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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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アメリカでは2005年に刊行された「泥棒ドートマンダー」シリーズの第12作。不運の犯罪プランナー・ドートマンダーと仲間たちが、大富豪の留守宅から秘蔵の美術品を盗み出すコミカルな怪盗物語である。
故買屋・アーニーから持ち込まれた話は、「もう数年に渡ってカリブ海の地中海クラブで逃避生活を送っている大富豪・フェアウェザーのN.Y.のペントハウスには高価な美術品などがある。それを盗み出せば売却金額の70%を渡す」というものだった。乗り気になったドートマンダーは早速、いつもの仲間に声をかけ、アジトにしている酒場の奥の部屋を使おうとしたのだが、部屋の前には人相の悪い二人組が居て部屋を使えなかった。よくよく話を聞くと、代替わりした新しいオーナーが無能でマフィアの関係者に乗っ取られそうになっているようだった。そこでドートマンダーたちは、窃盗の前にアジトを取り返すことにした。同じころ地中海クラブではフェアウェザーが誘拐されたのだが、すんでのところで脱出し、ペントハウスへ戻ることにした。かくして、ドートマンダーたちは侵入した無人のはずの邸宅で、フェアウェザーと鉢合わせることになった…。 怪盗たちの立案と実行、被害者の能天気な言動が絡み合うスラップスティックが読み進めるほどにじわじわと効いてくる。派手ではないし、深みのある話でもないが、その分、罪もない。暇つぶしには最適な気軽なエンタメ犯罪小説としておススメしたい。 |
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本屋大賞作家の初のサスペンス巨編!って売り文句はちょっと強引。ヒューマン・ストーリーとしては良くできている作品なので、いじめの加害と被害に焦点を絞った方が良かったと思う。
山で身元不明の老人の死体が発見されるオープニングはミステリーだが、真相を解明するプロセスがミステリーとしてはシンプル過ぎる(偶然の重なりで謎が解かれていくので緊張感がない)。エンディングのエピソードもミステリーやサスペンスではなく、人間の気付きのお話でしかない。 繰り返すが、ヒューマン・ストーリーとしては良くできており、オススメしたい。 |
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デビュー作にして2023年度エドガー賞最優秀新人賞を受賞した、本格スパイ小説。激動期の中東でCIAケースオフィサーとして勤務した著者が、その体験をベースに書き上げた、リアリティ豊かなスパイ・サスペンスである。
バーレーンのCIA支局員・シェーンは、自分の息子とさして歳の違わない上司にうんざりしながら適度に仕事をこなし、酒浸りで年金を貰える日を待っていた。それでも、唯一の情報提供者との接触の中でバーレーン反政府派の気になる動きを察知し、探りを入れると、首都の中心部で起きた爆弾事件が政府による自作自演ではないかと思い始めた。さらに、偶然知り合った女性アーティストとの交際を深めることで、政府の陰謀であると確信し、その情報を本部に報告した。すると、シェーンの過度の飲酒、不適切な女性関係を理由にした退職通知が返ってきた。納得がいかないシェーンはCIA、米軍、バーレーン政府、アラブの春に感化された民衆が複雑に絡み合う騒乱のバーレーンで、真相解明のために奮闘する…。 知識が乏しい中東でも特に複雑な歴史を持つバーレーン王国が舞台で、それだけでも興味深い物語だが、さらにアラブの春という激動期の話であり、誰が誰を騙してるのか、どこに正義があるのか、最後まで先が読めないストーリーである。つまり、極めてリアルで緊迫感があるスパイ小説で、派手なアクションはなくても最後までサスペンスが味わえる、冷戦時代のスパイ小説の血統を受け継いだ作品と言える。 ル・カレ、グレアム・グリーンの世界を現代に甦らせた傑作として、本格スパイ小説のファンにオススメする。 |
