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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数608

全608件 1~20 1/31ページ

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No.608: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

養子に出す決断は、どこに行った?

2014年〜15年に文芸誌に連載された長編小説。生まれたばかりの子を養子として里親に紹介する特別養子縁組で繋がった二組の家族、それぞれの葛藤を描いたヒューマン・サスペンスである。
武蔵小杉のタワマンで暮らす栗原家に突然かかってきた電話は「子供を返して欲しいんです」という。返せないなら金を払えと脅迫してきた。電話してきた女が名乗った「片倉ひかり」は確かに栗原家の6歳の息子・朝斗の生みの親の名前だった。
子供が欲しくてもできなくて養子斡旋団体を頼った40代の夫婦、欲しくはなかった子供ができてしまった中学生。広島の養子斡旋団体の施設で二つの家族が出会うまでの背景が物語の中心で、誰がいいとも悪いとも、誰の罪とも言い難いシリアスなエピソードが延々と続き、かなり重い読書感である。誰も悪い人はいないようなお話になっているが、やはり一番は子供を養子に出す決断を下した片倉ひかりがあまりにも常識にかけ、脆いこと。これ、育てた親の責任なのか?
物語としては面白いが、オススメ作品というには躊躇ってしまう。
朝が来る (文春文庫 つ 18-4)
辻村深月朝が来る についてのレビュー
No.607: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

安定の・・・

雑誌掲載の3作品に書き下ろし3作を加えた、ブラック・ショーマン・シリーズの第二作。どの作品も一捻りがあり、それなりに楽しめる。
ただ、東野圭吾作品としてはどれも小粒で物足りない。
ブラック・ショーマンと覚醒する女たち
No.606: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

二つの家族、それぞれの親子・人種・階級対立

アメリカ生まれ中国系移民二世の女性作家の長編第二作。オハイオ州の裕福な街に紛れ込んだボヘミアンな親娘が特権階級の家族に馴染み、親密になるのだが、あまりにも親密過ぎて破綻に至る文芸ミステリーである。
クリーブランド郊外の計画都市・シェイカー・ハイツに住むリチャードソン家の貸家に芸術家を名乗るミアと15歳の娘のパールが移ってきた。パールはリチャードソン家の4人の子供と親しくなり、豪勢な暮らしに魅了されリチャードソン家に入り浸るようになる。郊外特権階級の倫理とプライドを体現する母親・エレナの采配で絵に描いたような家族を作っているリチャードソン家の異端児・末っ子のイジーは逆に自由奔放なミアに惹きつけられ、ミアの芸術活動を手伝うようになる。お互いに良い関係を築いた二家族だったが、子供たちの関係が恋愛感情でギクシャクし始めるとともに、誤解が誤解を招き、とうとうイジーが寝室6つの全てにガソリンを撒いて放火し、自分は家出してしまった。悲惨な結末に至るまでの道筋は…。
一見、豊かにあるいは自由奔放に暮らしている人々が抱える苦悩や苦い歴史、揺れる道徳感を丁寧に、情感豊かに描写し、多種多様な読み方ができる文芸作である。さらに親子、異人種間の避けられないズレをリアルに落ち着いて表現しているのも好感度が高い。
倒叙形ミステリーとしてはもちろん、現代アメリカ社会の病巣を見つめた社会派作品としてもオススメだ。
密やかな炎
セレステ・イング密やかな炎 についてのレビュー
No.605: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

