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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1460

全1460件 21~40 2/73ページ

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No.1440: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ガウディとサグラダ・ファミリアのガイドブックのような・・・

2023年刊の書き下ろし長編。バルセロナで暮らす日本人の石工とその娘が殺人事件に巻き込まれ、サグラダ・ファミリアにまつわる陰謀を見つける現代史ミステリーである。
1991年のある夜、サグラダ・ファミリア建造に携わる石工の父と一緒にバルセロナで生活する志穂は、仕事に出たまま帰宅しない父を探していてサグラダ・ファミリアの尖塔に吊り下げられている死体を発見した。遺体は父の親しい同僚で、父の失踪もこの事件に関係していると考えた志穂は建造関係者を訪ね歩く。すると、ファミリア建造を進めたい勢力と反対する勢力が激しく対立する歴史に直面し、志穂も否応なく巻き込まれていった…。
殺人の裏に歴史をひっくり返す陰謀が・・・というミステリーだが、物語の比重はガウディ、サグラダ・ファミリア、石工の働きのガイドに置かれている。犯人や動機は最後にひと捻り、ふた捻りあるものの殺人の謎解きは単純。ミステリーとしてのコクがない。
ガウディ、サグラダ・ファミリア、バルセロナに関心がある方にオススメする。
ガウディの遺言
下村敦史ガウディの遺言 についてのレビュー
No.1439: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

埋もれていた傑作に出会えた幸せ

日本ではほとんど知られていなかった英国本格ミステリーの本邦初訳。1930年代のイギリスらしさにあふれた犯人探し、謎解きミステリーである。
風光明媚で落ち着いた海岸沿いの町・イーストレップスで、静かに暮らしていた老婦人が友人を訪ねた帰り道で殺害された。凶悪事件など起こったことがない田舎町の住民は動揺したのだが、何も手掛かりがないうちに同様の手口による第二、第三の殺人事件が発生し、謎の連続殺人鬼「イーストレップスの悪魔」が恐怖を呼び起こした。警察はスコットランド・ヤードの協力を仰ぎ、有力な容疑者を逮捕したのだが、さらに第四の殺人が起きた…。
全体の三分の一ほどで最初の容疑者が逮捕されるのだが、そこからの展開が素晴らしい。巧妙な伏線があり、読者をミスリードする仕掛けがあり、裁判劇があり、最後の犯人判明まで緩みなく謎解きサスペンスが続く。時代は30年代だが、謎解きミステリーとしては現代でも十分に通用するレベルの高さである。
英国本格ミステリー、謎解きミステリーのファンに自信を持ってオススメする。
イーストレップス連続殺人 (海外文庫)
No.1438:
(7pt)

名作ではあるが、いかんせん古過ぎる

本邦初訳のネロ・ウルフ・シリーズ第15作。1952年刊の古典で、P.I.ものの王道を行く犯人探しミステリーである。
ストーリー展開は動きがスピーディーで謎解きの構成も破綻がないのだが、いかんせん時代状況が古過ぎて、現代のP.I.ものに慣れた読者には物足りない。
古典的名作の資料価値を重んじる方にオススメする。
人盗り合戦 (論創海外ミステリ)
レックス・スタウト人盗り合戦 についてのレビュー
No.1437: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

最後のどんでん返しが意表を突くけど。

2018年刊の書き下ろし長編。両親の放火による無理心中でひとり生き残ったヒロインが17年後、過去と決別するために復讐心をかき立てるサスペンス・ミステリーである。
悪徳金融業者に追い詰められた両親が実家に火を放ち、両親と幼い弟妹を亡くした幸子は17年後、婚活パーティーで出会った隆哉と交際するのだが、自分の生い立ちを告げることができなかった。そんな過去と決別するために両親と弟妹が眠る墓に参った幸子は、子供たちを乗せた車で海に飛び込み、自分だけが生き残ったというシングルマザーの雪絵に出会う。あなたはなぜ生き残ったままでいられるのか、雪絵に自分の母の姿が重なって見えた幸子は被害者として加害者に復讐しなければと思い込む。さらに両親を追い詰めた男・郷田がまた借金返済に困った人を自死に追い込んだことを知り、郷田を破滅に追い込もうとする…。
最後は意外な真相が明らかになり綺麗な話にまとめられるのだが、そこまでのプロセスは怖すぎる。被害者と加害者の立場、力関係のあれこれがちょっとくどい。もう少し全体が整理されてると良かった。
下村敦史に期待するレベルではないものの、それなりの問題提起があり、読んで損はない。
悲願花 (小学館文庫 し 23-1)
下村敦史悲願花 についてのレビュー
No.1436:
(7pt)