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カナダ在住のオーストラリア人作家のミステリー分野へのデビュー作。若くして夫を亡くした3人が互いに支え合い、男社会に異議申し立てするサスペンス・ミステリーである。
メルボルンに暮らす3人の若い女性、夫を亡くしたという共通点でつながり、毎週集まって親交を深めてきた。今では家族同様に付き合っているのだが、それぞれ周りには知られたくない秘密を抱えていた。そこに夫を亡くしたばかりの若いハンナが加わった頃から3人の周りで不審な出来事が起きるようになり…。 主要な女性登場人物4人が、それぞれが抱える秘密に悩みながも強固なシスターフッドで結ばれ、女性差別に抗って自立を目指すストーリーは多少リアリティに欠けるもののかなりインパクトがある。境遇も性格も異なる4人のエピソードが徐々に明かされ、意表を突く展開を見せる構成も見事。 鬼畜系ではなく、イヤミスでもないサイコ・サスペンス系ミステリーのファンにオススメする。 |
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2022年から23年にかけて毎日新聞に連載された長編小説。叔父を殺害したとして起訴された青年が、裁判を通じて自分の父の冤罪をすすぐという法廷系ミステリーである。
母子家庭になった自分を親身になってサポートしてくれた大恩のある叔父を殺害したとして起訴された日高英之。才気煥発で真面目に働いていた青年がなぜ、そんな人道に反する罪を犯したのか。しかも、日高は頑強に否認し、裁判でも徹底して無実を訴え警察、検察と争った。というのも、日高には15年前に無実を訴えながら老女殺害の罪で服役し、死亡した父の無念を晴らすという秘めた目的があったからである。自らを有罪判決の危険に晒しながら権力の犯罪に立ち向かう日高の捨て身の闘争は実を結ぶだろうか…。 何度となく逆転無罪を生み出しながら何の反省も見られない警察、検察に対する怒りが根底にあり、ただしそれをストレートに出すのではなく、二転三転する裁判劇でエンタメ化したところが読みどころ。欲を言えば、同じようなエピソード、セリフが何度か繰り返されるところがなければ、もっとスピーディーで読み応えがあっただろう。 帯には「リアルホラー」とあるが、決してホラーではない。力が入った法廷劇としてオススメする。 |
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このところ邦訳が順調に刊行され、日本でも徐々に人気が高まってきたコーベンの最新作。我が息子を殺した罪で服役中の男が、息子が生きているのではないかという証拠写真を見せられ、脱獄して息子を取り返すアクション・サスペンスである。
3歳の息子・マシュウが自宅で殺害され、父親・デイヴィッドが逮捕された。自分はやってないのだが「マシュウを守れなかった」責任を痛感するデイヴィッドは、あえて無実を主張することなく終身刑で服役していた。5年が経過した頃、離婚した妻の妹・レイチェルが面会に訪れ、マシュウらしき子供が映った写真を見せられる。「マシュウは生きている」と確信したデイヴィッドは家族同然に付き合ってきた刑務所長の助けも借りて脱獄し、マシュウの存在と事件の背景を解明しようとする。警察やFBIの厳しい追及を避けながら、決死の思いで徒手空拳の挑戦を続けたデイヴィッドがたどり着いたのは、思いもよらない策謀と裏切りの物語だった。 死んだはずの息子が生きている、その可能性だけで父親はここまで危険な道を進むのか、という熱いストーリー。デイヴィッドの一途さに圧倒される反面、事件の背景や動機、ストーリー展開エピソードが軽薄で、最後まで物語に没頭できなかったのが残念。ネットフリックスでドラマ化決定したようで、確かに映像化されると良さそう。 孤軍奮闘するヒーローもののファンにオススメする。 |
