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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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スティーグ・ラーソン亡き後「ミレニアム」第4〜6部を書いた作者の新シリーズ第一弾。上流階級の心理学者と貧困層出身で移民の女性警官という異色コンビが主役のバディ・ミステリーである。
サッカーの審判員を務めたアフガン難民の男性が試合後、撲殺死体で発見された。試合中の判定に不満を爆発させた男による突発的で単純な暴力事件と判断されたのだが、逮捕されたイタリア系移民の男は頑強に否認し続ける。何とか自白を引き出したい警察は貧困層出身で移民の女性警官・ミカエラと、上流階級出の心理学者で尋問の専門家・レッケ教授を操作チームに迎え入れた。水と油のごとく対照的で混じり合うことがないと思われた二人だったが、鬱症状から自殺を図ろうとしたレッケをミカエラが助けたことをきっかけに奇妙な協力関係を築き、事件の背景に国際的なスキャンダルが隠されていることを突き止めていく…。 これまでに無い組み合わせのバディもので、殺人事件の謎を解くミステリーとしての筋立ても良くできている。が、いかんせん主人公の性格、言動、才能が異色すぎて少しも共感が呼び起こされない。読書中、これほどまでにイライラさせるヒーローには会ったことがなかったほど。シリーズは三部作というが、次作を読む気にはならなかった。 北欧ミステリーやミレニアム・シリーズの流れを期待すると、残念ながら裏切られるだろう。 |
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本国ノルウェーでは第17作まで刊行され、ドラマ化もされて大人気の「警部ヴィスティング」シリーズの邦訳第5弾。「カタリーナ・コード」に始まる未解決事件四部作の最終作である。
夏休みで暇を持て余していたヴィスティングのもとに差出人不明の封筒が届き、入っていた白い紙には「12-1569/99」とだけ書かれていた。意味することろは、コード12(ヴィスティングが所属する署の隣接署)の管内で99年に起きた事件の番号である。1999年7月に17歳の少女が強姦殺害され、元恋人の若者が逮捕され、禁錮17年の刑を言い渡された事件だった。被害者の体内から採取された精液のDNAが元恋人のものと一致しており、何の疑いもない、単純な事件に思われた。なのに、匿名の差出人は何を言いたいのか? 捜査担当者でもなかった自分に送りつけてきた意図は何か? 興味を引かれたヴィスティングは休暇中にも関わらず、古い捜査資料を取り寄せ、独自に調べ始めたのだが、追いかけるように二通目が届き、今度はヴィスティング自身が担当した事件の番号が書かれていた。こちらは2001年に17歳の少女が強姦殺害され、犯人は逮捕され、服役したという類似したケースだった。二つの事件の再捜査を進めようとしたヴィスティング、終わった事件をなんで今さら調べるのだと、周囲からは理解されなかったのだが、国家犯罪捜査局の未解決事件班の支援を受け、徐々に真相に迫っていった。 まさに北欧警察ミステリーの王道を行く犯人探しミステリーで、証拠と証言をベースに最新のIT技術の手助けも受けながら、地道に粘り強く謎を解きほぐしていくプロセスが真に迫っている。伏線を張り巡らせて読者を翻弄することはなく、派手なアクションや残虐シーンで驚かせることもなく、推理と捜査結果の捻りだけでハラハラ・ドキドキさせる。作者の警察官としての実体験をベースにしたという四部作の掉尾を飾るにふさわしい傑作エンターテイメントである。相変わらず、表紙イラストだけは残念だが。 四部作とは言え、各作品は独立しているので、本作だけを読んでも全く違和感はない。北欧ミステリーファンなら必読、とオススメする。 |
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2022年のエドガー賞最優秀新人賞に輝いた作品。1985年11月、冬を迎えるネブラスカ州の田舎町で起きた女子高校生失踪事件が巻き起こした町の人々の動揺、疑心暗鬼、摩擦や衝突、許しや受容をシビアに描いたヒューマン・サスペンスである。