女性たちのエゴに振り回される、悲しいジョー。

「猟区管理官ジョー・ピケット」シリーズの第18作。高級リゾート牧場から姿を消した英国人女性の捜索を命じられたジョーが失踪の真相を解明する、人探しアクション・サスペンスである。
世の注目を集める英国人女性セレブ社長ケイトが夏の休暇で訪れたワイオミング州の高級リゾート牧場から姿を消してから半年、新州知事のアレンから呼び出されたジョーは、ケイトの捜索を命じられた。州の法執行機関や犯罪捜査部が失敗続きのため、ジョーに白羽の矢が立ったという。捜査のプロが見つけられないものをなぜ、猟区管理官に任せるのか? 疑問を持ちながらジョーは現地に赴いた。そのリゾート牧場では長女・シェリダンが働いており、彼女の助けを受けることができそうだった。さらに盟友・ネイトが鷹狩り関連での問題解決に協力するのと引き換えに助力を申し出てくれた。しかし、調べを進めるほどに、何者かが卑劣な圧力を掛けてきた…。
今回は行方不明人探しというP.I.ハードボイルドみたいなストーリーだし、舞台もいつもの大自然が相手ではないこともあり、これまでの作品とは異なる雰囲気がある。だが、熱さと正義感で突っ走るジョーの行動は変わらず、シリーズの醍醐味は十分に味わえる。ただし、事件の背景になるのが女性のエゴ?で、それに振り回されるジョーの悲しさが切ない。
シリーズ愛読者には文句なし、初めての方でも十分に楽しめるアクション・サスペンスとしてオススメする。
暴風雪 (創元推理文庫)
C・J・ボックス暴風雪 についてのレビュー
No.1435:
(8pt)

新人キャリア警部補・立花が加わって、ますますドタバタ!

軽妙洒脱な警察小説として人気の「御茶ノ水警察署」シリーズ第4弾。新メンバーを迎えた保安二係の騒動をコミカルに描いた短編4作品である。
箸にも棒にもかからない斉木、梢田コンビと爪を隠した鷹である五本松のチームに配属されて来たのはイケメン・キャリアの立花警部補。見た目はおぼっちゃまで頼りなさそうなのだが実は・・・。
いつも通りに街中でありふれた軽犯罪を、何だかんだ言いながら処理してしまうのはお約束。それぞれのテーマに変わりゆく街の雰囲気が反映され、しかも展開に一捻りがあるのでどれも新鮮。日頃のストレス解消の読書に最適だ。
ユーモラスで楽しい小説を読みたい時にオススメ。
おれたちの街 (集英社文庫)
逢坂剛おれたちの街 についてのレビュー
No.1434:
(7pt)

謎解きより人間関係を楽しむ、コージー・ミステリー

オーストラリア発の人気シリーズ第3弾。野外上映会で起きた殺人事件捜査に、おせっかいなメンバーたちが絡んでいくおなじみの謎解きミステリーである。
クリスティ原作「地中海殺人事件」の野外上映会に参加したマーダー・ミステリ・ブッククラブ会員の目の前で、若い女性の絞殺死体が発見された。こんな大事件を直接目にしては、黙って見過ごすことができないメンバーたちは、警察の捜査に満足できず、警察に嫌がられながらもどんどん調査を進め…。
素人探偵集団が警察の鼻をあかす、いつものパターン。犯行の動機、手段、謎解きにひと工夫があり、退屈しない。だが、本格謎解きというよりは登場人物たちの人間ドラマを楽しむ方に重点が置かれている。挿入されるエピソードや会話もコメディ色が強く、サスペンス・ミステリーではない。オーストラリアの夏の風物詩という野外上映会の雰囲気は面白かった。
シリーズ愛読者の期待を裏切らない仕上がりで、コージー・ミステリーのファンにもオススメできる。
野外上映会の殺人: マーダー・ミステリ・ブッククラブ (創元推理文庫)
No.1433: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「難解」の一言