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1986年から2022年まで、さまざまな媒体に掲載された身辺雑記集。子どもの頃の思い出からギャンブル、交遊、自作の解説までバラエティに富んだ内容で、短いながら随所に黒川博行ワールドの成り立ちがうかがえる。黒川ファンにオススメ。
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イギリス女性作家のデビュー作。お金に不自由なく暮らしている29歳の人気インスタグラマーが実は非道な男たちに復讐する殺人者だったという、ダークでユーモラスな風俗小説である。
ロンドンの高級住宅地から優雅な独身生活を発信し、フォロワー数百万人という人気インスタグラマーのキティ・コリンズ。同じような境遇の仲間との贅沢な日々をネットに上げ、いいねの数を誇るだけの馬鹿女のように見えるのだが、実は女性に暴力を振るう男たちが許せず、様々な手段で殺害していく凄腕の殺し屋でもある。という、何とも凄まじいヒロインがユニークで、これまでにないユーモラスでノワールな作品として異彩を放っている。 殺す相手が一人、二人ならダークなミステリーになるのだが、次から次へと殺していくことで愉快な物語に変化し、読後感は悪くない。 ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。 |
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著者お得意のお金を巡る悲喜こもごもの物語6話。第1話で専業主婦が爪に火を灯して貯めたへそくりで買ったルイ・ヴィトンの財布を次々に手にした、30代後半、就職氷河期世代の登場人物が繰り広げる、ちょっとリアルでユーモラスで悲しいエンタメ作品である。
主題となるのはマネーリテラシー、主婦や安サラリーマン向けの節約雑誌、蓄財雑誌に常に取り上げられている情報だが、原田ひ香のストーリー構成の上手さで楽しめる作品になっている。 デフレを脱却しないうちにインフレに襲われている今の日本をあらわにした作品と言える。 |
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ロンドン生まれ、西オーストラリア育ちの英国人新進女性作家の初邦訳作品。二人の少女が殺した男の死体を捨て、車を奪ってオーストラリアのハイウェイを北へ、北へと逃走する、熱量が高いロード・ノベルであり、バディ・ノワールである。
高校を退学したばかりの白人・チャーリーは姉の恋人・ダリルが見せびらかした金の延棒を盗んだことから争いとなり、はずみでダリルを殺害してしまう。たまたまその場に居合わせた、先住民の血を引く大学生・ナオはなぜか警察に通報するのを嫌がり、死体を隠して逃走することを提案する。二人はダリルの車を奪い、死体を湖に捨て、西オーストラリアのハイウェイを北へ向かって走り出す。チャーリーは警察から逃げようとしたのだが、ナオが共犯者となったのは何故か? しかも、奪った車には10kgの金の延棒が隠されており、二人は正体不明の何者かに追跡されることになる。それぞれに隠し事があり、性格が正反対の二人はことあるごとに対立し、怒りをぶつけ合いながら見えないゴールを目指して行く…。 古典的名画「テルマ&ルイーズ」の流れを汲む女性バディのロード・ノベルで、ただただ逃げる二人のひたすらな熱情が豊かな物語を生んでいる。さらに全編に、二人がそれぞれに持つ、ヒリヒリした怒りが溢れ出し、最後まで緩みのないサスペンスが強いインパクトを残す。 文句なしのオススメ作品だ。 |
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1954年に発刊された時の原題は「Black Friday」だがルネ・クレマン監督で映画化されたため、映画と同じタイトルが付けられたというノワール・サスペンス。警察に追われて逃げてきたフィラデルフィアで殺人の現場に遭遇し、犯人たちに捕まってアジトに連れ込まれた青年・ハートが犯人たちの強盗計画に加わるという巻き込まれ型だが、ハート自身も犯罪者であり善悪を問う物語ではない。寒風吹き荒ぶ街で倫理観なく漂うギャングたちのハードボイルドな関係がメインだが、いかんせん70年も前の話で時代のズレが隠しようもなく、ちょっと退屈。
