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iisan さんのレビュー一覧

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書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.40pt

レビュー数1379

全1379件 1~20 1/69ページ

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No.1379: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

19世紀後半のアメリカ。女性医師が主役の社会派ミステリー

インド生まれ、アメリカ育ちの女性内科医の手になる医療ミステリー。南北戦争後のフィラデルフィアを舞台に、女性医師のパイオニアが周囲の偏見、ミソジニーと戦いながら殺人事件の謎を解く社会派色の濃い、良質なエンタメ作品である。
設立まもない女子医学校を卒業し、臨床医として現場に出ると共に教壇にも立つリディア。女性は医師に相応しくないとの偏見や男性同僚からの見下し、嫌がらせに屈せず、自分の信念を貫いていた。ある日、患者であり、友人だったアンナの溺死体を検視解剖することになった。警察は自殺と見ているのだが、アンナを知るリディアには自殺が信じられず、さらに解剖結果からも他殺を疑い、独自の調査を進めることになった。すると、自殺説にそぐわない証拠や証言が見つかり、リディアはどんどん調査にのめり込んでいく。そして犯人につながる証拠を見つけたと思ったとき、リディアを肉体的暴力が襲ってきた…。
洋の東西を問わず、偏見との戦いを余儀なくされる女性医師のパイオニアたちの物語はいくつもあるが、本作はそれを見事なミステリーに仕立て上げたところが素晴らしい。医学的正確さを重視した描写がやや重苦しいものの、ミステリーとしての展開は巧みで、誰もが満足できる作品である。
世のレビューに惑わされず、一度手に取ることをオススメする。
裁きのメス
リツ・ムケルジ裁きのメス についてのレビュー
No.1378: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

今でも読み応えがある50年代ブラック・ノワールの傑作

1930年代に獄中作家としてデビューしたもののパッとせず、50年代にフランスで人気が出た黒人作家の1959年の作品。酔っ払った白人警官に同僚を殺され、さらに証拠隠滅のために命を狙われる黒人青年の逃走と白人警官による執拗な追跡のハードボイルド・ノワールである。
年の瀬のニューヨークの深夜、酔っ払った警官・ウォーカーは停めたはずの車がないことに気付き、そばにある食堂の黒人清掃員が盗んだと思い込む。身に覚えがない3人の清掃員たちは銃に怯えながらも事態を落ち着かせようとするのだが、ウォーカーは2人を射殺し、現場を目撃したもう一人の清掃員・ジミーも殺そうとする。ウォーカー自体が銃を撃った理由が分かっておらず、ましてやジミーは訳も分からず、ただ逃げなければ殺されると逃走する。かくてウォーカーとジミーは必死の追走劇を繰り広げるのだった…。
図式化すれば人種差別主義の白人警官と無実の黒人青年の間のヘイトクライムであり、善悪がはっきりした物語なのだが、1950年代のアメリカ、中でも差別反対の意識が強いニューヨークが舞台とあって、登場人物たちが差別に複雑な反応を示すところが読みどころ。ここのところの微妙なズレ、建前と身体的反応との矛盾が不気味である。
黒人が主役のノワール、ハードボイルドの系譜を知る貴重な作品として、ブラック・ノワール、ハードボイルドのファンにオススメする。
逃げろ逃げろ逃げろ!
No.1377: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

銃から生まれた悲しみは銃で癒す。まさにアメリカン・アクション小説

英国・米国では国際謀略系のベストセラーを連発している作家の本邦初訳(?)。N.Y.P.D.の内務局に勤める刑事が、自殺とされた妻の死に関する謎を一人で解明していくアクション・ミステリーである。
謹厳実直で同僚と言えども不正は許さない内務局の刑事・ジャックに、ワシントンD.C.で敏腕記者として活躍している妻・キャロラインの行方不明が告げられ、翌日、キャロラインの水死体が発見された。検死の結果、精神的に落ち込んでいたキャロラインの自殺と発表された。何事にも前向きで活発な妻の性格を知るジャックには自殺は信じ難く、さらに翌日、妻の弁護士から届けられた資料を見たジャックは「妻は何者かに殺害された」と確信し、真相を解明しようとする。だが、関連する捜査組織は動かず、逆に妨害され、さまざま脅迫を受けた。窮地に陥ったジャックは弟のピーターの助けを借り独自の調査を開始する…。
法に従う警察官としての義務と妻の復讐を果たしたい人情の間で葛藤する主人公だが、最後はやはり西部劇からのアメリカン・ルールで、銃での決着に至る。本作での悪役は政府情報機関と親密な民間諜報・暴力会社で、イラク、アフガン以来の悪しき側面が露骨に現れている。
理屈抜きに力は正義というアクションもののファンにオススメする。
復讐の岐路
J・B・ターナー復讐の岐路 についてのレビュー
No.1376: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

