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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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日本では「ブルックリンの少女」でブレイクしたミュッソの2020年の作品。物語の主人公が作家で、その作家を動かしている小説家(物語の作者)が主人公と関わってくるという、実験的な構成のミステリーである。
ニューヨークに住む売れっ子作家・フローラの娘が自宅から姿を消した。誘拐されたのかと思われたが身代金の要求もなく半年が過ぎた頃、フローラのエージェントであるファンティーヌが執筆再開を提案し、そのきっかけにと言ってプレゼントを置いていった。そこからフローラは、パリ在住の作家・オゾルスキが事件に関与していると推察し、オゾルスキと対決して娘を取り戻そうとする…。 母親が密室から姿を消した娘を取り戻す密室ミステリー・サスペンスと思わせておいて、物語は作家と登場人物の関係、現実と虚構の関係が入り乱れる迷宮にはまり込む。まるでエッシャーの騙し絵のような不安に満ちた世界へと読者を誘っていく。謎解きといえば謎解きなのだが、トリックや伏線の回収で大団円ではなく、現実と虚構の境界線を手探りして辿り着いたのが夢の世界だったようなおぼつかなさがある。 事件の謎を解いてカタルシスを覚える作品ではなく、読者を選ぶ作品である。 |
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「ワニ町」シリーズの第6作。いつもの3人がいつも通りに事件に巻き込まれて(突入して)大騒ぎする、ユーモアミステリーである。
独立記念日のシンフルの町のバイユーで爆発事故が発生。密造酒製造中の事故かと思われたのだが、覚醒剤の密造中だったようらしいと判明。3人は地元マフィアに依頼されたこともあり、真相解明に乗り出して、あれやこれやの大騒動の末に悪党一味を捕まえる…。 まあ、予定調和のストーリーで新鮮味はないが、よくぞここまで馬鹿馬鹿しいシーンを思いつけるものだと感心するほどコミカルなエピソード満載で飽きさせない。すでにアメリカでは25作!まで出ているようで、作者の筆力に感嘆するばかりである。 マンネリの良さを味わいたい、コージー・ミステリーのファンにオススメする。 |
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イギリス推理小説作家クラブ会長を務めるという超大物のミステリー小説では本邦初訳作品。1930年代のロンドンを舞台に、残虐な犯罪を犯した男たちを処刑してまわる美女の謎を解明していくサスペンス作品である。
1930年のロンドン、コーラスガール殺人事件の真相を暴き一躍有名人となったレイチェル・サヴァナクには正体不明な印象が付き纏っていた。事実、レイチェルは女性首切り殺人の犯人を突き止め、自殺に追いやったのだった。レイチェルに興味を抱いた新聞記者・ジェイコブが取材しようとするのだが冷たく拒否された。それでも諦めないジェイコブは執拗に取材を進め、とうとうレイチェルと行動を共にするまでになったのだが、その最中、密室での自殺、上演中のショーの舞台での焼死などに遭遇することになった。しかも、一連の事件はレイチェルが仕掛けたものだった…。 殺人事件の謎を解くミステリーだが、犯人、犯行目的、犯行様態は読者に知らされており、物語の焦点は「レイチェルはなぜ、このような犯行を重ねるのか?」の一点に絞り込まれている。その真相が明らかになるストーリーはサスペンスフルで、二転三転し、最後まで読者を引きつける。さすが「探偵小説の黄金時代」著者らしい、幅広いミステリー知識を活かした力技である。また、ヒロインのレイチェルのクールビューティーぶりはもちろん周辺人物のキャラも際立っており、古さより華やかさを感じるエンタメ作品である。 英国正統派探偵小説ファンでなくても十分に満足できるサスペンス・ミステリーとして、多くの方にオススメしたい。 |
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自分が好きなジャンルではないため初めて読んだ、御年91歳の老大家の1986年の作品。展開のスピードが早く、しかも騙しとどんでん返しの技巧が巧みで中身が濃い中編ミステリー集である。
