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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数745

全745件 441~460 23/38ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.305:
(5pt)

ダンガンロンパ霧切 4の感想

3巻の『密室十二宮』編の続きなので、前作の読書は必要です。

なんだか物凄く駆け足の展開でトリックの問題集というかパズル小説の印象でした。3巻~5巻への繋ぎの印象でして、シリーズ物だからとはいえ事件が単品で完結しないのは個人的に残念です。

とはいえ、こういうコテコテの本格ミステリ模様で楽しめる作品は中々ないので毎回楽しみであります。作中の『枯尾花学園事件』については面白かったです。予め提示された黒の挑戦内容は、凶器:ろうそく、トリック:密室。雰囲気も合っていて短編ボリュームで終わらせるのは勿体ない作品でした。

事件以外の霧切&五月雨のストーリーについても本書では特出して進展がないので5巻に期待。もし文庫化するなら3~5巻はセットで1冊みたいな内容です。

余談ですが、著者の作品傾向として本シリーズと並行で少年検閲官シリーズが刊行されましたが、本書でのキャラクター×ファンタジー×本格のノウハウをオリジナルの少年検閲官シリーズへ取りこんで両シリーズがうまい相互作用で面白くなっている印象を受けました。

▼以下、ネタバレ感想
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ダンガンロンパ霧切 4 (星海社FICTIONS)
北山猛邦ダンガンロンパ霧切 4 についてのレビュー
No.304: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

オンラインゲームを題材としたミステリ

『超巨大密室』の意味は、オンラインゲームの仮想空間の事。

このタイトルはミステリ読者宛への商業戦略でしょうか?見事に釣られて購入後の読書で困惑。中身違うじゃん!と思い期待が下がりつつもとても面白かったので結果は良かった。サブタイトル化するなど、もっと中身に合ったタイトルが望ましいと思いました。
ネットゲームに特化させたミステリ小説という点で、事件内容、登場人物の設定がとても巧く扱われているのが見事。著者自身もネットゲームを相当楽しんでいると思われます。

読者としてはネットゲーム何それ?という層も当然いますが、そこを補完する仁菜というキャラが読者目線の役割を担っていてうまいです。ネトゲ廃人に紹介してもらい、初アカウントを作り、ギルドに入り、顔の見えない相手との会話に触れていく様がよく描かれています。
ネットゲームに惹き込まれている人の考え方が極端なのですが、かえって分かりやすくて楽しめました。また、あまりに思想ばかりだと読者がポカーンとしますが、それに対して前述の仁菜が、住む世界が違う人なんだと読者目線で溢してくれるので、作品内のネットと現実をうまく区別する役割にもなっています。

ミステリ模様としては、チャットログの会話文章の癖や誤字の頻度から人物を推察したり、ログイン・ログアウトの時刻から生活習慣を求めたり、RMTやらネット特有の方法で捜査をする様が警察小説を思わせて楽しめました。意外な伏線や作品のまとめ方も面白いです。

登場人物が限定的な為、真相を予想できながら読めてしまい驚きを求める人には向かないライトな小説な感じがします。ただ、ゲーム系ミステリが好きな方にはオススメ。
2年前の本ですが、ランキング系の雑誌に取り上げられていないのが勿体ないと感じました。たまたま本屋でタイトルを見つけての衝動買い。まぁ、そういう意味ではこのタイトルでもいいのかと複雑な気持ち。

▼以下、ネタバレ感想
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超巨大密室殺人事件 (角川ホラー文庫)
二宮敦人超巨大密室殺人事件 についてのレビュー
No.303:
(7pt)

KillerX キラー・エックスの感想

雪の山荘もの。シチュエーションは最高です。

同窓会のお知らせが届いた数名が恩師の住まいである深雪荘へ訪れる。久々に再開した恩師は事故で障害となっており、下半身不随の車椅子生活。そして言葉も発せず仮面を着けて過ごす有様だった。天候が荒れる中集まったのはよいが、同窓会の招待状は誰も送っていない事がわかる。何かがおかしいと、疑惑から始まる雪の山荘のクローズド・サークルものです。

思いつくガジェットは満載で、この雰囲気だけでも結構満足でした。
が、あまり評判が良くないのは終盤の真相の釈然としない気持ちでしょうか。雰囲気が真面目なのですが、バカミス作家が描けば失笑トリックな仕掛けが一部あるので、驚いたというよりモヤモヤ晴れない気持ちです。