物語展開の面白さを再認識させる傑作サスペンスだ

毎回、新しい趣向で読者を迷わせる(楽しませる)スワンソンだが、その期待は今回も裏切られない。
自分を含む9名の名前が書かれた1枚のリストを受け取った9人の男女。リスト以外に同封されたものはなく、何のためのリストかさっぱり分からず、疑問に思うこともなく捨ててしまった人もいた。しかし、リストに載っているホテル経営者の老人が海岸で溺死し、さらにもう一人の男性がランニング中に射殺された。自分も名前が載っていたFBI捜査官のジェシカは9人の関連性を調べるために所在を確認し始める。一方、ホテル経営者の事件を捜査する地元警察の刑事ハミルトンは被害者の背景から動機を探ろうとする…。
ミステリーの不朽の名作「そして誰もいなくなった」へのオマージュ作品だが、舞台設定、話の構造が全く違っている。一人ずつ殺されるのは同じだが、9人が同じ場所にいるのではないため、連帯感もなければ襲われる恐怖や危機感もない。隠された共通点を知るのは犯人だけというのが、極めてスリリング。動機・真相が明らかにされると、事件の規模に対してこれ?っという違和感があるかも知れないが、犯人探しや犯行様態の解明に主眼を置かず、サスペンスを楽しむ物語として読めばなかなかの傑作である。
スワンソン・ファンの方はもちろん、ミステリー名作マニアの方にもオススメする。
9人はなぜ殺される (創元推理文庫)
ピーター・スワンソン9人はなぜ殺される についてのレビュー
No.1375:
(8pt)

競馬シリーズが、シッド・ハレーが帰ってきた!!

競馬ミステリーの金字塔「競馬シリーズ」が見事に蘇ってきた。父の跡を継いだフェリックスならではの、これぞ血統書付きの競馬ミステリーである。
探偵業から引退し、株取引や投資で生活しているシッドを訪れたスチュアート卿(英国競馬統括機構会長)はレースで不正が行われていると確信したのだが、自分の組織の保安部から相手にされなかったため、シッドに調査を頼みたいと言う。シッドはもう探偵は止めた、関わりたくないと断ったのだが、不正を示唆する資料を押し付けられた。その翌日、スチュアート卿の変死が知らされ、シッドの心が揺れた。妻には反対されながら気になることを調べ始めたシッドは、すぐに家族が危険にさらされる事態に巻き込まれた。不正の黒幕と思われる男から卑劣な攻撃を加えられたシッドは生来の正義感と反骨精神に駆られ、捨て身の戦いを挑むことになる…。
もう最初から最後まで競馬シリーズの醍醐味に溢れ、ディック・フランシスの作品を読んでいる気持ちにさせられる。ストーリー展開、キャラクター設定、競馬界の内情など全てが文句なし。さすがシリーズの終盤の作品を父と共著してきたフェリックスである。
新シリーズは翻訳者も出版社も変わったのだが、漢字二文字のタイトル、表紙デザイン、グリーンの背表紙など、これまでのシリーズをリスペクトした姿勢も好感度大。
競馬シリーズを読んできたオールド・ファンはもちろん若い読者にもオススメしたい傑作ミステリーである。
覚悟 (文春文庫)
フェリックス・フランシス覚悟 についてのレビュー
No.1374: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

