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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数538件
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インド生まれ、アメリカ育ちの女性内科医の手になる医療ミステリー。南北戦争後のフィラデルフィアを舞台に、女性医師のパイオニアが周囲の偏見、ミソジニーと戦いながら殺人事件の謎を解く社会派色の濃い、良質なエンタメ作品である。
設立まもない女子医学校を卒業し、臨床医として現場に出ると共に教壇にも立つリディア。女性は医師に相応しくないとの偏見や男性同僚からの見下し、嫌がらせに屈せず、自分の信念を貫いていた。ある日、患者であり、友人だったアンナの溺死体を検視解剖することになった。警察は自殺と見ているのだが、アンナを知るリディアには自殺が信じられず、さらに解剖結果からも他殺を疑い、独自の調査を進めることになった。すると、自殺説にそぐわない証拠や証言が見つかり、リディアはどんどん調査にのめり込んでいく。そして犯人につながる証拠を見つけたと思ったとき、リディアを肉体的暴力が襲ってきた…。 洋の東西を問わず、偏見との戦いを余儀なくされる女性医師のパイオニアたちの物語はいくつもあるが、本作はそれを見事なミステリーに仕立て上げたところが素晴らしい。医学的正確さを重視した描写がやや重苦しいものの、ミステリーとしての展開は巧みで、誰もが満足できる作品である。 世のレビューに惑わされず、一度手に取ることをオススメする。 |
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1930年代に獄中作家としてデビューしたもののパッとせず、50年代にフランスで人気が出た黒人作家の1959年の作品。酔っ払った白人警官に同僚を殺され、さらに証拠隠滅のために命を狙われる黒人青年の逃走と白人警官による執拗な追跡のハードボイルド・ノワールである。
年の瀬のニューヨークの深夜、酔っ払った警官・ウォーカーは停めたはずの車がないことに気付き、そばにある食堂の黒人清掃員が盗んだと思い込む。身に覚えがない3人の清掃員たちは銃に怯えながらも事態を落ち着かせようとするのだが、ウォーカーは2人を射殺し、現場を目撃したもう一人の清掃員・ジミーも殺そうとする。ウォーカー自体が銃を撃った理由が分かっておらず、ましてやジミーは訳も分からず、ただ逃げなければ殺されると逃走する。かくてウォーカーとジミーは必死の追走劇を繰り広げるのだった…。 図式化すれば人種差別主義の白人警官と無実の黒人青年の間のヘイトクライムであり、善悪がはっきりした物語なのだが、1950年代のアメリカ、中でも差別反対の意識が強いニューヨークが舞台とあって、登場人物たちが差別に複雑な反応を示すところが読みどころ。ここのところの微妙なズレ、建前と身体的反応との矛盾が不気味である。 黒人が主役のノワール、ハードボイルドの系譜を知る貴重な作品として、ブラック・ノワール、ハードボイルドのファンにオススメする。 |
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毎回、新しい趣向で読者を迷わせる(楽しませる)スワンソンだが、その期待は今回も裏切られない。
自分を含む9名の名前が書かれた1枚のリストを受け取った9人の男女。リスト以外に同封されたものはなく、何のためのリストかさっぱり分からず、疑問に思うこともなく捨ててしまった人もいた。しかし、リストに載っているホテル経営者の老人が海岸で溺死し、さらにもう一人の男性がランニング中に射殺された。自分も名前が載っていたFBI捜査官のジェシカは9人の関連性を調べるために所在を確認し始める。一方、ホテル経営者の事件を捜査する地元警察の刑事ハミルトンは被害者の背景から動機を探ろうとする…。 ミステリーの不朽の名作「そして誰もいなくなった」へのオマージュ作品だが、舞台設定、話の構造が全く違っている。一人ずつ殺されるのは同じだが、9人が同じ場所にいるのではないため、連帯感もなければ襲われる恐怖や危機感もない。隠された共通点を知るのは犯人だけというのが、極めてスリリング。動機・真相が明らかにされると、事件の規模に対してこれ?っという違和感があるかも知れないが、犯人探しや犯行様態の解明に主眼を置かず、サスペンスを楽しむ物語として読めばなかなかの傑作である。 スワンソン・ファンの方はもちろん、ミステリー名作マニアの方にもオススメする。 |