美人で成績優秀なチアリーダーとして人気の女子高生・ペギーが失踪した。田舎町から出たいと常々語っていたペギーは家出したのか、あるいは事件に巻き込まれたのか? 憶測と噂が駆け巡る町では、ペギーに片想いしていた知的障害の青年・ハルに疑惑の目が集まって来た。頼りにならない実母に代わってハルの保護者となっていた農場主のクライルとアルマ夫妻は、必要な自己弁護ができないハルの代弁者として無実を証明しようと奮闘する。一方、ペギーの弟・マイロも大好きな姉を見つけるために、町の人々の言動に細心の注意を払い、不可解な姉の行動の記憶を思い出していた。お互いが全てを知り尽くしているような濃密な人間関係が支配する田舎町で起きた事件は、人々が隠してきた秘密を明らかにし、否応なく新たな日々へ人々を導くのだった。 女子高生が失踪し、周りの偏見から被差別状態に置かれていた青年が犯人視されるという、珍しくないパターンの作品だが、登場人物の関係性、個性、それぞれの悩みや秘密、葛藤がリアリティ豊かに描かれており、最後まで目が話せないサスペンスフルなヒューマン・ドラマを楽しめる。読者はきっとクライル、アルマ、ハルの誰かに感情移入し、ハラハラドキドキしながら結末を迎えることだろう。 謎解きより人間ドラマに惹かれる人にオススメする。 |
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北欧を代表する作家・マンケルの最後の作品で、CWAインターナショナルダガー受賞作。70歳の孤独な男が過去に囚われながら現在に苛立ち、やがて来る死を受容するヒューマンドラマである。
医師を引退し、祖父母から受け継いだ小島に一人で暮らしていたフレドリックの古い家が全焼した。住む家も思い出の品々も全てを失ったフレドリックは、同じ島に娘のルイースが置いて行ったトレーラーハウスで不自由な生活を余儀なくされる。さらに、火事の原因は放火と断定され、フレドリックが保険金目当てに自作自演したのではないかと疑われた。唯一の身内であるルイースが島を訪れ、しばらく一緒に生活していたのだが、ある日突然、姿を消してしまった。暮らしを再建するために細々とした用事をするとともに放火犯を見つけようとしたフレドリックだが、何も判明しないうちに、ルイースから「フランス警察に逮捕された、助けてくれ」というSOSを受け取り、急遽、パリへ赴いた。 70歳の孤独な男が暮らしを再建する中で家族との関係、親子の関係を回顧し、悩み、後悔し、さらにかつて何度も訪れたパリでも過去に囚われながら、娘との新しい関係性を作り出そうとするのがメイン・ストーリー。それに放火犯探し、さらには30歳ほども年下の新聞記者・リーサへの恋情が絡んで来る。ミステリー要素は重視されておらず(放火犯は、途中で予測がつく)、70歳を過ぎて左足用の長靴2個だけで人生を歩むような男の不安感、焦燥感、諦観を丁寧に描写した老境小説と言える。前作「イタリアン・シューズ」を受けた作品だが、独立した作品であり、前作を読んでいなくても問題ない。 ミステリーというより、老いの受容の物語として、ある程度の年齢以上の方には共感を呼ぶ作品である。 |
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3本の中編を収録した上水流涼子シリーズの第2弾。どれも読みやすくて、印象に残らない。天海祐希、松下洸平の顔がパッと浮かんでくる、2時間ドラマの原作みたいな作品である。
読むのが無駄とは言わないが、読まなくてもいいかなぁ〜程度の作品。 |
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デビュー第2作「黒き荒野の果て」でアメリカのハードボイルド、ミステリーの各賞を獲得し、本国はもちろん日本でも絶賛された注目の新進作家・コスビーの第3作。なんと2年連続で3冠受賞という快挙も納得できる、さらにパワーアップした超傑作ハードボイルド・ノワールである。