これは傑作! 予備情報なしで読んでもらいたい

デビュー小説ながらエドガー賞最優秀新人賞のフィアナリストになったという傑作ノワール。ラストベルト地帯の小さな町で平和に暮らしていた3人の語り手が欲望、使命感、絶望感などをきっかけに許されざる罪を犯してしまう切ない犯罪物語である。
基幹産業が斜陽化し、衰退の一途をたどる人口五千人ほどのスモールタウン。幸せな夫婦生活を送りながらも子供がいないことに一抹の寂しさを抱えるネイサンは釣りの帰りに森の中の小屋が燃えているとの通報で現場に駆けつけた。ボランティア消防団員でもあるネイサンは火災現場に最初に到着し、重度の火傷を負った男を助け出し、大金が入ったゴミ袋を見つけた。この金で運命を変えられると直感したネイサンはゴミ袋を屋根裏に隠してしまった。火傷した男が運ばれた病院に勤めるキャリーは口蓋裂の傷跡のために何事にも消極的で、病院勤務にもうんざりしていた。男が運ばれた翌日、末期がんに苦しむ16歳のガブリエラが緊急入院して来たのだが、新興宗教の牧師である父親は医学を信用せず、治療を拒否する。苦しむガブリエラに同情し親身になって接してくれるキャリーに心を許したガブリエラは「最後の望みで、海が見たい」と伝えた。片道4時間を越えるドライブにガブリエラが耐えられるのか、さらに保護者の承諾なしに連れ出せば誘拐とみなされる危険もありキャリーは迷う。若い時、麻薬常用者だったアンディはケイトとの結婚を機に薬を断ち、やがて生まれた愛娘のアンジーと三人で貧しいながらも幸せな日々を送っていたのだが、ある日、仕事から帰りアンジーとケイトが死んでいるのを見つけてしまう。生まれつきダウン症だったアンジーの心臓が力尽き、希望を絶たれたケイトが跡を追ったのだった。全てを失い自暴自棄になったアンディは薬の過剰摂取で自殺を試みるが失敗。酒で意識を朦朧とさせ町をふらついていた時、小児性愛者のおぞましい写真を発見したのだが、写真の中にダウン症児を被害者にしたものがあり、アンディは「この犯人を地獄への道連れにしてやる」と決意した…。
三人三様の希望や後悔、迷いや判断が複雑に関わり合うストーリーは波乱万丈、息つく暇を与えずスピーディに進行する。三人が順番に視点人物になる構成も効果的でページを捲る手が止まらない。三人が迎えるクライマックスも深い味わいを残す。380ページほどと手頃なボリューム、登場人物は少なく、関係もわかりやすいので予備知識なしで読める。
アメリカのスモールタウンの行き詰まりを見事に表現した、まさに今風のノワールとしてどなたにも強くオススメしたい。
罪に願いを (集英社文庫)
ケン・ジャヴォロウスキー罪に願いを についてのレビュー
No.1373: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

コレクターズ_アイテムというか、歴史的価値を楽しむ作品

警察小説の巨匠・ウォーのデビュー作。1947年刊行で長く未訳だったものが78年ぶりに初邦訳されたという歴史的価値がある作品である。
N.Y.の私立探偵・シェリダンが美人妻・ダイアナと共に元大スターの富豪・ヴァレリーからの招待状を受け取り、郊外にある大邸宅を訪れた。著名な弁護士、産業界の大物、上流階級の子女、コラムニストなど招待客は揃ったのだが、肝心のホステスのヴァレリーが姿を現わさない。疑問に思ったシェリダンが邸宅の周囲を探ると、庭から続く森の中でヴァレリーが殺されていた。大勢の人を招きながら殺されたのは何故か? 招待客はもちろん執事夫婦にも怪しい動機が見え隠れする事態に巻き込まれ、シェリダンは地元警察署長のスローカムに協力し、事件の謎を解いていく…。
犯人探しの私立探偵もので、時代の流行に乗ったハードボイルド風味が強い。同時に、最後に全員を集めて探偵が犯人を名指しする古典的な探偵ミステリーでもある。後年のウォーの警察小説に比べれば未熟な部分も多いが、発表された年を考えれば傑作である。
歴史的価値を楽しめるミステリー愛好家にオススメする。
マダムはディナーに出られません
No.1372: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