現代アメリカ文学の巨匠の1985年の作品。本国では20世紀後半のアメリカ文学屈指の傑作と呼ばれるピカレスク小説であり、骨太のロードノベルである。
19世紀半ばのテキサス、メキシコを舞台に、14歳で家出した少年が放浪の末に、インディアンを虐殺し頭皮を剥いで金を稼ぐ荒くれ者たちの私設軍に加わり非道な日々を送るのがメイン・ストーリー。繰り返されるエピソードは正視に耐えない、残虐なもので、それを思想化する登場人物たちの思考、言動は常軌を逸したものとしか言いようがない。
ページ数は430ページほどだが隠喩や思考の飛躍が複雑で、ちゃんと付いていけてるのか自信がなくなり、読み通すのがハードだった。
自分の読書力では評価できず、従ってどなたにオススメできるのか分からない。
ブラッド・メリディアン
No.1432: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

とんでもない話なのに、妙にリアルで面白い!

2019〜20年に雑誌連載された長編小説。猟奇殺人犯と同姓同名だっただけで社会的に不遇な目に遭わされた者同士で被害者の会を設立し、謂れのない汚名を雪ぐべく活動する、今風の社会派ミステリーである。
幼い少女を滅多刺しにした殺人犯は16歳だったため少年法に護られて名前も顔写真も隠されていた。ところが週刊誌が実名「大山正紀」を報道したことで、それまで平穏に暮らしていた大山政紀たちは様々な騒動に巻き込まれることになった。罵詈雑言、謂れのない誹謗中傷を浴びせられ、就職や進学にも悪影響が及んだ。たまりかねた一人がネットに「大山正紀被害者の会」を立ち上げ、オフ会を開催した。集まったのは様々な属性だが、殺人犯と同姓同名というだけで辛い思いをしてきた人ばかり。話が盛り上がり、現実の大山正紀を探し出そうという結論に達した…。
素人探偵たちがネットを中心に人物を探し出すという展開は、最近よく目にするが、本作は同姓同名をキーワードにネット社会の脆弱さや悪意、不気味さ、無責任を赤裸々らに描いていて、そこが今の時代ならではのサスペンスを感じさせる。正直、嫌悪感を抱くとともに怖いと思わされた。ストーリーは単純だが登場人物が全員・大山正紀なので、混乱するかと思ったがうまく書き分けられている。起承転結、伏線も上手い。
ネットの特性を上手く使ったエンタメ作品であり、どなたにもオススメできる。
同姓同名 (幻冬舎文庫)
下村敦史同姓同名 についてのレビュー
No.1431:
(8pt)

冤罪追及に家族、父子の思いを絡めた構成で成功

デビュー2年後、2016年の書き下ろし長編。実の父が21年前に起きた殺人事件で死刑判決を受けていることを知った大学生が、冤罪の可能性を信じて警察・司法に挑む謎解きミステリーである。
大学生の石黒洋平は母の遺品の写真から、「現職検察官が死刑判決を受けた殺人事件」の犯人・赤嶺信勝が実の父親であることを知り驚愕する。自分の血が汚れていることに苦悩する洋平は一縷の望みを賭け、冤罪を追求する雑誌編集者の夏木涼子を訪ね協力して真相を探り始めた。しかし、赤嶺は頑なに冤罪を否定し続けた。さらに、離婚して別居中の育ての父も余計なことはするなと忠告する…。
日本の警察・司法がいかに冤罪を生み出しやすいかを、著者はこれでもかと指摘する。そして、洋平は真実に近付くほど実の父と育ての父、大切なのは血か絆かで揺れ動く。冤罪をテーマに単純に警察・司法を非難するだけでない、人情と倫理のドラマにしたことで本作は読み応えがある。
我々の思い込みに警鐘を鳴らすミステリーでありながら理屈っぽくないエンタメ作品として、どなたにもオススメしたい。
真実の檻 (角川文庫)
下村敦史真実の檻 についてのレビュー
No.1430:
(7pt)

