■スポンサードリンク
iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
山本周五郎賞を受賞した1995年の「家族狩り」オリジナル版を再版した2007年版。現状を顧みず家族を賛美する風潮に怒りを込めたという執筆の背景通り、家族であることは幸いなことなのか、家族に必然的に生じる歪みは無視できるのか、という問題意識をストレートにぶつけた重苦しい家族小説である。
上下2段組560ページのボリュームかつ全編にわたって猟奇的でグロテスクなシーンが展開されるため、読む側に体力、気力が求められるが、読み終えた時、ずっしりした重さを感じること間違いない力作である。 誰もが避けて通りたいような重苦しいテーマだが、ミステリー仕立てのストーリーが成功して、エンターテイメント作品としても高く評価できる。 現在の家族の在り方、社会状況に興味を持つ方に、先入観なしで読むことをオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
2作目となる本書でアンソニー賞など各賞に輝き、彗星の如くデビューした新進作家の本邦初登場。アメリカ南部で裏社会から足を洗い、今では自動車修理工場を営む黒人主人公が経済的な苦境から再び犯罪に手を出し、ギャングの抗争に巻き込まれていく傑作ハードボイルドである。
かつて裏社会で名の知れたドライバーだったボーレガードは真っ当な仕事と家族を持ち、平穏な日々を送っていたのだが、経営する修理工場が行き詰まり、金策に苦労するようになっていた。そこに昔の仕事仲間が現れて宝石店強盗を持ちかけられ、ボーレガードの運転テクニックを駆使した逃走で強盗に成功する。だが、宝石店を経営していたのはギャングのボス・レイジーで、ボーレガードたちは追われ、家族の命まで危険に晒された。窮地に追い込まれたボーレガードは愛する家族を救うために、レイジーが取引を持ちかけた、ギャング相手の危険な仕事に挑まざるを得なくなった…。 ストーリーは「これぞ、ハードボイルド」というシンプルかつオーソドックスなものだが、登場人物、エピソード、物語の展開スピードが素晴らしい。主人公の生き方、人間性、周囲の人物のキャラクター、そこに生まれる人情ドラマが生きている。それに加えて、アクション、特にカーアクションが抜群。車好きにはたまらないないだろう。さらに、タランティーノ映画を想起させるノワール風味が加わり、すぐに映画化権が話題になったというのも納得できる。 アメリカン・ハードボイルドの正統を受け継ぐ傑作としてハードボイルド、ノワールのファンには絶対のオススメだ。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
警察小説の古典的名作「マルティン・ベック」シリーズの第二作、日本の新訳版では3番目の作品。鉄のカーテンの向こう側、ブダペストで失踪したスウェーデン人ジャーナリストの行方を探る、シリーズでも異色の警察ミステリーである。
本国で防諜機関の調査対象になったことがあるジャーナリストがハンガリーで行方不明となり、外交関係への影響を危惧する政府はベックに極秘調査を依頼する。夏休暇を中止させられたベックは鬱々とした気分のままブダペストに赴き、調査を開始するのだが、言葉に不自由な上に鉄のカーテンの向こう側の状況がさっぱり分からず、調査は一向に進まなかった。さらに、ハンガリー警察に監視されるだけでなく、誰かに尾行されている気配が濃厚で、ベックは八方塞がりに陥ったのだった…。 ジャーナリストが行方不明になった理由が最後に明かされて警察ミステリーとして完結するのだが、全体を読んだ印象は冷戦時のスパイ小説風味の推理小説と言うべきか。何よりも東欧の古都ブダペストの建物、風景、暮らしなどの描写が印象深い。その分、ミステリーとしての味わいはシリーズの他作品ほど高くない。 それでも、警察小説というジャンルを確立したシリーズの初期作品であり、全ての警察ミステリーファンに「読む価値あり」とオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
シカゴのハリネズミ探偵V. I. ウォーショースキー・シリーズの第20作。ホームレス女性と関わったことからシカゴの政財界の闇に切り込んでいくヴィクの孤軍奮闘を描いたハードボイルド・ミステリーである。
