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悪の起源



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悪の起源の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

「謎」への執念を感じさせる

エラリイ、再びハリウッドの土を踏む。
国名シリーズとライツヴィルシリーズの架け橋的な存在だったいわゆるハリウッドシリーズと云われている『悪魔の報酬』、『ハートの4』、『ドラゴンの歯』以来、実に約12年ぶりにハリウッドを舞台にしたのが本書。ロジックとパズルに徹した国名シリーズからの転換期で方向性を暗中模索していた頃の上の3作と違い、ライツヴィルを経た本作ではやはりロマンスやエンタテインメント性よりも人の心理に踏み込み、ドラマ性を重視した内容になっている。

今回も宝石商を営む裕福な家庭に隠された悪意について語るその内容はロスマクを思わせ、なかなか読ませる。
半身不随の夫に美人の妻、そして好男子の秘書、そして裸で樹上に設えた小屋に住む巨人ほどの体躯を持つ息子に自然と戯れる妻の父と、明らかに何か含みがありそうな一家が登場する。しかしロスマクと違うのは、事件は毒殺未遂に蛙の死骸散布と、本格のコードを踏襲した奇想で、ぐいぐいと読者を引っ張っていくところだ。

特に今回は作者クイーンのなみなみならぬ謎に対する異常なまでの迫力を感じた。

犬の死骸、砒素の混じったマグロのサラダ、何百匹もの蛙の死骸、札入れ、焼き捨てられた本、無用になった株券、見えない脅迫者から送られてくる箱の中身は脈絡のないものばかり。
これだけの材料を与えられながら、読者は犯人の正体とその意図を推理することは出来ないだろう。逆に混乱を招いてしまって一つの筋道を見つけることが困難になっていると云った方が適切か。

つまり本書もまた『九尾の猫』との類似性を感じるのだ。
『九尾の猫』は連続して殺されていく被害者を結ぶ手がかり、つまりミッシングリンクを探る物語だった。翻って本書は被脅迫者へ脅迫者が次々と送ってくる品々が意味するところを推理する物語である。つまりこれもミッシングリンクを探る物語なのだ。
つまり『ダブル・ダブル』と本書は『九尾の猫』を要の位置としてそれぞれ連続殺人物、ミッシングリンク物と『九尾の猫』が備えているエッセンスを解体して、別の手法で作り上げた作品のように感じられた。

また本書では今までクイーン作品ではあまり語られることのなかった当時の世情についても触れられている。エルロイ作品で有名なブラック・ダリア事件に朝鮮戦争の勃発と、暗い世の中の状況が出てくるのが意外だった。
そして特に朝鮮戦争では明白に大量殺人の中で名もなく埋もれてしまう何万人もの人間の死に対する憤りを感じた。1人の死に対して推理に推理を重ねて苦労する一方で、兵器によって簡単に何百人もの人間が殺されていくことの不合理さ。
笠井潔氏が現在もなお揺るがない「大量死と密室」論が本書でも同等の意味で語られている。寧ろ1990年代に至るまでなぜこのエラリイの述懐に気付かなかったのかが不思議に感じた。

さて本書の舞台がハリウッドであることの理由について作中でちらりと触れられている。映画の都ハリウッドでは世間の一般基準から逸脱した者たちさえも個性ある人物として逆に評価される、従ってこの夢の都では何が起きても不思議ではないというわけだ。
今後エラリイの活躍の場がホームタウンのニューヨークからこの地へ移るのか解らないが、なるほどなと思わされた。

人間の心理へ踏み込み、探偵が罪を裁くことに対する苦悩を描いてきたこの頃のクイーン。
前作『ダブル・ダブル』では作品の軸がぶれて、殺人事件なのかどうか解らなかったところがあったが、本書では次々と起こる奇妙な出来事の連続技で読者をぐいぐい引っ張ってくれた。
しかしその内容と明かされる真相および犯人の意図は現実的なレベルから云うとやはりまだ魅力的な謎の創出に重きを置き、犯行の必然性とマッチしないところがあって、手放しで賞賛できないところがある。
しかしミステリに対するエラリー・クイーンの凄みを感じる作品だったので今後の作品に期待しよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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