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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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2010年代前半に3作の邦訳が日本でも評価されたS.J.ボルトンの10年ぶりの邦訳作品。6人組の若者たちが交通死亡事故を起こし、その責任を一人で負った女性は20年の刑期を務めて出所。他の5人に20年前の約束を果たすよう要求する、傑作心理サスペンスである。
オクスフォードの名門校の優等生グループの男女6人は大学入学資格試験の結果発表の前夜、仲間の家に集まり、酔った勢いでいつもの「肝試し」に乗り出した。深夜の高速道路を逆走するという危険な遊びで、これまではヒヤッとするスリルを味わうだけだったのが、ついに事故を起こし相手の車の親子3人が死亡した。現場から逃走した6人は「どう始末をつけるか」激論を交わした末に、メーガンが一人で責任を取る代わりに出所したら償いをしてもらうと提案、真実を書いた念書を作成し全員が署名した。それから20年、出身校の校長、会社経営者、腕利きディーラー、辣腕弁護士、首相候補に挙げられる政治家として成功している5人の前にメーガンが姿を現した。 メーガンは5人に償いとして何を要求するのか、5人はそれをどう受け止めるのか、そもそもメーガンが身代りになったのはなぜか・・・そのストーリー展開は予想を裏切り、ショックを与え、読者を捉えて離さない。文句なしのページターナーである。6人のキャラの書き分けも見事で、さまざまに感情移入しながら読み進むことになる。ただし、フィナーレだけはちょっと弱い。 物語の結末には賛否両論があるだろうが、心理サスペンスのファンならきっと楽しめる傑作である。 |
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2000年代の最初の十年間に邦訳された本格ミステリーの頂点に選ばれたという、英国女性作家の1987年の作品。無実の殺人事件で16年の刑に服した男が復讐を誓い、真犯人を暴き出すフーダニットの傑作である。
1970年、イギリスの大企業役員のホルトが不倫相手の女性と現場を目撃したらしい私立探偵の2人を殺害したとして逮捕された。身に覚えがないホルトは無実を主張するが、数々の状況証拠によって有罪とされ、16年後に仮釈放されたホルトは同じ会社の役員の誰かが自分を罠に嵌めたと確信し、真犯人を暴き出し殺すために執拗に関係者を訪ね歩き、仮説を立て、検証し、さらに推理を重ねていく。全てを犠牲にして謎解きに邁進する「復讐の鬼」ホルトはついに真相を突き止めたのだが…。 事件発生時と現在を行き来する展開がやや分かりづらいし、16年も前の出来事を執拗に聞き出すプロセスも同じようなシーンの繰り返しで冗舌である。まあ、それが英国本格派といえば、それまでなのだが。 名探偵による最後の謎解きシーンが楽しみで、伏線や気になるヒントを探して前のページを繰るような本格謎解きマニアにオススメする。 |
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技巧を凝らした語りで「どんでん返しの女王」と呼ばれるフィーニーの第6作(邦訳は4作目)。10代、30代、50代、80代の4人の女性の複雑に絡んだ関係をあざといミスリードで幻惑し、意表を突くクライマックスで読者を楽しませるエンタメ作である。
娘のクリオにケアホームに入れられた80歳のエディスは、ホームの職員である18歳のペイシェンスとは馬が合い、その助けを借りて脱出を計画していた。ペイシェンスは事情があって本名を名乗れず、低賃金の不安定な仕事を我慢せざるを得ない状況だった。テムズ川に浮かぶボートで暮らす38歳のフランキーは一年前に家出した娘を探すために、現在の全てを捨てる覚悟で行動を開始した…。 エディスのホームからの脱走、それと時を同じくして起きたホーム施設長殺害事件、この2つを軸に4人の女性たちの交互に絡み合った事情が徐々に解き明かされていく。ミステリーとしては殺人事件が起きるのだが、それより4人の関係性の方がミステリアスで比重が重い。登場人物が全員、嘘をついているようで読者は常にセリフの裏を読みながら関係を探って行くことを強いられる。そこが本作の肝であり、物語の始まる前の一文「世の母親と娘たちへ…」が示すように母と娘の物語である。 前半はちょっと混乱するが4人の関係がぼんやり分かってくる途中からはリーダビリティも良くなり、最後にはそれなりのクライマックスが待っている。 あざといまでの技巧を凝らしたストーリーが違和感なく楽しめる方にオススメする。 |