ギャングの一味として殺人を犯し服役したアイクは15年前に出所後、犯罪社会と決別し小さな造園会社を経営して地道に暮らしていたのだが、ある日、息子が殺害されたことを知らされる。一人息子だったアイザイアが、同性婚相手の白人青年・デレクと一緒にワインバーから出てきたところを銃撃されたという。同性愛の息子を理解できず、ギクシャクした関係になっていたアイクは警察の捜査が進まないことにイライラしながらも、自分から行動することはなく、悶々とした日々を送っていたのだが、2ヶ月後、デレクの父親・バディ・リーから息子たちの墓が破壊され、侮辱的な落書きがされたことを知らされた。同性愛を許すことはできなくても、心の底では愛していた息子のために、アイクは必要ならば犯人を殺害する覚悟でバディ・リーと二人で犯人を探すことを決意した。 共に犯罪者だった二人のジジイが自分たちが信じる正義のために巨大な暴力に暴力で対抗するという、古くからのアメリカン・ヒーローものの流れだが、性的少数者差別、人種差別を真正面から絡めたことで、まさに21世紀のハードボイルド・ノワールになっている。誰が正義か、何が正義かを問う骨太のハードボイルドに、親子や家族の複雑で繊細なドラマ、さらに謎解きの面白さ、容赦ないアクションの華々しさも加わり、いろんな側面から楽しめる超一級エンターテイメント作品と言える。 前作が気に入った方はもちろん、すべてのハードボイルド、現代ノワール小説のファンに自信を持って「必読」とオススメしたい。 |
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アイルランドの新進作家による長編第5作で、本国を始め英語圏では高く評価された2021年の作品。2020年、コロナのパンデミックに襲われたダブリンを舞台に、出会いと別れ、お互いの秘密と恋情、過去と現在が複雑に絡み合い、どうしようもなく悲劇の結末を迎えてしまった男女の恋愛サスペンス・ミステリーである。
コロナによるロックダウン中のダブリンの集合住宅で、死後2週間以上経ったと思われる男性の腐乱死体が発見された。住人であることは間違いないようだが、身元がはっきりしなかった。その56日前、スーパーのレジで出会ったオリヴァーとキアラはすぐに意気投合し、ぎこちないながらも付き合いをスタートさせた。お互いに恋愛下手を自認するふたりだったが、自由に出歩けないロックダウンという事態に急かされ、オリヴァーの家で同居することになる。だが、関係が深まるとともに、それぞれが抱えているらしい秘密が垣間見えてきて、もどかしい思いに苛まれるようになる。一方、警察が身元調査により特定した被害者は、かつて有名な少年事件の当事者だった。過去と現在が交錯しながら明らかにされた事件の真相は…。 男女の出会い、恋愛の深化、そして悲劇の死へ、というプロセスはありきたりの恋愛サスペンスだが、ロックダウンという異常な舞台、過去と現在を行き来しながら明かされるお互いの秘密というスピーディーなストーリー展開が見事で、緊迫感のあるタイムリミット・サスペンスに仕上がっている。オリヴァーとキアラ、どちらが真実を語り、どちらが作為で騙っているのか? 最後までハラハラさせて読者を引っ張っていくパワーがある。 イヤミスではない、恋愛サスペンスのファンにオススメする。 |
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ゴダール監督の長編映画「はなればなれに」の原作となった、1958年の作品。若く軽薄な三人が軽いノリで立てた現金窃盗計画が思わぬ結果を招いてしまう、サスペンスフルなクライムノベルである。
22歳の前科者同士のスキップとエディは職業訓練のための夜間学校で17歳のカレンと出会い、彼女の養親である老婦人の家に大金が隠されていることを知った。金の持ち主はラスベガスのカジノ関係者らしいのだが、たまにしか顔を見せず、しかも現金は無防備に保管されているという。「ちょろい仕事」だと考えたスキップはエディを仲間に引き込み、カレンをそそのかして深夜に忍び込む計画を立てる。誰も傷つけず、一晩で大金をせしめるはずだったのだが、スキップが同居する叔父で前科者のウィリーに計画を漏らしたことから歯車が狂い始め、思いもかけない結末を迎えることになる…。 無軌道な若者がちょっとしたことで運命を狂わせていく、青春ノワールではよくあるパターンの物語だが、関係してくる大人たちが癖のある人物ばかりで、そこに生じる複雑な人間ドラマ、心理ドラマが作品の味わいを深くしている。ゴダールの映画(優れた作品だが、優れたサスペンス映画ではない)に比べると数段サスペンスフルなミステリーである。 映画の原作という評価は関係なく、古さを感じさせない青春ノワールの傑作であり、多くのクライムノベル・ファンにオススメしたい。 |
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後書きと謝辞にある通り映画「タワーリング・インフェルノ」にインスパイアされた、超一級のパニック小説。日本が舞台のパニック小説はさほど面白くないものが多いが、本作はそんな思い込みを覆す傑作エンターテイメントである。