おもちゃのピアノを弾くホームレスがかつて大ヒットを出した歌姫・リディアで、銃乱射事件で恋人を失ってから精神を病んでいることを知ったヴィクは救いの手を差し伸べようとするがリディアは心を開かず、逃げるばかりだった。さらに、リディアの保護者を買って出ている男・クープが現れ、ことあるごとにヴィクと衝突を繰り返すようになっていた。行方をくらませたリディアをヴィクが探している間に、名付け子・バーニーの友人のレオが殺された。レオは何かの情報を掴んだために殺されたのではないか、ということは、情報を知っている可能性があるバーニーも危害を加えられるのではないか? 危険を感じたヴィクはバーニーを避難させ、一人でレオ殺害の背景を探り始めたのだが、さらにレオの環境問題団体仲間の一人も死体で発見され、事態は複雑になるばかりだった…。 シカゴの都市開発を巡る陰謀にカンザス州での銃乱射事件が重なり、それに巻き込まれたバーニーやヴィクも容疑者扱いされるようになり、ストーリーはあちらこちらに飛び跳ねていく。また、登場人物やエピソード、舞台となる場所も多彩で物語はどんどん広がって行くのだが、基本はいつも通りヴィクの正義感がまっすぐに貫かれるところで揺るぎなく、安定感というか、マンネリというか、読者を裏切らない。 シリーズ・ファンには安心してオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
021年、イギリスでベストセラーランキングに入ったという、女性作家の文芸ミステリーデビュー作。1990年にスコットランドの孤島の灯台で忽然と三人の灯台守が消えたという史実をベースに、大胆な構成力で仕上げた謎解きミステリーかつ男と女の物語である。
1972年のクリスマス直前、イギリス南西部の孤島の灯台に補給船が到着してみると、いるはずの灯台守三人の姿が消えていた。容易に人が近づける場所ではなく、灯台の扉は内側から施錠されており、誰かが侵入したとは考えづらかった。さらに、食卓には手付かずの食事が残されており、内部で争いがあったような形跡もなかった。一体何が起きたのか、全く不明のまま事件は迷宮入りした。その20年後、海洋冒険小説家が事件の謎を解くと宣言し、関係者にインタビューしてまわり始めたのだが、遺族たちの口は重く、さらに遺族間に微妙な対立があり、真相は簡単には明らかにならなかった…。 絶海の孤島に男三人だけで24時間顔を突き合わせて暮らす灯台守、その留守を守る妻たち。それぞれに守るべき秘密と生きるための光があり、光は同時に闇を生み、人間と家族の物語の陰影が描かれていく。フーダニット、ワイダニットがストーリー展開の軸ではあるが、それと同等、あるいはそれ以上に家族の物語がスリリングである。 謎解きミステリーにとどまらない人間ドラマとして、多くの人にオススメできる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
1991年の「鍵」と同じ兄妹を主人公にした、1996年の作品。よって立つ基盤を見つけられない若者たちの形のない不安が引き起こした殺人を描いた青春ミステリーである。
麻里子は高校3年になり、進学や恋愛など様々な場面で聾者であることから湧き上がる不完全感に苛立ち、自分の気持ちを整理できないでいた。そんな時、兄の友人で新聞記者の有作から毒入りジュース事件で容疑者にされた少年・直久が聴覚障害者と聞き、会わせてくれるように依頼する。突然現れた麻里子に戸惑う直久はぶっきらぼうな態度をとったのだが、直久が健聴者に向ける敵意が気になり、まりこは何とかコミュニケーションを取ろうとする。一方、毒入りジュース事件を起こしたケーキ屋の息子・恩は親の過干渉に苛立ち、胸の中で育っていく怒りを犯罪で解放しようとしていた。そんな三人が見えない糸で結ばれ、思いがけない事態が起きたのだった…。 事件の犯人は最初から明示されていて、謎解きミステリーではない。事件の背景となる家族の不確かさ、自分を信じきれない若さの揺れがメインの青春小説である。シリーズ作品だが、解説にあるように前作を読んでいなくても問題はない。軽いテイストの家族物語、青春ミステリーのファンにオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
2019年から22年に雑誌連載された長編ミステリー。いくつかの現実の事件を想起させる出来事をベースに犯罪者、捜査側、関係者が濃密な人間ドラマを織りなしていく群像劇ミステリーである。