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ノルウェーのトナカイ警察(本当に存在するらしい)の警官コンビが不可解な殺人事件を解明する、警察ミステリー。主人公も舞台もノルウェーであり、間違いなく北欧ミステリーなのだが、作者は20年以上に渡って「ル・モンド」紙の北欧特派員を勤めたフランス人でフランス語で書かれた作品である。本作はデビュー作にも関わらずフランスで数々のミステリー賞を受賞し、ドラマ化、漫画化された他、19ヶ国語で翻訳され、「トナカイ警官シリーズ」として大成功をおさめている。
トナカイ飼育者間のトラブル解決を主任務とするトナカイ警察のベテラン警官・クレメットと新人のニーナが勤務するラップランドの警察署に、全く日が差さない四十日間の極夜が明ける祝い事の日に苦情電話がかかってきた。トナカイ放牧者・マッティスのトナカイが境界線を越えて来たという隣人からの苦情である。同じ日、地元の博物館から先住民族サーミ人の神聖な太鼓が盗まれているのが発見された。さらに、訪問したばかりのマッティスが殺害され、両耳が切り取られているのが見つかった。トナカイの放牧を続けるサーミ人と開発・自然破壊を進める開拓者である北欧人の対立が激化したのか、サーミ人同士の争いか。 世界中どこにも見られる先住民に対する人種差別に加え、国境など関係ない生活を続けてきた人々とルールを強制るる現代社会との軋轢、厳し過ぎる環境を生き延びるための合理的とは言えない習慣や信条などが複雑に影響し合い、単なる殺人の謎解きでは終わらない長編物語である。見たことも、聞いたことも、想像することもなかった極北の先住民族サーミ人の暮らしが印象深い。 いわゆる北欧ミステリーとはちょっと違うテイストだが、警察ミステリーの基本はしっかり守られているので、北欧ミステリーのファンには安心してオススメしたい。 |
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順調に邦訳が続く「P分署捜査班」シリーズの第4作。はみ出し刑事たちがゴミ集積所に置かれた生後間もない赤ちゃんと行方不明になった子犬のために奔走する、群像警察小説である。
妻から別居を通告され傷心のロマーノ刑事が分署のそばのゴミ集積所で放置されている赤ちゃんを見つけ慌てて分署に運び込み、病院へ同行したのだが、赤ちゃんは予断をゆるさない状況だった。ロマーノをはじめ捜査班のメンバーは親探しを始めたのだがまもなく、母親と思われる女性が殺されているのを発見した。殺人事件も絡んできて混迷を深めた捜索だったが、ピザネッリ副署長が親友の神父から聞いた情報が捜査の方向を指し示してくれた。同じ頃、アラゴーナ刑事は街で出会った移民の少年から行方不明の犬を探して欲しいと頼まれる。「分署で一番の有能な警察官」とおだてられたアラゴーナが犬探しを始めると近隣で何匹もの犬や猫が行方不明になっていることが分かった…。 捨てられた赤ちゃん、拐われた子犬、二つの弱きものを助けるために奮闘するはみ出し刑事たち。これまでの3作とは少しテイストが異なる物語だが、謎解きミステリーとしての構造がしっかりしているのでシリーズ・ファンにも違和感を抱かせない。さらに、これまでも個性が強かったメンバーたちのキャラ、人間関係がより深く描かれることでヒューマンドラマとしても読み応えがある。 シリーズ未読でも十分に楽しめる社会派ミステリーであり、多くの人にオススメしたい。 |
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今一番脂が乗っているアメリカン・ノワールの俊英の最新作(2023年刊)。アメリカ南部の町を震撼させた残酷な殺人犯を黒人保安官が追い詰める警察ミステリーであり、重厚な犯罪小説である。