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競馬ミステリーの金字塔「競馬シリーズ」が見事に蘇ってきた。父の跡を継いだフェリックスならではの、これぞ血統書付きの競馬ミステリーである。
探偵業から引退し、株取引や投資で生活しているシッドを訪れたスチュアート卿(英国競馬統括機構会長)はレースで不正が行われていると確信したのだが、自分の組織の保安部から相手にされなかったため、シッドに調査を頼みたいと言う。シッドはもう探偵は止めた、関わりたくないと断ったのだが、不正を示唆する資料を押し付けられた。その翌日、スチュアート卿の変死が知らされ、シッドの心が揺れた。妻には反対されながら気になることを調べ始めたシッドは、すぐに家族が危険にさらされる事態に巻き込まれた。不正の黒幕と思われる男から卑劣な攻撃を加えられたシッドは生来の正義感と反骨精神に駆られ、捨て身の戦いを挑むことになる…。 もう最初から最後まで競馬シリーズの醍醐味に溢れ、ディック・フランシスの作品を読んでいる気持ちにさせられる。ストーリー展開、キャラクター設定、競馬界の内情など全てが文句なし。さすがシリーズの終盤の作品を父と共著してきたフェリックスである。 新シリーズは翻訳者も出版社も変わったのだが、漢字二文字のタイトル、表紙デザイン、グリーンの背表紙など、これまでのシリーズをリスペクトした姿勢も好感度大。 競馬シリーズを読んできたオールド・ファンはもちろん若い読者にもオススメしたい傑作ミステリーである。 |
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北海道警大通署シリーズの11作目か(サイトによって数が違う 笑)、第一シーズンの完結作のようである。
相変わらず閑職に追いやられながらも実績を挙げ、ついに上層部が引き上げを考え始めた佐伯警部補、少年係ながら刑事事件につながる兆しを見逃さない小島巡査部長、現場復帰を果たし、機動捜査隊で充実した日々を送る津久井巡査部長。三人がそれぞれの職務に専心していたある日、闇バイト四人組が牧場に強盗に押し入り、弾みで牧場主を殺害する事件が発生。強盗の一人は奪った散弾銃で仲間を殺害し、さらに指示役の男から金を奪い返すために札幌に潜入してきたようだった。絶対に次の殺人を防ぎたい道警本部が札幌市内を隈なく捜索するも、犯人の所在さえ掴めないでいたのだが、佐伯が追いかけた置き引き事件、小島が担当した女子高生のスマホ強奪事案が、津久井たち機動捜査隊の強盗犯人追跡と関連することが判明し、捜査の網は絞り込まれていった。そして最後、追い詰められた犯人は人質立てこもり事件を起こす…。 いつも通りと言えば、その通り。安心して読める警察ミステリーである。本作は「シリーズ第一シーズン完!」という宣伝文句もあり、どういう結末をつけるのか注目したのだが、どうやら佐伯も津久井も警察を辞めるようで、佐伯の部下の新宮は新たな部署に引き上げられ、小島も人生の決断を迫られる。さらに警官の酒場「ブラックバード」も代替わりする模様。次作からどんな展開になるのか、首を長くして待ちたい。 |
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「道警シリーズ」の第3作。洞爺湖サミットを前に緊張の度を高める北海道警で制服警官が失踪した事件をメインに大臣警備、2年前の覚醒剤密輸おとり捜査を絡め、警察組織の悪弊と戦う警官たちの矜持を描いた警察冒険小説である。
