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死角 オーバールック



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【この小説が収録されている参考書籍】
死角 オーバールック (講談社文庫)

死角 オーバールックの評価: 7.00/10点 レビュー 4件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(8pt)

色々含めて、ある意味ブラックすぎる!

ボッシュシリーズ13作目。
エコー・パーク事件を経たボッシュは未解決事件班から殺人事件特捜班へ異動。政治的な問題が絡んだり、有名人が関わっていたり、またはマスコミの注目を浴びて騒ぎ立てられるような事件を担当する部署とのこと。極めて困難で時間のかかる、趣味のように捜査が続くような事件を担当する部署とも云われている。執念の男ボッシュに相応しい部署だ。
そしてボッシュも本書で56歳になったことが判明する。白髪の面積が茶色地毛のそれを凌駕し始めているが、その体形は維持されており、衰えを感じさせない。

そして前作での宣言通り、エコー・パーク事件で重傷を負ったキズミン・ライダーは捜査の最前線での職務から離れ、元いた本部長室に配属になり、内勤業務に携わる。そして新たなパートナーはボッシュの20歳年下でキューバ系アメリカン人のイギーことイグナシオ・フェラス。

更にエコー・パーク事件で再会したFBI捜査官レイチェル・ウォリングも再び関わってくる。前作の事件から6カ月経っており、その時は元心理分析官の技量を買われ、プロファイリング方面での活躍だったが、今回は現在所属している戦術諜報課の一員としてボッシュと医学物理士殺しの事件の捜査を共同で行う。

そしてFBIと共同で捜査する事件はなんとテロ事件。医療に使われている放射性物質セシウムを強奪した犯人を追うノンストップ・サスペンスだ。

しかも犯人は中東訛りを持つ複数の人物とされており、まさにこれは9.11のニューヨークの悲劇をテーマにした作品と云えるだろう。
但し舞台はニューヨークではなく、ロスアンジェルス。つまりイスラム系過激派によるテロがロスアンジェルスで行われようとしているという設定だ。

そしてこのテロという規模の大きい事件がボッシュの捜査の前に大きく立ちはだかる。
彼が担当するスタンリー・ケント殺害事件はそのまま犯人と目されるアラブ系テロリストによって企てられようとするテロ事件を未然に救うための事件に大きくクローズアップされ、FBIによって事件そのものを奪われようとされる。しかも彼らが狙っているのはテロリスト並びにセシウムであり、殺人事件の犯人ではないのだ。

つまりここで描かれているのは9.11後のアメリカの姿だ。滑稽なまでにテロに関して、特に中東アラブ系のアメリカ人に対して過敏になり、真偽不明の噂やタレコミを信じて警察はじめ政府の組織が総動員される。まさに大山鳴動して鼠一匹の感がある。9.11の6年後だからこそ当時混迷していたアメリカの姿を描くことが出来たのかもしれない。

また天敵のFBIからどうにか捜査から弾き出されまいと孤軍奮闘するボッシュの捜査は相変わらずルール無視、いや己のルールに従う自分勝手な行動が目立ち、新パートナーのイグナシオ・フェラスも早々とコンビ解消を申し出るほどだ。
それがまた大局を見つめるFBIのレイチェルとそのパートナー、ブレナーたちの知的かつ冷静さを際立たせ、ボッシュの独りよがりさが読者にある種嫌悪感を抱かせるようになっている。この辺りの筆致は実に上手い。信頼のおける孤高の刑事ボッシュを我儘に自分の事件だとして勝手気ままに振る舞う解らず屋のロートル刑事に見立てさせるコナリーのストーリー運びの何たる巧さか。

また一方で上述したように9.11の同時多発テロ以降、テロに敏感になり、警察はじめ政府の捜査機関、情報機関が過剰に反応する風潮が当時のアメリカには蔓延していた。それは周囲もまたそうだった。

またミットフォードが携えていた小説がスティーヴン・キングの『ザ・スタンド』だったというのもある意味暗示めいている。新しいインフルエンザの蔓延によってほとんどの国民が死に絶えるアメリカを扱ったディストピア小説であるこの小説は、もしセシウムが悪用された時のロスアンジェルスの状況を示唆している。ただこれについては既読済みと未読済みの読者で受け取り方は異なると思うが。

私も同時多発テロの影響で観光事業が冷え込むハワイが激安価格で旅行プランをサービスしていたのに便乗してハワイ旅行に行ったが、その時のピリピリした通関審査の状況を思い出した。

9.11に関与したアラブ系、イスラム系外国人への失礼なまでの注意深い眼差し、放射性物質や液体爆弾などのテロの材料となりうるものに神経を尖らせていたそれらアメリカの機関の対応と当時のアメリカの世相を嘲笑うかのような真相は繰り返しになるが9.11が起きた2001年から6年経ったからこそ書ける内容なのだろう。

色々含めて、いやあ、ある意味ブラックすぎるわ。

そんなことを考えると原題の意味するところが非常に深く滲み入ってくる。
“The Overlook”は名詞では「高台」を示しており、即ち事件現場となったマルホランド展望台を指すが、動詞では「見晴らす」、「見落とす」、「見て見ぬふりをする」、「監視する」といった正の意味と負の意味を含んだ複雑な意味合いの単語となる。邦題では「見落とす」の意味合いを重視し「死角」としているが、本書はその他どれもが当て嵌まる内容なのだ。