事件などほとんど起きない南部の田舎町の高校で教師が銃撃され、駆けつけた保安官たちが容疑者を射殺した。人種差別が色濃く残る町で白人の保安官補が容疑者の黒人青年を射殺した事件は大きな波紋を引き起こし、黒人保安官であるタイタスは犯行動機の解明と同時に人種間対立の沈静化にも苦労することになる。容疑者の黒人青年はタイタスの旧友の息子で、射殺される前に「先生の携帯を見ろ」と叫んでいた。人望厚い教師だった被害者の携帯を調べると、そこには想像を絶するおぞましい記録が残されていた…。 人間が抱える闇の深さ、差別意識の根強さ、法や善の力の限界など、本作に含まれるテーマは宗教的なまで深遠で、主人公の黒人保安官のストイックな捜査が強烈なインパクトを与える。だが決して重苦しくはなく、犯人探し、動機解明のサスペンス・ミステリーとして抜群に面白い。 コスビーの長編第4作(1作目は未訳のため邦訳では3作目)だが、現時点では著者の最高傑作として、ミステリーファンならどなたにもオススメしたい。 |
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英国ミステリの女王が1995年に刊行した第2長編。猟奇的な殺人と醜悪な外貌が似合い過ぎる犯人に違和感を抱いた女性ライターが事件の真相を探り出す、サイコ・ミステリーである。
母と妹を殺害して切り刻み、なおかつそれを人間の形に並べ直すという異常な犯行で無期懲役に処せられ、刑務所内では「女彫刻家」と呼ばれているオリーブ。彼女の物語を書くことを命じられた女性ライターのロズは、最初の面会でオリーブに圧倒された。自供と犯罪現場の状況に矛盾はなく、本人が弁護士を拒否したこともあって誰もが異常者だと断定し、有罪を疑っていないのだが、複数の精神鑑定では正常と判断されていた。さらに、面会の場でロズはオリーブに理性の閃きを感じ取り、オリーブの犯行ではないのではと疑問を持つ。だとすると、なぜやってもいない犯行を自供し、唯々諾々と服役したのか? ロズは事件の関係者へのインタビューを続けて真相を探ろうとする…。 犯行はサイコ・サスペンスだが、隠された真相は古典的なミステリーで、そのアンバランスが面白い。MWA最優秀長編賞を受賞しただけのことはある傑作で、サイコもののファン、犯人探しもののファン、女性探偵もののファン、いずれにもオススメしたい。 |
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東京で暮らすアラフォー独身のフリーカメラマンの葉子。バツイチで子無し、まずまずの仕事と腐れ縁のような不倫関係を軸に、それなりに穏やかで平凡な日々を送っていたのだが、離れて暮らす兄の息子が東京の塾の集中講座に参加するためにしばらく居候させて欲しいとやってきた。ひとりでの気ままな暮らしを邪魔されることを危惧した葉子だったが、誰かの世話をすることの充実感も味わった。塾の講座が終わり甥が帰り、心に空虚感を覚えていた葉子だったが、それからすぐ、今度は中学3年生の姪が家を飛び出し葉子を頼ってきた。甥と姪、二人の父親はガンで入院し、葉子の同級生でもある母親は看病に追われており、姪は自分の不安定さを持て余しているようだった。同じ頃、不倫相手である杉浦の妻が殺害される事件が起き、杉浦は容疑者と目された。次々に起きる問題に葉子は翻弄され、自らの心の中を行ったり来たり、自分の立つ位置が分からなくなってきた…。
故郷を捨てて生活を築き上げ、恋愛も理性的にコントロールし、自立した人間として誇りを持って生きてきたはずなのに、それが脆くも崩れていく。アラフォーの不安がメインテーマ。殺人事件も警察の捜査もあるが、ミステリーではない。 生きることの苦さを知る人にオススメする。 |
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驚異的なロングシリーズを続けている「イブ&ローク」シリーズの57作目。人気俳優夫妻が開いた豪華パーティーで主催者の俳優が毒殺されるという派手な事件が主題の華やかなロマンス・ミステリーである。
ニューヨークの高級ペントハウスで開かれたパーティーの最中に、主催者である大スターがシャンパンに入れられたシアン化物で毒殺された。200人を超える招待客や大勢の裏方スタッフ、しかも参加者は映画、演劇、マスコミの関係者ばかりで目撃証言も素直に信頼できず、イブたちの捜査は困難を極める一方だった。それでもイブは、25年前に被害者の妻が関係した悲劇的な事件との繋がりを見つけ、徐々に捜査の網を絞っていく・・・。 明確な物証がなく、状況証拠と推測だけで謎を解くストーリー展開は冗長でツイストがなく、ミステリーとしては失敗作と言わざるを得ない。 シリーズ愛好者以外にはオススメしない。 |