東京の新たなランドマークとなる地上100階建て、高さ450メートルの超高層タワービルが営業初日に火災に襲われる。ショッピングフロア、ビジネスフロア、ホテルフロアには数万人が押し寄せており、しかも100階のホールでは千人を集めたオープニング・セレモニーが行われていた。最新の防災設備を備えた超高層タワーで火災が起きるはずがない、そんな思い込みや願望から初期対応が遅れ、最上階の1000人が取り残された…。 これまで誰も経験したことがない大災害に必死に立ち向かう消防士たちの死力を尽くした戦いがメインで、物語としては単純だが最後まで息をつかせない緊迫感が見事。さりげなく散りばめられていたエピソードが俄然、重要な要素になっていくストーリー展開も素晴らしい。 パニック小説のファンには、文句なしのオススメである。 |
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高レベルなハードボイルドを発表し続ける「ハリー・ボッシュ」シリーズの第9作。ロス市警を退職したボッシュが心残りな未解決事件に個人的に決着を付ける、ハードボイルド・ミステリーである。
刑事を引退したボッシュの私立探偵としての日々は退屈でしかなかった。そんな時、ずっと心に引っかかっていた4年前の女性殺害事件に関する情報が、引退した元同僚刑事からもたらされた。被害者は映画製作会社に勤める若い女性で、数日後、その映画会社のロケ現場で200万ドルの現金強奪事件が起き、事件捜査中のボッシュが現場に居合わせたという因縁があった。たとえバッジを身に付けていなくても被害者の無念を晴らすのが使命であると再確認したボッシュは、私人として捜査を始めたのだが、ロス市警とFBIから手を出すなと警告され、さまざまな妨害を受ける。それでも怯むことなく、あの手この手で真相に近づいていったボッシュだったが、たどり着いた真相は、あまりにも苦く切ないものだった…。 警官ではなくなり、しかも誰かに依頼されたわけでもないのに、ひたすら正義のために粉骨砕身するボッシュが熱いこと。これぞハードボイルドの真髄が味わえる作品として、ボッシュ・シリーズのファンにはもちろん、すべてのハードボイルド・ファンに必読!とオススメしたい。 |
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著者の初長編で「第3回ポプラ社小説大賞特別賞の受賞作。監視カメラ等による言動監視によって大衆をランク付けして管理するシステムに支配される2019年の悪夢を描いた、近未来ディストピア小説である。
道州制となった日本、関東地方では常に全州民のランク付けが行われており、最下位層に落ちた州民は特別執行官によって逮捕・処分されるというシステムが完成していた。その特別執行官の一人・春日は執行対象者に感情移入してしまう弱さを持っていた。対照的に佐伯執行官は業務に忠実という以上に嗜虐性が強く、役所内でも問題にされていた。この二人の対立を中心に、管理システムに反逆するゲリラ、抵抗組織の暴動が絡んできて、超高度監視社会の問題点が次々にあらわにされていく。 2009年の作品だが、実に鋭く監視社会のディストピア状況を先取りしており、2023年の現在にあっても全く古さを感じさせない。物語の骨格は素晴らしい。ただ、残虐なシーンの描写、ストーリー展開などがあまりにも荒唐無稽でリアリティがない。小説ではなく漫画だったら、もっと物語世界に入っていけただろう。 アクション漫画のファンにオススメする。 |
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ドイツでは大人気の「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズの第四作。今回はクロイトナーの警察官らしき行動が鍵となるフーダニット、ワイダニット作品である。