先生や篤の過剰な行動がちょっとギャグに感じていましたが、2000年ごろはまだオカルトネタが多かったので時代を感じる作品なのかなぁと、思う所があった次第です。
あと2冊、類似本があるので追っかけて読んでみようと思います。こういうコテコテは好み。

▼以下、ネタバレ感想
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Killer X キラー・エックス (光文社文庫)
クイーン兄弟KillerX キラー・エックス についてのレビュー
No.302:
(5pt)

トリックスターズLの感想

推理小説を模った現代の魔術師の物語。シリーズ2作目。
1作目のネタバレを完全に伏せた形で2作目が進行しているのが好感。読んでいてクスっとくる話が満載でした。キャッチコピーの『嵐の山荘』についての緊迫感はほぼなし。意味が違うかな。

魔術師の物語としては面白く、世界に6人しかいない魔術師のうちの2人が行う魔術実験を軸とした物語の面白さ。佐杏先生のマイペースっぷりのブレないキャラクター像や、行動に違和感があればそれがちゃんと伏線となって話が繋がる構成は良かったです。
登場人物については1作目も感じたのですが、佐杏先生+主人公周+重要なキャラが目立つ形で特徴的に描かれてしまい、それ以外が空気になってしまっているのが分かり易くもありちょっと残念でもありました。

ミステリ要素は少量。シリーズものとしての内容でした。

▼以下、ネタバレ感想
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トリックスターズL (電撃文庫 (1174))
久住四季トリックスターズL についてのレビュー
No.301:
(6pt)

夏を殺す少女の感想

たまたま読む本が引いてしまっているのか、海外ミステリでは、誘拐、監禁、虐待の重いテーマに出会う事が多い。本書もその1つで気持ちが晴れずちょっと憂鬱。

2つの事件パートが最後に交わるのはよくある構成なのですが、視点が変わる事によって人物の役柄が不確かになるのが面白い。少女は被害者なのか加害者なのか。殺された人物は本当に被害者なのか。実は加害者ではないのか。女性弁護士は主人公なのか何かの被害者なのか。各人は別の役割なのか?ページが進む事で徐々に本書の背景に渦巻いている恐ろしい姿を感じる面白さがありました。

さて、本書は大分読みやすい本でした。最初に手に取って登場人物表を見た感じでは、馴染みのないオーストリア名な為、男女も区別できなくてチンプンカンプンでした。ただ、実際読んでみると誰が誰だか把握しやすいのでそこは巧いなと思います。上質なサスペンス映画を見ている気持ちでした。まぁ、ただやはり個人的にはかなり心境が重い本でした。その重さを少しでも軽くする為にラストはちょっと晴れやかにしたのかなと思いました。
夏を殺す少女 (創元推理文庫)
アンドレアス・グルーバー夏を殺す少女 についてのレビュー
No.300:
(7pt)

バビロン 1 ―女―の感想

好きな作家さんなので点数は好み補正。
シリーズ化を検討しているらしく、本作に"1"がナンバリングされていますが、本作だけでも楽しめます。

過去作を読んでいるうえで本作に触れた印象は、現実的で少し落ち着いている作品に感じました。
今までは読者が想像しない世界観を変わった方法で描き驚かせてくれたのですが、それが本作ではなかったのです。地道な捜査をコツコツ行う警察小説を読んでいるようで、野﨑まど作品なのかな?という印象です。
違う出版社なので、新レーベルの意向なのかもしれません。

ただ、後半は作者らしさが出ました。取り調べ辺りから、不気味な何かに触れてしまった感じがとても出てきてワクワクしました。

この設定のまま次作がどうなるのか気になる所ではありますが、正直な気持ちとしてこのシリーズ作品を描くなら別の物語を読みたいなと思った次第でした。

▼以下、ネタバレ感想
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バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)
野﨑まどバビロン 1 ―女― についてのレビュー
No.299:
(3pt)

ホテル1222の感想

吹雪の中、列車事故が発生。近くのホテルに避難したものの、そこで殺人事件が発生する。外はマイナス20度の猛吹雪。作者のクリスティに捧げる意気込みや、シチュエーションが最高!と思って購入したのですが、個人的には期待外れの内容でした。