意欲が先走って、小説の醍醐味が薄いかな

アメリカの犯罪史上最も有名なシリアルキラー、テッド・バンディ事件をテーマにしたノワール・ノベル。何かと称賛される加害者に対し、現代の女性の視点から徹底的に叩きのめそうとする意欲作である。
1978年1月の深夜、フロリダ州立大学の女子寮に何者かが侵入し2人が殺され、2人が重傷を負った。寮を管理運営する支部長のパメラは犯人と鉢合わせ唯一の目撃者となったのだが、当初の供述が変遷したため保安官からは信頼されていなかった。そんなパメラに、わざわざシアトルから会いにきたティナという女性が4年前に友人のルースが行方不明になった事件と今回の事件は同一犯だと告げた。ティナが見せた指名手配写真を見たパメラは「この男だ」と確信し、保安官に知らせたのだが、二つの事件は無関係だと断定された。事件で亡くなった親友・デニースのために犯人を捕まえたいパメラはティナと協力して犯人を追う決意を固めた…。
性差別が罷り通っていた1970年代アメリカで当たり前のように流れた犯人の容姿や知性を讃え、英雄視する風潮に対する怒りが全編にみなぎっている。それは、被害者は無名のままに忘れられ、歪んだ加害者像が独り歩きすることへの全面的な拒否表明として、最後まで犯人の名前を書いていないことに象徴されている。その問題意識の鋭さ、意欲は買うのだが、事件発生時と現在を行き来する構成が効果を発揮せず、読みづらいのが難点。
忍耐強いノワール愛好家にオススメする。
夜を駆ける女たち (ハヤカワ・ミステリ)
ジェシカ・ノール夜を駆ける女たち についてのレビュー
No.1371: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

佐伯も津久井も退職? 次作からは新シリーズか?

北海道警大通署シリーズの11作目か(サイトによって数が違う 笑)、第一シーズンの完結作のようである。
相変わらず閑職に追いやられながらも実績を挙げ、ついに上層部が引き上げを考え始めた佐伯警部補、少年係ながら刑事事件につながる兆しを見逃さない小島巡査部長、現場復帰を果たし、機動捜査隊で充実した日々を送る津久井巡査部長。三人がそれぞれの職務に専心していたある日、闇バイト四人組が牧場に強盗に押し入り、弾みで牧場主を殺害する事件が発生。強盗の一人は奪った散弾銃で仲間を殺害し、さらに指示役の男から金を奪い返すために札幌に潜入してきたようだった。絶対に次の殺人を防ぎたい道警本部が札幌市内を隈なく捜索するも、犯人の所在さえ掴めないでいたのだが、佐伯が追いかけた置き引き事件、小島が担当した女子高生のスマホ強奪事案が、津久井たち機動捜査隊の強盗犯人追跡と関連することが判明し、捜査の網は絞り込まれていった。そして最後、追い詰められた犯人は人質立てこもり事件を起こす…。
いつも通りと言えば、その通り。安心して読める警察ミステリーである。本作は「シリーズ第一シーズン完!」という宣伝文句もあり、どういう結末をつけるのか注目したのだが、どうやら佐伯も津久井も警察を辞めるようで、佐伯の部下の新宮は新たな部署に引き上げられ、小島も人生の決断を迫られる。さらに警官の酒場「ブラックバード」も代替わりする模様。次作からどんな展開になるのか、首を長くして待ちたい。
警官の酒場
佐々木譲警官の酒場 についてのレビュー
No.1370: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

罠を仕掛けるのにこだわりすぎたのか?

「56日間」で注目されたアイルランドの女性作家の邦訳第4作。妹が行方不明になったのは連続女性失踪事件の被害者だからと確信した姉が、自らを囮にして犯人に接近しようとするミステリー・サスペンスである。
一年ほど前、ルーシーの妹・ニッキが消息を絶ったのはアイルランドで相次ぐ若い女性の失踪事件に関係があるのではと疑ったルーシーだが、警察の捜査は停滞し、妹の情報もほとんど入ってこなかった。ニッキが複数の被害者のひとりに数えられ、世間の注目が薄れていると焦ったルーシーは自分だけでも妹を忘れないと、独自に情報発信し、さらには犯人に接触しようとする…。
失踪した妹を姉が探すシンプルな物語のようだが、途中に犯人の独白の章が挟まれることで様相が変化し、ストーリー構成が複雑で読み解きにくくなる。それが作者の狙いだろうが、その仕掛けは思うほどの効果を挙げていない。クライマックスのひとひねりは面白いんだけど。
技巧的な仕掛けがお好きな方にオススメする。
罠
キャサリン・R・ハワード についてのレビュー
No.1369: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