信仰の救いと狂信。一神教の呪縛の恐ろしさ。

「われら闇より天を見る」で話題を呼んだ著者の邦訳第二弾、作品としては前作の前の第2作。信仰厚い閉鎖的な田舎町で起きた15歳の少女失踪事件をメインにアメリカの宗教、倫理、抑圧、暴力の絡み合いを描き出す社会派ミステリーである。
1995年のアラバマ州の小さな町で「ごめんなさい」とだけ書き残して15歳の美少女・サマーが失踪した。警察は家出事案として取り扱うのだが、サマーの双子の妹・レインは同級生で遊び仲間のノア、パーブとともに姉を探そうとする。というのも、数年前に連続少女誘拐事件があり、犯人「鳥男」が目撃されたものの逃亡し、未解決のままだったのだ。当時から捜査にあたったブラック署長はその事件を機にアルコール依存になり、町民からは必要最低限の努力しかしないと目されていた。一方、サマーとレインの父親で暴力的なジョーは弟のトミーや仲間を集めて捜索隊を指揮し、結果を得られない日々に不満を募らせていた。そんな一触触発の町の上空に巨大な嵐雲が居座り、住民は不安と恐怖に怯え切っていた…。
行方不明の姉を探すレインと仲間たち、平穏に問題解決したいブラック署長の視点でのエピソードが交互に繰り返され、そこにサマーの独白が挿入される。そこで明らかになるのはいまだに尾を引く「鳥男」であり、抑圧的な宗教の呪縛であり、陰謀論的な悪魔騒ぎで、アメリカの宗教ベルト地帯におけるキリスト教の功罪が露わにされる。物語の展開スピードが遅く、最初は人間関係やキャラの把握に時間を要するが中途からは分かりやすくなる。
前作「われら闇より天を見る」を想定すると期待外れだが、アメリカ人の宗教と人間の理解を知るミステリーとして、一読の価値あり。
終わりなき夜に少女は
No.604: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

思い込みを裏切る真犯人。謎解きより人間ドラマがテーマ。

好評のうちに終えた「ジミー・ペレス警部」シリーズに続く警察小説「マシュー・ヴェン警部」シリーズの第2作。本作もマシューの関係者が濃厚な関わりを持つ人物が被害者・容疑者になる地元ミステリーである。
裕福なオーナーが所有する農園の一角を借りている吹きガラス職人・イヴが自分の部屋で父親・ナイジェルが殺されているのを発見した。致命傷を負わせた凶器はイヴが作ったガラス花瓶の破片だった。ナイジェルは病院と患者のトラブル解決をサポートする組織の中心人物で、事件当時は精神が不安定な息子が自殺したのは適切な処置を怠り、早期に退院させられたからだと訴える家族の依頼で動いていたという。マシュー、ジェン、ロスのチームは明確な動機や証拠が見つからず、ひたすら関係者への聞き込みで捜査を進め、やがて自殺した青年が自殺を唆すサイトにアクセスしていたことを突き止める。そんな中、第二、第三の殺人が起き、警察も地元関係者も神経をすり減らすことになる…。
事件の動機や様態がいつ明らかにされるのか、あまりにもスローペースな展開で前半はかなり退屈。最後の謎解き、真犯人の告白もなんだか生ぬるい。580ページを越えるボリュームだがミステリー部分が三分の一、マシューをコアとする人間ドラマが三分の二だろうか。シリーズ2作目とあって、登場人物たちのキャラがよりくっきりし、人間味が感じられるようになったが読みどころか。前作と変わらず同性婚のマシューとジョナサン、どちらも「夫」となっているのには違和感を感じて読みづらい。「パートナー」とでも表現してくれればいいのにと思う。
シリーズ第一作「哀惜」から読み始めることを強くオススメする。
沈黙 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アン・クリーヴス沈黙 についてのレビュー
No.603: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

冷めかけた渋茶のような(非ミステリー)

温くて、渋くて、味わい深い。東京の下町暮らしと国文古書趣味が融合した、好きな人にはたまらないだろうテイストの連作短編集。
国文科院生の女子大生・美希喜は大叔父が急逝したため、大叔父が神保町で営んでいた古書店を手伝うことになる。大叔父の妹で店を継いだ珊瑚さん、近所の人、常連客とのほのぼのとした交流録に、神保町のちょっとした食の話をプラス。すっきりした後味も渋茶のよう。
古本食堂 (ハルキ文庫 は 16-1)
原田ひ香古本食堂 についてのレビュー
No.602: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