映画を観た方が原作との対比を楽しみたいならオススメする。 |
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特異すぎる主人公のキャラ設定だけで読みたくなる、韓国発のノワール・エンタメ作品。1013年の発表当時はさほど話題にならなかったものが、SNSでじわじわ人気が高まり、2018年に改訂版を刊行、以後海外でも翻訳が相次ぎ、韓国では映画化されたという。
本作の魅力の第一は65歳の小柄で平凡な老女が凄腕の殺し屋だという、常識を突き破った主人公像にある。依頼された殺しは迅速に、手際よくこなし、しかも心理的な葛藤とは無縁のプロフェッショナルとして45年のキャリアを積み重ねてきた爪角(チョガク)だが、寄る年波には抗えず、体力はもちろん気力も衰え始めていた。捨て犬を拾い、トラブルに遭った老人を助け、ターゲットや家族の苦しみに心が揺れ始めたのだ。そんな時、同じエージェンシーに属する若き殺し屋・トゥが、なぜか爪角に突っかかり、挑発を止めようとしなかった。トゥは何を狙っているのか、確信がないまま爪角はトゥと最後の死闘を繰り広げることになる…。 訳者あとがきによると作者は「文章に関して心に決めているうちの一つは、〈読みやすくしない〉ことだ」というだけあって、リーダビリティは決してよくないが我慢して読み通せば、十分に報われる深い読後感を味わえる。 ノワール小説ではあるが、女性、老化などさまざまな問題に気づかされる傑作として、幅広いジャンルの読者にオススメしたい。 |
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現代最高の警察小説「ハリー・ボッシュ」シリーズから離れ、刑事弁護士を主役にした「リンカーン弁護士」シリーズの第1作。著者初のリーガルものだが、さすがの完成度。登場人物のキャラクター、サスペンスに満ちたストーリー、緻密な取材と思考に裏付けられた優れた社会性など全てを備えた傑作エンターテイメント作である。
事務所を持たず、運転手付きリンカーン・タウンカーの後部座席で仕事をこなす刑事弁護士のミッキー・ハラー。元妻を秘書に細々とした仕事を拾って稼いでいたのだが、超高級住宅仲介業者の息子が婦女暴行で逮捕された案件が転がり込んできた。かなりの大金を約束される仕事とあってハラーは張り切るのだが、うまい話には裏があり、ハラーは弁護士生命のみならず愛する家族(元妻と一人娘)の命まで危険に晒すことになる…。 主人公の地位、振る舞い、考え方が飛び抜けてユニークで、ハリー・ボッシュとは異なるキャラクターが生き生きしている。さらに二転三転するストーリーはサスペンスに満ち最後まで予断を許さない。また、アメリカの法廷のルールを徹底的に研究したエピソードも日本人にはたまらなく面白い。 リーガル・サスペンスの枠を軽々と越えた傑作であり、コナリー・ファンはもちろん、どなたにもオススメしたい。 |
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脚本家として経験を積み重ねてきた英国作家の小説第1作。2023年のCWAスティール・ダガー賞受賞作にふさわしいアクション・サスペンスである。
これまでナンバーワンとされて来た16が突然姿を消したため、現役では世界トップクラスの殺し屋になった17。ベルリンでいつも通りの仕事を終えたところに、ハンドラーから新たな指示を受け、何とか任務を果たしたのだが、いつもと違う仕事の内容に違和感を抱いた。さらに、次にハンドラーに会った時に提示されたのは、伝説の男・16の暗殺だった。簡単に殺せる相手ではない。躊躇する17だったが、ここで引き受けないと、業界内で17が弱気になっていると言われ、今度は18を狙う殺し屋に命を狙われることになる…。 ということで、最初から最後まで凄腕の殺し屋同士が死闘を繰り広げるシンプルな物語である。背景にはスパイ陰謀らしきもの、人格形成に影を落とした家族の物語の側面も見られるのだが、それはあくまで舞台背景で、本筋は徹底したアクション・サスペンスである。 冒険活劇、殺し屋もの、ハードボイルドのファンにオススメする。 |