実際読んでみると乗客の数は200名超え。1人、2人と被害者が増える中、登場人物の発言で『そして誰もいなくなったを思い出した。』とクリスティとの結び付けの表現があるのですが、いやいやいや、先長っ!と、ツッコミ入れてしまう心境です。

ミステリとしてもクリスティ的なサスペンスとしても惹き込まれる要素が自分にはありませんでした。また、実は本書がシリーズの8作目だった事に若干困惑。主人公の同性愛の設定がシリーズ序盤で社会へのメッセージとなっていた事や、途中で現れる知人など、本書から読むと設定がわからず混乱してしまいました。

さて、舞台となるホテル『フィンセ1222』は実在するホテルでした。読後知りましたが、読む場合は最初に見ておくと良いです。
『連絡通路が車両でできている』事や、200数名の乗客が猛吹雪の中到着できる線路近くのホテルなど、どんな感じなのか、あまりイメージが掴めなかったのですが、実在するホテルの外観を見て合点しました。
フィンセはスターウォーズEP5の撮影場所になっていたりと、知る人は知っている有名スポットな模様です。

勝手に期待してしまった事もあり、ミステリとしては好みに合わない本でしたが、ノルウェーの気候や人柄、観光スポットを知るうえでは楽しめた本でした。
ホテル1222 (創元推理文庫)
アンネ・ホルトホテル1222 についてのレビュー
No.298:
(7pt)

眠りの牢獄の感想

地下に監禁され、出してほしければ過去に起きた事を示せと閉じ込められるパート。ネットで知り合った2人が交換殺人を行うパート。大きくはこの2つが同時進行するお話です。

この2つがどんなミステリ模様となるのかは、なんとなく想像出来てしまいますが、ちゃんと複数のひねりがある本格ものになっており楽しめました。

作中に出てくる作家の言葉より
『ミステリマニアが読めばネタが割れてしまうような分かりやすい伏線の方が、普通の読者にはウケがいいと思うんで、』に始まり、気になる所はわかっていて書いているんだよと伝えられた点は好感でした。

短い小説の中で、巧いストーリーになっているのが見事でした。
終始、どよ~んとした重い空気な所は合わず。

▼以下、ネタバレ感想
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眠りの牢獄 (講談社文庫)
浦賀和宏眠りの牢獄 についてのレビュー
No.297: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

闇に香る嘘の感想

個人的な乱歩賞のイメージ通りの作品。メッセージ性の強い社会派でありながら、あれやこれらが伏線として繋がり、終盤は綺麗に回収されている事に驚きました。

盲目の老人が主人公。白杖を携え街を歩く事、対人との表情の見えない会話、点字の学習、孫に何か残してやれないかといった家族への想いと葛藤が描かれます。そしてテーマはこれだけではなく、盲目作品といえば疑心暗鬼もの。本書も目の前の兄は本当に自分の兄なのだろうか?と疑問が生まれ、生い立ちの回想から戦時の中国残留孤児に関するテーマが追加され、さらなる話へ移っていきます。

テーマが多いのは人それぞれの好みかと思いますが、個人的にはお腹いっぱい。説教ではないけどメッセージが強くて堅い小説を読んだ印象でした。主人公も何だかネガティブで口うるさくて共感できない。老害と呼ばれてしまうぞ。。という思いであまり気乗りしない読書です。小説を読んで情景を想像する事は盲目の老人と同じ印象を得た気持ちでありましたが、1点どうも想像できないのが、主人公や年上の方々がアクティブ過ぎる事。70歳超えてますよね?老人には無理でしょと思うアクションシーンや、あの時よく生きてられたね。という非現実感が好みではなかったです。

とはいえ、終盤は様々なエピソードが綺麗に繋がる幕引きで加点です。
読書中は辛いけど、最後は面白いものだった。と、個人的にいつも思う乱歩賞の作品でした。


あと余談ですが、審査員の作家の方々が、元のタイトル『無縁の常闇に嘘は香る』に難色を示す話が面白かったです。そこまで悪くは感じませんでしたが、出版された本書の『闇に香る嘘』の方が確かに素晴らしいので、審査した作家の指摘と編集の技術を感じました。


▼以下、ネタバレ感想
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闇に香る嘘 (講談社文庫)
下村敦史闇に香る嘘 についてのレビュー
No.296:
(6pt)