いつも通り「死体に好かれる」男・クロイトナーが雪山で、ベンチに座って雪だるまとなっている死体を発見したのだが、そこには偶然、被害者の妹が居合わせていた。自殺かと思われたのだが、被害者・ゾフィーが持っていた奇妙な写真と妹・ダニエラの証言から他殺の疑いが濃くなった。ゾフィーの人間関係を中心に捜査進めた捜査陣がさしたる成果をあげられずにいるうちにクロイトナーが同じように演出された新たな死体に遭遇し、事件は連続殺人事件の様相を呈してきた。担当者ではないが興味津々のクロイトナーは、何か利益がありそうな予感に誘われたこともあり、勝手に捜査を始め、ヴァルナーたちとは異なる事件の背景を掴み…。 本作の主役はクロイトナーで、ヴァルナーたちのオーソドックスな捜査では考えられない破天荒な手段で謎を解いていく。事件の背景、構図などはちゃんとしたミステリーになっているのだが、捜査プロセスはかなり型破りでご都合主義的。事件の謎解きよりも落ちこぼれ警官・クロイトナーの魅力が読みどころとなっている。 登場人物のキャラクターが主要な役割を果たしているので、ぜひ、シリーズ第1作から順に読むことをおススメする。 |
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オーストラリアのYAの人気作家が初めて書いた大人向け作品。イギリスとフランスを舞台に過去と現在の爆破事件が絡み合う、社会性の強いミステリー・サスペンスである。
署内トラブルが原因で停職中の警察官・ビッシュは17歳の娘・ビーが参加したキャンプツアーのバスがフランス・ノルマンディーで爆破されたと知らされ、急いで現場に駆けつけた。娘は無事だったが多数の死傷者が発生し、現場は混乱していたためビッシュは事件捜査に関与することになった。さらに、イギリスからのツアー参加者にかつて23人が犠牲になった爆弾事件の犯人の孫娘で17歳のヴァイオレットが含まれていることが判明し、イギリス情報部が調査に乗り出してきた。だが、ヴァイオレットは事情聴取のあと、同じくツアー参加者で13歳の少年・エディと共に姿を消してしまった。イスラム系テロリストの孫で逃亡したヴァイオレットとエディは差別主義者の憎悪の対象とされ命の危険もあると危惧するビッシュは、二人を保護するために行方を追うのだが、巧みに逃げ回る二人になかなか追い付くことができなかった…。 ヨーロッパにおける人種間対立、テロ事件を背景に家族の絆、親子の情愛を絡めた物語や個々のエピソードは面白いのだが、登場人物の数が多く、その関係性が分かりにくいため読み進めるのに苦労した。もう少し話が整理されていれば、さらにサスペンスがあっただろう。 粘り強く読み進められる方にオススメする。 |
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21世紀の87分署シリーズことイタリアP分署捜査班シリーズの第三作。アパートの一室で仲の良い兄妹が殺害された事件を、存続の危機にあるP分署のろくでなし刑事たちが解決する、チームワーク警察ミステリーである。
史上稀に見る寒波がナポリを襲った朝、若き研究者の兄とモデルの妹が同居しているアパートの別々の部屋で殺されているのが発見された。居直り強盗とも性的目的とも考えられず、凶器は見つからず、さらに死体を発見した兄の友人やアパートの住人から事件前に兄が誰かと言い争っていたとの証言を得た刑事たちは、被害者の人間関係から糸口をつかもうとする。決定的な証拠はないものの容疑者を三人に絞り込んだ捜査班だったが、解決を急ぐ市警上層部から捜査権を返上するように圧力をかけられ、ついにはタイムリミットを設定されてしまった…。 時間が限られるなか、警察のお荷物扱いされていた“P分署のろくでなしたち”が刑事本来の使命感を取り戻し、見事なチームワークで成果を上げるところが読みどころ。前二作にはなかったメンバーの生き生きとした捜査活動が新鮮である。さらに、メンバーそれぞれが抱える家族や私生活の問題に変化が見えてくるのも、シリーズものならではの面白さ。ろくでなしたちも居場所を見つければ生き返るという、再生の物語にもなっている。 前二作よりパワーアップした警察群像小説であり、ヨーロッパ系警察ミステリーのファンならきっと満足できる傑作としてオススメする。 |
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傷付いた女性たちの再生をテーマにヒット作を連発しているカリン・スローターの2022年の作品。34歳の新人保安官補が現在の任務と並行して迷宮入りした38年前の事件の真相を解明する刑事ミステリーである。
