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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数131

全131件 1~20 1/7ページ

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No.131: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

謎解き? ホラー? ファンタジー? とにかく長過ぎる

デビュー作「ボビーのためにできること」がマニアックな評価を得たハレットの第二作。カルト教団の集団死事件の謎を二人の犯罪ノンフィクション作家が追求する物語を、前作同様、メールやチャット、取材時の音声ファイルの書き起こし、ニュース記事などで構成している。徹底して地の文がなく、主役や脇役の区別も曖昧で、それでもキャラクターを理解しがら読めるのは作者の優れた構成力と言える。だがいかんせん登場人物が多いし、エピソード、シーンの転換が目まぐるしいので読みづらい。しかも長い。文庫で750ページだが、350ページぐらいでちょうどいいんじゃないか。
物語の基本は殺人の謎解きだが、それ以上にノンフィクション作家の日常、競争心、プライドなどの周辺情報が多く、また事件の背景もホラーかファンタジーかサイコパスか、さまざまな要素が混ざりすぎてスッキリしない。
前作が気に入った人にしかオススメできない。
アルパートンの天使たち (集英社文庫)
No.130:
(6pt)

冗長なだけ。凡作と言わざるを得ない

驚異的なロングシリーズを続けている「イブ&ローク」シリーズの57作目。人気俳優夫妻が開いた豪華パーティーで主催者の俳優が毒殺されるという派手な事件が主題の華やかなロマンス・ミステリーである。
ニューヨークの高級ペントハウスで開かれたパーティーの最中に、主催者である大スターがシャンパンに入れられたシアン化物で毒殺された。200人を超える招待客や大勢の裏方スタッフ、しかも参加者は映画、演劇、マスコミの関係者ばかりで目撃証言も素直に信頼できず、イブたちの捜査は困難を極める一方だった。それでもイブは、25年前に被害者の妻が関係した悲劇的な事件との繋がりを見つけ、徐々に捜査の網を絞っていく・・・。
明確な物証がなく、状況証拠と推測だけで謎を解くストーリー展開は冗長でツイストがなく、ミステリーとしては失敗作と言わざるを得ない。
シリーズ愛好者以外にはオススメしない。
死者のカーテンコール イヴ&ローク57 (mirabooks)
No.129: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

犯人探しマニアでないと、ちょっとウザい

大人気になったピップ三部作が終わった後に登場した、「自由研究には向かない殺人」の前日譚。試験が終わった週末に高校生の友だちが集まり、犯人当てゲームを開催するのだが、読者にも同時進行で情報やヒントが与えられる犯人探しミステリーである。
ゲームの参加者は7人、舞台設定は1924年の孤島にある富豪の屋敷という犯人探しでは鉄板のシチュエーションで、読者と著者の知恵比べがメインの作品。このジャンルが好きな方には垂涎の内容だが、高校生と彼らが演じる登場人物とが入り混じり、読みづらいことこの上ない。
犯人探しマニア以外にはオススメしない。
受験生は謎解きに向かない (創元推理文庫)
No.128:
(6pt)

たどたどしいリード、肩透かしの終盤。もどかしさが募る

著者が得意とするイジメ、罪と罰、加害と被害の公平さをテーマにした書き下ろし作品。物語の構成はミステリー的だが、ストーリーはヤング・アダルトな自分探しである。
新人文学賞の最終候補になりながら落選した15歳・中学3年生の少女が教室で同級生を刺殺した。少女が「最終候補で落選。哀しいので明日、人を殺します」とコメントを付けて自分の小説を投稿したため、ネットで騒動になる。受賞作より落選作の方がいい、コネで受賞したのだろう、などと誹謗中傷された受賞作家が追い詰められ「自分が受賞して申し訳ない」と残して自殺したため、担当編集者は自責の念に駆られる。一方、加害者の少女は犯行動機を二転三転させ、少年院で入所者の更生を手助けする篤志面接委員に「私の本当の犯行動機を見つけてください」と語る。何が少女を犯行に導いたのか…。
犯行動機を解明するのがメインの物語で、最後にどんでん返しも仕掛けられているのだが、読んでいる時はミステリーであることを忘れてしまう。犯行からその波紋、担当編集者、篤志面接委員、犯人のキャラクターが明らかになるリード部分はたどたどしく、犯行動機の解明プロセスも同じテーマの堂々巡りでテンポが悪い。ミステリーというよりは、若者の社会的成長や常識形成を巡るヒューマン・ドラマというべきか。2時間ドラマなら高評価されそうな作品だ。
この限りある世界で
小林由香この限りある世界で についてのレビュー
No.127:
(6pt)