収録3作品の中では、表題作が一番読み応えがあった。事件の動機や真相はやや時代遅れな感があるものの次のページへと引っ張っていくパワーは素晴らしく、一気に読み終えた。 古典的名作として読んでおいて損はないとオススメしたい。 |
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シェトランド諸島を舞台にした「ジミー・ペレス警部」シリーズの最終巻となる第8作。イギリス本土から移住してきた家族の納屋で相次いで発見された首吊り死体にまつわる、複雑な人間関係を解きほぐして行く警察ミステリーである。
一家で移住してきたフレミング家の納屋で、前の持ち主が首吊り自殺しているのが見つかった。さらに家の中に奇妙な絵を描いた紙片が置かれることが続き、不安を覚えた一家の母親・ヘレナはペレス警部に相談したのだが、その翌日、今度は島の旧家の子守りをしている若い女性・エマの首吊り死体が見つかった。ペレスは上司であり恋人でもあるリーヴス主任警部の指揮のもと、部下のサンディ刑事とのチームで捜査に乗り出した。誰もがみんな知り合いという閉鎖的なコミュニティだけに、噂は飛び交うものの秘密は隠され続け、真相には容易に近づけないでいた。さらに、ペレスとリーヴスの関係に大きな変化がもたらされ、チームワークがギクシャクする事態にもおちいった…。 殺人事件の捜査とペレスを中心にした人間関係のドラマが同時並行で進み、なかなか謎解きには至らない。そのスローペースを退屈させないのがシェトランド諸島の自然と地域の人間性で、ゆったりとした物語世界を作り出している。中でも誰もが知り合いという閉鎖的社会の息苦しさはおぞましくあり、読み応えもある。その分、謎解きミステリーとしては動機、犯人像に鋭さがない。 シリーズ最終巻だが、これまでの作品を読んでなくても十分に楽しめることは保証する。 |
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刑事加賀シリーズの一作。最後に加賀が「犯人はあなたです」と断言するのだが読者には明示されず、袋綴じ解説「推理の手引き」を読んで分かったような気にさせられる、犯人探しゲームである。
教会のヴァージンロードで新郎・穂高が倒れ、そのまま息を引き取った。死因は、穂高の常備薬であるカプセルの中身が毒薬に変えられていたことだった。主な容疑者は三人、落ち目の作家である穂高の事務所を取り仕切る立場だが、恋人を穂高に奪われた駿河、穂高の担当編集者で元恋人の雪笹、新婦・美和子の兄でありながら美和子への執着心を隠し持つ神林。三人とも強い殺意を持っていてもおかしくなく、しかも穂高にカプセルを渡せる機会があった。さらに、毒入りカプセルを作ったのは、駿河から穂高に心変わりし、最後に裏切られ、挙式前日に穂高家の庭で自殺した女性・浪岡だった。 容疑者が三人とも「自分が殺した」と自覚しており、さらに裏切られて自殺した浪岡にも動機や犯行機会があり、容疑者視点の章が変わるたびに犯人探しは二転三転する。最後は加賀刑事の粘っこい捜査が結実し、昔の推理小説の典型パターン、容疑者を集めて名指しするのだが、なんだかすっきりしない読後感が残るのは、登場人物が全員、共感を覚えないキャラだからだろうか。 犯人当てゲーム、作者との知恵比べがお好きな方にオススメする。 |
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マルティン・ベック・シリーズの第3作、新邦訳版では4冊目の作品。夏のストックホルムで起きた連続少女殺害事件に取り組むベックたちの地道で諦めない捜査活動を描いた、警察集団ミステリーである。