鸚鵡楼の惨劇の感想

オウムを漢字で表記したタイトル『鸚鵡楼の惨劇』。このおどろおどろしい文字の雰囲気はいいですね。
ただ、期待した怖さや嫌な雰囲気はあまり感じず、心理面はあっさりしていました。
宣伝キャッチのフジコを超える"戦慄"とか、 担当編集のコメントで使われている単語や、"惨劇"とか"イヤミス"とかのPRに期待してしまうと、ちょっと肩すかしな印象です。ただ、女性向けの商品作りとしては釣針が豊富で巧いなーと感じる内容でした。
作品内に出てくるエッセイストさんのセリフと読むと、仕事の為や読者サービスの原稿作りの考え方は、作者の気持ちが出ているように感じました。

ミステリ模様は終盤になってやっと発生しますが、それまでのエピソードを絡めて読者をミスリードする技は巧いです。やられた!というものではなくて、作品の作り方が巧いな~と感じる内容でした。文章が読みやすいのもよいです。

もうちょっと棘がある作品を期待してしまったので、個人的に普通なミステリの印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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鸚鵡楼の惨劇
真梨幸子鸚鵡楼の惨劇 についてのレビュー
No.295: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

その可能性はすでに考えたの感想

すべてのトリックが不成立である事を立証し、奇蹟を証明する物語。
購買欲としては、タイトルと設定の新しさで勝ちですね。

過去に起きたとされる、ありえない現象を推察する話は島田荘司を彷彿しました。こんな事起きるはずない、でも何が起きたんだろう?奇跡の真相を楽しみにしながら読みました。

こんな事が起きたのでは?というトリックの内容は奇想天外もの。
正直、突拍子もなさ過ぎてついていけない気持ちでした。ただ、地味な仕掛けをいちいち検証してページ数を割くのではなく、読者が想定していないトリックを手短に楽しませるという意味ではアリなのかもと納得する事にしました。衒学やキャラ物の内容が多かったのですが、これよりもっと多くの可能性を見たかったのが正直な所です。なんとなく他にも方法が残っているんじゃないの?と感じてしまう物足りなさがありました。
また、これは奇跡だ!と、どう納得させられるものを見られるのかと興味津々だったのですが、肝心のそこはちょっと期待外れだったのが正直な感想です。

帯のコメントが麻耶雄嵩でしたが、読後に意図が分かってクスっとしました。

▼以下、ネタバレ感想
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その可能性はすでに考えた (講談社文庫)
井上真偽その可能性はすでに考えた についてのレビュー
No.294:
(6pt)

犯罪の感想

200P台の本に11の作品が含まれた短編集。1つ辺り20Pちょっとで登場人物も少ない為、海外作品に苦手意識がある人にも読みやすい作品。ページ数が少ないとはいえ、中身に無駄がなく濃密な文章を得た気持ちでした。

ただこの作品、謎解きや仕掛けがあるミステリではないので、好みが分かれそうです。
弁護士視点から依頼者の犯罪を聞き、その犯罪の結果だけでなく、その人の人生模様を感じる文学作品となっています。私は、作品に気持ちが入りこむことはなく、様々な人生を眺めるような読書でちょっと物足りませんでした。

好みは『エチオピアの男』です。
『エチオピアの男』はなんといっても読後感が良い事。そして犯罪者とされる人物の人生が短いページ中にぎゅっと詰まっていてよい作品でした。

『犯罪』というタイトルから感じるオドロオドロしさはなく、寧ろ爽やかにも感じた本書。
嫌な気持ちにならずに様々な話を楽しめた不思議な作品集でした。
犯罪 (創元推理文庫)
No.293: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

100人館の殺人の感想

100人の容疑者。これだけで手に取ってもらえる作品のキャッチとしてはアリですね。

パーティ開催中に殺人事件が発生。その舞台に集められていた人数は総勢100名。100人の容疑者という、読む前から把握できるのかと不安を感じる本書ですが、それは杞憂です。探偵やアシスタント、メイドや警察や殺し屋など、主要人物は特徴的に描かれているので、多くの容疑者は気にせず読書可能でした。

その場合、100人の意味はあるのかと考えると商業的なキャッチが主で、物語の必要性としては弱く感じました。50人でも80人でも変わらない気がしました。ただ、何故こんなに人がいる中で殺人が行われたのか?という考え方は面白かったです。