カード詐欺の部分は面白いのだが、最後はちょっと

2021年〜22年に新聞連載された長編小説。シングルマザーに置き去りにされた中学生の少女が母のホステス友だちに救われて同居し、スナックを共同経営し、カード詐欺に手を染め、ほとんど人格崩壊の憂き目に遭うノワールである。
出てくる登場人物が人格破綻や社会からドロップアウトした人間ばかりで、その中を必死で生き延びて行く少女の逞しさと脆さが、読者を不安に陥れる。悪いのは貧しさか欲望か、脱落者を生み出す社会構造か。階層分化が進む社会の一部分をリアルに描き出している。
ミステリー要素は期待せず、女性、特に若い女性の生きづらさが描かれたノワールとして読むことをオススメする。
黄色い家 (単行本)
川上未映子黄色い家 についてのレビュー
No.1368: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

建国以前から今でも、アメリカは暴力と信仰とプライドの国だ

アメリカを代表する大家(日本ではそれほどの評価ではないが)の2024年度エドガー賞最優秀長編賞受賞作。1863年、南北戦争下のルイジアナ州を舞台にさまざまな立場で戦争に巻き込まれた人々の愛憎と倫理、信念を描いた一大戦争ヒューマン・ドラマである。
戦場で負傷し農園主である伯父の庇護下にあるウェイド、伯父が所有する奴隷ながら自立心堅固なハンナ、別の農園主殺害容疑でハンナを逮捕しようとするピエール巡査の三人の主要登場人物にピエールが心を寄せる解放奴隷のダーラ、北部から来た奴隷解放論者のフローレンス、ルイジアナに進駐してきた北軍のエンディコット大尉、脱走兵を組織して率いるヘイズ大佐などが絡んでくるストーリーは波乱万丈。単なる戦争の勝ち負けではなく、それぞれの信仰、愛、倫理、暴力がぶつかり合い、残酷であると同時に感動を呼ぶ。それにしてもつくづく、アメリカは暴力と信仰でスタートし、今もなお変わらない国なのだと痛感させられた。
ミステリー要素は今ひとつだが歴史、戦争、人間ドラマとしては傑作。オススメです。
破れざる旗の下に
No.1367:
(8pt)

シリーズらしさが増し、ワンランクアップした快作!

「道警シリーズ」の第3作。洞爺湖サミットを前に緊張の度を高める北海道警で制服警官が失踪した事件をメインに大臣警備、2年前の覚醒剤密輸おとり捜査を絡め、警察組織の悪弊と戦う警官たちの矜持を描いた警察冒険小説である。
1週間後にサミット警備体制の結団式を控えた日に一人の制服警官が拳銃を所持したまま失踪した。万が一を危惧する道警上層部は「何がなんでも探し出せ」と号令し、津久井刑事は捜索の専任を命じられた。ストーカーを撃って逮捕した小島百合巡査はその手柄を評価され、結団式に出席する女性大臣のSPに抜擢される。道警全体の信頼を失い、閑職に追いやられた佐伯警部補は消化不良のまま終わらせられた密輸入おとり捜査に疑念を持ち、一人で再捜査を始めた。使命感と任務に導かれた三人の捜査はやがてサミット警備でギリギリまで高まった道警の緊張を一気に爆発させる事態へと突き進んで行く…。
シリーズ3作目とあって主要な登場人物のキャラクターがより鮮明になり、役割分担も滑らかで、シリーズものならではの円熟味が出来上がってきた。プロローグから結末までの展開も無理なく、説得力がある。
日本の警察小説では、現在ナンバーワンのシリーズとして強くオススメする。
警官の紋章
佐々木譲警官の紋章 についてのレビュー
No.1366: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

嘘をついた若い女性は、なぜ救われるべきなのか?