1週間後にサミット警備体制の結団式を控えた日に一人の制服警官が拳銃を所持したまま失踪した。万が一を危惧する道警上層部は「何がなんでも探し出せ」と号令し、津久井刑事は捜索の専任を命じられた。ストーカーを撃って逮捕した小島百合巡査はその手柄を評価され、結団式に出席する女性大臣のSPに抜擢される。道警全体の信頼を失い、閑職に追いやられた佐伯警部補は消化不良のまま終わらせられた密輸入おとり捜査に疑念を持ち、一人で再捜査を始めた。使命感と任務に導かれた三人の捜査はやがてサミット警備でギリギリまで高まった道警の緊張を一気に爆発させる事態へと突き進んで行く…。 シリーズ3作目とあって主要な登場人物のキャラクターがより鮮明になり、役割分担も滑らかで、シリーズものならではの円熟味が出来上がってきた。プロローグから結末までの展開も無理なく、説得力がある。 日本の警察小説では、現在ナンバーワンのシリーズとして強くオススメする。 |
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ゴンクール賞をはじめ、いくつかの文学賞にノミネートされたというフランス人法廷ジャーナリストの長編小説。嘘をついて他人を犯罪者と名指しした若い女性を救うために奮闘する女性弁護士の活躍を描いた法廷エンタメ作品である。
15歳の時に強姦事件の被害を訴え、加害者を拘束させたリザ。5年後に開かれた裁判で加害者マルコに10年の刑が言い渡されたのだがマルコが控訴した。このため、リザは控訴審では女性の弁護士に依頼したいと弁護士アリスのもとを訪れた。誰もが心を許す若くかよわい少女・リザと複数の前科持ちの32歳の塗装工・マルコ、簡単に結論が出ると思われたのだが、リザが「自分はレイプされてない。嘘を吐いた」と告白し、アリスは驚愕する。リザはなぜ嘘を吐いたのか、拘束されていたマルコを釈放させることはもちろん、さらにリザの立場を守るために、アリスは事件だけに囚われない、社会を告発する弁論を組み立てた…。 刑事裁判を中心にした法廷ミステリーであるが、メインは弁護側と検察側の丁々発止の論戦ではなく、アリスの弁論の組み立てにある。男性中心の性差別意識やレイプカルチャーに対するアンチテーゼが力強い。さらに文末の弁護士による解説もわかりやすくて説得力がある。 今の社会が直面する課題を真剣に捉えた法廷エンタメ作品であり、ミステリーファン以外にもオススメしたい。 |
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中国系移民として育った女性作家の処女小説。1944年のカリフォルニア州バークレーを舞台に大統領候補の政治家殺害事件にまつわる地元名家の悲劇を暴くことになる、メキシコ系刑事の苦悩を描いた謎解きサスペンスである。
バークレーの高級ホテルで大統領候補のウォルターが殺害された。刑事サリヴァンは容疑者として地元有数の名家・ベインブリッジ家の三人の孫娘を取り調べようとするのだが、証拠が曖昧だと上司から圧力をかけられる。有無を言わさぬ証拠固めに奔走するサリヴァンは、14年前に同じホテルで起きたベインブリッジ家の孫娘の不審死が鍵になると気付いた。だが、ベインブリッジ家の家長・ジェネヴィーヴをはじめ、一家の女性たちはしたたかで、サリヴァンは翻弄されるばかりだった…。 政治家殺害の犯人・動機探し、名家の美しい少女たちにまつわる因縁話を本筋に、日系アメリカ人の強制収容、メキシコ系に対する差別、中国とアメリカの関係などの社会情勢が絡んでくるストーリーは躍動感があり、変化に富んでいて飽きさせない。外見的に白人としか見えないサリヴァンがルーツとアイデンティティに引き裂かれ苦悩する内面の描写もインパクトあり。 犯人探しに加えて人種や貧富による軋轢もリアルで、ミステリー・ファンはもちろん近現代史に興味がある方にもオススメしたい。 |