橋は爆破されて交通不可。なんで爆弾なんてあるんだよというツッコミや、よくある少人数のクローズド・サークルでは閉じ込める事に意味が見い出せるが、100人の規模の意味は何か。姿をくらませるから?でもそれなら犯人も逃げられないし、閉じ込める必要ないじゃん。などなど、舞台ならではの推論が考察されるのが面白い。

作中の雰囲気もユーモアに溢れて軽いのが個人的に読みやすかったです。著者の経歴を見るとゲームプランナーだったので凄く納得。多少非現実的でも面白さを優先させるゲームシナリオを感じていました。

100人いた為か、あまりキャラクターに思い入れができないままの読書だったのが残念ですが、ミステリのパズル的な面白さが楽しめた本でした。

▼以下、ネタバレ感想
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100人館の殺人
山口芳宏100人館の殺人 についてのレビュー
No.292: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

多重解決もので名を刻む作品

とんでもない作品が出てきましたね。傑作です。

TV番組に集められたミステリ読みのプロ達が、早押し形式で事件の真相を言い当てる。
この仕組みが非常に効果的で、こんな事を思いつく作家の創造の凄さを感じました。

構成は、
問題編⇒早押し(回答編)⇒問題継続⇒早押し(回答編)⇒問題継続……
となっています。

問題編ではクローズド・サークルの舞台で殺人事件が起き、登場人物や手がかりが徐々に明かされる中、早押しで途中まで提示された手がかり+想像力で推理を組み立てます。ミステリ読みのプロ達の回答はどれも唸らされるものばかり。
些細な文章やエピソードから驚くべき想像力で事件の推理を組み立てるのですが、それが非常に面白い。間違えでもアリだと思わせる納得の推理。読者が想像しそうなミステリのお約束の回答をことごとく潰していく様も見事です。

問題編と回答編が進む中、新たな手掛かりで過去の文章やエピソードの内容が様変わりするのも面白く、何が正しくて、何が間違いだったのか、混迷してきます。細かい出来事がもれなく手がかりになっている作り。本書の全編が問題編でかつ推理パートでもある。ミステリ好きならワクワクする事、間違いなしです。楽しい読書でした。

また本書は、ミステリ読みならどこかで目にしている『後期クイーン的問題』も含まれています。全ての手がかりが保証されていない中での真相が真の解決とはならない。この問題を、クイズ形式+ミステリ読みのプロ(探偵役)の組み合わせで作品にしているのも見どころです。

多重解決ものは目まぐるしい推理に後半疲れてしまう傾向なので、好みが分かれがちなのですが、本書はこれでもかってぐらい要素を盛り込んでいるので、疲れはするけど面白さが勝り、記憶に残る作品となりました。
こんなにもの多重解決の整合性を保ちつつ遊び心が満載な作品を作れるのが凄まじい。
著者の作品は、作品に対して何かしらテーマを盛り込み特化させているのが本当に素晴らしいです。今後の作品も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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ミステリー・アリーナ (講談社文庫)
深水黎一郎ミステリー・アリーナ についてのレビュー
No.291: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(2pt)

RPGスクールの感想

作者と担当編集者の方は、過去2作と違う人でしょうか?そんな風に思うほど違う印象。
今までと違い、話のテイストを変え、今作では趣味全開のノリノリで描く作者の楽しそうな姿が見えます。キャラや会話のテンポは良いのですが、独特な世界観の情報が不足で、頭の中に情景が浮かび辛い作品でした。編集の整え方が過去と違うのかと思うぐらい読み辛いのも難。
私はゲームもRPGもミステリも好き。ライトノベルも問題なし。だけど本作は合わなかったです。商業作品というより作者の趣味本であると思いました。
章タイトルから感じるスクエニ系のゲームネタや、ゲーム・アニメの定番のセリフなど、クスっときました。超能力ネタなどミステリとして活用されているよさもあります。ただなんというか、全体としてピタっと結びつく考えられたものというより、ネタの詰め合わせの印象です。
過去2作はミステリの根底を大事にしつつ悪ふざけのノリを小出しにしてましたが、本作は逆の作りで趣味全開でした。

期待とのギャップでの点数となりますが、合いませんでした。
ただ作品は気になる作家さんなので、今後も期待で買ってしまう魅力があります。
RPGスクール (講談社ノベルス)
早坂吝RPGスクール についてのレビュー
No.290: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