着眼点は新しいが、中身はそれほどでもないかな

「被害者支援課」を受けた新シリーズ「総合支援課」の第1作。若い女性刑事が新たな業務に戸惑いながらも奮闘する警察小説である。
加害者家族をも支援するために従来の「支援課」から改組された「総合支援課」に配属された柿谷晶。最初の任務となったのが名門高校生同士の殺人事件で、加害者の父親と弟をケアするために所轄署を訪れると案の定、迷惑がられた。そんなことにはめげない熱血漢の柿谷はぐいぐい捜査に介入し、事件の真相を明らかにしていく…。
加害者家族の支援という、警察というより弁護士的な業務の難しさが読みどころ。さらに被害者、加害者、捜査陣の板挟みになりながら指揮命令系統を無視して突っ走るヒロインの熱さがセールスポイントか。言ってみれば池井戸潤のビジネス小説の警察版である。しかし、このヒロイン、同僚だったらかなりウザい(笑)
池井戸潤のファン、堂場瞬一のファンにオススメする。
誤ちの絆 警視庁総合支援課 (講談社文庫)
堂場瞬一誤ちの絆 警視庁総合支援課 についてのレビュー
No.1429:
(7pt)

「ジェフリー・ディーヴァー絶賛」の売り文句が空々しい。

2024年のエドガー賞ノミネート作品。日本初登場だが、アメリカではすでに3作が刊行されている人気シリーズの第1作である。
2022年、ミネソタ州の森の中で、1980年に起きた3人の少女失踪事件の当事者のひとりが生き埋めで殺された。42年も前の事件の被害者が、なぜ今になって殺されたのか? 被害者が42年前の事件の少女が身に付けていたネックレスを持っていたため、未解決事件捜査課が担当することになり、女性刑事・ヴァンがリーダーとなった。思い込みが激しく、ややもすると空回りしがちなヴァンをサポートするのが沈着冷静で辣腕の科学捜査官・ハリーで、二人は危ういバランスを保ちながら徐々に真相に迫っていく…。
何十年も前の事件と現在の事件が絡み合い、元気過ぎる若い女性刑事と冷静なベテラン男性刑事がコンビで活躍するという、既視感たっぷりの物語。ヒロインがイジメに合って警察を辞めたというのが目新しい。しかし、複雑な過去を持つヴァンが現実を写した悪夢を見て、それが解決に直結するというのがなんとも気恥ずかしい。サイコ・ミステリーかと思ったら、ホラー・ファンタジーな物語だった。
時間の無駄とは言わないが、「ジェフリー・ディーヴァー絶賛」には気を付けた方がいい。
怪物の森:未解決事件捜査官ヴァン・リード
No.1428:
(7pt)

都会のエリート男と地元の新人女性刑事のバディもの

スウェーデンの人気ミステリー作家が有名コメディアンと組んだシリーズ作品の第1作。風光明媚な田舎町で起きた殺人事件をストックホルムのエリート捜査官と地元の新人女性警官が解決するバディもの警察ミステリーである。
国家殺人班の敏腕捜査官・ヴィンストンが病気療養を兼ねて、離婚した元妻と暮らす娘の誕生日に招待されスウェーデン南部の田舎町を訪れる。体調不良を回復させるため仕事から離れるように厳命されていたのだが、不動産ブローカーの女性が死体で発見された現場に出会し、捜査に協力することになった。事件を担当するのは地元の駆け出しの女性刑事・トーヴェで、意欲はあるのだが実力が伴わない。必然的にヴィンストンがリードすることになり、トーヴェは面白くない。あれやこれやと衝突しながらも多少は理解し合い、事件の解決に向けて力を合わせていく…。
都会のエリート男と田舎の元気娘という、ありがちなバディ物語。ストーリー展開も分かりやすく、スウェーデンの田舎町の風俗も面白く、サスペンスはないが退屈しないで読める。
バディもの、北欧警察ミステリーのファンなら楽しめること間違いなし。
死が内覧にやってくる (創元推理文庫)
No.1427:
(7pt)