渡良瀬川の河川敷で若い女性の全裸死体が発見された時、警察は凍り付いた。というのも、10年前に同じ手口での2件の連続殺人があり、容疑者を別件逮捕したものの本件では証拠固めができず釈放したという苦い経験があったからだった。あの容疑者がまたやったのか。警察は威信をかけて捜査を始めたもののなんの手がかりも得られずにいるうちに、またもや同じ手口の事件が発生した…。 新たな捜査を担う刑事たち、10年前の未解決事件を担当した元刑事、容疑者となった男、被害者の父親、警察担当の若手記者、今回の事件で浮かび上がった重要参考人などを中心に展開されるドラマは、10年の歴史が背景にあるだけに分厚く、複雑でストレートに事件解決とはいかないのだが、そのもどかしさにはきちんとした裏付けがあり、エピソードの広がりが読む者を惹きつける。登場人物は多くてもキャラクター設定が巧みなので混乱することはなく、ぐんぐん読み進められる。作品を構成するテーマやエピソードが広すぎて、最後はやや強引にまとめた感があるものの、面白いミステリーを読んだという満足感が味わえる。 単なる謎解きではないミステリーのファンに、文句なしのオススメである。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「ときどき私は嘘をつく」、「彼と彼女の衝撃の瞬間」に続く、イギリス女性作家の邦訳第三作。結婚後10年以上が過ぎ、お互いに結婚生活に疑問を抱き出した夫婦が、関係の修復を目的に人里離れた古いチャペルに出かけたのだが、それぞれの思惑とは異なり、思いがけない事態に遭遇するサスペンス・ミステリーである。
多少は売れている脚本家のアダムは仕事中心の生き方がたたって、妻のアメリアとの関係に危機が訪れていた。そんな状況を修復すべくアメリアは人里離れた場所での二人だけの休暇を提案する。愛犬・ボブと共に出かけてきた二人だったが、長旅に悪天候が加わり次第に険悪な雰囲気になっていく。しかも、泊まる予定のチャペルはドアに鍵がかかっており、管理人に連絡することもできなかった。二人のストレスがどんどん高まるばかりという悲惨な状況に加え、アダムとアメリアにはそれぞれに秘密の企みがあったのだった…。 夫婦それぞれの視点とアメリアからアダムへの「渡されない手紙」の三つの語りで進められる物語は、思いがけないチェンジ・オブ・ペースと捻りに満ちており、最後まで読者に正体を明かさない。前作「彼と彼女の衝撃の瞬間」と同様、読む側の先入観をきれいに裏切って見事なクライマックスを見せてくれる。 作者の仕掛けに乗って騙されることが苦にならない読者にオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
L.A.市警のはぐれハリネズミ・ボッシュの第4作。大地震で家を失いかけ、署内トラブルで仕事を失いかけているボッシュが、自身の運命を決めた母親殺害事件の謎を解く警察ハードボイルド・ミステリーである。
捜査に関わるトラブルで上司を暴行したボッシュは強制的に休職処分となり、復帰のためのカウンセリングを受けさせられていた。その退屈を紛らわすため、33年間、ずっと心に居座っている実母・マージョリーが殺害された事件の真相を暴こうと決心する。ボッシュには何の捜査権限もない事件であり、当然のことながらボッシュの捜査は周囲との軋轢を引き起こし、上司や内務監査部門から厳しい目を向けられる。それでもボッシュは強引に、時にはルールを無視しながらあらゆる障害を乗り越え、33年間隠されてきた事件の闇を明るみに出すのだった…。 第1作から小出しにされてきたボッシュの生い立ち、常に傷を負ったハリネズミのような怒りを充満させている性格が形成されるまでの背景がメインテーマである。そういう面でも、本書はボッシュ・ファンは必読。また、本作だけでも十分に楽しめる傑作ハードボイルドとして、本シリーズ未読の方にもオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
あまり邦訳が出ていないアメリカの作家の短編集。純粋なミステリーではないが、犯罪に関わった、巻き込まれた人々の切なさとやるせなさ、怒りや不全感を描いた、それぞれに味わい深い10作品が収められている。
どれも謎解きやサスペンス、テックニックやアイデアを誇る作品ではなく、人種も性別も年齢も異なる各作品の主人公たちが社会と自分に絡め取られ、思い通りに生きられない鬱屈した思いがメインとなっている。とはいえ、あくまでもエンターテイメント作品であり、ただ重苦しいだけの「私小説」ではない。10作品ともレベルが高く優劣つけ難いが、ギャンブル中毒のダメ男が主役の「万馬券クラブ」が一番面白かった。 短編好きの読者、何か納得できない日々を過ごしている方にオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
