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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数629件
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一部ではジョルジュ・シムノンの後継者と言われるフランスの作家の2022年の作品。同年のゴンクール賞、ルノードー賞などにノミネートされたというが、位置付けが難しい小説である。折り返しの紹介文には「文芸スリラー」とあり、ネットでは「オフビート・スリラー」、「ひねりのきいたノワール」、「風変わりな推理小説」などと形容されているらしい。
結婚生活に危機を覚えた男が妻との関係修復を目論んでシチリア島にバカンスに出かけたのだが、なぜかやることなすこと悪い方向に転がり、とんでもない結末を迎えるというドタバタ劇。主役の男の言動、心理が謎だらけだが、一緒に行動する妻の方もかなりの変わり者で、二人とも常識はずれである。そこを面白がれるなら高評価になり、そこで波長が合わなければ読んで損をしたとなる。読者を選ぶ作品である。表紙のイラストが本作のテイストをうまく表している。 |
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一ページから十数ページまで長短さまざまな26本を収録した短編集。軽妙なオチのある作品があれば、淡々と事実を綴った(ような)作品もあり、統一したテーマがある訳でもなく読み続けていて落ち着かない。
それぞれの作品が開く扉、覗ける穴は天国への道か、地獄への奈落か。一番感じたのは人生への諦め、諦観だった。 訳者あとがきを先に読む方が理解しやすいかもしれない。 |
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イギリスの人気作家グリフィスの「ハービンダー・カー刑事」シリーズ第3作。ロンドン警視庁に異動したカーが名門校の同窓会で起きた殺人の謎を解く、正統派の犯人探しミステリーである。
有名人が集まったマナーパーク校の同窓会で下院議員のゲイリーが死んでいるのが見つかった。現場に到着したカー警部は部下の刑事部長・キャシーが居ることに驚くが、キャシーも同窓生だったのだ。検視の結果、ゲイリーはドラッグによる死に見せかけた殺人であることが判明。犯人は同窓生だと判断し、カー警部は彼らの濃密な人間関係の中に動機を探すのだが、誰もが怪しく見え捜査は難航する…。 ヒロインのカーはインド系、独身、レズビアンというかなりのマイノリティーで、しかも表面的には穏やかだが内面は激情型の人物。捜査過程で漏らす心の内の本音が面白い。物語は21年前の事件が波及した多重殺人というよくある話だが、犯人探しはかなり難しい。帯の「意外な犯人に驚愕」とのセールストークはオーバーだが、いちばん怪しくない人物が犯人っていうセオリー通りかな。 英国謎解きのお好きな方にオススメする。 |
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2005年に刊行された、著者お得意の銀行員物語。いつも通りの勧善懲悪、ハッピーエンドで終わる銀行内部の闘いは予定調和と言えばそれまでだが読みやすく、読後感も爽快なので、どなたにもオススメできる。
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日本デビューの前作「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」が好評だったオーストラリア人作家の第二作。本作もまた、登場人物全員が怪しい謎解きミステリーである。
