を止め、日本語の奥深さをいかんともなく発揮する目くるめく暗号の数々をとくと味わってもらう、Googleで言葉の意味を逐一調べるのもいいでしょう。つまりは読者に酩酊感、作者と相互的な没入感を持ってもらう、そのことこそが本作の目論見なのです。 芳醇、濃醇な美酒をたっぷりときこしめされた酔客が車を走らせて場をそうそうに立ち去るのがもってのほかの如く、迷宮に放り込まれたものが方角もわからぬまま闇雲に進むのがいかにも浅薄な行動であるが如く、読者は立ち止まって、紙面から滲み出し溢れんばかりの、魅惑的な言葉を杯で掬い取り傾ける、その時間を意識的にでも持たなけれはばならない、その読者の姿勢こそが本作を空前絶後の暗号ミステリーの傑作にまで昇華させるのです。 親切ではないです。言うなれば、竹本健治氏が読者に期待した、頼むぞと願いを込めた、あるいはごめんなさい、なんてお茶目な気持ちも見え隠れする、そんな作品ではないでしょうか。 終盤に智久の涙香分析で、「意味が通じて綺麗にできあがっている作品よりもむしろ遊戯的技巧の極致のような作品の方がむしろ自慢だったのでは」と涙香についての的を射た見解を述べる箇所があります。 これにはまさに竹本健治と『涙香迷宮』の関係性が表わされているのと思います。綺麗に纏められた破綻のないミステリー作品に仕上げることはもちろん竹本健治氏の経験、技術をもってすれば容易かったはずですが、そこにあえて重点を置かない意識的にずらそうとする竹本健治氏の創作への遊戯的意識(趣味?)を、智久に代弁させたかのような智則の涙香考察が竹本健治氏が『涙香迷宮』の創作において暗号(遊戯)を散りばめることに徹した、必然性とも言わないまでも動機が垣間見え、いくらかは得心できるのではないでしょうか。 それとまあ、これは蛇足ですが、智久シリーズであるゲーム三部作などでは当時幼き智久はまるで見当違いの推理などを披露して、事件解決どころか、逆に犯人に追い詰められてしまう始末で、脳生理学者の須藤信一郎がもっぱら事件を解決していたのですよ。ようやく彼も成長してやっと周囲から手放しで褒められるようになったので大目に見てあげてください笑。 | ||||
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初めて竹本健治作を読みました。読みやすい文章でサクサクいけました。 これから買う人が注意すべき点はオビやランキングで謳われる「暗号ミステリ」と「殺人事件」は別物という点です。 「暗号ミステリを解いて殺人事件を解決する」を期待して読むと肩透かしをくらいます。無関係とまでは言いませんが別物です。 良かった点 ☆若いイケメン探偵が活躍(恋人?はでてきますが恋愛要素は描かれていません) ☆サクサク読める ☆いろは歌や涙香にまつわるウンチクも適度に楽しめました 悪かった点 ★シリーズの最初巻ではないせいか探偵と助手?の人物像について客観的な説明がほぼないので年齢や関係性が分かりにくく感情移入しにくかったです ★3分の1を読んだ位で読者には「なんとなく」犯人の検討はつくけど探偵が最後に犯人当てをしても「なんとなく」のレベルだった ★ある状況下における前提条件にムリがあるだろと複数箇所でツッコミたくなる ★高校生は借りたスマホをシャットダウンして返したりはしない 以上のことから「読みやすい本だけど殺人ミステリとしてはうすーーい、けどイケメンなんで許す」というのが私の感想です。 殺人事件はオマケです。暗号はへ~すごいふ~んです。イケメン万歳で読みやすいのがいい方だけにオススメします。 | ||||
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本作品は、各出版社主催の2016年に刊行されたミステリのランキングで、上位にランキングされている作品であることと、著者が1978年に「匣の中の失楽」という傑作をひっさげてデビューした実力派であることから興味を持ち、読んでみることとしました。 結果は、評判どおりの良作で、大変に満足しています。 明治時代の傑物・黒岩涙香を研究する人たちが、多芸な涙香のある趣味の中に暗号と思われるものを見いだし、茨城県の山中に、涙香の隠れ家(廃墟の地下遺構)を発見する。 その建造物の中の12の部屋には、いろは48文字を一度ずつ使って作られた「いろは歌」が併せて48首散りばめられていた。 それらの歌に隠された暗号に、天才囲碁騎士・牧場智久が挑む、というストーリー。 まず圧倒されるのは、48首も、いろは48文字を一度しか使わずに構成された歌が、もちろん別々の内容で、しかもきちんとした日本語の文章になっているということ。 これを著者が自分で創作したのであれば、大変な苦労があったであろうし、驚嘆せずにはいられません。 さらに凄いのは、この歌に暗号が隠されていて、ある手法を用いると、涙香の遺した「宝物」が示されるということ。 この暗号が解かれていく過程は大変スリリングであり、この仕掛けを作り上げた著者の才能には脱帽します。 しかも、最後に明かされる「宝物」は、意外かつ驚愕必至の内容となっています。 「匣の中の失楽」を執筆した時の実力が、数十年を経た今も、衰えていないことを実証していると思います。 私自身は、暗号小説を沢山読んでいるわけではないのですが、恐らく日本の暗号小説の傑作のひとつと言える、江戸川乱歩賞受賞作「猿丸幻視行」(井沢元彦著)を読んだ時の感動に近いものを味わえました。 本作品は、文句なしの暗号ミステリの傑作です。 ミステリファンなら、必読の一冊と言えるのではないでしょうか。 | ||||