思春期に読めば、評価は違っただろうが

米国YA作家の長編ミステリー。銀行強盗に遭遇した17歳の少女が、子供の頃から身に染み込まされてきた詐欺師の技を発揮して仲間と共に強盗を撃退する物語であり、かつ詐欺師にされてしまった過去に決別する物語でもある。
17歳のノーラは恋人のアイリス、元カレで親友のウェスと銀行を訪れ、強盗事件に巻き込まれてしまった。銃を持った二人組に人質にされた3人は、詐欺のテクニックに優れたノーラの知恵をもとに力を合わせて強盗たちを騙し、脱出に成功する。というのが、強盗撃退のアクション・サスペンス部分。そこに重なるのが、なぜノーラが詐欺のテクニックを身に付けたのかという過去の生い立ちとそれへの決別を決意する青春成長物語である。
アクション・サスペンスよりノーラの精神的な苦悩、成長、仲間との絆、家族への想いなどヒューマン・ドラマの部分の方が重要性が高く、ミステリーとしてはイマイチ。青春ドラマとしては複雑、重厚な展開で、思春期であれば、また違った読み応えがあるだろう。
YA小説のファンにならオススメできる。
詐欺師はもう嘘をつかない (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.126:
(6pt)

これほどイライラさせる主人公も珍しい

スティーグ・ラーソン亡き後「ミレニアム」第4〜6部を書いた作者の新シリーズ第一弾。上流階級の心理学者と貧困層出身で移民の女性警官という異色コンビが主役のバディ・ミステリーである。
サッカーの審判員を務めたアフガン難民の男性が試合後、撲殺死体で発見された。試合中の判定に不満を爆発させた男による突発的で単純な暴力事件と判断されたのだが、逮捕されたイタリア系移民の男は頑強に否認し続ける。何とか自白を引き出したい警察は貧困層出身で移民の女性警官・ミカエラと、上流階級出の心理学者で尋問の専門家・レッケ教授を操作チームに迎え入れた。水と油のごとく対照的で混じり合うことがないと思われた二人だったが、鬱症状から自殺を図ろうとしたレッケをミカエラが助けたことをきっかけに奇妙な協力関係を築き、事件の背景に国際的なスキャンダルが隠されていることを突き止めていく…。
これまでに無い組み合わせのバディもので、殺人事件の謎を解くミステリーとしての筋立ても良くできている。が、いかんせん主人公の性格、言動、才能が異色すぎて少しも共感が呼び起こされない。読書中、これほどまでにイライラさせるヒーローには会ったことがなかったほど。シリーズは三部作というが、次作を読む気にはならなかった。
北欧ミステリーやミレニアム・シリーズの流れを期待すると、残念ながら裏切られるだろう。
闇の牢獄
ダヴィド・ラーゲルクランツ闇の牢獄 についてのレビュー
No.125: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

2時間ドラマにぴったり

3本の中編を収録した上水流涼子シリーズの第2弾。どれも読みやすくて、印象に残らない。天海祐希、松下洸平の顔がパッと浮かんでくる、2時間ドラマの原作みたいな作品である。
読むのが無駄とは言わないが、読まなくてもいいかなぁ〜程度の作品。
合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明

No.124:

RANK

RANK

真藤順丈

No.124: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

漫画にすれば良かったのに

著者の初長編で「第3回ポプラ社小説大賞特別賞の受賞作。監視カメラ等による言動監視によって大衆をランク付けして管理するシステムに支配される2019年の悪夢を描いた、近未来ディストピア小説である。
道州制となった日本、関東地方では常に全州民のランク付けが行われており、最下位層に落ちた州民は特別執行官によって逮捕・処分されるというシステムが完成していた。その特別執行官の一人・春日は執行対象者に感情移入してしまう弱さを持っていた。対照的に佐伯執行官は業務に忠実という以上に嗜虐性が強く、役所内でも問題にされていた。この二人の対立を中心に、管理システムに反逆するゲリラ、抵抗組織の暴動が絡んできて、超高度監視社会の問題点が次々にあらわにされていく。
2009年の作品だが、実に鋭く監視社会のディストピア状況を先取りしており、2023年の現在にあっても全く古さを感じさせない。物語の骨格は素晴らしい。ただ、残虐なシーンの描写、ストーリー展開などがあまりにも荒唐無稽でリアリティがない。小説ではなく漫画だったら、もっと物語世界に入っていけただろう。
アクション漫画のファンにオススメする。
RANK
真藤順丈RANK についてのレビュー
No.123: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

話の構成は面白いのだが、まとまりが悪い

オーストラリアのYAの人気作家が初めて書いた大人向け作品。イギリスとフランスを舞台に過去と現在の爆破事件が絡み合う、社会性の強いミステリー・サスペンスである。
署内トラブルが原因で停職中の警察官・ビッシュは17歳の娘・ビーが参加したキャンプツアーのバスがフランス・ノルマンディーで爆破されたと知らされ、急いで現場に駆けつけた。娘は無事だったが多数の死傷者が発生し、現場は混乱していたためビッシュは事件捜査に関与することになった。さらに、イギリスからのツアー参加者にかつて23人が犠牲になった爆弾事件の犯人の孫娘で17歳のヴァイオレットが含まれていることが判明し、イギリス情報部が調査に乗り出してきた。だが、ヴァイオレットは事情聴取のあと、同じくツアー参加者で13歳の少年・エディと共に姿を消してしまった。イスラム系テロリストの孫で逃亡したヴァイオレットとエディは差別主義者の憎悪の対象とされ命の危険もあると危惧するビッシュは、二人を保護するために行方を追うのだが、巧みに逃げ回る二人になかなか追い付くことができなかった…。
ヨーロッパにおける人種間対立、テロ事件を背景に家族の絆、親子の情愛を絡めた物語や個々のエピソードは面白いのだが、登場人物の数が多く、その関係性が分かりにくいため読み進めるのに苦労した。もう少し話が整理されていれば、さらにサスペンスがあっただろう。
粘り強く読み進められる方にオススメする。
ヴァイオレットだけが知っている (創元推理文庫)
No.122: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

物語はまずまずだが、とにかく読みづらかった

イギリスの新人作家のデビュー作。帯に「21世紀のアガサ・クリスティー」とあるように、読者挑戦型のオーソドックスな犯人探しミステリーである。
英国の田舎町で素人劇団を主宰する有力者・マーティン・ヘイワードは孫娘・ポピーが難病を患い、最新の治療薬を受けるには莫大な金が必要だと告白する。とても一家では賄いきれない治療費を支援したいと考えた劇団員たちは募金活動を立ち上げ、さまざまな方法で資金を集めようとする。そんな中、劇団員で看護師のイジーが紹介して新メンバーになった同じ看護師のサムが治療薬の存在とポピーの担当医・ティッシュに疑義を唱え出す。どうやらサムとティッシュの間には浅からぬ因縁があるようだった。さらに思うような金額が集まらない上に、マーティンが詐欺に引っ掛かり大金を失ってしまった…。
募金活動と劇団員間の人間関係が煮詰まって、結局は事件が発生するのだが、それまでの前置きがとにかく長い。登場人物の性格を浮き上がらせるために必要なものだが、事件発生が全体の2/3を過ぎてからというのは、いくらなんでも。さらに、推理の元になる素材は被疑者を担当する弁護士が若手二人に「これを元に真相を解明しろ」というもので、読者も同じものを読まされるわけだから謎解きミステリーとしてはフェアと言えば、これほど公平なものもないが、内容はメールやメッセージのやり取り、部分的な新聞記事や捜査資料などで、しかも登場人物がやたらと多いので、何度も何度も「主な登場人物」を確認しないと先に進めず、読み進めるにはかなりの忍耐力が必要だった。
クリスティー系統の読者挑戦型謎解きのファンには興味深いだろうが、それ以外の人にはオススメしない。
ポピーのためにできること (集英社文庫)
No.121: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