新人保安官補のアンドレアが最初に命じられた任務は、脅迫を受けている女性判事エスターの身辺警護だったのだが、エスターは38年前に一人娘のエミリーを殺害されており、事件は未解決のままだった。人気者で優等生だった18歳のエミリーは当時、妊娠七ヶ月で、ドラッグで意識がない時にレイプされたと主張し犯人を探していたため、口封じのために殺されたのではないかと思われた。事件は迷宮入りしたのだが、容疑者と目されたエミリーの周辺人物にアンドレアの実父・クレイが含まれていたことから、アンドレアは判事の警護とともにエミリー事件の真相を突き止めようとする。 アンドレアが事件捜査する現在のパートとエミリー視点での過去のパートが交互に進行し、やがて二つの事件が繋がって38年前からの因縁が明らかにされるプロセスはそれなりに緊迫感があるのだが、隠された真相の深さとアンドレアの捜査手腕が上手くマッチしていない。捜査の流れが途中で切れたり、思わぬところで繋がったりで、物語世界にすんなりと入っていけないのが惜しい。 ヒット作「彼女のかけら」の関連作品だが、スタンドアロンとして成立しているので「彼女のかけら」が未読でも問題ない。刑事ミステリーのファン、スローターのファンにオススメする。 |
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イギリスの新人作家のデビュー作。帯に「21世紀のアガサ・クリスティー」とあるように、読者挑戦型のオーソドックスな犯人探しミステリーである。
英国の田舎町で素人劇団を主宰する有力者・マーティン・ヘイワードは孫娘・ポピーが難病を患い、最新の治療薬を受けるには莫大な金が必要だと告白する。とても一家では賄いきれない治療費を支援したいと考えた劇団員たちは募金活動を立ち上げ、さまざまな方法で資金を集めようとする。そんな中、劇団員で看護師のイジーが紹介して新メンバーになった同じ看護師のサムが治療薬の存在とポピーの担当医・ティッシュに疑義を唱え出す。どうやらサムとティッシュの間には浅からぬ因縁があるようだった。さらに思うような金額が集まらない上に、マーティンが詐欺に引っ掛かり大金を失ってしまった…。 募金活動と劇団員間の人間関係が煮詰まって、結局は事件が発生するのだが、それまでの前置きがとにかく長い。登場人物の性格を浮き上がらせるために必要なものだが、事件発生が全体の2/3を過ぎてからというのは、いくらなんでも。さらに、推理の元になる素材は被疑者を担当する弁護士が若手二人に「これを元に真相を解明しろ」というもので、読者も同じものを読まされるわけだから謎解きミステリーとしてはフェアと言えば、これほど公平なものもないが、内容はメールやメッセージのやり取り、部分的な新聞記事や捜査資料などで、しかも登場人物がやたらと多いので、何度も何度も「主な登場人物」を確認しないと先に進めず、読み進めるにはかなりの忍耐力が必要だった。 クリスティー系統の読者挑戦型謎解きのファンには興味深いだろうが、それ以外の人にはオススメしない。 |
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イギリス国家犯罪対策庁重大犯罪分析課の刑事「ワシントン・ポー」シリーズの第二作。6年前に犯人逮捕して解決したはずの殺人事件の被害者が生きて現れた! ポーの捜査が間違っていて犯人は冤罪だったのか? 信念の男・ポーが信頼する仲間と共に不可能犯罪の謎を解く、サイコ・サスペンス警察ミステリーである。
6年前、18歳のエリザベスが行方不明になり死体は見つからなかったのだが、経営するレストランにエリザベスの血痕があったことからポーは、父親でカリスマ・シェフとして知られるジャレド・キートンを逮捕し、ジャレドは実刑判決を受けた。ところが、殺されたはずのエリザベスが現れ、血液検査の結果、本人であることが確認された。ジャレドはサイコパスであり真犯人だと確信するポーは納得できず、血液検査の再鑑定や化学検査など求めたのだが結果は変わりなく、冤罪との見方が強まってきた。さらに、またもやエリザベスが姿を消したため、ポーは殺人容疑までかけられた…。 DNAの一致という致命的な証拠を前に絶体絶命の窮地に陥ったポーだったが、決して諦めず、前作でもコンビを組んだ分析官のティリー、理解がある上司のフリンの助けを借りて犯人に辿り着く、正統派の警察ミステリーである。それにサイコ・サスペンスの不気味さと科学捜査の意外性が加えられ、さらに場面転換もスピーディかつ衝撃的で、物語はハラハラ、ドキドキでテンポよく進行する。シリーズものらしく、登場人物の身辺の物語が徐々に明らかになるのも読みどころ。 イギリス警察小説、サイコ・サスペンスのファンなら絶対に満足できる作品であり、できるだけ第一作から読むことをオススメする。 |