まぐれ当たりの処女作が売れただけの駆け出し作家であるアーネストが、なぜかオーストラリア推理作家協会の50周年記念イベントに招待され、ガールフレンドのジュリエットと参加することになった。旅は豪華な大陸縦断列車の貸切車両で、著名な作家たちと一緒だという。あわよくば、書き始められなくて焦っている新作へのヒントが得られるのでは、ひょっとして推薦文まで貰えるかと期待し、さらにジュリエットにプロポーズするチャンスと張り切ったアーネストだったが、早々に作家の一人が殺害され、またもや探偵役を果たすことになる。作家というクセのある人物揃いで、誰もが被害者を殺害する動機があり、素人探偵には雲を掴むような状態に陥った。そこに、第二の殺人まで発生し・・・。 前作の雪に閉ざされたリゾートから今回はオーストラリア大陸を縦断する長距離列車「ザ・ガン」の三泊四日の旅に舞台を移した犯人探し物語。信頼できる語り手が謎解きに必要な要素は全部並べ立てるフーダニットの王道に、タイムリミット要素が加味されたところが作者の腕の見せどころ。フェアプレーのための解説が少し煩わしいが、それも読者への挑戦を楽しんでいる故だろう。 謎解き、犯人探しマニアにオススメする。 |
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猪苗代湖で開催される音楽とアートのイベントのパンフに、毎年連載された短編を集めた連作短編集。著者が好きな音楽と絡めて、ちょっとふんわりした人情噺とお得意のスパイ話をミックスしたファンタジー作品である。
こちらの世界とあちらの世界を行き来する扉の出現が伊坂ワールドといえばそうなのだろうが、いまいち乗り切れなかった。 |
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ネロ・ウルフ・シリーズの中でも「アーノルド・ゼック三部作」と呼ばれる三部作の第一作。
ラジオ番組の放送中にゲスト出演していた競馬新聞発行者が絶命する事件が世間を騒がせていた。金欠に陥っていたウルフは自分から売り込み、調査を引き受ける。という犯人探しが主軸で、乏しい証拠にウルフと助手のアーチーが四苦八苦していると、さらに別の殺人事件の存在が分かり、ウルフは同一犯によるものと推理する…。 物語の展開がスローだし、挿入されるエピソードもシリーズ愛読者なら楽しめるのだろうが、ネロ・ウルフが初めての自分には少しも面白さが感じられなかった。最終的にはウルフと死命を決することになる宿敵・ゼックが数カ所、短時間の電話でしか登場しないのも拍子抜け。評価は6.5かな。 シリーズ愛読者、古典的ミステリーマニアにオススメする。 |
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デビュー作ながらイギリスで大ヒットし、映像化が進められているという犯罪スリラー。夢遊病、記憶喪失者の犯罪は裁けるのかをテーマにしながら犯人探しミステリーでもある。
友人二人が刺殺された現場で、ナイフを手にしたまま昏睡状態で発見されたアンナ。以後、容疑者でありながら四年間も眠り続けるアンナを裁判にかけたい英国政府は、犯罪心理学者のベンにアンナを覚醒させることを依頼する。ベンはこれまでに無い手法でアンナを覚醒させたのだが、アンナが目覚めると事件の様相は激しく変化し、事件捜査はますます混迷を深めていった…。 最後の最後に黒幕が判明し、全体像が分かるのだが、それまでのストーリー展開は逆転、逆転の連続で何が何だか・・・。ついていくのに骨が折れた。 謎解きミステリーではあるが、この事件の真相を解明できるのは作者しかいないだろう。むしろノワール・サスペンスとして読むことをオススメする。 |
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著者お得意の警察ミステリーと思って読み始め、中盤から終盤までは1930年代、満州国建国前の中国大連を舞台にした連続殺人事件捜査を楽しんでいたのだが、終盤になって一気にオカルト、怪奇ミステリーになっていた。
佐々木譲ファンであっても評価が分かれると思うが、これはこれで面白かった。 |
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アイスランドを代表するミステリー作家・インドリダソンの大ヒットシリーズ8作目。休暇中のエーレンデュルに代わり、いつもは脇役のシグルデュル=オーリ捜査官が主役となる社会派警察ミステリーである。