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2022〜23年に雑誌連載された長編小説。著者の出世作「永遠の仔」から25年、時代と社会の意識変化を反映した社会派ミステリーである。
暴行殺害された中年男性の遺体には「目には目を」というメッセージが残されていた。しかも被害者は、3年前に集団レイプ事件を起こした少年の一人の父親だと判明。当然のこととしてレイプ被害者の家族、加害者仲間の少年たちが容疑者と目され警察は監視、証拠固めを進めるのだが、事件の筋を読みきれないうちに次の殺人が起きてしまった。 タイトルから想定できるように性犯罪の加害、被害の問題を追及するストーリーで、犯罪を犯したものの罪はもちろんだが、犯罪者を誕生させた社会が根源的に持ちながら一向に改善されようとしない無知、無自覚を鋭く突き、読者に深く考えさせる。実際に起きたあれやこれやの事件を想起させるエピソードが多く登場するのもリアリティを高めている。ジェンダーという言葉さえ使われていなかった25年前から社会はどれだけ進歩できたのか、ただ年月が流れただけなのか、著者の問題提起が強く印象に残る作品である。 「永遠の仔」が面白かった人はもちろん、天童荒太のファンには絶対のオススメだ。 |
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英国の歴史小説作家によるナチ時代のベルリンを舞台にした初の歴史ミステリー。連続女性殺人事件の捜査を中軸に虚実交えて、犯人探し、ナチ政権下の生きづらさを鮮明に描いた傑作エンターテイメントである。
1939年12月、戦時下のベルリン。元レーシングドライバーで切れ者の国家保安警察の警部補シェンケは突然、ゲシュタポの局長に呼び出され強姦殺人の捜査を命じられる。被害者は元女優でナチ党の古参党員の妻だが、生前の行状に問題があったという。事件が党内の勢力争いに利用されたり党の体面を汚すことを恐れる党幹部が、党員ではないシェンケを選んだらしい。政治に距離を置くシェンケは刑事の本分を全うすべく淡々と捜査を進めるのだが、まもなく同様の手口の事件が発生。さらに事故として処理されてきた過去の案件の中に関連性がある事案が見つかり、連続殺人の疑いが濃くなった…。 単なる連続殺人(この本筋もよくできている)だけでなく、ナチ党内の勢力争い、戦時下、ナチ政権下の閉塞感がリアリティ豊かに描かれた歴史ミステリー。警官として愚直に任務を果たしたいシェンケが否応なく権力闘争に巻き込まれ苦悩する姿は、今の時代の閉塞感にも通じるものがあり、多くの読者の共感を呼ぶだろう。 歴史ミステリーファン、警察小説ファンのどちらにもオススメする。 |
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タイトルからは一流ブランドに関するエッセイかショートストーリーかと思うが、中身は物質を契機とした人の心の動きを掬い上げるような文章群。エッセイ、小説、自伝などが入り混じっている。
吉田修一ファンならそれなりに楽しめるだろう。 |
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北アイルランドの刑事「ショーン・ダフィ」シリーズの第5弾で、エドガー賞最優秀ペーパーバック賞受賞作。完全な密室状態の古城の城塞から転落死した女性ジャーナリストの事件をきっかけに、熱血刑事が上流階級の傲慢を暴いていく、ハードボイルド警察小説である。
冬の早朝、夜には固く閉ざされる古城の中庭で女性の転落死体が発見された。完全な密室状態の城内に誰かが侵入した形跡はなく、当初は自殺と判断されたのだが、死体の状態に違和感を持ったショーンは他殺を疑った。そんな中、上司であるマクベイン警視正が車に仕掛けられた爆弾で殺害された。当時激化していたIRAによるテロと言われたのだが、これにもショーンは納得できなかった…。 古典的な密室殺人と思わせておきながら、北アイルランドの政治的混迷、さらには上流階級人種の腐敗まで、話はどんどん大きくなっていく。さらに、こじらせ警官であるショーンの私生活の激動まで加わり、話があっちこっちに飛び広がり過ぎるため、ハードボイルド、警察小説としてのまとまりが悪いのが残念。 シリーズ愛読者でなくても十分に楽しめる作品であり、ハードボイルド、警察小説のファンにオススメする。 |