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道警シリーズの第4作。前作「警官の紋章」で小島百合巡査に犯行を阻止されたストーカーが一年後に現れ、再度被害者を脅迫し始めた。よさこいソーラン祭りという札幌最大のイベントに紛れ込んだ犯人をいかにして追い詰めるか。さらにバイクによる連続ひったくり、謎の白骨死体などが加わり…。
よさこいソーラン祭りの警備だけでも手一杯なのに、数々の難事件が続出し札幌の警官は不眠不休の奮闘を求められる。普段の所属や担当の垣根を越え、ひたすら警官の使命を果たそうとする正義の警官たち。地道な聞き込み、地取り捜査の積み重ねでじわじわと犯人を追い詰める捜査プロセス。事件相互の意外な関係が明らかにされる巧みな伏線が光るプロット。まさにモジュラー型警察小説の完成形を見るようだ。 安心して楽しめる傑作として、どなたにもオススメしたい。 |
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最初に。本書は2003年に発売され、2008年に光文社文庫「サラマンダーは炎のなかに」として刊行された作品を早川が改題した作品である。元の光文社版と全く同じもの(訳者も解説者も同じ)をまるで新作のように売り出すのは、いかがなものか。騙された方が悪い(自分は「サラマンダー」は未読だったので良かったが)のかも知れないが。
パキスタン生まれの英国人で主にドイツでスパイ活動を続けていたマンディと、ドイツ人で60年代終わりごろに反戦・平和活動でマンディと結び付いたサーシャの二人。それぞれが主義主張を持つまでの経緯、人生の拠り所となっていた冷戦構造崩壊後の日々が丁寧に解析され、時代を反映した人々の意識の変化が順を追って解説される。そして21世紀に入り、マンディとサーシャが再会した時、二人の変わらない友情と運命は…。 3.11後の米国・英国とグローバル資本による民主主義の破壊への怒りを迸らせる老大家の筆致は熱い。古き良き欧州の知性の覇気は極めて強いインパクトがある。 スパイ小説としてはやや物足りないが、現代政治を巡るサスペンスとして読み応えあり。オススメです。 |
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本作を16歳で書き始め、17歳で完成させ、19歳で刊行し、史上最年少でブッカー賞にノミネートされた天才文学少女のデビュー作。オークランドの黒人街で暮らす17歳の少女がありとあらゆる差別、暴力、理不尽に翻弄されながらも強靭な復元力で生き延びるヒューマン・ドラマで、刊行後すぐにN.Y.Times紙のベストセラーに入ったのも納得の力強い作品である。
貧しい黒人街で生きる17歳のキアラ。父は病死、母は刑務所で兄のマーカスと二人で住むアパートの家賃にも事欠く綱渡り生活だった。にも関わらず、マーカスはラッパーになって大金を稼ぐ夢に取り憑かれて働かず、キアラは一人で家計を担っていた。しかし、いきなり家賃が倍増し、同じアパートに住む無責任な母親に置き去りにされた9歳のトレバーの面倒も見ることになり、追い詰められたキアラは必死に職を探すのだが高校も卒業していない17歳の少女を雇ってくれる職場はなく、やむなく売春に手を染めた。そして警察に現場を押さえられることになったのだが、警官たちはキアラを保護するどころか性的搾取をし始めたのだった…。 著者が13歳の時に遭遇した警官による黒人少女の性的搾取事件に強烈な違和感を持ち、16歳から作品化し始めたという本作。アメリカでマイノリティの少女が日々押し付けられる人種差別、性差別に対する鋭い反発に圧倒される。周囲の大人、権力者、行政からの理不尽で醜悪な攻撃はグロテスクで、読み進めるのは気軽ではない。それでも、キアラがとる行動に微かな温もりが感じられるのが救いになる。 社会派のノワール・ヒューマンドラマとして、一読をオススメする。 |
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女性刑事「ケイト・リンヴィル」シリーズの第3作。列車内の銃撃事件とサイクリング中の女性を罠に仕掛けて負傷させた事件、2つの事件で同じ銃が使われていたことから隠されていた過去の秘密が明らかになる警察ミステリーである。