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フランスの新進作家の本邦初訳作品。フランスではいくつもの賞を受賞し高く評価されているサイコ・ミステリーである。
新聞記者のサンドリーヌは長く音信不通だった祖母の訃報と共に、遺品整理のために来て欲しいという連絡を受けた。サンドリーヌの母と折り合いが悪く、生まれてから会ったこともなかった祖母だったが他に身寄りもないため仕方なく、祖母や四人の老人が社会的に隔絶されて暮らしている孤島に渡った。かつてここには子供のキャンプ施設があったのだが、連絡船の事故で子供十人が全員死亡するという不幸により施設は廃止になったという。不吉な運命に見舞われた島に渡ったサンドリーヌは謎めいた住人や不気味な雰囲気に圧倒され、逃げ出そうとするのだが、本土との連絡手段が壊されて島に閉じ込められてしまった…。 サイコキラーと島の歴史に関わる謎を解いていくのが本筋なのだが、ストーリーにさまざまな仕掛け、二重三重の罠が隠されており、一筋縄では読み進めることができない。訳者あとがきにあるように、何を書いてもネタバレになりそうで、これ以上の説明は不可能。というか、これ以上の先入観は持たないで読んだ方が面白いと言える。 サイコ・サスペンスのファン、唖然とするような作者の仕掛けを知っても腹を立てずに楽しめる方にオススメする。 |
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現代文学作家として知られるポール・オースターの幻のデビュー作。1980年代のニューヨークを舞台にした正統派のハードボイルドである。
冴えない私立探偵・マックスの事務所を訪れたのは、絶頂期に交通事故に遭って引退し、今は議員候補と目されている元大リーガー・チャップマンだった。命を狙うという脅迫状を受け取ったという。脅迫状は殺意を匂わせているのだが抽象的で、さらに5年前の約束を守れというのだが、チャップマンは心当たりがないという。犯人の意図を探るために関係者に聞き込みを始めたマックスはいきなり危険な雰囲気の男たちから脅迫された。男たちをよこしたのは誰か? 調査を進めると5年前の交通事故、チャップマンの妻の不倫などを巡って不可解な事態がいくつも判明し、背景には複雑な人間関係があるようだった…。 私立探偵、マフィア、警官、弁護士、郊外住宅の富裕層など完璧な道具立てで、登場人物のセリフ、行動も全て古典的なハードボイルドを踏襲している。それにさらに、メジャーリーグが絡んでくるのだから、アメリカン・エンタメの完成品というべきだろう。 正統派ハードボイルのファンに絶対のオススメである。 |
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2021〜22年の週刊誌連載を加筆・修正した長編小説。日本中がマネーゲームに熱中した時代の波に乗り、狂騒の中を駆け上ろうとした若者たちのドラマである。
バブルが膨らみ続けていた1986年、大手証券会社福岡支店に入った三人の若者。母子家庭で進学を諦め、事務職で採用された18歳の水矢子、福岡の田舎の短大卒ながら証券販売のプロを目指す20歳の佳奈、無名の私大卒で風采が上がらない男だが野心だけは巨大な22歳の営業職の望月。三人はそれぞれの事情から「金を貯め、2年後には東京に出ていく」との夢を持っていた。しかし厳しい現実に押し潰されて悪戦苦闘していたのだが、ある出来事をきっかけに証券業界のマネーゲームに乗っかって突っ走り、2年を待たずに夢に手が届くところまで来た。そしてバブルは崩壊した。 バブル経済とは何だったのか? 日本人はなぜバブルに熱狂したのか? 今の時点で振り返れば呆れるほどの単純さだが、同時代を必死で生きた若者たちはおそらくこうだったのだろうというのが、よく分かる。分かり過ぎるぐらい、よく分かる作品である。つまりとても理解しやすい論理立てだし、かなりパターン化されたキャラクター作りだし、とても読みやすい。その分、初期の桐野作品に埋め込まれていた毒が薄めれていて、古くからのファンとしてはちょっと物足りない。 ミステリーではない、軽めの社会派エンタメ作品としてオススメする。 |
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