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2023年の英国推理作家協会の最優秀翻訳小説賞を受賞した、スペイン製ミステリー。カタルーニャの鄙びた町で起きた残虐な富豪夫婦殺しを捜査する熱血刑事の戦いと苦悩を描いた警察ミステリーである。
着任早々に「退屈する時間はじゅうぶんにあるぞ。ここではなにも起こらないんだからな」と言われたテラ・アルタ署の刑事・メルチョールだったが、町の半分を所有すると言われる富豪夫妻が拷問され、殺害される事件に遭遇した。強盗かという見方もあったのだが、拷問の凄惨さに違和感を覚えたメルチョールは被害者の周辺に犯人がいると推測し、家族や会社関係に捜査の手を伸ばしていった。その結果・・・。 犯人探し、動機探しの警察ミステリーで、大筋の構成は平凡というか、ありきたりの感を否めない。だが主人公・メルチョール刑事の設定に、物語に奥行きを与え、読者を引き込んでいくパワーがある。娼婦の子として育ち、10代で投獄されたのだが、刑務所で囚人に「レ・ミゼラブル」を読むことを勧められ作品に魅了された。さらに、服役中に母が殺害されたことで犯罪から決別し、母親殺害犯に罪を償わさせるために警察官になることを決意した。見事に警察官になったメルチョールだったが、イスラム過激派のテロリスト4人を射殺したことから、過激派の報復を危惧する警察上層部によって田舎町のテラ・アルタに配属されたのだった。娼婦の息子の刑事と言えば「ハリー・ボッシュ」を筆頭に何人かを思い浮かべるが、いずれのヒーローも正義と不正義、悪との向き合い方に苦悩するのがお約束で、メルチョールも例外ではない。さらに、レ・ミゼラブルの深い影響という独創も加わり、極めて複雑なキャラクターである。 事件捜査を中心に据えた警察小説だが、謎解き部分は最後に薄味になり肩透かしを喰らう。ミステリーというよりヒューマンドラマ的な面白さが読みどころ。スペインの風土や歴史、社会を知ることができるのもオススメポイントと言える。 |
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自伝あり、エッセイあり、社会批評あり、風刺ありで48のエピソードが集められた、実に判断が難しい一冊である。
著者は本作を「観察」と称しているそうで、刑事弁護士で作家という位置から観察・思考した社会のありようを文学作品し仕立てたものか。丸ごと一冊、これがシーラッハだと思えば、それなりのまとまりがある。 シーラッハ・ファンなら、その味わいが深く感じられるだろう。 |
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大学で小説創作の教鞭を取る新人作家の長編デビュー作。6年前に自分の娘を溺れさせようとしたと思っている甥を引き取ることになった大学教授が、甥が邪悪な本性を隠していると疑心暗鬼になり、その本性を暴くことに取り憑かれていく心理サスペンスである。
不幸な事故で大金持ちの両親を亡くした17歳のマシューが、母親の遺言で後見人となった叔父・ギルの家にやってきた。N.Y.の豪邸で何不自由なく育ったマシューは学業成績も抜群で、知的な好青年に見えた。だが、6年前にギルの娘・イングリッドがプールで溺れかけたのはマシューの仕業だと信じるギルはそんな外見が信じられず、夫婦と娘二人のギル家族に災いをもたらすのではないかと不安を抱き、警戒心を募らせていた。そんなギルを嘲笑うかのようにマシューはギルが教える創作講座に参加し、ワークショップで短編小説を発表したのだが、その登場人物はギルの家族を想像させ、ストーリーは家族の死を描いたものだった・・・。 マシューは羊の皮を被ったサイコパスなのか、ギルの被害妄想が作り上げたモンスターなのか。真相追及のプロセスはギルの一人芝居の様相を呈し、ミイラ取りがミイラになるような心理サスペンスでちょっとイライラさせられる。金持ち過ぎるマシューと両親のライフスタイルもちょっと鼻白むのだが、それを補っているのが状況設定のユニークさで、なるほど、そう来たかと思わせる。謎解きミステリーとしては凡作だが、最後まで読者をイラつかせるイラミスとして評価できる。 ラストが不完全でも気にしない、心理サスペンス好きの方にオススメする。 |