敬愛するスカボロー署のケイレブ警部の要請を受け、スコットランド・ヤードを辞めてスカボロー署に移ることにしたケイト。赴任前の旅で乗った列車内で、知らない男に銃撃された女性・クセニアを助けたのだが、犯人には逃げられてしまう。事件の2日後、サイクリング中の女性教師・ソフィアが道路に仕掛けられた針金の罠で転倒し、銃撃される事件が発生。しかも2つの事件で使われた銃が同じものであることが判明した。どちらの事件もスカボロー署が担当することになったのだが、捜査の中心となるべきケイレブ警部は別の事件で失敗し停職処分を受けていた。着任前だったケイトだが行きがかり上、捜査に加わることになり、両事件の被害者クセニアとソフィアの接点を探し始めるのだが、共通点は皆目見つからない。さらに、クセニアは何かを隠しているようで捜査が停滞していたところに、ソフィアが病院からリハビリ施設へ移送中に車ごと拉致されてしまう…。 全く接点が見つからない2つの事件を解き明かしていく犯人探し、動機探しのストーリーは重苦しく、行ったり来たりの繰り返しで遅々として進まないのだが、その裏には簡単には語れない過去が隠されていて、決して退屈ではない。さらに全ての謎が解かれた時に見える人間の弱さ、醜さ、切なさは衝撃的で読者の感情を揺さぶる。ヒロインのケイトが徐々に感情表現が豊かになり人間味を増して来たのも、シリーズ愛読者には好印象を残す。 謎解き警察ミステリーとして一級品であり、シリーズファンに限らず多くの方にオススメしたい。 |
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法廷ミステリーの巨匠・マーゴリンが約20年ぶりに日本上陸。1枚の写真に魅入られた作家志望の女性が、その写真の謎を解こうとして10年前の未解決殺人を解明することになるサスペンス・ミステリーである。
作家を目指してN.Y.に出て来たものの小説は書けず、仕事も退屈で行き詰まっていたステイシーはたまたま目にした「夜の海辺で銃を持つ花嫁姿の女性の後ろ姿」の写真に魅入られた。誰が、どんな意図でこの写真を撮ったのか。その背景を絶対に小説化したいと決心したステイシーは会社を辞め、撮影場所であるオレゴン州の海辺の町へ飛んだ。写真が撮影されたのは10年前で、被写体の女性は富豪との結婚式の翌日に夫殺害容疑で逮捕された花嫁・メーガンだった。メーガンが持っていた銃は夫殺害の凶器と判明したのだが、本人は記憶を失ったため何も覚えていないという。 10年前の事件、その5年前の出来事、現在の進行中の調査の3つのエピソードを行き来しながら大きなドラマが語られる。一見、複雑な物語だが3つの時代がちゃんと分けられているので理解しやすい。素人探偵役のステイシー、写真を撮った元弁護士で写真家のキャシー、被写体のメーガン、3人の主役の女性のキャラクターがくっきりしているのも読みやすさにつながっている。過去と現在がつながり、悲喜劇が生まれ、謎が解明されるストーリーは法廷ものに定評ある作家らしく論理的で納得感がある。 謎解きミステリーのファンにオススメする。 |
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シェトランド島を舞台にした「ジミー・ペレス警部」シリーズで知られるアン・クリーヴスの新シリーズ第一弾。イギリス南西部ノース・デヴォン地方を舞台に気鋭の警部が複雑な殺人の謎を解いていく警察群像ミステリーである。
マシュー警部が初めて指揮を取る殺人事件は、最近町にやって来たホームレスのようなアルコール依存の男性が海岸で刺殺された事件だった。被害者が地元の有力者が運営する施設に関わるとともに、有力者の娘の自宅に下宿していたことが判明。さらに、その施設内に設けられたデイケア・センターでボランティア活動をしていたことも分かった。マシューは直属の部下であるジェン、ロスの二人の刑事とともに精力的に捜査を進めたのだが、事件関係者はマシューの知人ばかりだし、極めつけは施設の管理責任者がマシューのパートナーのジョナサンだったため、マシューは人情と倫理の葛藤を抱えることになる…。 誠実な若き警部の苦悩を主軸に捜査側、被害者、犯人たちの心の揺れ、人間の多面性を丁寧に描き、物語は謎解きミステリーであるとともに人間観察のドラマでもある。事件の発端から解明までブレが無い構成なので読みやすく、緊張感のある結末も納得できる。 英国警察ミステリーの王道を行く作品として、自信を持ってオススメしたい。 |