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本書の圧巻は、言うまでもなく「いろは」に「ん」を含めた48文字の並べ替えで作られた、50首以上のいろは歌だろう。それらはほとんどが黒岩涙香の作という設定になっているが、実際はもちろん竹本健治の偽作。 1首、引用すると、 ケンタウロスよ 星降らせ けんたうろすよ ほしふらせ 琴座のベガも 笑み送れ ことさのへかも ゑみおくれ 天ぞ指にて 螺子廻る あまそゆひにて ねちまはる 夜話を紡ぎぬ 営為なり やわをつむきぬ えいゐなり 登場人物の1人が「ちょっと宮沢賢治を先取りした感じ?」などと評していて、涙香の天体趣味も まことしやかに語られてるが、まあ明治の感性ではない。 しかし、ほかにも花鳥風月や妖怪尽くし、虫尽くし、ミステリいろは… と趣向をこらしているので、これは読んでみる価値がある。 作中で「どうしてこんなふうにうまく作れるのかしら」と賛嘆したり、最後のほうで明らかにされた秘密についても「こんなこと、人間にできるものなのか?」と驚いているが、そう書いている竹本氏自身が考え出したことなんだから、自画自賛も極まれり。作者のドヤ顔が鼻につくとの意見もあるようだが、ここは愛嬌と受け取って置きたい。 ただ、いろは歌の暗号は感心する人も多いようだが、私はあまりいいと思わなかった。ふつうの いろはに謎が込められてるのなら感心するのだが、暗号のいろはは一見意味不明の文章で、これだったら何とでもつくれるという感じ。 殺人事件の謎と、いろはの暗号が全く別物なので、読後の快感が少ないという問題もある。 まあ謎解きに到る過程のうんちくは堪能できたが、これも読むのがシンドいという人には逆効果だろう。 うんちくと言えば、遊芸百般の黒岩涙香についてはあまり知らなかったぶん、ちょっと詳しい評伝を読むような感じで私には愉しめた。連珠のルールを定め、正調俚謡を広め、競技かるたを創始し、闘犬、囲碁、ビリヤードでも通人の域に達していたことなど、一般の人にも伝わるようになかなか巧く語られている。 天才囲碁棋士の主人公に、囲碁にも何にも詳しくない女子高生の彼女を配することで、知識のない読者にも入りやすくしているのは、よくある手法だが悪くない。 笑ったのはTwitterで、主人公はロリコンと呼ばれてるだろうな、などとつぶやいた人がいたことで、確かに『涙香迷宮』本文中には説明がないものの、主人公も高校生なのは巻末著作リストの解説を読めば分かるだろ。 まあ高校生の言うことに対して大のおとなが称賛してばかりで、唯々諾々と従っているというのも奇妙な図だが。工藤新一かよ。そう言えばヒロインの女子高生は剣道2段で、空手少女の毛利蘭を思わせるが、前者は1992年には作品に登場している(『凶区の爪』)から1994年スタートの『名探偵コナン』よりは早い。 そういうわけで、うんちく部分を除けば、ものすごくベタな推理小説なのだが、この小説での殺人の動機は多くの人がクサしているものの個人的には納得できた。 犯人が「世界の中心に…」という少し前の流行語を口にするのは減点だが、ゲーム性にのめり込んだこの小説だからこそ許される動機づけだろう。 すでに多くの人のレビューがあるのに、つい語ってみたくなる作品ではある。 | ||||
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他の方のレビューに、小説中のいろは歌は作者自身の作とあり、こんな凄い人がいるんだと本当に驚きました。 小説中で解かれなかった涙香と秋水の謎については、 秋水が当時の世論に反する過激な非戦論を展開していたという前提と、 この物語の展開を合わせて考えると、涙香は秋水に「命を狙われている」くらいの立場だということに気づかせたかったのかなと思いました。 だから牧場さんも答えを言いたくなかったんじゃないかなぁ。 間違っているかもしれませんが。 | ||||
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竹本健治氏の作品は、久しく読んでいなかったのだが、たまたま手にした近作の『かくも水深き不在』が一気読みの面白さだったことに勢いづいて、本作にも触手を伸ばしたら、これがさらに感嘆させられずにはいられない傑作だった。 かつて土屋隆夫氏が、事件÷推理=解決、という数式で推理小説をあらわして見せたのはよく知られているところだが、確かに普通のミステリは、おおむねこの式に当てはまるのだろうが、竹本作品の場合、代表作とされる『匣の中の失楽』や『ウロボロスの偽書』など、本質的にこの式には嵌まりにくいものが多い。あえて同じような数式であらわせば、推理×推理=∞ とでもなるだろうか。