ゴンクール賞をはじめ、いくつかの文学賞にノミネートされたというフランス人法廷ジャーナリストの長編小説。嘘をついて他人を犯罪者と名指しした若い女性を救うために奮闘する女性弁護士の活躍を描いた法廷エンタメ作品である。
15歳の時に強姦事件の被害を訴え、加害者を拘束させたリザ。5年後に開かれた裁判で加害者マルコに10年の刑が言い渡されたのだがマルコが控訴した。このため、リザは控訴審では女性の弁護士に依頼したいと弁護士アリスのもとを訪れた。誰もが心を許す若くかよわい少女・リザと複数の前科持ちの32歳の塗装工・マルコ、簡単に結論が出ると思われたのだが、リザが「自分はレイプされてない。嘘を吐いた」と告白し、アリスは驚愕する。リザはなぜ嘘を吐いたのか、拘束されていたマルコを釈放させることはもちろん、さらにリザの立場を守るために、アリスは事件だけに囚われない、社会を告発する弁論を組み立てた…。
刑事裁判を中心にした法廷ミステリーであるが、メインは弁護側と検察側の丁々発止の論戦ではなく、アリスの弁論の組み立てにある。男性中心の性差別意識やレイプカルチャーに対するアンチテーゼが力強い。さらに文末の弁護士による解説もわかりやすくて説得力がある。
今の社会が直面する課題を真剣に捉えた法廷エンタメ作品であり、ミステリーファン以外にもオススメしたい。
小さな嘘つき
No.1365: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

太平洋戦争末期のバークレー、有色人種刑事の正義と諦観

中国系移民として育った女性作家の処女小説。1944年のカリフォルニア州バークレーを舞台に大統領候補の政治家殺害事件にまつわる地元名家の悲劇を暴くことになる、メキシコ系刑事の苦悩を描いた謎解きサスペンスである。
バークレーの高級ホテルで大統領候補のウォルターが殺害された。刑事サリヴァンは容疑者として地元有数の名家・ベインブリッジ家の三人の孫娘を取り調べようとするのだが、証拠が曖昧だと上司から圧力をかけられる。有無を言わさぬ証拠固めに奔走するサリヴァンは、14年前に同じホテルで起きたベインブリッジ家の孫娘の不審死が鍵になると気付いた。だが、ベインブリッジ家の家長・ジェネヴィーヴをはじめ、一家の女性たちはしたたかで、サリヴァンは翻弄されるばかりだった…。
政治家殺害の犯人・動機探し、名家の美しい少女たちにまつわる因縁話を本筋に、日系アメリカ人の強制収容、メキシコ系に対する差別、中国とアメリカの関係などの社会情勢が絡んでくるストーリーは躍動感があり、変化に富んでいて飽きさせない。外見的に白人としか見えないサリヴァンがルーツとアイデンティティに引き裂かれ苦悩する内面の描写もインパクトあり。
犯人探しに加えて人種や貧富による軋轢もリアルで、ミステリー・ファンはもちろん近現代史に興味がある方にもオススメしたい。
獄門橋 (ハヤカワ・ミステリ)
エイミー・チュア獄門橋 についてのレビュー
No.1364: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

カルメ焼きかスアマを食べたような・・(非ミステリー)

2022年〜23年、新聞連載された長編小説。非行少年の立ち直りをサポートする補導委託と南部鉄器で暮らしを立てる職人家族を主要テーマに、親子の出会い、葛藤、和解を描いたヒューマン・ドラマである。
もとよりミステリーではないし、人と人のぶつかり合いを表現したもののようで最後は「みんないい人」で終わる、肩透かしの物語。ところどころ興味深いエピソードはあるものの、全体としては淡白な味わいで、カルメ焼きかスアマを食べたような物足りなさしか感じなかった。
柚月裕子のミステリーを期待してるなら期待は外れる。
風に立つ (単行本)
柚月裕子風に立つ についてのレビュー
No.1363: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ミニ・リスベットが存在感を放つ、新シリーズ登場

ラーソン亡き後も書き継がれてきたミレニアム・シリーズ。ラーゲルクランツの三部作が終了し、本作から作家がカーリン・スミルノフに変更になった新三部作である。
これまでのシリーズの骨格は受け継ぎながらも、ストーリー、キャラクターはかなり変化した。特に主役の二人、リスベットとミカエルに人間味が出てきたのが目を引く。この辺りは好き嫌いが分かれそうだが、個人的には好ましく感じた。全体的にアドヴェンチャー・ゲームのテイストで、現実感は乏しい。
突然登場したリスベットの姪・スヴァラはまるでリスベットの縮小コピー。言動も頭の働きも大人を凌駕する勢いで先行きが楽しみ。次作からは主人公になるのかな?
これまでの6作品とは異なるエンタメ性の強い新ミレニアムとして楽しむことをオススメする。
ミレニアム7 上: 鉤爪に捕らわれた女
No.1362: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