話がとっちらかって、収集できなくなったみたいで(非ミステリー)

「三千円の使いかた」がブームを巻き起こした著者の一連の節約小説である。
テレビの特番の常連「大家族もの」の一員として育ち、金も常識も意欲もない貧乏でブスの若い女性が、謎めいた老女に資産形成を教わるというのが主題だが、脇のエピソードが多いというか多彩すぎて、肝心のメイン・エピソードが力不足。節約小説としても、ノワール系エンタメとしても中途半端というしかない。
老人ホテル
原田ひ香老人ホテル についてのレビュー
No.120:
(6pt)

タンゴ、タンゴ、タンゴ愛に満ちた政治歴史サスペンス

ドイツ人作家によるタンゴ愛に貫かれた長編小説。タンゴダンサーとバレエダンサーの恋をメインに、ドイツとアルゼンチンの近代史の負の遺産を描いたサスペンスである。
バレエの世界での成功を夢見る19歳のジュリエッタはベルリンに滞在中の23歳のアルゼンチン人・ダミアンのタンゴを見て、衝撃的な恋に落ちた。しかし、夢のような時間はあっという間で、ダミアンはジュリエッタの父親を監禁したまま放置して姿を消してしまう。傷心のジュリエッタはダミアンが逃亡したアルゼンチンに飛び込み、ダミアンに会って真意を聞こうとする。だが、言葉もロクに通じないブエノスアイレスでの人探しは難航し、ダミアンを見つけるどころか、謎が深まるばかりだった。所属するバレエ団との約束で帰国しなければならなくなったジュリエッタだったが、迎えにきた父親と出発する直前の空港でダミアンと接触したことから、再びブエノスアイレスの街に戻って行った…。
バレエダンサーとタンゴダンサーの華やかな恋を中心に、ジュリエッタの父親とダミアンの隠された謎が重ねられ、政治と歴史が絡むサスペンスに仕上げられている。ダンスと政治、どちらに重点がということではなく、どちらも重点を置かれている。従って、どちらかに興味がなければ退屈な部分が多いことは確かだ。
1960〜80年代の政治史、タンゴそのものに興味がある方にオススメする。
殺戮のタンゴ (Hayakawa novels)
No.119: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

構成に凝りすぎて、面白さが欠落した

世間を騒がせた首都圏連続練炭殺人事件をヒントにした、ワイダニット・ミステリー。事件をそのままなぞったのではノンフィクションになってしまうので、ひと捻り、ふた捻りして、別の構造の事件に仕立てようとしたのだろうが、事実の大きさに太刀打ちできず、物語としても破綻したような作品である。
文中で何箇所か、それなりに重要な箇所に誤植が見られたのも残念。
傍聴者
折原一傍聴者 についてのレビュー
No.118: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ストーリーは波乱万丈、でも味わい深い物語がない