バイオレンスと謎解きがうまく融合した作品

2020〜21年に雑誌連載された長編ミステリー。警察による首なし死体事件捜査と不器用な元キックボクサーの純愛を中心に新興宗教の闇を描いた、なかなかバイオレンスなエンタメ作品である。
多摩の山中で首がない男性が発見された。死体は一刀両断、まるで斬首のように斬られており、死後運ばれて来たようだった。現場に最初に駆け付けた所轄署の鵜飼警部補は捜査本部に組み込まれ地取り捜査を担当する。町で出会った老人に誘われて餡子工場で働いていた元キックボクサー、今フリーターの潤平は新入社員の美祈に一目惚れし、付きまとううちに美祈が新興宗教「サダイの家」で集団生活をしていることを知った。被害者の身元調査からスタートした鵜飼たち警察の捜査が実を結び、首なし死体が「サダイの家」信者の脱退を助けていた弁護士であることが判明。警察と教団、元キックボクサーが絡みあう激しい闘いが始まった…。
新興宗教を巡るあれこれが想起される、面倒くさそうな物語だが、警察捜査のプロセス、恋に不器用な男の言動がしっかり抑えられているので、ちゃんとエンターテイメントとして成立している。バイオレンスとミステリーのバランスが良い作品であり、どなたにもオススメできる。
フェイクフィクション
誉田哲也フェイクフィクション についてのレビュー
No.601: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

古くて新しい家族観だが、やっぱり結論はない(非ミステリー)

初読の作家で、先入観なしに読んだ。家族とは何か、どうあるべきか。家族とはゴールなのか、どん詰まりなのか。最後の決断まで引っ張っていく物語構成は上手いと思うが、読後感はもやもやしてしまう。まあ、それが家族というものなのだろう。
家族解散まで千キロメートル
浅倉秋成家族解散まで千キロメートル についてのレビュー
No.600: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

落ちこぼれ青年がヒーローに生まれ変わる成長物語

2019年の翻訳ミステリー大賞を受賞した「11月に去りし者」から5年ぶりの新刊。最低賃金の仕事でダラダラ暮らしている若者が、ふと見かけた虐待の跡が残る幼い姉弟を救うために奮闘する青春ハードボイルドである。
ディズニーのまがいものの遊園地で最低賃金の仕事に就き、友人とマリファナを吸って日々を過ごしている23歳の負け犬・ハードリーは、市役所の窓口で並んでいる時に、足にタバコの火傷の痕が残る幼い姉と弟を見かけた。気になったハードリーは児童保護サービスに伝えるのだが、彼らの反応は鈍く、ほとんど動こうとしない。役人の怠慢にうんざりしたものの、そのまま見過ごせないと思ったハードリーは自分で調査を開始する。姉弟の母親の名前を探り出し、高級住宅地にある家を突き止め、弁護士である父親がDVを行っているのではないかと結論つけた…。
落ちこぼれの23歳の若者が不幸な親子を助け出すヒーローに成長する素人探偵ストーリーだが、王道のP.I.ものとは異なって、主役が頼りないのが読みどころ。さらに主人公を助ける周囲の人物たちがそれぞれに個性的で魅力的。特に前半はコミカルなエピソード続きでユーモア小説風なのだが、終盤になると一気にサスペンスフルになる展開の妙が上手い。物語の幕引きはやや唐突で、賛否両論あるだろうがインパクト大である。
現代を感じさせる、軽めのハードボイルド好きの方にオススメする。
7月のダークライド (ハーパーBOOKS)
ルー・バーニー7月のダークライド についてのレビュー
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(7pt)