開放的な気分に包まれた夏のストックホルム市街の公園で幼い少女の無惨な遺体が発見された。さらにその数日後、別の公園でも少女が殺害され、市民は恐怖に襲われた。二つの現場に残された物証は乏しく、どちらも人の出入りが自由な場所だったが目撃証言も確かなものは得られず、頼みの綱になりそうな証言は会話がたどたどしい3歳の男児と現場をうろついていた強盗犯のものしかなかった。次の犯行がいつ起きるか、緊張する捜査陣だったが手がかりが得られず、焦りが募るばかりだった。だが、ベックの記憶に残っていた出来事をきっかけに、事態は一気に動き出すのだった…。 犯人像が固まるまでに時間がかかり、緊迫感に満ちた物語展開も、きっかけをつかむとあっという間に解決になだれ込んでいく。そのあたりの展開はやや調子が良過ぎる気もするが、それも地道な捜査の積み重ねがあってこそということで、警察小説としてのリアリティーは従来通り違和感がない。個性的なメンバーの中でもひときわ目立つラーソンが登場し、チームの形が完成したという点で、シリーズ読者には必読作品である。 シリーズ愛読者にはもちろん、警察集団ミステリーのファンに自信を持ってオススメする。 |
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トンデモ精神科医・伊良部シリーズの第4弾。2007年から22年までの雑誌掲載5作品を収めた短編集である。
各作品のテーマが時代状況を映している他は従来通りの「他人の悩みは面白い!」に徹したコメディーである。各作品に登場する患者同様、伊良部に身を委ねればきっと心が軽くなる。 日本社会の閉塞感にうんざりしている読者にオススメする。 |
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63歳で長編3作目という遅咲きのアメリカ人作家の本邦初訳。ケンタッキー州東部、アパラチア山脈の片田舎で、短期帰郷した米陸軍犯罪捜査官が殺人事件を捜査する犯人探しミステリーである。
妻・ペギーが妊娠したことを知り海外任地から戻ってきた米陸軍犯罪捜査官のミックは、郡保安官である妹のリンダから「町はずれの森林で発見された女性殺人事件の捜査を手伝って欲しい」と依頼される。女性であるがゆえに町の有力者たちから軽んじられているリンダは捜査から外されそうになっており、兄に助力を求めたのだった。妻の妊娠を機に帰郷したもののペギーとの仲がしっくり行かず鬱屈を抱えていたミックは、自分のためにもと捜査に関わったのだが、濃密な血縁関係と変わらない因習に凝り固まった町の住人はミックに対しても容易には心を開かず、事件の全体像も見えないうちに事件に誘発された殺人が起きてしまう…。 まるで大正・昭和前期の日本の片田舎のような重苦しい町の雰囲気がいやで陸軍に入ったミックの故郷に対する複雑な心理が重要なテーマとなり、犯罪捜査は二の次とまでは言わないが、本作の主要テーマではない。従って、純粋なミステリーとしてはやや力不足であるが、アメリカの複雑さ、捉えどころのなさを理解するには有益である。アメリカではすでに第3作まで書かれているようで、次作を見てから再度評価してみたい作家である。 アメリカ・ディープサウスの泥臭さを好む読者にオススメしたい。 |
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警察小説の金字塔「マルティン・ベック」シリーズの新訳版、第5作。突然、爆発炎上したアパートから発見された死者の隠された謎を解いていく、警察捜査ミステリーである。
ピストル自殺した男のベッド脇に残された紙にはマルティン・ベックの名前が書かれていたのだが、ベックは自殺した男の名前さえ聞いた記憶がなかった。同じ日、ラーソン警部補が監視していたアパートが爆発炎上し、ラーソンは住人を救い出すべく奮闘したのだが数人が焼死体で発見され、その中に監視対象の男・マルムが含まれていた。ベックたちが捜査を進めると、奇妙なことにマルムは自分の部屋で自殺を図ろうとしていた形跡が見つかった。さらに、通報を受けて出動したはずの消防車が現場に到着しなかった事態も発覚し、事件の謎は深まる一方だった…。 出動したのに到着しなかった消防車、さらにルン警部補が息子に買い与えたのだがいつの間にか姿を消したおもちゃの消防車、という二つの謎が物語全体の通奏低音となり、ゆったりと静かに、しかし着実に進んでいく捜査が意外なきっかけから解決に辿り着き、おまけとして派手なクライマックスを迎えることになる。現在の感覚からするとスローすぎる展開だが、そこに味わいが生まれていることは確かである。お馴染みの登場人物たちの日々の悩みや喜びが丁寧に描写されるのも、一つの楽しみである。 せっかく5作目まで来た新訳版シリーズだが、まだ5作も残して、これで打ち切りになると言うのは残念。いつか再開してもらいたいものである。 マルティン・ベック信奉者、警察ミステリー愛好家にオススメする。 |