尖閣諸島の問題をベースにした政治陰謀小説。偶然発覚した残虐な暴行事件が現役総理大臣暗殺事件と繋がっていく、サスペンス・アクションである。
奥多摩の交通事故現場に残された車のトランクから激しい暴行を受けた男が発見された。被害者の身元を証明するものは何もなく、運転していた人物も逃走とあって捜査は手探りで始まったのだが、担当する荻刑事の粘り強い捜査で被害者が判明した。さらに、事故車両の所有者と被害者との間に隠されたつながりがあるのではないかと疑った荻刑事は、警察上層部からのプレッシャーを跳ね除けながらじわじわと真相に迫って行く。同時進行のエピソードとして、理不尽な理由で自衛隊を辞めさせられた射撃の名手の自衛官・佐々岡は、自衛隊情報保全部員の三枝から「自衛隊OBが絡む政治団体への潜入捜査」に勧誘される。難病の妻の治療に便宜を図るという条件に心を動かされた佐々岡は任務を承諾し、団体の中心に近づくことに成功した。そして現役総理大臣が暗殺され、二つのエピソードは繋がって行く…。 中国が尖閣諸島を占拠し日本と戦闘が起きたら、アメリカはどうするのか? という大問題を背景に、自衛隊はどう動くべきなのかをメインに据え、政治家と軍人の思惑を絡ませたシミュレーション・ゲームであり、ところどころ都合が良すぎる人物が登場したり、首をひねる展開もあるものの、国産の政治陰謀小説としては十分に合格点に到達している。 政治サスペンスのファンにオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ハリー・ボッシュ・シリーズの第12作。ボッシュが取り憑かれてきた未解決事件に新展開があったのだが、ボッシュたちのミスが発覚し、さらにパートナーのキズは負傷、ボッシュは自宅待機を命ぜられる。それでも不屈の刑事・ボッシュは解決に向けて一人奮闘するという、王道の警察ミステリー・サスペンスである。
女性のバラバラ死体を車に載せていて逮捕された男が、ボッシュが13年前から追いかけ続けている事件の犯人だと自供したのだが、それはボッシュが犯人だと目星をつけていた人物とは異なっていた。しかし、男の供述は具体的で、しかもボッシュたちの初動捜査にミスがあったことが発覚し、ボッシュは自分の捜査に自信が持てなくなる。さらに、現場検証の場で犯人に逃げられただけでなく、キズが撃たれて負傷してしまった。この事態を受けてボッシュは自宅待機にされたのだが、ボッシュは捜査資料を自宅に持ち帰り、FBI捜査官・レイチェルの助けを借りて独自の捜査を続け、捜査の裏に隠された巧妙な陰謀に気が付いた…。 さすがロス市警のはぐれ者・一匹狼のボッシュ、今回も周りと衝突を繰り返しながらひたすら捜査を進め、ついに巨悪を突き止める。いわばいつものボッシュ・シリーズなのだが、本作ではボッシュが罠に嵌められて苦悩するところが目新しい。また、レイチェルとヨリを戻していい関係になるのも、シリーズならではの読みどころと言える。物語の構成、ストーリー展開、スピード感、ミステリーの緻密さなど、すべての面でレベルが高く、各種ミステリーランキングなどで高評価を得ているのも納得できる。 ボッシュ・ファン、コナリー・ファンは必読! |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
2005年に発表された書き下ろし長編。著者の青春三部作の第2作。仕方なく工業高校に進んで落ちこぼれていた主人公が、ひょんなことからロケット(正確にはキューブサット)打ち上げに挑戦することになり、個性的な落ちこぼれ仲間を集め、最後には成功するという、見事なまでの青春小説である。
同工異曲の作品は枚挙にいとまがないが、それでも読ませる力を持った作品であり、読後感が良い。 あれこれ考えず、素直に読み進めることをオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
オウム真理教事件を思い起こさせる新興宗教の教祖と、それに関わったり巻き込まれたりした人々。その生き方はあらかじめ決められたものなのか、それとも自ら選び取ったものなのか、いつの時代にも人を悩ませてきた永遠のテーマを平成の日本社会に持ち込んだ社会派エンターテイメントである。