盛り上げるのが難しいテーマを読み応えある物語にした傑作

2021〜22年オンラインメディアに連載され、23年に日本推理作家協会賞を受賞、25年秋には連続ドラマになるという、傑作サスペンス。殺人犯が逃亡したのは何故か、犯人を匿った女は何を望んでいたのか、父親に虐待されている少年は救われるのか。それら全ての裏にある、時代と社会が作り出した闇の深さに逃げ道はあるのか。どれも心を重くするテーマばかりだが、見事なストーリー展開で読み応えあるエンタメに昇華されている。
1996年、横浜で塾経営者・戸川が殺害された事件は重要容疑者である元教え子・阿久津が姿を消して二年、捜査の行き詰まりから陣容が縮小され今では窓際族の刑事・平良が担当していた。生徒や親からも信頼が厚かった戸川には殺されるような背景は見つからなかったが、平良は上司から嫌味を言われながら地道に再捜査を進めていた。実は二年間、阿久津は中学の同級生だった長尾豊子宅の地下室に匿われていたのだった。天窓で外に繋がる地下室にいる阿久津を偶然見つけたのが中学生の波瑠で、父親のネグレクトで飢餓状態になっていた波瑠は阿久津が野良猫のために用意した食べ物を食べてしまったのだった。以来、阿久津が食べ物を用意し、波瑠が貰いに来るという奇妙な関係が出来上がった。長身でバスケットボールが得意な波瑠だったが働かない父親に当たり屋をやらされていた。殺人犯、匿う女、追う刑事、孤独な少年がそれぞれ歩む道が交差した時、言葉にならない悲劇が判明したのだった。
途中、やや中弛み、余計なエピソードもあるのだが、全体を通して盛り上がるサスペンスは読み応えがある。ミステリーファンに限らず、現代社会の問題を提起する作品のファンにオススメする。
夜の道標 (単行本)
芦沢央夜の道標 についてのレビュー
No.1361: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

北海道警シリーズのモジュラー型警察小説の完成形だ

道警シリーズの第4作。前作「警官の紋章」で小島百合巡査に犯行を阻止されたストーカーが一年後に現れ、再度被害者を脅迫し始めた。よさこいソーラン祭りという札幌最大のイベントに紛れ込んだ犯人をいかにして追い詰めるか。さらにバイクによる連続ひったくり、謎の白骨死体などが加わり…。
よさこいソーラン祭りの警備だけでも手一杯なのに、数々の難事件が続出し札幌の警官は不眠不休の奮闘を求められる。普段の所属や担当の垣根を越え、ひたすら警官の使命を果たそうとする正義の警官たち。地道な聞き込み、地取り捜査の積み重ねでじわじわと犯人を追い詰める捜査プロセス。事件相互の意外な関係が明らかにされる巧みな伏線が光るプロット。まさにモジュラー型警察小説の完成形を見るようだ。
安心して楽しめる傑作として、どなたにもオススメしたい。
巡査の休日
佐々木譲巡査の休日 についてのレビュー
No.1360: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

冷戦終結後のスパイ小説は難しいなぁ

最初に。本書は2003年に発売され、2008年に光文社文庫「サラマンダーは炎のなかに」として刊行された作品を早川が改題した作品である。元の光文社版と全く同じもの(訳者も解説者も同じ)をまるで新作のように売り出すのは、いかがなものか。騙された方が悪い(自分は「サラマンダー」は未読だったので良かったが)のかも知れないが。
パキスタン生まれの英国人で主にドイツでスパイ活動を続けていたマンディと、ドイツ人で60年代終わりごろに反戦・平和活動でマンディと結び付いたサーシャの二人。それぞれが主義主張を持つまでの経緯、人生の拠り所となっていた冷戦構造崩壊後の日々が丁寧に解析され、時代を反映した人々の意識の変化が順を追って解説される。そして21世紀に入り、マンディとサーシャが再会した時、二人の変わらない友情と運命は…。
3.11後の米国・英国とグローバル資本による民主主義の破壊への怒りを迸らせる老大家の筆致は熱い。古き良き欧州の知性の覇気は極めて強いインパクトがある。
スパイ小説としてはやや物足りないが、現代政治を巡るサスペンスとして読み応えあり。オススメです。
終生の友として 上 (ハヤカワ文庫NV)
ジョン・ル・カレ終生の友として についてのレビュー