愚か者死すべし
- ハードボイルド (137)
- 大晦日 (22)
- 私立探偵沢崎シリーズ (5)
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作者の作品は「私が殺した少女」に続いて2作目。 | ||||
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未読の方はご注意ください
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表4の便概に、“新・沢崎シリーズ第一弾”とある。これはしかし著者による[後記]にも同じ断り書きがあるので“はったり”ではなさそうだ。そして、このことは読後に強く感じとることができた。間違いなく、新シリーズの誕生である。これも[後記]にあるように、何よりも「面白い作品」をこそめざした成果を存分に堪能することができる。 尤も、すべてが“刷新”されたわけではない。基調は何も変わらない。変わってもらっては困る、とも言える。三度[後記]に依るが、「警察関係の記述が大きな部分を占めて」おり、いつもの陰惨さは今回もたっぷり味わえるのでご心配なく。 「まじめさ、いかめしさ、融通のきかなさ、閃きのなさを混ぜ合わせて、粘土で捏ねあげたような」。これはある警官の容貌の描写である。「食べた経験のない食物をむりやり口の中に押し込まれたような表情」。これも警官のものである。「この世の中のたいがいの困難には遭遇したが、あまり騒ぎ立ててもいい結果が得られるわけではないと悟っている人間の顔」。これはある主婦の容貌であるが、彼女は自分ではいかんともしがたい事どもに打ちのめされるうちに、こういった心象を身につけざるを得なかった―沢崎は、彼女の引きこもりの息子と得難い出会いを経験しもする。しかし、表題でいうところの<愚か者>の顔とは次のようなものだ。「人間としての自由を奪った者に、人間の命を絶つことを平気で強制できる、邪悪な執念のようなものが」表れた顔。これこそが今回の首謀者の顔である。「暴力団というより、まるで“謀略団”だ」という言葉は、今回は警察にこそ衝きつけられている。 もちろん、こういったキツイ皮肉は今回も冴えていて、「ご忠告すると、あなたがいま電話をかけているところは、客に誰がいるかなどということを、電話の向こうの正体不明の男にぺらぺらとしゃべったりしない」とか、「中古で5年目のブルーバードが、いつもは車の成人病の巣窟であるかのように不調を訴えるのに、その朝はどういう風の吹きまわしか機嫌よく走った」。おっと、これは愛車に対する愛情表現だ。「億万長者にはけっして味わえないような昼飯」とか、「正直な探偵の見本」なんていうのは自虐か。まあいい。「楽しい時間は長くつづかないということを知るのが人生の第一歩だが、苦しい時間も同じだということは人生の終わりが近づいても知るのがむずかしかった。」なんて警句もむろんバンバン飛び出す。「探偵の心得三か条」という興味深いものも出てくるが、弁護士が分類する人間の三種類もおもしろい。いわく、興奮した人間と冷静な人間、そして平静な人間。前2者は何とか対処できるが、「平静な人間というのは何を考えているかわからない」と言い、もちろん沢崎はそこに分類されるという。 新機軸に移る。今回はなんと「依頼者があって何かの真相をつきとめなければならないような事件ではなかった」のだ。これこそ謎解きをやめ、ハードボイルドに徹したという著者の新しい試みであり、犯人の動機などは知ったこっちゃないということの真意だ。もちろん、それだけで“新機軸”なんて唱えても読者(それ以前に著者)は納得しない。そこで、とった方法(と思われる)が、前回亡くなった渡辺は当然としても、常連の錦織や橋爪の不在ということではないだろうか。この三者と沢崎は決して馴れあうことはないが(錦織のパリからの伝言は「“図に乗るなよ、探偵”」)、見えない紐帯のようなものが感じられた。それを今回は断ち切った。それと入れ替えに実に魅力的な人物たちを配したのだ。 平身低頭の名手で、俳優・坂本武に似ているという安積(あさか)組組長の安積武男、 裏世界の情報通にして、900からの失われたフィルムを所蔵したライブラリーをもつ92歳の資産家、設楽盈彦(しだらみつひこ)―彼はまるで「イングロリアス・バスターズ」のような最期を遂げる―、その養女にして、透明度の高い湖のようでありながら決してその底を覗くことのできない設楽佑実子、そして極めつけは、最初は、税所(さいしょ)義郎と名のった人物だ。