バラバラに展開しながらも強く連関を感じさせる4つの物語が新興宗教の凶行を軸に繋げられるのだが、繋げるものの正体が幻想的すぎて分かりにくい。というか、分からないから物語になるのだろうけど。読んでいて落ち着かないこと、この上ない。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ミッキー・ハラー・シリーズの第6作。殺人容疑で逮捕されたハラーの無実を証明するためにファミリーが集結し、拘置所のハラーを中心に必死の戦いを繰り広げる傑作法廷ミステリーである。
パトカーに停められたハラーのリンカーンのトランクから射殺体が発見され、さらにガレージからは銃弾が見つかったことでハラーは殺人容疑で拘置所に収監されてしまった。身に覚えがないハラーは誰かの陰謀、罠に嵌められてしまったことを証明するために、獄中からの本人訴訟を選ぶ。頑固な検察だけでなく、看守や収監者からも嫌がらせや脅迫を受け、さらに思い通りに動けないハンディを抱えるハラーだが、強力なファミリーが力を合わせることで壮絶な裁判闘争を戦い、潔白を証明するのだった…。 拘置所に収監されるという絶体絶命の危機をいかにして乗り越えるのか。ハラーの知識と知恵と度胸をかけた死に物狂いの法廷闘争が抜群に面白い。アメリカの裁判は裁判長を含めた関係者のキャラクターで全く展開が違ってくる、まさに法廷ドラマであることがよくわかる。殺人や暴力のシーンがなくてもサスペンスが盛り上がることを証明する作品だ。 ミッキー・ハラーのファンというかコナリーのファンには絶対のオススメ。法廷ミステリー・ファンにも強力にオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
コメディアンにしてミステリー作家というアイルランドの作家の初長編。誰にでも誰かに似ていると見られる青年・ポールが老ギャングの最後に立ち会ったことからギャングの秘密を知ったと疑われて命を狙われる、巻き込まれ型ユーモア・ミステリーである。
ホスピス慰問のボランティアをしているポールはある日、死期が迫った老人に知人の息子と間違えられて大騒動になった。老人が実は悪名高いギャング仲間で、ある有名な誘拐事件に関わっていたことがあり、最後に立ち会ったポールは事件の秘密を知ったのではないかと疑われ、爆弾で命を狙われることになる。たった一人で逃げ回る羽目になったポールに救いの手を差し伸べてくれたのが、ホスピスの看護師・ブリジットと子供時代からの恩人であり宿敵でもある中年刑事・バニーだった。訳も分からず逃げ回る三人だったが、追いかける組織と追いかける理由を知るために逃げながら探偵するという綱渡りを繰り広げることになった。 典型的な巻き込まれ型ドタバタ・ミステリーで、訳が分からないうちにどんどん話が進む。さらに登場人物がくせ者揃いで、至る所でユーモアたっぷりのエピソードが繰り広げられる。その割に事件の謎や犯人像が凡庸で、ミステリーとしてはイマイチ。2時間もののコメディにはなりそうだが、次作を期待するほどではない。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ドイツ南部の田舎警察の妙ちきりんなコンビ「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズの第三弾。新たな殺人事件をきっかけに解決したはずの事件に隠されていた秘密を解明していく、警察ミステリーである。
今回も、遺体を発見したのはクロイトナー巡査だった。賭けをして一般道を時速150kmで競走していた友人・ラウベルトの配送車の荷室から女性の死体が出てきたのだ。ラウベルトは被害者女性との関係を否定するのだが、前日の夜に女性がラウベルトに何かを見せているのが防犯カメラに映っていた。休暇中だったのだが現場に居合わせてしまったヴァルナー警部が捜査に手を貸す(実際は自分から関わりたがって)ことになり被害者・ハナの家を調べると、パソコンが無くなっていた。さらに、有名女優・カタリーナの自宅や家族を隠し撮りした写真が大量に見つかったのだが、カタリーナは四ヶ月前に娘・レーニが殺害されるという悲劇に見舞われていたのだった。ハナはなぜ隠し撮りしていたのか、レーニの事件との関係はあるのだろうか? ハナの身辺を洗うことからハナとカタリーナには複雑な関係があることが分かり、さらに二人に共通する因縁があるルーマニア人の若い女性が行方不明になっていることも判明し、やがて捜査は解決したとされていたレーニ殺害の真相を暴くことになる。 犯罪の様態、真相解明のプロセスが複雑で、物語はあちらこちらに広がり二転三転するのだが、最後は平凡な動機で落着するので、ミステリーとしての面白さは期待ほどではない。むしろ、ヴァルナー&クロイトナーという異色コンビのチグハグさ、コミカルなキャラクターの面白さの方が印象に残る。ただそれも、ややマンネリ感が出てきたのが残念。 あと一歩の感を免れないが警察ミステリーとしては一定の完成度があり、読んで損はない。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