レインツリーの国の感想

個人的な事ですが、昔を思い出しながらの読書体験でした。
ネットで知り合う。となると今では出会い系、SNS、といった単語が返されるのですが、15年以上前の90年代では、パソコン通信やniftyフォーラムとか、ネットができる一部の人がテーマを掲げて交流していました。なんというか誰でもネットが出来たわけではないので、ネットが出来る人同士の不思議な仲間意識があった気がします。
本書のように個人サイトがあり、管理人にメールして交流するというのは自然と行われてました。相手の年齢・性別・容姿などは分からないまま、というより気にせず、ただ興味が近い人同士でメールで交流したものです。オフ会も何度もしました。本書の登場人物の方も、私生活では閉じこもり人と会わないけれど、オフ会だけは出てくる人もいました。

そんな経験があるもので、本書の出会い方やメールでのやり取りは微笑ましいものを感じました。他人のメールのやりとりを覗いているようで、くすぐったかったです。
今の世の中ではこういう出会いはし辛くなっていて、実名制のFacebook等、内面だけでなく、人柄、姿、所属など情報量が増えた条件で出会う事になっているのかなー?とか考えました。なので、本書のやり取りは、個人的には昔を思い出すのですが、現代の子達にはピュアに映るんではないかと感じます。

ところで正直な所、伸の発言や行動に共感できない事が多かったです。。。いろんな恋愛観があるんだなと感じました。結局な所、伸は第一印象重視で、ナルシストな印象でした。たまたま好きな本で繋がった、ひとみの内面から惹かれるわけですが、、出会ってみてうまく行かないだけで怒るシーンがありますが、もう失礼極まりない。もともとこういう性格なのかな。事前に出会っているナナコも最初の印象が悪かっただけで、相談してみるとその子の本質が少し見えて、実はいい子かと考えを改めたりと、性格が悪く感じてしまうのが凄く気になりました。うまくいえませんが、伸との性格の不一致でモヤモヤしてました。

作品テーマの障害を伝える事に対して、恋愛物に創り上げているのはとても巧いなと思いました。ページ数も手ごろで、映画化もされるので、若い世代にも見られる事でしょう。
こういうエンターテイメントの構築はこの作家さん凄くうまいと改めて感じました。
レインツリーの国 (新潮文庫)
有川浩レインツリーの国 についてのレビュー
No.289:
(7pt)

“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)の感想

文学少女×ミステリというと、ビブリア古書堂シリーズが思い浮かびましたが、それよりも古くそしてライトノベルな作品。ただし中身はシリアスで結構重い。読書前と読後でイメージが異なった作品でした。

シリアスな雰囲気の中、文学少女の遠子先輩が総じて明るいキャラクターなのが良いです。よく喋る文学少女って意外とない設定かも。明るく博学で熱い想いがあるのが魅力的。
ただ、キャラ設定として拒絶反応が出そうなのが1点。この文学少女、本を食べるんですよね。びりっとページを破って食べる。甘い甘いお話が食べたいとか、悲しい話で変な味~とか。これだけはちょっと合わなかったです。

そんな訳なので、この本をどう読んでよいか序盤迷いました。真面目に読むか、不思議現象も考慮する作品なのか?と。お伝えしておきますと、本を食べるエピソード以外は真面目に読んで大丈夫です。

物語は太宰治の人間失格を活用した学園ミステリが進行します。
太宰治の作品は暗いとか、合う人合わない人がいるのは共感の度合いとか、落ち込んでいる時に読むと取り込まれるとか、何気ない太宰治作品の解説が読後に全体像と巧く結びついてくるのが見事です。

結末も予想していなかった展開で、シリアスだけど最後は爽やかに終わる、意外な作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)
No.288: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ドミノの感想

舞台は東京駅。保険の契約ノルマで奮闘する人、俳句仲間のオフ会、男女のもつれ、オーディンションを受ける子役、爆弾犯、etc...
総勢28キャラが交差する物語。

サウンドノベルゲームの『街』『428』が好きなのですが、これに似た小説が読みたいと探した所、見つけたのが本書の『ドミノ』でした。ゲームを知っているなら同じ雰囲気を楽しめます。

本書の凄い所は、28もの登場キャラがいるのに混乱がない事です。
ゲームのように音や写真・イラストはなく、文章だけで書き分けて混乱させないのは凄いです。そして、それぞれのキャラ達は自身の物語が存在し、それぞれの主人公なのです。個々のストーリーを楽しみ、東京の舞台でそれぞれが交差し、あれがここで影響して、あの人の行動がこっちで影響して。。。という楽しさが最高でした。