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探偵・畝原シリーズの第7作。いつも通り、怪しげな依頼人、怪しげな組織、変わらぬ家族愛に満ちた大人ハードボイルドである。
畝原が依頼されたのはエスパーを自称する巽という男に惚れ込み、多額の投資に乗っかろうとしている父親の洗脳を解いて欲しいというものだった。畝原は父親の面前で男のインチキを暴き、撃退する。後日、その場に居合わせたミニコミ業者でキャバクラ嬢のコンテストを主催する彫谷からコンテスト出場者の素行調査を依頼されたのだが、その調査中に何者かに襲われた。辛くも撃退したものの背後関係が分からず、自分の身辺の警護を固めざるを得なくなった。さらに、巽たちの詐欺をテレビで証言した男が殺され、取材したディレクターが行方不明になる事件が発生。畝原は身の危険を感じながらジリジリと真相に近づいて行く。 詐欺商法、ミスコンに加えて、意図不明の依頼人からの浮気調査、父親としての自身の悩みが絡んできて話は長くなる一方。文庫で上下670ページほどの大作で、最後まで決着がつかないエピソードがあるのもご愛嬌。シリーズ愛読者なら許せる、いつもの畝原ワールドである。 畝原シリーズのファンにオススメする。 |
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グラスゴーを舞台にした「刑事ハリー・マッコイ」シリーズの第二弾。連続殺人事件を捜査することになったハリーが否応なく、忘れたい過去に直面させられるノワール・ハードボイルドである。
建設中のタワー屋上で発見された惨殺死体は地元のプロサッカー選手で、彼はギャングのボス・スコビーの一人娘・エレインの婚約者だった。すぐに容疑者として、スコビーの汚れ仕事を担当していたコナリーが浮上した。コナリーは精神的に不安定になり、エレインにつきまとっていたという。ハリーたちはコナリーを追い詰めたのだが、すんでのところで逃してしまう。さらに、コナリーはエレインの周囲に出没し、ボスのスコビーまで襲おうとする。そんな中、前作(血塗られた一月)でハリーの命を救ってくれた、幼馴染で地元の若手ギャングのボス・スティーヴィーを見舞ったハリーは一枚の新聞記事を見せられ、激しく動揺する。そこには、ハリーやスティーヴィーが児童養護施設にいた頃に性的虐待を加えていた男が映っていたのだった。さらに、教会でホームレスが自殺する事件が発生し、残された遺品を調べていたハリーは、スティーヴィーに見せられたのと同じ記事があるのを発見する。花形サッカー選手とホームレス、全く無関係に見えた二つの事件が、ハリーの過去を媒介にしてつながっていった・・・。 一匹狼の刑事が難事件を解決するという警察ハードボイルドの基本はしっかり守りながら、そこに児童の性的虐待の被害当事者をぶつけることで、ストーリーが何層にも重なり合い、ねじれあって展開する複雑で手応えのある物語になっている。訳者あとがきにもあるように、前作からさらにパワーアップしたことは間違いない。オススメだ。 月名のタイトルから推察できるようにシリーズ化されており、イギリスでは一年に一作、現在では6月まで刊行されているというので、まだまだ楽しめそうである。 |
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1980年刊行の短編集。テーマや表現にいささか古さがあるものの、英国短編小説の魅力である鋭い人間観察、ややブラックなユーモア、味わい深いストーリー展開を備えた全12作品。アーチャーの長編のワクワク感、躍動するストーリーはないものの旅のお供、路辺の酒のアテにぴったりな読み物としてオススメする。
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人気覆面作家の豪華新邸のお披露目に招かれた推理作家、評論家、編集者、探偵が大雪で閉じ込められ、ホストの作家が姿を消す。さらに、行方が分からない作家を探すうちに、招待客のひとりが死亡し、全員が疑心暗鬼に陥るという、典型的な密室もの。古今東西の密室ものに関する豊富な知識を駆使した物語展開、種明かしが読みどころ。
密室ものファンには挑戦しがいがある作品なのだろうが、密室ものが得意でないため、いささか退屈だった。 |
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