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ノワールの巨匠・ウィンズロウの「ダニー・ライアン」シリーズの第2作。東海岸を追われたダニーが西へ逃亡し、わずかなチャンスに賭けて復活を目論むノワール・サスペンスである。
1988年、イタリア系マフィアとの戦いに敗れたダニーは命にかけても守りたい息子・イアンと父親、わずか数人の昔からの仲間とともに西へ西へと逃亡する。だが、執拗なイタリア系マフィアだけでなくFBIにも追い詰められ、かつて自分を捨て、今では国家的なフィクサーにまで上り詰めている母・マデリーンに助けを求めた。そこでマデリーンの手引きで当局と取引し、メキシコ麻薬カルテルが絡む危険な仕事を引き受けて仲間と共に成功させ、金と自由の身を手に入れた。しかし、体の奥底を流れるアイリッシュ・マフィアの血は平穏に耐えきれず、自ら望む形で再び争いの世界に身を投じるのだった…。 前半はダニーたちの逃亡の物語、後半はハリウッドの映画製作にまつわるマフィアの利権争いの物語という二部構成。それぞれが単作として成立する中身の濃さで読み応えたっぷり。ノワールでありながら家族の物語でもあるところが、日本人読者の情感にもアピールするパワーを持っている。 極めて連続性が高い三部作なので、前作「業火の市」を読んでから本作を読むことをオススメする。 |
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「家裁調査官・庵原かのん」シリーズの第2弾、雑誌掲載の7本を集めた短編集である。
川崎の家裁に転勤になった庵原かのんが出会った事件は離婚、親権、相続など、どれも普通の人々が巻き込まれる家族のトラブルばかり。それだけに、扱われる題材、テーマが身近で、話を自分に引き取って読んでしまう。根底に世の中悪い人ばかりじゃないという善人視があるので、読後感は悪くない。 人情物語が好きな方にオススメする。 |
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第33回柴田錬三郎賞を受賞した短編集。6作品とも、子供なら当たり前に抱えている生きづらさ、不全感を逆転させる小学高学年の児童たちと大人の物語である。
子供だってそれぞれに自分らしさとは何かに悩み、周りからの決めつけに傷つき、反発し、それでも周りに優しくあり、スロウペースではあるが成長していく。そんな当たり前のお話を読み応えのあるエンターテイメントに仕上げたのは、さすが伊坂幸太郎である。 読後感の良い作品ばかりで、ミステリーファンにもオススメしたい。 |
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ロス・トーマスのデビュー作「冷戦交換ゲーム」の続編として1967年に刊行されながら、なぜか邦訳が2009年という、いわば幻の傑作。とはいえ、冷戦期のスパイゲームというより、クセのある人物が金を動機に非情な争いを繰り広げるノワール・エンターテイメントである。
ワシントンに戻り「マックの店」を再開したマッコークルの元に、ベルリン時代からの相棒・パディロが転がり込んでくる。ライン川に落ちて亡くなったはずのパディロだが、西アフリカで生き延びて今回、アメリカに戻ったところでトラブルに遭い負傷したという。しかも、パディロが原因でマックの愛妻・フレドルが誘拐され、犯人はパディロに依頼を引き受けるように強要する手紙を残していた。その依頼とはアフリカの某国の政府筋からの「自国の首相を暗殺しろ」というものだった。パディロはもちろん、怒りに駆られたマックも力を合わせ、フレドル奪還のために手持ちのコネをフルに使って動き出す・・・。 物語の本筋はフレドルを助け出すためのマックとパディロのサスペンス・アクションだが、周囲を固める登場人物が曲者揃いで、隙あらば仲間であろうとも出し抜こうとするところは、後年の「五百万ドルの迷宮」などに通じるコン・ゲーム的である。主役の二人はもちろん、仲間となるギャングたちの会話やアクションがいかにも60年代のハードボイルド・テイストで楽しめる。 ロス・トーマスのファン、60年代のハードボイルドのファンにオススメする。 |