2021年の英国推理作家協会賞で最優秀長編賞を受賞した作品。カリフォルニアの海岸の町とモンタナの農場を舞台に、ある出来事をきっかけに崩壊家庭の少女とその家族を見守る警官が惨事の中から希望を見出していく、謎解きミステリーであり、ロードノベルである。
風光明媚でのどかな田舎町の警察署長でたった一人の警官・ウォークは、15歳の時から刑務所に送られていた幼馴染のヴィンが30年ぶりに出所するのを期待と不安のうちに待っていた。二人の友情は変わらないと信じるウォークだったが、ヴィンは5年前から刑務所での面会を拒絶し、出所時の出迎えも拒否しているのだった。同じ町に暮らす同級生でヴィンの恋人だったスターは30年前の妹の事故死の衝撃から立ち直れず、アルコールと薬物に依存し、13歳の娘・ダッチェスと5歳の息子・ロビンの面倒を見ることができないでいた。何の援助も受けられないダッチェスは幼い弟を守ることを最優先に、あらゆるものに立ち向かう「無法者」を自称し、世間に抗って生きていた。そんな対照的な二人だが、実はウォークは常にスターと姉弟に気を配り見守っているのだった。危ういながらも平穏な日々のはずだったのだが、ヴィンの帰還をきっかけに30年前の出来事の余波が再燃し、ウォークもダッチェスも抜き差しならぬ悲劇に巻き込まれていった…。 なんと言っても、13歳の無法者少女・ダッチェスの存在感が圧倒的で、読み進むほど心を揺さぶられていく。一方のウォークも正直者の少年がそのまま育ったような好人物だが、それでも心の闇は抱えており、親近感を抱かせる。さらにヴィン、スター、ロビン、ダッチェスの祖父・ハルなどの周辺人物もキャラクターが鮮明で、物語の展開に血肉を与えている。ストーリーとしては殺人事件の解明がメインだが、同時にウォークとダッチェスが挫折と悲哀から立ち上がって希望を見出していく成長物語でもある。舞台となるカルフォルニア、モンタナの情景も魅力的だ。 これはもう、ミステリーの枠にとどまらない傑作エンターテイメント作であり、多くの人に自信を持ってオススメする。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
N.Y.の私立探偵「リディア&ビル」シリーズの長編第12作。存在すら知らなかった親戚の冤罪を証明するために、ディープサウス・ミシシッピー州を舞台にヤンキー探偵二人が活躍するハードボイルド作品である。
N.Y.のチャイナタウンに住むリディアは突然母親に「ミシシッピーに行きなさい」と命じられた。リディアの父方の遠戚にあたる青年・ジェファーソンが父親殺しの容疑で逮捕されたので、現地で無実を証明し、青年を解放しろという。それまで存在すら知らなかった親戚だし、しかも一度も行ったことのない土地で満足な調査ができるか? 戸惑うばかりのリディアだったが母には逆らえず、相棒のビルと共にミシシッピーデルタの街に到着し、助けを求めてきたピートおじさんの家を拠点に調査を始めたのだが、大した手がかりが得られないうちにジェファーソンが拘置所から脱走し、事態はますます混沌としてくるのだった。 アメリカ南部特有の文化、風土、気質に加え、19世紀からの中国人移民の置かれた立場、中国人ならではの家族意識が複雑に絡み合い、物語は思いもよらない展開を見せる。それでも、ストーリーの骨格は揺るがず、最後には納得のいくエンディングを迎える。アメリカ南部の人種差別、民族対立、家族愛と、それに翻弄された人々の生きようがリアリティを持って迫ってくる。さらに中国系の若い女性・リディアとアイルランド系の中年男性・ビルのバディ物語も読ませる。 シリーズ作品とは言え、本作だけでも十分に楽しめるので、残酷ではないネオ・ハードボイルドのファンにオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
世間を騒がせた首都圏連続練炭殺人事件をヒントにした、ワイダニット・ミステリー。事件をそのままなぞったのではノンフィクションになってしまうので、ひと捻り、ふた捻りして、別の構造の事件に仕立てようとしたのだろうが、事実の大きさに太刀打ちできず、物語としても破綻したような作品である。
文中で何箇所か、それなりに重要な箇所に誤植が見られたのも残念。 |
||||
|
||||
|