映画への憧れが詰まったノスタルジー・ミステリー

2023年〜24年の文芸誌連載の加筆、改題作品。幻の作品と思われた映画のフィルムが発見されたのきっかけに、定年退職した老人が自分も関わった50年前のベルリン映画祭での出来事を回顧し、人探しをするノスタルジックな人探しドラマである。
大前提として映画好きであること、時代に翻弄される人生に共感できることが、本作を楽しむ条件となる。突然現れた若い女性から「あなたは、わたしの祖父ですか?」と始まる、現代での人探しと、それをきっかけに1976年のベルリンでの人間模様を紐解いていく過去のヒューマンドラマが交互に語られていく構成で、ミステリー的要素は最後の種明かし部分だけ。
ミステリーを期待すると肩透かしだが、主人公と同年代で歴史的背景をすんなり理解できる人には、ノスタルジックな青春物語としておススメできる。
遥かな夏に
佐々木譲遥かな夏に についてのレビュー
No.598: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「二度と人を殺さない」と誓った暗殺者????

AA(アルコホーリック・アノニマス)ならぬAA(アサシンズ・アノニマス」に通い、不殺の誓いを立てた世界最高の暗殺者が命を狙われ、ニューヨーク、シンガポール、ロンドンと逃げ回りながら襲撃をかわして行く、なんとも不思議でもどかしい設定のアクション・サスペンスである。
オーソドックスな暗殺者ものであれば、いかに鮮やかなテクニックを駆使してターゲットに接近し目的を遂げるか、あるいは襲い来る敵に反撃するかが読みどころだが、本作は「絶対に相手を殺さない」誓いという手枷足枷があるため、殺意を持って襲ってきた敵を殺さないで倒すという、不可能に近いアクションが最大のポイント。しかも、世界一の暗殺者として成功してきたため殺すことの快感を知っており、本能的な殺害衝動が身に付いているという厄介なキャラクター設定で、読む側の予測を裏切り続ける展開が連続する。なかなかスムーズに読み進められない奇想天外な構想で、読者を翻弄するのが読みどころではある。
色々ひねり過ぎの感もあるが、これまでにないユニークな暗殺者ものとして一読の価値ありと、おススメする。
暗殺依存症 (ハヤカワ・ミステリ)
ロブ・ハート暗殺依存症 についてのレビュー
No.597: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

悪事は、立案している間が一番面白い?

アメリカでは2005年に刊行された「泥棒ドートマンダー」シリーズの第12作。不運の犯罪プランナー・ドートマンダーと仲間たちが、大富豪の留守宅から秘蔵の美術品を盗み出すコミカルな怪盗物語である。
故買屋・アーニーから持ち込まれた話は、「もう数年に渡ってカリブ海の地中海クラブで逃避生活を送っている大富豪・フェアウェザーのN.Y.のペントハウスには高価な美術品などがある。それを盗み出せば売却金額の70%を渡す」というものだった。乗り気になったドートマンダーは早速、いつもの仲間に声をかけ、アジトにしている酒場の奥の部屋を使おうとしたのだが、部屋の前には人相の悪い二人組が居て部屋を使えなかった。よくよく話を聞くと、代替わりした新しいオーナーが無能でマフィアの関係者に乗っ取られそうになっているようだった。そこでドートマンダーたちは、窃盗の前にアジトを取り返すことにした。同じころ地中海クラブではフェアウェザーが誘拐されたのだが、すんでのところで脱出し、ペントハウスへ戻ることにした。かくして、ドートマンダーたちは侵入した無人のはずの邸宅で、フェアウェザーと鉢合わせることになった…。
怪盗たちの立案と実行、被害者の能天気な言動が絡み合うスラップスティックが読み進めるほどにじわじわと効いてくる。派手ではないし、深みのある話でもないが、その分、罪もない。暇つぶしには最適な気軽なエンタメ犯罪小説としておススメしたい。
うしろにご用心!
No.596:
(7pt)

かなり強引すぎるストーリー展開(サスペンスでも、ミステリーでもない)