2018年、フォーサイス80歳の長編小説。天才ハッカーを見出したイギリスの老スパイが敵対国のシステムを次々に破壊していく国際謀略小説である。
アメリカ国家安全保障局のシステムに何者かが侵入した。激怒したアメリカはイギリスの田舎町に住む犯人を特定し、英国特殊部隊に逮捕、引き渡しを要求する。しかし、英国首相の安全保障アドバイザーであるウェストンは、犯人がアスペルガー障害を持つ18歳の若者だ太ことから、米国に引き渡して厳罰にするより、彼の天才を利用することを英米の首脳に提案する。フォックスと名付けられた天才ハッカーはウェストンの指示の下、ロシア、イラン、北朝鮮などを相手にしたサイバー攻撃「トロイ作戦」をスタートした。
実在の人物、現実に起きた事件を想起させるストーリーで、生々しい国際情勢と情報戦の実態がリアリティたっぷりに描かれている。しかしいかんせん、よくできたノンフィクションを読まされているようで、ストーリーは面白いのだが、それを膨らませる物語性がなく、ワクワクするような感動はない。
現代のスパイ活動の一端を知るには格好の作品だが、そこだけで終わっているのが残念。
ザ・フォックス (角川文庫)
No.117: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

華やかな恋愛、意表を突く犯人。でも冗長だ

「彼女のいない飛行機」、「黒い睡蓮」に続くフレンチ本格謎解きミステリーである。
27年前に父親の故郷・コルシカ島でのバカンス中に交通事故で父、母、兄を亡くし一人残されたクロチルドは、自分の娘に祖父母の悲劇を伝えるために夫、娘を連れてコルシカ島を訪れた。すると、滞在先のバンガローに一通の手紙が届き、そこにはまぎれもなく母の筆跡で「あなたの姿を見たい」と書かれており、母とクロチルドしか知らないはずの事柄が書かれていた。事故で死んだはずの母は生きているのか? 亡くなったのなら、この手紙は誰が、どんな意図で寄こしたのか? 謎にとりつかれたクロチルドは当時の事情を知る人々を訪ね、調べ始めたのだが、身辺にはさらに不可解なことが頻発し、謎は深まるばかりだった…。
27年前の事故の真相、現在の母の生死という大きな二つの謎が密接に絡み合う複雑怪奇なストーリーが、27年前はクロチルドの秘密日記、現在はクロチルドの語りで展開される。その中に、コルシカ島独自の文化の明と暗、若者たちの恋愛、大人の恋と不倫などがちりばめられている。よく言えば単純な謎解きだけではないきらびやかな物語だが、意表を突く謎解きの部分も含めて緊迫感に欠けるものとなっているのが残念。
第一作「彼女のいない飛行機」が傑作だっただけに、作品ごとにガッカリ度合いが高まっているのが惜しい。
時は殺人者 上 (集英社文庫)
ミシェル・ビュッシ時は殺人者 についてのレビュー
No.116:
(6pt)

物語とはすべて夢の産物(非ミステリー)

傑作「流」はこの小説に結実した!、というセールストークに見事に騙された。
これは家族の物語であり、作家の自己確認の物語である。読者にとって面白いかと言えば、何とも言えない。
ストーリーはそれなりに面白いのだが、読むことで何かが得られたという感覚はなかった。
怪物
東山彰良怪物 についてのレビュー
No.115: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

枝葉が多すぎて、花も実も見えない森に迷い込んでしまう

アメリカでは大ベストセラー作家と言われるコーベンの2020年の作品。70歳を超える女性刑事弁護士が、謎多き天才調査員とともに失踪した女子高校生を探すうちに予想外の秘密を暴いてしまう、サスペンス・ミステリーである。
冠番組を持つ売れっ子刑事弁護士のヘスターは孫息子のマシュウから「同級生でいじめられっ子のナオミが姿を消したので探して欲しい」と頼まれる。ヘスターは亡き息子の親友で調査員のワイルドに協力を依頼する。ワイルドは34年前に森の中で一人で暮らしていたところを発見されたという特異な過去を持っており、いまだに社会になじまず、森の中で孤立した生活を続けていた。個性が強すぎる二人だが、力を合わせることで誰もが想像もしなかった真相にたどり着くのだった。
主要な二人をはじめ、登場する人物がそれぞれかなりなキャラクターの持ち主で、人数が多く関係が錯綜する割には読みやすい。ただ物語の肝になるのが何なのか? いじめ、SNSの闇、性差別、DNA検査、親子・家族の在り方などなど、背景になる要素、エピソードが多すぎてストーリーの骨格がぼやけてしまっている。最後の問題解決方法も、イマイチ納得しずらい。一言でいえば、まとまりの悪さが残念というしかない。
森から来た少年 (小学館文庫 コ 3-3)
ハーラン・コーベン森から来た少年 についてのレビュー
No.114:
(6pt)