サウンドノベルゲームの場合、プレイヤーが物語に介入して失敗すればバッドエンドが起きますので、誰かが死んじゃったり、悲惨な結末が起きる刺激がありますが、小説による偶像劇の場合はエンディングに向けて1本道を進むので、刺激的なアクセントが付け辛い難しさがあると思っていました。が、本書は爆弾事件や保険契約処理のノルマなど、タイムリミット系のハラハラ内容を複数設置することで、飽きさせない作りにしている点で成功しています。

悲惨な事件や複雑な仕掛けはなくて、サラッとしていますが、気軽に楽しみ充実できる良い作品でした。

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ドミノ (角川文庫)
恩田陸ドミノ についてのレビュー
No.287: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

オルゴーリェンヌの感想

書物が駆逐され、水没しつつある世界が舞台の『少年検閲官シリーズ』第2弾。
前作は読んでおいた方が良いです。

デビュー作からファンタジー×ミステリの作風でしたが、その作風を着実に進化させた本シリーズはとても面白いです。城シリーズ序盤あたりの、ラノベファンタジー模様は、あまり好みではなかったのですが、ここまで来ると世界観に浸れて楽しめます。
また、思い返せば『瑠璃城殺人事件』でも図書館を舞台とした密室がありましたが、当時から作者の本とミステリに対する思いがずっと続いているのだと感じました。

ネタバレ以外での話として、このファンタジーの世界観を十分に活用した事件を行なっている点が凄く評価です。本作は前作以上の出来でしょう。

序盤のオルゴール職人が少女をオルゴールにするエピソードについても、残酷性はなく、ゆったりと静かな情景の中でひっそりと聞こえるオルゴールの音色のように悲しく神秘的な雰囲気に惹き込まれました。

オルゴール職人の集う孤島での連続殺人。
物理トリックや多重解釈といった本格ミステリ要素をファンタジーの世界観で包み、独自の個性を生み出しています。本作は十分に堪能できました。

その他余談として、
スピンオフ作品『ダンガンロンパシリーズ』における、事前に本書の仕掛けを匂わせる『黒の挑戦』の設定と、『少年検閲官シリーズ』の『ガジェット』の扱いが似ています。事件模様も解決模様も似ているので、この2つのシリーズ間は互いに刺激を与えあっていると感じました。
発売時期としては少年検閲官のガジェットが先で、その後、知名度が高いダンガンロンパを描いていく中で、ミステリ×キャラ×ファンタジーの描き方が培われて、オリジナル作品の少年検閲官シリーズである本書『オルゴーリェンヌ』へ昇華したと感じました。

シリーズ作品として次作を楽しみにしています。

▼以下、ネタバレ感想
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オルゴーリェンヌ (創元推理文庫)
北山猛邦オルゴーリェンヌ についてのレビュー
No.286:
(7pt)

一見、ただのライトノベルなんだけど……。

タイムトラベルもの。
一見、ただのライトノベルなんだけど、真相が明らかになった所でSFミステリに変容し、評価が凄くあがった作品です。

読書中の率直な感想としては面白くなったです。情景・状況が分かり辛い。表紙の印象からなのですが、どこまで現実的でアニメ設定なのかが把握し辛かった為、夢中になれませんでした。
ただ、ラストのまとめ方は凄いです。複雑なシナリオで見事。
アドベンチャーゲーム系の仕掛けで使われそうなネタを小説で体験したのは初めてかも。よくできていて驚きました。

タイムトラベル作品において、本書の個性的な設定は『肉体』と『精神』を別に考え、過去に戻る際『精神が他人の肉体へ宿れる』事です。

過去に何かしらの過ちを犯してしまった『僕』が、死後の世界で"案内人"と呼ばれる存在の力を借りて過去に戻ります。『僕』はいったいどの人物で、どんな後悔する罪を犯したのか?過去の他人の肉体に宿り、自分の犯行を止めようと試みる、"しなおし"の物語です。

読書中、もっと惹き込まれる何かがあれば、凄くおすすめしたくなる作品だと感じた、ちょっともどかしい作品。
かなりややこしい構造なので、ネタバレで解説を記述しておきます。

▼以下、ネタバレ感想
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シナオシ (富士見ミステリー文庫)
田代裕彦シナオシ についてのレビュー