前作の方が面白かったぞ。

新競馬シリーズの邦訳第2作(英語版では第8作)。競馬の聖地・ニューマーケットで起きた厩舎火災の調査に派遣された危機管理コンサルタントが、高名な調教師一家の秘密を暴く犯人探しミステリーである。
弁護士で危機管理会社スタッフのハリイはダービーの本命視されていた馬を含む7頭が焼死した火事の原因を調査するために、火事が起きた厩舎に派遣された。厩舎を管理する名調教師と名高いオリヴァー一族に接触すると、家族間に深刻な諍いがあるようだった。程なく、焼け跡から人間の死体も発見され事態は殺人事件へと変わっていった。犠牲になったのは一家の末娘で少女の頃から問題児だったゾーイのものと判明。薬をやっていたゾーイが火を放って自殺したのではとの見方も出てきたが、ハリイは事件の背後に複雑な人間関係があると推察した…。
舞台は競馬の聖地、登場人物は競馬関係者だが物語の骨格は犯人探しミステリーである。主人公の調査の進め方、犯行動機の論理性などは英国ミステリーの伝統を受け継ぎ、安定感がある。ただ、物語の深み、読書の楽しみの面では前作「覚悟」に及ばない。というか、前作が傑作すぎたのかもしれない。
新旧の競馬シリーズの愛読者には絶対のオススメ、本作から手に取る人も従分に楽しめる謎解きミステリーとしてオススメする。
虎口 (文春文庫)
フェリックス・フランシス虎口 についてのレビュー
No.1426: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

常識の盲点を突く展開で読ませる、大逆転法廷ミステリー

2024〜25年に小説誌に連載された長編ミステリー。全盲女性が被告となった裁判を巡る逆転ドラマである。
中途障害者の社会復帰をサポートする施設で真夜中に施設長・荒瀬が刺殺された現場にいたのは、ナイフを手にした全盲女性・美波だった。美波の供述によると、荒瀬から夜中12時に一人で視聴覚室に来るように言われ、室に入った途端に襲われて思わず突き飛ばしたところ荒瀬が動かなくなったという。しかし、美波の衣類は血塗れでポケットにはナイフが入っていた。荒瀬には職員や入所者にセクハラをしているという噂があり、夜中に呼び出された美波が護身用に携帯したナイフで反逆したという事件の構図を、警察も関係者も描いていた。しかし美波は、絶対にやっていないと訴える。圧倒的に不利な状況の美波を信じた弁護士・竜ヶ崎は事件の構図を逆転すべく四苦八苦するのだが…。
大逆転の仕掛けは、これまで何度も目にしたもので「超絶どんでん返し」という帯の文句は煽り過ぎだが、そこまでの展開がスリリングで面白い。特に、全盲の被告、聴力を失った証言者、失語症の少女が立つ法廷という設定がユニークで効果的。読んで損はなし。
法廷ミステリーのファンならどなたでも楽しめる傑作としてオススメする。
暗闇法廷
下村敦史暗闇法廷 についてのレビュー
No.1425: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ヒロインのキャラに共感できないため、低評価

本邦初訳となるイギリス人作家の警察ミステリー。英国ではすでに6作が出ている人気シリーズ「アレックス・キューピディ」シリーズの第5作である。
捜査活動が原因のPTSDと診断され、海辺の観光地・ダンジェネスで休職中の刑事・アレックスは居合わせた同性婚女性の結婚披露パーティーで、花嫁に「人殺し!」と叫びながらを襲おうとした中年女性を阻止した。その女性は花嫁・ティナの元夫の母親で、7年前に行方不明になった息子はティナに殺されたのだと主張していた。同じ日、町では引退した実業家夫婦の惨殺死体が発見された。警察上層部からは「カウンセリングを受け、治療に専念するように」と厳命されていたアレックスだが二つの事件に興味を惹かれ、迷惑がられながら捜査に口出しし始める…。
7年前の失踪と現在の二つの死体の間に、何があるのか? 聞き込みと推理で謎を解く警察(休職中だが)ミステリーの基本に忠実なストーリー、個性的な登場人物、風光明媚な海辺の町が読者を飽きさせない。しかし、ヒロインと周辺人物の人間関係にかなりの重点が置かれている作風なのに、前4作の内容が分からないため、読んでいてもどかしい。アレックスの猪突猛進も共感しにくい。
いかにもな英国警察ミステリーであり、読んで損はないと消極的にオススメする。
罪の水際 (新潮文庫 シ 45-1)
ウィリアム・ショー罪の水際 についてのレビュー
No.1424:
(8pt)

