黒い空
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友人の頼みを安請け合いしたことがきっかけで、殺人事件の当事者として巻き込まれてしまうシグルデュル=オーリ。私生活ではパートナーのベルクソラとの関係が破綻し、同窓パーティーでは成功した友人たちと自分を比較して不満を募らせる。 過去作において、彼は取り調べで横柄で尊大な態度を取りがちで、エーレンデュルのような内省的な深みを感じさせるキャラクターではなかったため、正直、本作にはあまり期待していなかった。 しかし本作では、夫婦交換パーティーをめぐる脅迫を背景とした殺人事件、アイスランド金融界での経済犯罪、そして生活破綻者アンドレスの壮絶な幼少期という、3つの異なるストーリーが語られるが、最終的にはそれらがキレイにまとめ上げられる構成力に圧倒された。 やるせなさを感じる物語の中に「悪は決して許さない」という著者の強いメッセージを感じる。 また、今まで犯罪者に対し同情など一切しなかったシグルデュル=オーリが、アンドレスとのやり取りを通して、次第に彼への慈しみを抱くようになる過程には強く共感した。 シグルデュル=オーリ自身も決して幸せとは言えない幼少期を過ごしており、その記憶がアンドレスの生い立ちとオーバーラップしたのかもしれない。 エーレンデュルが主人公の作品とはまた違ったトーンの、新鮮で読み応えのあるストーリーだった。 | ||||
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シリーズ前作「悪い男」を読んだのは、2024/1月。今回は或る文芸作品を読んでいる途中でしたが、シリーズの新しい翻訳と聞いて割り込ませました(笑)。一気読みでした。エーレンデュル捜査官シリーズの8作目だそうですが、本国でのリリースが2009年とありました。その時系列には、実は意味があります。 まず、今回もエーレンデュル捜査官は登場しません(笑)。本作の主人公は、レイキャヴィク警察犯罪捜査官、シグルデュル=オーリ。メインの事件は、スウィンガー・パーティーで撮影された写真を契機として、友人から個人的に依頼されたシグルデュル=オーリが或る殺人事件に巻き込まれ、捜査が開始されます。加えて、浮浪者・アンドレスによる不気味な革製のマスクをつけられた男の話が語られ、そのことが全体物語のアンダーカレントを流れ、揺蕩っていきます。私にはアイスランドを語る知識も教養も一切ありませんが、ここで描写される家族の機能不全、それが引き起こすアイデンティティの喪失、不安定さは特に国家に左右される問題ではありません。また、併せて今回はシグルデュル=オーリのドメスティックな日常が事細かに描写されています。そこにある等身大の生活の有り様もまた私たちの生活と何ら変わりがありません。アイスランドを生きる一人の人間のペーソスは、我が国のかつての松竹映画を見た時のような哀しみに彩られています。 そして、シグルデュル=オーリの一見独りよがりのように見える(粘り強い)行動の積み重ねが、事件の全貌を引き寄せてきます。作者の語り口はやはり見事だ。 最初に私は、"その時系列には、実は意味があります。"と書きましたが、この物語は2008年秋に起きた誰もが知る世界的な危機によるアイスランドへの影響へと収斂していきます。そのダイナミズムもまたとても興味深い。 27%あたり、シグルデュル=オーリは「何と言ってもアメリカだ」と言ってのけます。オーランドで解放され、アメリカ映画によっても解放され、映画は英語でなければならず、アイスランド語のテレビなど馬鹿馬鹿しいと思い、典型的なアメリカンロックとカントリーミュージックを喜んで聴くシグルデュル=オーリの姿は私自身の姿と何ら変わらない(笑)。 彼の生い立ちであったり、複雑な家庭環境であったり、別れた妻・ベルクソラへの思いなどが連綿と語られていき、等身大の一人の男の悲哀が体現化されているわけですが、彼にはなぜか、私とは異なる(笑)「高潔さ」が漂っています。その姿は、かつて学んだ米国<西海岸私立探偵小説>の主人公たちの姿によく似ていると思えます。 最後に、巻末の訳者による「あとがき」に書かれているアイスランドの現在について、とても興味深く読ませていただきました。いずれにせよ世界を覆う「黒い空」によって、このままでは一部の富裕層のための世界が出来上がりつつあるのかもしれません。 ◻︎「黒い空 エーレンデュル捜査官シリーズ」(アーナルデュル・インドリダソン 東京創元社) 2025/7/01。 | ||||
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