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シリーズ第54作目と言う驚異的な長寿ミステリー・シリーズが版元を変え、訳者を代えて登場。2060年代のN.Y.、美人警部と超富豪の夫という「イヴ&ローク」コンビが難事件を解決するお約束パターンは何も変わっていない。
再開発が続くN.Y.の工事現場でホームレス女性の惨殺死体が発見され、現場に駆けつけたイヴたちは、別の一画で解体中の壁から白骨死体が見つかったと知らされる。白骨死体の方は女性と胎児らしい。2つの事件は現在と35年から40年前という時間の差はあれ、ホームレスと妊婦という弱者が被害者という共通点があり、イヴの正義感に火が付いた…。 現在と過去の事件が意外な繋がりを見せるという、よくあるパターンだが、事件の動機、背景、捜査プロセスなどがしっかりしているので、謎解きミステリーとしては合格点。時代は変わっても人間は変わらないという作者の思いが十分に読み取れる。ただ、ロマンス作家として著名な作者だけに全編にロマンス色が濃厚なのが鼻につく。 読者を選ぶ作品であり、ミステリー一辺倒ではなくロマンスが欲しいという読者にはオススメする。 |
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今さら説明の要はない、スウェーデンのみならず世界を代表する警察ミステリー・シリーズの第一作。迷宮入りしそうな女性惨殺事件を地道な捜査と思い切った奇策で解決に導く、社会派警察ミステリーである。
観光ルートの閘門で全裸の若い女性死体が見つかった事件は被害者の身元確認すら難航し、捜査陣は五里霧中の状態に置かれていたのだが、アメリカの警察から寄せられた情報をきっかけに被害者が旅行中のアメリカ人女性であると判明した。観光船が犯行現場だと判断したベックを始めとする捜査チームは、世界中に散らばっている同乗客・船員に聞き込みをかけ、写真や証言を積み重ねることで、有力容疑者を絞り込んだ。だが、いくら身辺調査を進めても決定的な証拠を掴むことができず、ついに違法スレスレの捨て身の作戦を立案したのだが…。 犯行の動機や背景、様態などは、様々な警察ミステリーを経験した現代の読者にとっては驚くほどではない。しかし、事件発生から解決までのプロセスの密度の濃さは、半世紀以上が経過してもいささかも薄れてはいない。警察集団が難事件を解きほぐしていく社会派警察ミステリーを見るときの不動・不変のベンチマークである。 文句なしのオススメと断言する。 |
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スウェーデン・ミステリーの女王が友人である売れっ子メンタリストと組んだ新シリーズの第1作。奇術や読心術がふんだんに散りばめられた、華やかな連続殺人ミステリーである。
箱に閉じ込められた人物に剣を刺していく「剣刺しボックス」という奇術を真似た状況で、若い女性が殺害された。ストックホルム警察特捜班の女性刑事・ミーナは、売れっ子メンタリストのヴィンセントに捜査協力を依頼する。気が進まなかったヴィンセントだが、ミーナの熱心さにほだされアドバイザーとして参加し、早速、死体に数字が刻まれているのに気が付いた。特捜部のベテランたちは奇術やメンタリストを馬鹿にするのだが、お構いなくミーナが捜査を進めると、自殺として処理された死体に同じような数字が刻まれていることが判明した。連続殺人だと確信したヴィンセントとミーナは捜査を進めるのだが、ついに3人目の被害者が発見された…。 連続殺人と奇術という派手な舞台設定だけでなく、捜査陣の人間模様、徐々に明らかになる犯人の異常性など読みどころが連続するストーリー展開は、さすが女王と呼ばれるだけのことはある。主役のミーナ、ヴィンセントだけでなく捜査班メンバーそれぞれに個性的で、人間的な興味が尽きないのもシリーズものとして成功する要因となるだろう。さらに、ミーナの隠された過去が明かされそうで明かされないのが、次作への大きなフックとなっている。 殺人シーンがかなり残酷だし、嫌悪感を催す描写もあることを覚悟すれば、謎解きもの、警察もののファンには絶対に満足できる作品としてオススメする。 |