しかし冒頭にも書いたがボッシュももう56歳であることに驚かされる。歳を取ったことに驚くのではなく、56歳にもなるのにその傍若無人ぶりはいささかもデビュー作以来衰えないからだ。
歳を取ると人間丸くなるとよく云うがそれはこのハリー・ボッシュことヒエロニムス・ボッシュには全く当て嵌まらない。むしろ自分のやり方を新しい相棒にレクチャーし、継承しようとしている感さえある。
自分の生活を守るためにルールを重んじ、馘にならないように考えている新相棒イグナシオ・フェラスは彼に貴方が欲しいのは相棒ではなく使い走りだ、そしてそれは俺には当て嵌らない、だから誰か他の人間を貴方と組むよう上司に相談するとまで云わせる。
更にFBIに有利に事を進めさせないために情報の提供はせず、目撃者を隠すことまでする。また更にFBIに捜査から外させないよう、直属の上司を飛び越え、出勤前の本部長を訪ね、FBIに口添えすることまで依頼する。
常に彼は自分の目の前の悪を捕まえることに執着し、その気概は年齢とは無縁である。

しかし本書でなんとボッシュがレイチェル・ウォリングとタッグを組むのは3回目だ。もはやエレノア・ウィッシュを凌ぐコンビになりつつある。そして彼ら2人は会うたびにお互い似たような匂いと雰囲気を持っていることに気付かされ、心の奥底では魅かれ合っているのに、あまりに似ているがために一緒になれず、いつも苦い思いを抱いて袂を分かつ。
それは自分の中の嫌な部分を相手に見出すからだ。お互い危険な状況に身を置く職業であり、レイチェルは常に心配をさせられるのが嫌だとかつては云っていたが、本当の理由はレイチェルはボッシュに、ボッシュはレイチェルに見たくない自分を見るからではないだろうか?

そして常に事件で出逢った女性と浮名を流すボッシュが長く関係を持つのがエレノア・ウィッシュとレイチェル・ウォリング、つまり2人がFBI捜査官の女性である、もしくは“だった”ことだ。仕事の上でボッシュはFBIの介入を心の底から忌み嫌う。自分たちの事件を横からかっさらい、または協力者と思わせていつの間にか蚊帳の外に置かれる彼らのやり方が気に食わないからだ。

しかし人として向き合った時に好感をボッシュは抱く。敵対する組織にお互い身を置きながら魅かれある男女。つまりコナリーはボッシュシリーズを一種の『ロミオとジュリエット』に見立てているのだ。
障害があるからこそ男女の恋は一層燃え立つ。コナリーはそれを現代アメリカの犬猿の仲である警察とFBIを使って描いている。

今までのシリーズの中でも最短である事件発覚後12時間で解決した本書はしかし上に書いたようにミステリとしての旨味、登場人物たちの魅力、テロに過剰反応するアメリカの風潮などがぎっしり凝縮されており、コナリーの作家としての技巧の冴えを十分堪能できる。特にレイチェルはコナリーにとってもお気に入りのようで、ボッシュとの縁は当分切れそうにない。

物語の最後に彼ら2人が再びエコー・パークを訪れるのは2人にとって袂を分かつことになったそれぞれの過ちを解消するためにスタート地点に戻ったことを示すのだろう。

レイチェル・ウォリングは決して新キャラクターではなく、彼の5作目に登場した人物である。そしてボッシュの扱う事件も―本書は違うが―過去の未解決事件が多く、常に過去の因縁が付きまとう。

にもかかわらず我々の前に見せてくれるのは新しい刑事小説の形だ。コナリーの視線は常に過去に向いていながらもそれを現代アメリカに見事に融合させている。

また訳者あとがきによればコナリーは短編も素晴らしいとのこと。長編も素晴らしく、短編もまたとなれば、まさに死角なしの作家である。
現在までコナリーの短編集は刊行されていない。どこかの出版社―もう講談社しかないのだが―でいつか近いうちにコナリーの短編集が刊行されることを強く望みたい。

私は今本当にとんでもない作家の作品を読んでいるのではないかと毎回読み終わるたびに思うのだ。それは今回もまた変わらなかった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

珍しく、推理で活躍するボッシュ

週刊紙の連載をベースに加筆修正したという、ボッシュ・シリーズの第13作。シリーズの中では短めで、展開にスピード感があるサスペンス作品である。
ロス市内を見渡す展望台で、後頭部に2発の弾丸を撃ち込まれた男性の死体が発見された。犯行の様相からギャングがらみの処刑かと思われ殺人事件特捜班の出番となったのだが、調べて行くとテロリストが関与している疑いが浮上し、FBIが乗り出してきた。前作「エコー・パーク」で因縁があったレイチェル捜査官をはじめとするFBIと鋭く対立しながらの捜査となったボッシュだが、独自の鋭い推理で犯罪の裏に隠された真相を見つけ、複雑な事件をスピーディーに解明して行った。
事件発生から解決までが半日ほどなのでストーリー展開がテンポよく、すいすいと読みすすめられる。にも関わらず、事件の構造は複雑でサスペンスがある。いつもは力業で事件をねじ伏せて行くイメージのボッシュだが、今回はわずかな証拠から鋭い推理を発揮する知性派の一面を見せてくれる。そういう意味ではシリーズ読者には必読の一冊であるが、シリーズ読者以外でも楽しめる警察ミステリーである。

iisan
927253Y1
No.1:
(7pt)

スピード感はあるが、少し物足りない

アメリカでは売れっ子作家ということで読んでみました。
テロの恐怖を題材にした物語で24みたいだな、というのが感想です。
主人公のボッシュのキャラクターは非常に素晴らしいと思いました。
ただストーリーにスピード感はあるものの、それほど面白いとは思えなかった。
もちろん、つまらないわけじゃないんですけど。

ディストリー
6971VOAP

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