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韓国文芸界の第一線で活躍するジャーナリスト出身の文芸作家の初の警察ミステリー。22年前の未解決事件捜査をテーマに現代社会の歪みと倫理と道徳を冷徹に見つめた社会派ミステリーである。
ソウル警察庁の新米刑事・ジヘはチーム班長から22年前の女子大生殺害事件が未解決のままであり、再捜査してみる気があるかを問われる。被害者のマンションの防犯カメラには犯人らしき男の画像が残され、遺体からはDNAも検出されたのに、なぜ犯人は見つからないのか。班長、先輩刑事と共に再捜査を始めたジヘは22年前の関係者を地道に訪ね歩くのだが、眼を引く美貌、奔放な性格、経済的な豊かさを備えていた被害者・ソリムの周りには数え切れないほどの怪しい人物がいた…。 刑事・ジヘの捜査と交互に語られるのが、ドストエフスキーに感化された犯人の人間と殺人に対する哲学で、その対比がスリリング。派手なアクションはないが、じわじわと盛り上がるサスペンスはリアリティがある。韓国の警察組織と刑事が抱える悩みは、現在の日本と通じるものがあり、その点でも興味深い。また、随所に挿入されるユーモラスなエピソードも良い味付けとなっている。 重いテーマをスリリングに軽やかに仕上げた、傑作警察小説として、多くの方にオススメしたい。 |
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快調に刊行されている「ワニ町シリーズ」の第8作。今回は町の女性が被害に遭ったネットのロマンス詐欺をめぐって、いつもの3人が大暴れするお馴染みの安定したアクション・コメディーである。
独身中年女性がロマンス詐欺で大金を失ったことを耳にした3人組、保安官助手・カーターに釘を刺されたのは無視して犯人探しをスタート。犯人を誘き出す囮作戦を始めたのだが、途中で町一番の善人と言われる女性が殺害される事件が起きた。単純な強盗事件のようにも見えたのだが3人が真相を探って行くと、どうやらロマンス詐欺に関係があるようだった…。 まあ、いつもの調子のドタバタ・アクションで最後はびっくりする真相に辿り着くのだが、これまでの流れとはちょとだけ異なるのはフォーチュンが自分の仕事や生き方に疑問を持ち始めたこと。常に偽りの生活を続けるのに疲れたのか、これまでとは違う生き方を考えるようになる。その意味ではシリーズの転回点になる作品である。本国・アメリカではすでに28作まで出ている人気シリーズだが、本作がチェンジ・オブ・ペースになるのか興味深い。 シリーズファンには必読、シリーズ未読でも軽く読めるユーモア・サスペンスとしてオススメする。 |
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「プロフェッサー」シリーズ、「ボー・ヘインズ」シリーズに続く新シリーズの第一作。殺人の犯人とされた姉を救うために36歳の民事専門弁護士・リッチが初めての刑事裁判に挑戦するリーガル・サスペンスである。
ハイウェイ沿いに顔写真入りの看板を並べ立て「看板(ビルボード)弁護士」と揶揄されるジェイソン・リッチ。高収入を得ながらアルコール依存症に苦しみ、所属する法曹協会からリハビリ施設に強制入院させられた。90日間の入院を終えて退院した直後、しばらく疎遠だった姉・ジャナから「夫殺害の容疑をかけられている。弁護してもらいたい」という電話が来た。民事での示談が専門で法廷に立った経験もないリッチだったが、いきなり両親を失うことになりそうな二人の姪を思うと弁護を引き受けるしかなかった。状況証拠や関係者の証言は圧倒的に姉に不利でリッチ自身もジャナを信じきれなかったのだが、それでも事務所仲間たちの助けを借り、事件の真相を明らかにしていくのだった…。 圧倒的に不利な状況から逆転無罪を勝ち取るというR.ベイリーお得意の展開になるのだが、これまでの作品とは違って主人公の弁護士が人格高潔、信念強固ではなく、ちょっと頼りない。その分、リーガル・サスペンスの要素が強められ、より読みやすくエンタメ性が強い作品と言える。 「プロフェッサー」、「ボー・ヘインズ」のファンはもちろん、リーガルもののファンならきっと満足できる傑作としてオススメする。 |