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1年半ほど前にネグレクトを疑った児童相談所から逃げ、二人の男児を連れて寝場所を提供してくれる男のもとを転々としてきた32歳の亜紀。現在はホスト崩れの北斗の家に転がり込み、12歳の優真と4歳の篤人はほったらかしで遊び歩いて家に帰らない日々だった。学校には行かせてもらえず、空腹に耐えかねた優真がコンビニで「捨てる弁当をください」と頼み店主の目加田と面識を得たことから事態は大きく変貌していった。
児童保護所を経て目加田の里子となった優真は普通の小学生、中学生の生活を始めたのだが、生育過程で全く社会性を身に付けられなかったため周囲にうまく馴染めず、社会からはぶかれたコンプレックスを抱くようになる。自分の内面を言語化できず、他者の目で評価する基準も持たない優真の行動は空回りするばかりで、社会適応の努力は優真を更に苦しめるのだった…。 ネグレクト、貧困、性差別、経済的格差から生じる情報格差、共同体支配の過酷さと脆さなど、ここには今の日本の分断の実相が露わに語られている。重いテーマと絶望的なストーリーだが、さすがに超一流のストーリーテラー・桐野夏生だけあってとても読みやすい。 読めばきっと何かを突き付けられる怖さはあるが、ぜひ一読をオススメしたい。 |
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2023〜24年に週刊誌連載された長編小説。東日本大震災に見舞われた東北を舞台に、自然災害と殺人事件を重ねて人生とは何かを問うヒューマン・サスペンスである。
大震災から2週間後、岩手県の小学校体育館に立てこもった22歳の真柴は一般人と警官、2名を殺害し逃亡中だった。真柴は体育館に避難していた被災者たちと、それとは別に男児を人質にとっており、未曾有の災害による混乱に殺人犯の逃亡という不安が重なることを嫌った警察上層部は警視庁SATを派遣し、事件の早期解決を決断した。 真柴が殺人犯として逃亡することになった経緯を中心に、地元署の警部補・陣内をはじめとする被災者のそれぞれのドラマを絡め、濃厚な人間ドラマが展開されるストーリーは力強く、ページを捲る手が止まらない。なぜこんなことが起きたのか、あの時、別の選択をしていたらどうなったのか、大災害の前では人間は無力なのか。災害を生き延びた者、親族を亡くした者、様々な人物像に感情移入してしまう吸引力がある作品である。 震災の被害の有無に関わらず何かしら心に響く傑作であり、多くの方にオススメしたい。 |
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2023〜25年に週刊誌に連載された長編小説。「こんなものじゃない」はずの自分に取り憑かれ、夢を追い続けた昭和男の波瀾万丈の生き様を描いたヒューマン・ドラマである。
桜木作品には珍しく男(著者の父親がモデル)が主人公で、遠慮のない筆致が快い。夢を追う男の身勝手と、それに振り回されながらも妙な納得を納めている女たちの人間模様は、著者曰く「生きることは滑稽」を体現している。人間の馬鹿さ加減と人間らしさは表裏一体、他人が簡単に評価できるものではないと教えてくれる。 読めば誰もが、登場人物の誰かに感情移入してしまう傑作であり、多くの人にオススメしたい。 |
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デビュー作にして2023年度エドガー賞最優秀新人賞を受賞した、本格スパイ小説。激動期の中東でCIAケースオフィサーとして勤務した著者が、その体験をベースに書き上げた、リアリティ豊かなスパイ・サスペンスである。