シグルデュル=オーリは旧友・パトレクルから「義理の姉夫婦が恐喝されているので助けてくれないか」と頼まれた。セックス・パーティで撮られた写真をネタに大金を要求されているという。何とか事態を収めようと恐喝者の元を訪れたシグルデュル=オーリは、恐喝者が倒れているのを発見したのだが、シグルデュル=オーリ自身も殴られ、犯人は逃走してしまった。恐喝者を追う警察捜査がメインで、そこにホームレスの男が謎の男を監禁している事件、空前の好景気に湧くアイスランドでの銀行絡みの金融犯罪が重なり、互いに絡み合いながら緊張感を高めていく。構成としては複雑だが、読者には徐々に相互関係が分かってくるので読みづらくはない。一点、物足りないのはシグルデュル=オーリの性格が魅力的ではないこと。人間味があると言えば、それまでなのだが。 しかし、エーレンデュルはいつ復活するのだろう? シリーズ愛読者はもちろん、北欧ミステリーのファンにオススメする。 |
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それぞれで完結した4作品の最後に一枚の写真があり、そこに隠された真相を発見しろという「体験型ミステリー」。4作品、どれも短編ミステリーとしては魅力に欠けるが、連作で繋がっていること、挑戦的なネタ隠しがあることが売りの意欲作である。
冒頭にネタバレの「ヒントサイト」のQRコードがあるので、最後には作者がいう「真実」を知ることができたのだが、それ無しでは1作品も真相を見つけられなかった。 推理マニアにオススメする。 |
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「向かない」シリーズで人気爆発したホリー・ジャクソンのシリーズ外作品。大型キャンピングカーで出かけた6人の若者が携帯も通じない場所で銃撃され、閉じ込められる密室サスペンスである。
高校生のレッドは無二の親友のマディ、同級生のサイモン、高校は違うが同級生のアーサー、お目付役としてマディの兄のオリヴァーとその恋人のレイナの6人で大型キャンピングカーでキャンプ場を目指していた。ところが道に迷い、立ち往生したところを何者かにタイヤと燃料タンクを銃撃され、まったく動けなくなった。パニックになった6人に追い討ちをかけるように、銃撃犯からトランシーバーが届き、6人の誰かが秘密を抱えており、本人がそれを明かさない限り解放しないと命じられた。期限は翌日明け方まで、車から逃げようとしたら撃つという。誰が秘密を抱えているのか、仲良しのはずの6人の間で疑心暗鬼の神経戦が繰り広げられることになった…。 逃げ場のない状況での腹の探り合いという、よくあるワン・シチュエーション・サスペンスにタイムリミットの緊迫感が加わり、読み進めるにつれてスリルが高まっていく。さらに、6人のキャラクターがきちんと立てられており、なるほどこう動くか、こう言うかと納得できるエピソードで畳み掛けてくるところは上手い。ただ、主人公のレッドの秘密が仄めかしばかりでなかなか明らかにされないため、中盤ややダレ気味なのが惜しい。 「向かない」シリーズとは異なるテイストを楽しめるミステリーとしてオススメする。 |
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第二次世界大戦後のフランス、ベトナムを舞台に繰り広げられる壮大な家族ドラマである。
ベイルートで石鹸工場を成功させたルイとアンジェエルのペルティエ夫妻はグズでダメ男の長男・ジャン、優等生の次男・フランソワ、同性愛者の三男・エティエンヌ、紅一点で末っ子のエレーヌの4人の子供を愛情いっぱいに育てていた。それぞれに個性的な4人だったが、成人するとみな、家を出るようになった。4人は兄妹として助け合う気持ちはあるものの、個性の違いからさまざまな波風は生じるのだが、ルイとアンジェル夫妻の大きな愛情に包まれて平穏な日々を送っていた。ところが、外人部隊員としてサイゴンで死亡した恋人を追憶してベトナムに移ったエティエンヌが、ある国家的スキャンダルに気が付いたことから、一家全員が驚くべき災難に巻き込まれてしまう…。 時代に翻弄される一族を描いたドラマであり、それほどの新奇さはないもののストーリー展開、キャラクター設定の面白さで800ページを超える大作もあっという間に読み終えた。 ミステリーや謎解きにこだわらず、大河ドラマとして読むことをオススメする。 |