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イギリス人ミステリー作家の日本デビュー作。香港警察の警部がニューヨーク警察の依頼でニューヨークのアイリッシュ・マフィアに潜入捜査する、複雑系?ノワールである。
1995年、香港の中国返還を前にN.Y.に拠点を移そうとする香港マフィア・三合会は、N.Y.のチャイナタウンの中国人互助組織・協勝堂と手を組み、密輸したヘロインをアイリッシュ・マフィアに捌かせる計画を進めていた。それを阻止すべくN.Y.P.D.とDEAはアイリッシュ・マフィアへの潜入捜査を立案して王立香港警察に依頼し、29歳のアイルランド系の警部・カラムが選ばれた。潜入捜査官の経験はないカラムだが、三合会の首領から命を狙われていたこともあり、香港からN.Y.へ渡った。アイルランドから来たばかりの移民に化けたカラムはアイリッシュ・マフィアの末端と親しくなり、首尾よく組織が経営する会社に職を得た。そこから情報収集を進めるために組織上層部に接近するのだが、そこに待っていたのは命を削る過酷な試練の連続だった…。 香港、ニューヨークを舞台に中国系、アイルランド系マフィアが複雑に混じり合い、さらに警察と麻薬取締局が絡んでくるので、ストーリーを追うのが一苦労。さらに潜入のストレスにさらされるカラムの感情の揺れが激しく、物語世界に没入するのに苦労した。ニューヨークの麻薬密売組織の実態は知らないが、描写には極めてリアリティがあり、展開もスリリングである。 ノワールのファンにオススメする。 |
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「ウィル・トレント」シリーズの第14作。念願のサラとの結婚式を終え、新婚旅行で隔絶された山奥の高級ロッジを訪れたウィルが殺人に遭遇する、密室ミステリー風味の謎解きサスペンスである。
ウィルがサラのために新婚旅行先に選んだのは徒歩で2時間以上かけないと辿り着かず、ネットも携帯電話も通じない山奥にある高級リゾートロッジだった。その初日、甘い夜を過ごしていたウィルとサラだったが、夢をぶち壊す殺人事件に出会ってしまう。めった刺しにされた被害者はロッジのオーナー一族の娘でマネジャーのマーシーで、犯人はここに暮らす一族か今夜の宿泊客の中にいるはずだった。しかし、マーシーはロッジの経営を巡って一族の全員と対立しており、宿泊客も皆、何らかの秘密を隠しているようだった。密室でしかも誰も信用できない事態に苦心しながらウィルはサラの助けも借りて犯人を探すのだが、徐々に明らかになる事件の真相は、ウィルを打ちのめすものだった…。 クローズド環境で犯人を追及する密室ミステリーであり、新婚のウィルとサラが改めて家族、愛について思考を深めるヒューマン・ラブ・ストーリーでもある。ただ、その中身はカリン・スローターお得意の暗くて重い世界で、ロマンスの甘さはカケラもない。それでも最後に、わずかな救いは用意されていた。 カリン・スローター・ファンにオススメする。 |
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2021年10月、コロナ禍真っ最中に刊行された書き下ろし長編小説。爆弾テロ、監禁、誘拐などの物騒な事件が起き、他の人の明日が見える予知能力の人物が活躍し、作品中の小説の主役が現実社会に絡むという、ミステリー、サスペンス、SF、ファンタジーが渾然一体となったエンタメ作品である。
本作の読みどころはストーリー展開の面白さだけではなく、途中途中に挟まれる箴言や哲学談義、作者が得意な善悪、正義不正義の線引き、ちょっと残酷で乾いたユーモアにもある。つまり、ミステリーのようでミステリーではない、SFのようでSFではない、ファンタジーのようでファンタジーではない、いつもの伊坂幸太郎ワールドだ。 伊坂幸太郎ファンにオススメする。 |
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