バーレーンのCIA支局員・シェーンは、自分の息子とさして歳の違わない上司にうんざりしながら適度に仕事をこなし、酒浸りで年金を貰える日を待っていた。それでも、唯一の情報提供者との接触の中でバーレーン反政府派の気になる動きを察知し、探りを入れると、首都の中心部で起きた爆弾事件が政府による自作自演ではないかと思い始めた。さらに、偶然知り合った女性アーティストとの交際を深めることで、政府の陰謀であると確信し、その情報を本部に報告した。すると、シェーンの過度の飲酒、不適切な女性関係を理由にした退職通知が返ってきた。納得がいかないシェーンはCIA、米軍、バーレーン政府、アラブの春に感化された民衆が複雑に絡み合う騒乱のバーレーンで、真相解明のために奮闘する…。 知識が乏しい中東でも特に複雑な歴史を持つバーレーン王国が舞台で、それだけでも興味深い物語だが、さらにアラブの春という激動期の話であり、誰が誰を騙してるのか、どこに正義があるのか、最後まで先が読めないストーリーである。つまり、極めてリアルで緊迫感があるスパイ小説で、派手なアクションはなくても最後までサスペンスが味わえる、冷戦時代のスパイ小説の血統を受け継いだ作品と言える。 ル・カレ、グレアム・グリーンの世界を現代に甦らせた傑作として、本格スパイ小説のファンにオススメする。 |
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カナダ在住のオーストラリア人作家のミステリー分野へのデビュー作。若くして夫を亡くした3人が互いに支え合い、男社会に異議申し立てするサスペンス・ミステリーである。
メルボルンに暮らす3人の若い女性、夫を亡くしたという共通点でつながり、毎週集まって親交を深めてきた。今では家族同様に付き合っているのだが、それぞれ周りには知られたくない秘密を抱えていた。そこに夫を亡くしたばかりの若いハンナが加わった頃から3人の周りで不審な出来事が起きるようになり…。 主要な女性登場人物4人が、それぞれが抱える秘密に悩みながも強固なシスターフッドで結ばれ、女性差別に抗って自立を目指すストーリーは多少リアリティに欠けるもののかなりインパクトがある。境遇も性格も異なる4人のエピソードが徐々に明かされ、意表を突く展開を見せる構成も見事。 鬼畜系ではなく、イヤミスでもないサイコ・サスペンス系ミステリーのファンにオススメする。 |
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特異すぎる主人公のキャラ設定だけで読みたくなる、韓国発のノワール・エンタメ作品。1013年の発表当時はさほど話題にならなかったものが、SNSでじわじわ人気が高まり、2018年に改訂版を刊行、以後海外でも翻訳が相次ぎ、韓国では映画化されたという。
本作の魅力の第一は65歳の小柄で平凡な老女が凄腕の殺し屋だという、常識を突き破った主人公像にある。依頼された殺しは迅速に、手際よくこなし、しかも心理的な葛藤とは無縁のプロフェッショナルとして45年のキャリアを積み重ねてきた爪角(チョガク)だが、寄る年波には抗えず、体力はもちろん気力も衰え始めていた。捨て犬を拾い、トラブルに遭った老人を助け、ターゲットや家族の苦しみに心が揺れ始めたのだ。そんな時、同じエージェンシーに属する若き殺し屋・トゥが、なぜか爪角に突っかかり、挑発を止めようとしなかった。トゥは何を狙っているのか、確信がないまま爪角はトゥと最後の死闘を繰り広げることになる…。 訳者あとがきによると作者は「文章に関して心に決めているうちの一つは、〈読みやすくしない〉ことだ」というだけあって、リーダビリティは決してよくないが我慢して読み通せば、十分に報われる深い読後感を味わえる。 ノワール小説ではあるが、女性、老化などさまざまな問題に気づかされる傑作として、幅広いジャンルの読者にオススメしたい。 |
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