推理に推理、思考に思考を重ねるほど、無数の解答の連鎖に見舞われ、唯一の答には永遠にたどり着けない迷宮にはいり込むような作品といった趣がある。本作なども、タイトルからしてそれを語っているようだ。 読み始めるや間もなく、囲碁や歌に関する蘊蓄に目くらましをかけられるよう。そして勃発する殺人事件と、発見される黒岩涙香の隠れ家。涙香の家は、子、丑、寅…十二支の名がついた部屋に分割され、それぞれの部屋に四首ずつ掛けられたいろは歌がある。ページにはさまれた見取り図が、まるで星座の輝きに彩られた天体図を見るようでワクワクさせられる。作中のいろは歌が、すべて竹本氏の自作というだけでも驚倒ものなのに、それがさらに暗号をも秘めているという、まさに超絶的な職人技を見せつけられる。囲碁の盤面、殺人事件の犯人捜し、そしていろは歌の暗号―。それらが折り重なった思考の宇宙に、精妙巧緻な論理のアラベスクが織りあげられる様に、陶然とさせられる傑作である。 江戸川乱歩や横溝正史などに影響をあたえた、日本ミステリの始祖ともいえる黒岩涙香に関する、伝記的な興味で読んでも楽しめる作品だ。ただ、論理をじっくりと詰めていく推理小説が好きな人にはいいが、スピーディーなストーリーを右に左に大胆にひっくり返してゆくようなミステリが好みの読者には、いささかしんどい作品かもしれない。そういう方には、同じ竹本作品なら、前述の『かくも水深き不在』の方がオススメ。 本作の紹介文を目にした時、暗号ものということで泡坂妻夫氏の『掘り出された童話』を、作中の歌が作者の自作だということで連城三紀彦氏の『戻り川心中』を思い出していた。同じ『幻影城』出身のこの両氏も、練りに練り、凝りに凝った職人技に傑出した作家だったが、本作にも、それに負けず劣らずの名工ぶりが発揮されている。同門の名匠が相次いで鬼籍に入られた後、竹本健治氏には、さらなる傑作を生みだすべく、より息の長い健筆を期待したい。 | ||||
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読んでいる途中から興奮が止まらない。 竹本先生がついったー上で新いろは歌を作っているのは知っていた。すごいな~と思いつつ、自分も1個くらいなら作れるかなとか思っていたら・・ いやいやまさか、それがこんなに無尽蔵に出てきて、しかも暗号としても素晴らしい出来になっているなんて!!!! いい意味で変態的です。非常に変態です。 しかも暗号ものとしてとてもフェアに作られていますね。作中に、囲碁や将棋は「完全情報ゲーム」で、麻雀とか手札が隠されているものは「不完全情報ゲーム」だという会話が出てくるのですが、この暗号に就いては完全に完全情報ゲームです! 解きがいがあるし、素晴らしい。(ただ、ある部分だけは自分で調べものしないと解けないでしょう) ミステリ史上に残る傑作だと思います!! | ||||
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暗号もののミステリは、あまり傑作が多くないと思っていました。暗号ものや、ダイイングメッセージものは、何通りでも何とでも解釈できるので、解答が示されて感心したことは数えるほどしかありません。しかし、この『涙香迷宮』は…暗号ものとして、異次元の域です。ここまで日本語の神秘を体現出来るものなのか!?『同じ文字を二度使わず、すべての文字を使って意味の通る歌を作る』といういろは歌は、二個くらいしかできないんだろうな、だって何通りも作るなんて不可能だもん、と考えていた私の脳天が割れるほどの衝撃です。まさか…こんなにいろは歌の奔流が存在していたとは…。その奇跡に彩られたいろは歌を味わい、ちょっとコミカルな事件パートを味わい、連珠の神秘を味わい、驚愕と爽快を感じて読み終わることができました。 漫画『入神』の続きも描いて欲しい! | ||||
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「面白い」などというありふれた言葉の対象とはならない、脅威の一書。 小説は「面白くなければならない」というのは、俗説である。 実際、人が何を面白いと思うかは千差万別であり、面白さとは実質的に内容規定など出来ず、せいぜい「知的に快感を惹起する特性」というくらいのことしか言えない。したがって、昨今流行の「通俗的娯楽性」だけが面白さではない。人によってはピカソも面白いし、別の人にとってはホーキングが面白い。 そうした意味でなら本書も「面白い」のだが、その面白さは「超人的に圧倒的なもの」として、「面白い」という言葉を超えてしまっているところがある。 ここに差し出されたものは、名匠の超絶技巧によって造られた精妙巧緻・至微至妙な、七色に変幻する言葉の螺鈿細工、つまり「いろは歌」暗号による驚異の匣である。 読者は、本書を手にとって、ただただ圧倒されるといい。 「こんなものを書ける人が存在したのか」と、目眩をともなう溜息を禁じ得ないであろう。 本書は間違いなく、日本の本格ミステリ史に残る、暗号ミステリの歴史的傑作である。 | ||||
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