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英国・米国では国際謀略系のベストセラーを連発している作家の本邦初訳(?)。N.Y.P.D.の内務局に勤める刑事が、自殺とされた妻の死に関する謎を一人で解明していくアクション・ミステリーである。
謹厳実直で同僚と言えども不正は許さない内務局の刑事・ジャックに、ワシントンD.C.で敏腕記者として活躍している妻・キャロラインの行方不明が告げられ、翌日、キャロラインの水死体が発見された。検死の結果、精神的に落ち込んでいたキャロラインの自殺と発表された。何事にも前向きで活発な妻の性格を知るジャックには自殺は信じ難く、さらに翌日、妻の弁護士から届けられた資料を見たジャックは「妻は何者かに殺害された」と確信し、真相を解明しようとする。だが、関連する捜査組織は動かず、逆に妨害され、さまざま脅迫を受けた。窮地に陥ったジャックは弟のピーターの助けを借り独自の調査を開始する…。 法に従う警察官としての義務と妻の復讐を果たしたい人情の間で葛藤する主人公だが、最後はやはり西部劇からのアメリカン・ルールで、銃での決着に至る。本作での悪役は政府情報機関と親密な民間諜報・暴力会社で、イラク、アフガン以来の悪しき側面が露骨に現れている。 理屈抜きに力は正義というアクションもののファンにオススメする。 |
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警察小説の巨匠・ウォーのデビュー作。1947年刊行で長く未訳だったものが78年ぶりに初邦訳されたという歴史的価値がある作品である。
N.Y.の私立探偵・シェリダンが美人妻・ダイアナと共に元大スターの富豪・ヴァレリーからの招待状を受け取り、郊外にある大邸宅を訪れた。著名な弁護士、産業界の大物、上流階級の子女、コラムニストなど招待客は揃ったのだが、肝心のホステスのヴァレリーが姿を現わさない。疑問に思ったシェリダンが邸宅の周囲を探ると、庭から続く森の中でヴァレリーが殺されていた。大勢の人を招きながら殺されたのは何故か? 招待客はもちろん執事夫婦にも怪しい動機が見え隠れする事態に巻き込まれ、シェリダンは地元警察署長のスローカムに協力し、事件の謎を解いていく…。 犯人探しの私立探偵もので、時代の流行に乗ったハードボイルド風味が強い。同時に、最後に全員を集めて探偵が犯人を名指しする古典的な探偵ミステリーでもある。後年のウォーの警察小説に比べれば未熟な部分も多いが、発表された年を考えれば傑作である。 歴史的価値を楽しめるミステリー愛好家にオススメする。 |
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アメリカの犯罪史上最も有名なシリアルキラー、テッド・バンディ事件をテーマにしたノワール・ノベル。何かと称賛される加害者に対し、現代の女性の視点から徹底的に叩きのめそうとする意欲作である。
1978年1月の深夜、フロリダ州立大学の女子寮に何者かが侵入し2人が殺され、2人が重傷を負った。寮を管理運営する支部長のパメラは犯人と鉢合わせ唯一の目撃者となったのだが、当初の供述が変遷したため保安官からは信頼されていなかった。そんなパメラに、わざわざシアトルから会いにきたティナという女性が4年前に友人のルースが行方不明になった事件と今回の事件は同一犯だと告げた。ティナが見せた指名手配写真を見たパメラは「この男だ」と確信し、保安官に知らせたのだが、二つの事件は無関係だと断定された。事件で亡くなった親友・デニースのために犯人を捕まえたいパメラはティナと協力して犯人を追う決意を固めた…。 性差別が罷り通っていた1970年代アメリカで当たり前のように流れた犯人の容姿や知性を讃え、英雄視する風潮に対する怒りが全編にみなぎっている。それは、被害者は無名のままに忘れられ、歪んだ加害者像が独り歩きすることへの全面的な拒否表明として、最後まで犯人の名前を書いていないことに象徴されている。その問題意識の鋭さ、意欲は買うのだが、事件発生時と現在を行き来する構成が効果を発揮せず、読みづらいのが難点。 忍耐強いノワール愛好家にオススメする。 |