本屋大賞作家の初のサスペンス巨編!って売り文句はちょっと強引。ヒューマン・ストーリーとしては良くできている作品なので、いじめの加害と被害に焦点を絞った方が良かったと思う。
山で身元不明の老人の死体が発見されるオープニングはミステリーだが、真相を解明するプロセスがミステリーとしてはシンプル過ぎる(偶然の重なりで謎が解かれていくので緊張感がない)。エンディングのエピソードもミステリーやサスペンスではなく、人間の気付きのお話でしかない。
繰り返すが、ヒューマン・ストーリーとしては良くできており、オススメしたい。
月とアマリリス
町田そのこ月とアマリリス についてのレビュー
No.595: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

法廷闘争が読みどころのイヤミス系(ホラーではない)

2022年から23年にかけて毎日新聞に連載された長編小説。叔父を殺害したとして起訴された青年が、裁判を通じて自分の父の冤罪をすすぐという法廷系ミステリーである。
母子家庭になった自分を親身になってサポートしてくれた大恩のある叔父を殺害したとして起訴された日高英之。才気煥発で真面目に働いていた青年がなぜ、そんな人道に反する罪を犯したのか。しかも、日高は頑強に否認し、裁判でも徹底して無実を訴え警察、検察と争った。というのも、日高には15年前に無実を訴えながら老女殺害の罪で服役し、死亡した父の無念を晴らすという秘めた目的があったからである。自らを有罪判決の危険に晒しながら権力の犯罪に立ち向かう日高の捨て身の闘争は実を結ぶだろうか…。
何度となく逆転無罪を生み出しながら何の反省も見られない警察、検察に対する怒りが根底にあり、ただしそれをストレートに出すのではなく、二転三転する裁判劇でエンタメ化したところが読みどころ。欲を言えば、同じようなエピソード、セリフが何度か繰り返されるところがなければ、もっとスピーディーで読み応えがあっただろう。
帯には「リアルホラー」とあるが、決してホラーではない。力が入った法廷劇としてオススメする。
兎は薄氷に駆ける
貴志祐介兎は薄氷に駆ける についてのレビュー
No.594: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

父親の情の強さと物語展開のご都合主義が、ややチグハグ

このところ邦訳が順調に刊行され、日本でも徐々に人気が高まってきたコーベンの最新作。我が息子を殺した罪で服役中の男が、息子が生きているのではないかという証拠写真を見せられ、脱獄して息子を取り返すアクション・サスペンスである。
3歳の息子・マシュウが自宅で殺害され、父親・デイヴィッドが逮捕された。自分はやってないのだが「マシュウを守れなかった」責任を痛感するデイヴィッドは、あえて無実を主張することなく終身刑で服役していた。5年が経過した頃、離婚した妻の妹・レイチェルが面会に訪れ、マシュウらしき子供が映った写真を見せられる。「マシュウは生きている」と確信したデイヴィッドは家族同然に付き合ってきた刑務所長の助けも借りて脱獄し、マシュウの存在と事件の背景を解明しようとする。警察やFBIの厳しい追及を避けながら、決死の思いで徒手空拳の挑戦を続けたデイヴィッドがたどり着いたのは、思いもよらない策謀と裏切りの物語だった。
死んだはずの息子が生きている、その可能性だけで父親はここまで危険な道を進むのか、という熱いストーリー。デイヴィッドの一途さに圧倒される反面、事件の背景や動機、ストーリー展開エピソードが軽薄で、最後まで物語に没頭できなかったのが残念。ネットフリックスでドラマ化決定したようで、確かに映像化されると良さそう。
孤軍奮闘するヒーローもののファンにオススメする。
捜索者の血
ハーラン・コーベン捜索者の血 についてのレビュー
No.593: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

黒川ワールドの成り立ちが分かる身辺雑記集(非ミステリー)

1986年から2022年まで、さまざまな媒体に掲載された身辺雑記集。子どもの頃の思い出からギャンブル、交遊、自作の解説までバラエティに富んだ内容で、短いながら随所に黒川博行ワールドの成り立ちがうかがえる。黒川ファンにオススメ。
そらそうや (単行本)
黒川博行そらそうや についてのレビュー
No.592:
(7pt)

