それまでの明日
- ハードボイルド (137)
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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「沢崎イズバック!」と興奮し、狂喜乱舞する読者も多いだろう。14年ぶりになる、探偵・沢崎シリーズの新作長編小説である。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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「そして夜は甦る」から始まった探偵・沢崎シリーズの最後の作品。 チャンドラーのマーロウ物を好んだ筆者が、その日本版の如く描いた沢崎物は、まさに珠玉。 何気ない描写の中や、キレのある会話の中に散りばめられた僅かなプロット等、近年よくある稚拙な単なる謎解き推理物とは毛色が全く異なる。 沢崎の吐く言葉、その行動所作の一つ一つすら至高であった。 練り上げるが故に遅筆であった筆者が、世に残した作品はとても少ない。 そして、これが最期の作品となった事は、とても残念。 ある日、何の前触れも無いままに姿を消したマーロウと同じ様に、沢崎も消えてしまった。 また、「男の話」を読めなくなりました。 | ||||
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老眼が進み、最近本を読むことが少なくなりました。しかし原さんの本を見つけ、久しぶりに読書することにしました。久しぶりに読みましたが、以前と変わりなくテンポよく読み進めることができました。登場人物が複雑に絡み合っており、だんだんと分かってくることもあり、最後まで楽しかったですね。 ハードボイルド小説という括りでなく、単純に楽しめる本だと言えます。多くの人に読んでもらいたいです。 | ||||
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14年の不在から沢崎が帰ってきた。そこから立ちのぼるタバコの香り、独特の間のある語り。息づかいまで伝わるようで、ムリがあっても、老いが感じられても、それだけで良かったんだけど。。。 「さらば沢崎」といわなければならない時がきてしまったんだな。 | ||||
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もう「渡辺探偵事務所の沢崎です」が読めないのは、残念です。合掌。 | ||||
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その依頼人は、<なぜだかこちらの気持まで紳士的にさせる不思議な能力を持ってい>た。彼は、望月皓一と名のり、依頼の内容は、<赤坂の料亭の女将の私生活を調査して>ほしいという凡庸なものだった。しかし、望月皓一という人物は別に存在し、依頼人はまったくの別人であった。そして、調査対象の女将はすでにその時点で亡くなっていた…。 これが、探偵、沢崎の最後の事件なのか、という感慨ももちろん湧くが、それ以上に、いったいこういう小説を何というのだろう、という疑問もわいてくる。何と呼ぼうと作者にとっても沢崎当人にとってもどうでもよいことだろうから、勝手に呼ばせてもらうが、いわば、“奇妙な味の小説”の範疇に入ってしまうのではなかろうか。江戸川乱歩や吉行淳之介の名を出さなくとも、例えば、ここで沢崎は、依頼人に一度しか会うことはなく、結局、彼の名も知らずじまいなのだ。しかし、最期のいわば“解決篇”にあたるパートで沢崎は、この名無しの男と―32と33の二章分をタップリ使った―長電話をかわす。つまり、巻頭の[登場人物]欄にある「望月皓一」の説明書きにある<金融会社の新宿支店長、依頼人>というのは“虚偽”記載であるということ以上に、名前を書けない人物であるということだ。しかも、沢崎の次に書かれているほどの重要人物。彼が渡辺探偵事務所を訪れた動機が、<五年経っても、十年経っても><何事もなかったかのようにいつもちゃんとそこにある>看板だったというのも“らしい”配慮だ。もちろん、3番目に書かれた“調査対象の女将”平岡静子も非在の人物でありながら、名無しの男に劣らず物語の核心に存在している―田中絹代、山田五十鈴、原節子、高峰秀子(彼女の“平岡静子”評が最高!)に伍するほどの美貌でありながら、武勇伝も残すというレジェンドも効いている―これだけでも、“奇妙”であることは間違いないだろう。少なくとも、今まで書かれた“沢崎”シリーズのどれとも異なる味わいを持った作品だ。 [登場人物]の順番では、6番目ではあるが、海津一樹という青年が実際には沢崎の相棒役を務めることになる。<就職・求人ネットの代表>というのも何気なくではあるが、効果的だ。海津との出会いは、沢崎が依頼人と接触しようと訪問した<ミレニアム・ファイナンス>新宿店で、“偶然”銀行強盗事件に遭遇したことが機縁となる。このときの強盗の主犯・河野というのが、俳優の河野秋武に似ていたというのが笑わせる。「姿三四郎」「続姿三四郎」をはじめとした黒澤作品などにも出ていた名わき役だ。その海津に、<あなたはぼくの父親かも知れない>と言われるのだが、一方で、<あなたはぼくの父親だったら言うだろうことを決して言わないし、ぼくの父親だったら言わないだろうことはかならず言う>とも言われてしまう。この微妙な距離が沢崎という男の在り方を十全に表してもいる。常連の橋爪や錦織、相良との腐れ縁ともいえる距離も今回的確に測定されている。 <交番の中年の巡査は><はるか彼方にある犯罪者のいない世界でもながめているように見えた。>だの、<ゴム紐を売りに行って、タワシを買わされた押し売りのような気分>だの、<依頼人に会うことさえできない探偵が事務所に持ち帰ってきたのは、消費期限の切れた炭酸飲料のあぶくのような徒労感だけだった。>だのといった章はじめの冴えたレトリックも健在だ。そうそう、<二人の女は共通の電源につながっている機械のように、同時にうなずいた>というのもこの際入れておきたい。そして、警句というのではないが、平岡静子が経営していた料亭・業平の“家訓”にも感心した。<まず第一に政治家に諂わざること、次に会社経営者に媚びざること、最後に、自分のお金で飲食しない文化人にも媚びざること。><お客様はすべて“さん”>付けで平等に呼ぶことを徹底したというのだ。こういう話が延々と続くハードボイルド小説というのもほんに乙なもの、ではなかろうか。5つの長篇小説と1冊の短篇小説集。その一切を沢崎という探偵を主人公にして30年間書きつづけた著者の最期の長篇が、『それまでの明日』というタイトルになったこと。そして、その最後の一行が<私はどうやらまだ生きているようだった。>で終っていること。これ以上のものは考えられない。 | ||||
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