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「56日間」で注目されたアイルランドの女性作家の邦訳第4作。妹が行方不明になったのは連続女性失踪事件の被害者だからと確信した姉が、自らを囮にして犯人に接近しようとするミステリー・サスペンスである。
一年ほど前、ルーシーの妹・ニッキが消息を絶ったのはアイルランドで相次ぐ若い女性の失踪事件に関係があるのではと疑ったルーシーだが、警察の捜査は停滞し、妹の情報もほとんど入ってこなかった。ニッキが複数の被害者のひとりに数えられ、世間の注目が薄れていると焦ったルーシーは自分だけでも妹を忘れないと、独自に情報発信し、さらには犯人に接触しようとする…。 失踪した妹を姉が探すシンプルな物語のようだが、途中に犯人の独白の章が挟まれることで様相が変化し、ストーリー構成が複雑で読み解きにくくなる。それが作者の狙いだろうが、その仕掛けは思うほどの効果を挙げていない。クライマックスのひとひねりは面白いんだけど。 技巧的な仕掛けがお好きな方にオススメする。 |
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2021年〜22年に新聞連載された長編小説。シングルマザーに置き去りにされた中学生の少女が母のホステス友だちに救われて同居し、スナックを共同経営し、カード詐欺に手を染め、ほとんど人格崩壊の憂き目に遭うノワールである。
出てくる登場人物が人格破綻や社会からドロップアウトした人間ばかりで、その中を必死で生き延びて行く少女の逞しさと脆さが、読者を不安に陥れる。悪いのは貧しさか欲望か、脱落者を生み出す社会構造か。階層分化が進む社会の一部分をリアルに描き出している。 ミステリー要素は期待せず、女性、特に若い女性の生きづらさが描かれたノワールとして読むことをオススメする。 |
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アメリカを代表する大家(日本ではそれほどの評価ではないが)の2024年度エドガー賞最優秀長編賞受賞作。1863年、南北戦争下のルイジアナ州を舞台にさまざまな立場で戦争に巻き込まれた人々の愛憎と倫理、信念を描いた一大戦争ヒューマン・ドラマである。
戦場で負傷し農園主である伯父の庇護下にあるウェイド、伯父が所有する奴隷ながら自立心堅固なハンナ、別の農園主殺害容疑でハンナを逮捕しようとするピエール巡査の三人の主要登場人物にピエールが心を寄せる解放奴隷のダーラ、北部から来た奴隷解放論者のフローレンス、ルイジアナに進駐してきた北軍のエンディコット大尉、脱走兵を組織して率いるヘイズ大佐などが絡んでくるストーリーは波乱万丈。単なる戦争の勝ち負けではなく、それぞれの信仰、愛、倫理、暴力がぶつかり合い、残酷であると同時に感動を呼ぶ。それにしてもつくづく、アメリカは暴力と信仰でスタートし、今もなお変わらない国なのだと痛感させられた。 ミステリー要素は今ひとつだが歴史、戦争、人間ドラマとしては傑作。オススメです。 |
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ラーソン亡き後も書き継がれてきたミレニアム・シリーズ。ラーゲルクランツの三部作が終了し、本作から作家がカーリン・スミルノフに変更になった新三部作である。
これまでのシリーズの骨格は受け継ぎながらも、ストーリー、キャラクターはかなり変化した。特に主役の二人、リスベットとミカエルに人間味が出てきたのが目を引く。この辺りは好き嫌いが分かれそうだが、個人的には好ましく感じた。全体的にアドヴェンチャー・ゲームのテイストで、現実感は乏しい。 突然登場したリスベットの姪・スヴァラはまるでリスベットの縮小コピー。言動も頭の働きも大人を凌駕する勢いで先行きが楽しみ。次作からは主人公になるのかな? これまでの6作品とは異なるエンタメ性の強い新ミレニアムとして楽しむことをオススメする。 |
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