29歳独身、美人インフルエンサー、ヴィーガン、そして殺し屋

イギリス女性作家のデビュー作。お金に不自由なく暮らしている29歳の人気インスタグラマーが実は非道な男たちに復讐する殺人者だったという、ダークでユーモラスな風俗小説である。
ロンドンの高級住宅地から優雅な独身生活を発信し、フォロワー数百万人という人気インスタグラマーのキティ・コリンズ。同じような境遇の仲間との贅沢な日々をネットに上げ、いいねの数を誇るだけの馬鹿女のように見えるのだが、実は女性に暴力を振るう男たちが許せず、様々な手段で殺害していく凄腕の殺し屋でもある。という、何とも凄まじいヒロインがユニークで、これまでにないユーモラスでノワールな作品として異彩を放っている。
殺す相手が一人、二人ならダークなミステリーになるのだが、次から次へと殺していくことで愉快な物語に変化し、読後感は悪くない。
ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。
男を殺して逃げ切る方法
No.591: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

運か努力か才能か。お金を巡るエトセトラ(非ミステリー)

著者お得意のお金を巡る悲喜こもごもの物語6話。第1話で専業主婦が爪に火を灯して貯めたへそくりで買ったルイ・ヴィトンの財布を次々に手にした、30代後半、就職氷河期世代の登場人物が繰り広げる、ちょっとリアルでユーモラスで悲しいエンタメ作品である。
主題となるのはマネーリテラシー、主婦や安サラリーマン向けの節約雑誌、蓄財雑誌に常に取り上げられている情報だが、原田ひ香のストーリー構成の上手さで楽しめる作品になっている。
デフレを脱却しないうちにインフレに襲われている今の日本をあらわにした作品と言える。
財布は踊る
原田ひ香財布は踊る についてのレビュー
No.590: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

時代の古さを感じるノワール・ハードボイルド

1954年に発刊された時の原題は「Black Friday」だがルネ・クレマン監督で映画化されたため、映画と同じタイトルが付けられたというノワール・サスペンス。警察に追われて逃げてきたフィラデルフィアで殺人の現場に遭遇し、犯人たちに捕まってアジトに連れ込まれた青年・ハートが犯人たちの強盗計画に加わるという巻き込まれ型だが、ハート自身も犯罪者であり善悪を問う物語ではない。寒風吹き荒ぶ街で倫理観なく漂うギャングたちのハードボイルドな関係がメインだが、いかんせん70年も前の話で時代のズレが隠しようもなく、ちょっと退屈。
映画を観た方が原作との対比を楽しみたいならオススメする。
狼は天使の匂い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
No.589: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

乾いた語り口で綴られた、グロテスクなアクション・サスペンス

脚本家として経験を積み重ねてきた英国作家の小説第1作。2023年のCWAスティール・ダガー賞受賞作にふさわしいアクション・サスペンスである。
これまでナンバーワンとされて来た16が突然姿を消したため、現役では世界トップクラスの殺し屋になった17。ベルリンでいつも通りの仕事を終えたところに、ハンドラーから新たな指示を受け、何とか任務を果たしたのだが、いつもと違う仕事の内容に違和感を抱いた。さらに、次にハンドラーに会った時に提示されたのは、伝説の男・16の暗殺だった。簡単に殺せる相手ではない。躊躇する17だったが、ここで引き受けないと、業界内で17が弱気になっていると言われ、今度は18を狙う殺し屋に命を狙われることになる…。
ということで、最初から最後まで凄腕の殺し屋同士が死闘を繰り広げるシンプルな物語である。背景にはスパイ陰謀らしきもの、人格形成に影を落とした家族の物語の側面も見られるのだが、それはあくまで舞台背景で、本筋は徹底したアクション・サスペンスである。
冒険活劇、殺し屋もの、ハードボイルドのファンにオススメする。
エージェント17 (ハヤカワ文庫NV)
ジョン・ブロウンロウエージェント17 についてのレビュー