ジョーとネイトにまた「最大の危機」

もう説明の要もないジョー・ピケット・シリーズの第19作。帯には「ジョーとネイトにシリーズ最大の危機迫る!」とあり、何度目の最大の危機かと思うが(笑)、アクションもサスペンスも期待を裏切らない傑作である。
隣の管区の猟区管理官・ケイトリンから「ドローンで鹿の群れを追いかけて死に至らしめている奴がいる」と連絡を受けたジョーが調査し、ドローンの主を突き止めたのだが、何故かFBIが登場し、調査を止めるよう圧力を掛けられた。同じ頃、ネイトはアリゾナナンバーの車で街にやってきた不審なヒスパニック4人組を目にし、不穏な予感を感じ取った…。
職務への忠誠と倫理に生きる男・ジョーがFBIを相手に一歩も引かず、さらに冷酷非情な暗殺者チームと正面からぶつかるというハードな展開。そこへ三女・ルーシーの高校卒業、ボーイフレンドとの関係、ネイトの結婚とパートナーの妊娠も絡んできてハラハラドキドキ、最後まで飽きさせない。
シリーズの大きな転換点になりそうな幕切れが待っており、ジョー一家のファンは必読! とオススメする。
群狼 (創元推理文庫)
C・J・ボックス群狼 についてのレビュー
No.1423:
(7pt)

悪事のスケールが大き過ぎて、現実感ゼロ

よくもまあ、これだけ書き続けられるものだと感心する「イブ&ローク」シリーズの第56作。殺人の謎、人身売買組織の摘発をメインに据えたロマンス・ミステリーである。
N.Y.の寂れた街角で13歳の美少女の死体が発見された。一見、強盗のように見えたのだが、イブはそれを偽装と見破る。清純な仕立ての制服、それとは真逆のセクシーな下着、いずれもきわめて高価な特注品のようだった。わずかな手がかりを追うイブの捜査チームと、陰に陽にそれを助けるロークは執念の捜査で未成年の少女たちを飼育する「アカデミー」の存在を発見する。
巧妙に姿を隠す巨大な社会悪を暴く警察という謎解きミステリーの骨格を保ちつつ、窮地に陥ったヒロインが必ず大富豪の王子に助けられるロマンスの王道の展開。これを受容できるか否かで評価は真っ二つになるだろう。
シリーズ愛読者にオススメする。
232番目の少女 イヴ&ローク56 (mirabooks)
J・D・ロブ232番目の少女 イヴ&ローク56 についてのレビュー
No.1422:
(7pt)

今回もまた、不可解な世界に連れて行かれた

妻が夫を金槌で殴殺するという、いかにもミステリーな始まりだが、終わってみればいつもの伊坂幸太郎魔術に惑わされた感じ。
伊坂ファンにならオススメ。
さよならジャバウォック
伊坂幸太郎さよならジャバウォック についてのレビュー
No.1421: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

最後のひと捻りまで面白い!

グリーンランドの氷の下にミサイル基地を建設しようとしたアメリカの秘密計画に想を取った、謎解きミステリー。極限の地の氷の下の事件を精神科医が解明していくというユニークな設定だが、物語の基本構成はわかりやすく、専門用語も少なくて読みやすい。
1967年末、米陸軍グリーンランドの秘密基地からの撤退作業が始まったのだが、猛烈な嵐で3人が取り残された。救助が来ないうちに極夜、極寒の基地内で火災が発生、二人が焼死し一人が全身大火傷を負って入院した。N.Y.の精神科医ジャックはCIAの依頼で、入院中の兵士コナーから火災の経緯、二人の死亡状況の聞き取り調査を始めたのだが、コナーはほとんどの質問に覚えていないと繰り返すばかりだった。コナーが何かを隠していると感じたジャックは関係者を訪ね歩き、徹底的に調査しようとした。すると、何者かがジャックの身辺を嗅ぎ回り、調査を妨害し始めた…。
舞台が秘密基地とあってスパイ疑惑やCIAが絡んでくるし、密室での出来事を生存者の言葉と推理だけで解明しようという厄介な事態だが、粘り強く、抜群の行動力で調査を進めるジャックの活躍が圧倒的。さらに、スピーディーに二転三転するストーリー展開、魅力的な個性の脇役たちがどんどんページを進めて行く。そして、最後のひと捻りはミステリー好きならある程度は想像が付くのだが、それでも効果的。
犯人探しの本格謎解きではないが、多くのミステリーファンを満足させる傑作である。
極夜の灰 (創元推理文庫)
サイモン・モックラー極夜の灰 についてのレビュー