不可解を重ねて最後は快刀乱麻の本格派密室ミステリー

フランスのディクスン・カーとして知られる(知らなかったが)アルテの1994年の作品。幽霊や怪人が登場する密室事件を名推理で解き明かす、名探偵・ツイスト博士シリーズの一作である。
ロンドン警視庁のハースト警部とツイスト博士のもとに「毎日、不審な手紙を届ける奇妙な仕事を頼まれた」という失業者と、「暗号のような言葉を残して美女が消えた」という青年が相談に来た。どちらも「しゃがれ声の男」が登場することに気づいたツイスト博士は調査に乗り出し、しゃがれ声の男からの電話でロンドン郊外の小さな村の無人の屋敷に導かれた。そこは5年前に偏屈な老人が孤独死した屋敷で、幽霊が出るとの噂があり、屋内には無数の古靴が並べられていた。しかも室内には埋葬されたはずの元住人の死体があった。ドアも窓も内側から施錠され、積み重なった5年分の埃はどこも乱れていなかった。死体は空中を飛んで来たのか? 幾重にも重なる密室の謎を、ツイスト博士は「哲学的思考」で解いていく…。
ありえないような動機と手段の犯罪で、本格謎解きミステリーのファンにはおススメできるが、現在の社会性が強いミステリーを読んできている読者には物足りないだろう。読者を選ぶ作品である。
死まで139歩 (ハヤカワ・ミステリ(1974))
ポール・アルテ死まで139歩 についてのレビュー
No.113: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

作者(主人公ではなく)が万能すぎて白ける

懸賞金ハンター「コルター・ショウ」シリーズの第2弾。ショウが単身、山の中に孤立したカルト教団の研修施設に潜入し、教祖の悪辣なたくらみを暴くアクション・サスペンスである。
悪の集団の秘密を暴き、カルトに囚われた人々を救出するとともにサバイバリストだった父に教え込まれたスキルをフルに発揮してピンチを乗り切り、無事に帰ってくるというスーパーヒーローもののパターン。背景となるのがワシントン州の奥の山地という点ではC.J.ボックスのジョー・ピケット・シリーズを思い起こさせるが、あれほど自然の雄大さや美しさに依拠した作品ではない。自然環境はあくまでもショウのサバイバル能力を引き立てるための舞台と言える。ストーリー展開もどんでん返しも、ディーヴァー作品ならこう来るだろうという想定の範囲内で収まってしまっている。ストーリーのポイント・転換点があまりにもヒーローに都合よく進むのもちょっと白々しい印象である。
ディーヴァーのファンなら読んで損はないだろうが、ディーヴァー作品が初めてという方にはオススメしない、ぜひリンカーン・ライム・シリーズから読み始めていただきたい。

魔の山
ジェフリー・ディーヴァー魔の山 についてのレビュー
No.112: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

新型コロナ騒動の先取り?(非ミステリー)

2019年の書き下ろしなのに、まるで20年からの新型コロナ騒動を予知していたかのような内容に驚かされる。さらに、小説とイラスト(挿画というより劇画的な)との組み合わせも効果的で、いろいろな意味でインパクトがある作品だ。
ストーリーは、全編伊坂幸太郎ワールド。そのファンタジーが楽しめる人にオススメする。
クジラアタマの王様 (新潮文庫)
伊坂幸太郎クジラアタマの王様 についてのレビュー