極論を承知で言えば、彼の造型、登場こそが本作を新シリーズの端緒足らしめた調本人といっても過言ではない。最初は<警視庁の公安>として現れる。しかし、二度目は、<台湾の外交官>李國基、そして三度めに<虎ノ門のトラブル・コンサルタント>岡田浩二―しかも、親が鶴田浩二のファンだとぬかす!それに対して沢崎も<“片目の運転手”になるのはいつだ?>と応戦するが、設楽佑実子によると、“今は”<ゴーストライター>渡会(わたらい)健一郎と名のっているといい、それも偽名らしいのだ。この徹底した悪巫山戯こそ今回の新機軸にして真骨頂ではないだろうか?「愚か者」を追いつめ糾弾するだけが探偵小説ではない。いわば、そうすることで悪役だけを魅力的にすることはない。もっと、得体の知れない、もっとぶっとんだファンタスティックな人物が登場したっていいじゃないか!とでもいった作者の高らかな声が聴こえてきそうな気がするのだ。 最期に、同性愛について。前作『さらば長き眠り』にも同性愛者が事件のキーマンとして登場した。これは、もちろん今はやりの言葉が登場する以前の呼称だが、ここで今回のキーマンは、このことを世間に知ってもらいたい人もいれば、そうでない人もいる、と言っている。おそらく著者が今の時代に生きていても同じことを登場人物にいわせていたのではないだろうか、とふと思った。 | ||||
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その中で、あの警察官犯罪が何であったのかを、作者は書かなかった。 世の中には、はっきりとさせられないことがある、ということなのか。 そうであるならば、余りにもそういうことが多い、と私は答える。 しかし、それも余りにも月並みな反応か。 すべてはハードボイルドの彼方に・・・・ | ||||
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やはりこのスピード感がハードボイルドの醍醐味ですね。 依頼を受けた私立探偵、沢崎が行動するのを、ただ時系列順に読むので、読んでいてあまり頭を使わなくて済みます。 章が変わるたびに視点人物が変わったり、時間が遡ったりする小説が、私はあまり好きじゃありません。 その点、主人公の一人称が貫徹されるハードボイルドが好きです。 今どき、私立探偵の一人称で書かれたハードボイルドも少ないですけどね。 原先生には頑張って欲しいです。 | ||||
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チャンドラーと似ている云々と言われるますが、歌舞伎のように古典の台本を主人公たちが演じていると思って読むといいのでは。お約束の展開、お約束の台詞であっても、「待ってました」と楽しめます。後半、筋がもたつきますが、それもご愛嬌、よくぞ書く気になってくれた、と思えば気になりません。いつか分かりませんが、また気が向いたら、書いて貰いたいものです。 | ||||
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原尞さんの本です。 確か、シリーズになっていて、沢崎という探偵がいて、そいつが渡辺探偵事務所にいて、云々という話だったなぁ、と思い出しながら読みました。 渡辺探偵事務所は、沢崎一人がやっているのですが、どうして「沢崎探偵事務所」じゃないのかというと、かつては渡辺という相棒がいて…という話だった記憶があります。 とりあえず、ハードボイルドな沢崎が、スタイリッシュにキメていく話でしたね。 ひょんなことから、移送中の容疑者を襲撃している車に体当たりをかまして、ご自慢のボローバードを壊してしまった沢崎。 移送中の容疑者は依頼人の父親。そして護衛の警官が死んでしまう。 ボローバードを駆って襲撃した車を追うものの、途中で見失うが、沢崎さんのマジパネエ推理力が炸裂し、襲撃犯のアジトを見つける……。 という感じで、なんか沢崎さんが何でもわかりすぎていて、ちょっとコワイところがあるというか、実は真犯人は沢崎なんじゃね?というハードボイルドぶり。 とりあえず、話題を飽きさせないように、次から次へと事件を投下していくので、飽きることはありません。 ただ、沢崎がなんでもスラスラと解いてしまうので、正直、二時間ドラマ臭の安っぽさしか感じませんでした。 文体はキメッキメのハードボイルドなんですけどね……。 ただ、原尞さんが元気そうなので、何よりです。 | ||||
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