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死者の長い列



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死者の長い列の評価: 8.33/10点 レビュー 3件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.33pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(6pt)

まあまあでした

登場人物が多すぎる。

わたろう
0BCEGGR4
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

みんな格好いい!

主人公マットが格好いいのは勿論のこと、エレインもtjも作者のローレンスブロックもみんな格好いい!
最初、スカダーシリーズを読んだときは、ちょっと私にはどうかな~と思ったのですが
何冊か読み進むにつれて、もう魅力にはまってしまいました。
次はどの小説を読もうか、楽しみです。
今まで読んだスカダーシリーズの中では断トツで、会話もおしゃれだし、行動?も素敵すぎる!
翻訳も(たぶん)バッチリです!
ほかの方にも是非読んでいただきたいミステリーです。

ももか
3UKDKR1P
No.1:
(10pt)

犯人の中に自分の一部を見た

マット・スカダーシリーズ12作目の本書では「三十一人の会」というランダムに選出された男性によって構成された、年に一度集まっては一緒に食事をして、その1年の事を語り合うという実に不思議な集まりのメンバーが最近次々と殺されていると疑いを持つ会員の依頼に従って真相を探るという、本格ミステリの味わいに似た魅力的な謎で幕を開ける。

この「三十一人の会」のように他者にとっては取るに足らない目的のために集まる奇妙な会のメンバーが次々と亡くなっているという謎はエラリイ・クイーンの短編「<生き残りクラブ>の冒険」を髣髴させる。この作品は作中エレインが動機の1つとして語る「トンティン」、つまり会員で募られた出資金を最後に生き残った者が独占できるというシステムを扱った短編だが、カバー裏に書かれた梗概を呼んですぐにこの短編が思い浮かんだ。

とにかく死が溢れている。
ニューヨークには八百万の死にざまがあると述懐したのはマット=ローレンス・ブロックだったが、本書にも様々な死が登場する。恐らく今までのシリーズで最も死者の多い作品ではなかろうか?

自動車事故で家族と共に死んだ者。
ヴェトナム戦争に出兵して還らぬ人となった者。
天寿を全うした者。
倒錯的な趣味が高じて亡くなった者。
ガンや心臓発作など病死した者。
強盗と鉢合わせ、殴り殺され、妻はレイプの挙句に絞殺された者。
タクシーを運転中に撃たれて亡くなった者。
自分の店に入った強盗に撃たれた者。
仕事中に自分のオフィスのビルから飛び降りた者。

このように実に様々な死が描かれる。
『八百万の死にざま』以降、新聞の片隅に書かれた三行記事のような死がマットの口から語られ、それらのうちいくつかはどこにでもあるような死でもあり、大都会ニューヨークが侵されている社会の病に魅せられた人間によって成された残酷な所業による死もある。

そんな基調で語られる物語だから古き昔から続く秘密の会のメンバーがいつの間にか半数以下になっており、誰かが会員を殺害しているのではないかと云う魅力的な謎で始まる本書でも正直私は意外な真相は期待していなかった。

ここ数年の作品ではマットが捜査の過程で出逢い、また語らう人々から得た情報や彼の捜査と云う行為が口伝で巷間に知れ渡ることで物事が動き始め、犯人が炙り出るという、いわば社会を形成する人間の心理的行動が事件の解決にマットを導き、それによって得られる犯人は全く被害者とは縁がなく、社会の病巣によって起きてしまった事件の当事者であることが多かった。
つまりミステリの興趣である犯人捜しという謎解きの妙味よりもマットの捜査の過程を愉しむ作品という都市小説的色合いが濃かったため、本書もその流れに沿うものだと思っていた。

しかし本書にはサプライズがあった。
そして驚くべきことにその犯人はきちんとそれまでに描かれ、犯人に行き着く手掛かりはきちんと示されていたのだ。しかもそれらが実にさりげなく、大人の会話の中に溶け込んでいるのだ。これぞブロックの本格ミステリスタイルなのだと私は思わず唸ってしまった。

このような恵まれない人物が犯した犯罪を探るマットの生活は実は一方でどんどん向上していっているのだ。
エレインとの仲はさらに深まり、TJは2人にとって良き相棒に成長した。

さらに驚くべきことに前作『死者との誓い』で知り合った被害者の妻リサ・ホルツマンとの肉体関係がまだ続いていたことだ。
ジャン・キーンというマットの心の一角を占有していた女性が病で亡くなり、エレインとの結婚に向き合う節目が訪れたと思ったら、一時の気まぐれと思っていた情事をいまだに引き摺っていたのにはある意味ショックだった。
警官時代、誤って少女を撃ち殺し、自責の念を抱えてアルコールに溺れていたマットの姿はどこにいったのか?齢55になっても女性に対して欲望を抱き、エレインと云う魂で通じ合ったパートナーを得ながら、浮気を重ねるマットの姿に失望を禁じ得なかった。
冒頭にエレインとの関係が訥々と語られ、その中に同棲しながらもまだ結婚には踏み切れないでいるとの述懐にマットの心の傷の深さを読み取ったのだが、単純にリサとの関係を浮気から不倫に発展させたくないがための愚かな抵抗と勘繰っても仕方がない所業だ。

そんなマットもとうとうAAの助言者となる。事件の調査で出逢ったジェイムズ・ショーターという男をAAの集会に参加するよう誘い、断酒の相談に乗るのだ。

死体の発見者となった精神的ショックから酒に溺れ、警備員の職を辞めざるを得ない状況に追いやった彼の姿にマットはかつての自分を重ねる。ジム・フェイバーが彼を救ってくれたように、マットもまたショーターを救おうと行動を起こす。

そしてまたマットもこの事件で変わる。
前述のようにここにはもうかつての負け犬、人生の落伍者であったマットの姿はもう、ない。55歳にしてようやく彼は幸せを掴みつつあるのだ。

しかしマットとエレインとの仲睦まじいやり取りが次第に多くなるにつれ、かつての暗鬱な生活からはかけ離れていくのが少し寂しく感じてしまう。しかしこの話が9・11以前のニューヨークでの物語であることを考えると、それもまた来るべくカタストロフィの前の休息のように思えてくる。
このマットの生活の向上は物語に描かれているニューヨークの街並みの移り変わりが多くの闇が開かれ、かつてのスラムがハイソな界隈に変わっていく姿と歩調を合わせているかのようだ。それ故に9・11が及ぼすマットの生活への影響が恐ろしく感じる。本書が発表された1994年に9・11が予見されていたことがないだけに。そしてこのシリーズが9・11後の今も続いているだけに。

さて今まで無免許探偵として彼の助けを求める人々のために働いていたマットが高級娼婦を辞め、コンドミニアムの所有者でありながら、個人美術商と云う新たな事業を始めて、それもまた成功させて着々と人生を切り拓いているエレインに夫としての吊り合いを保つために、いや少しばかりの男の矜持のために探偵免許を取得しようと決意するマット。
変わりつつある彼の性格と環境に今後どのような物語が待ち受けるのか。
もはや暗鬱さだけが売りのプライヴェート・アイ小説ではなく、ニューヨークと云う巨大都市に潜む奇妙な人間を浮き彫りにする都市小説の様相を呈してきたこのシリーズの次が気になって仕方がない。
なぜならこんなサプライズと味わいをもたらしてくれたのだから。
そして恐らく彼が死者の長い列に並ぶ日はまだかなり遠いことになるのだろう。ブロックの作家生命が続く限り。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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