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米国YA作家の長編ミステリー。銀行強盗に遭遇した17歳の少女が、子供の頃から身に染み込まされてきた詐欺師の技を発揮して仲間と共に強盗を撃退する物語であり、かつ詐欺師にされてしまった過去に決別する物語でもある。
17歳のノーラは恋人のアイリス、元カレで親友のウェスと銀行を訪れ、強盗事件に巻き込まれてしまった。銃を持った二人組に人質にされた3人は、詐欺のテクニックに優れたノーラの知恵をもとに力を合わせて強盗たちを騙し、脱出に成功する。というのが、強盗撃退のアクション・サスペンス部分。そこに重なるのが、なぜノーラが詐欺のテクニックを身に付けたのかという過去の生い立ちとそれへの決別を決意する青春成長物語である。 アクション・サスペンスよりノーラの精神的な苦悩、成長、仲間との絆、家族への想いなどヒューマン・ドラマの部分の方が重要性が高く、ミステリーとしてはイマイチ。青春ドラマとしては複雑、重厚な展開で、思春期であれば、また違った読み応えがあるだろう。 YA小説のファンにならオススメできる。 |
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「五百万ドルの迷宮」の5人組が5年ぶりに帰ってきた。舞台をL.A.の映画界に移し、映画女優が恐喝される事件を見事に解決するスピーディーで楽しい謎解きアクション小説である。
女優のアイオニは婚約を破棄した相手を殺した疑いで逮捕されたのだが、彼女は酔っていて当日の記憶がないという。アイオニの弁護士は彼女の記憶を呼び起こすためにイギリスの専門人材派遣会社から催眠術師の兄妹を呼び寄せた。ところが、催眠術師兄妹はアイオニに三度、催眠術をかけた後に姿を消してしまった。催眠術師兄妹あるいは他者による脅迫などを危惧した派遣会社は、ことが起こらないうちに催眠術師兄妹を探して欲しいと、ウーとデュラントの「トラブル処理会社」に依頼してきた。ウーとデュラントが大金が絡んだ仕事を受注したことを知ったアザガイは老友ブースとともに話に割り込んできた。ちょうどその時、5年間服役してきたブルーがマニラの刑務所から出所したため、ウーは彼女も仲間に加えることにした。かくしてL.A.に集まった5人はそれぞれの特技を発揮して、狡猾な脅迫者に立ち向かっていく…。 前作同様、5人の個性的な詐欺師たちが協力し合いながら、反発し合いながら事件を解決していくストーリーは読み出したら止まらない面白さ。文句なしの傑作エンターテイメントである。 前作にハマった人、ロス・トーマスのファンはもちろん、コン・ゲーム系がお好きな方にオススメする。 |
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イギリスのYA作家の本格謎解きミステリー。アスペルガー症候群の少年がロンドンの大観覧車から姿を消したいとこを探して、密室脱出の謎を解く本格的なミステリーである。
他人の気持ちを読み取るのは苦手だが気象学の知識は専門的で、物事の仕組みを考え続けるのは得意な12歳のテッド。おおむね暖かく接してくれる家族に囲まれ、自分が他の人とは違うことは自覚しながらも素直に成長していた。ある日、ニューヨークへ移住するという叔母がいとこのサリムと一緒にテッドの家を訪れ、出発の前にロンドン見物をすることになった。テッドと姉のカット、サリムの3人が大観覧車のチケット売り場で並んでいると男が現れ、チケットを1枚譲ってくれるというので、サリムだけが乗り込んだ。30分後、一周してきた観覧車のカプセルからサリムは降りてこなかった。密室状態のカプセルからサリムは、なぜ、どうやって姿を消したのか? テッドは姉のカットと力を合わせ、常識にとらわれない、素直な論理的思考で真相に辿り着くのだった。 アスペルガー症候群の少年が主人公というユニークな設定だが、謎解きに関しては極めてオーソドックスで、大人が読んでも十分に楽しめる本格派の作品である。YA作家だけにテッド、カット、サリムの3人の人物造形が巧みだし、周りの大人たちも存在感があり家族の物語としても読み応えがある。 子どもから大人まで、どなたにもオススメできる良作である。 |
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