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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数1433

全1433件 1261~1280 64/72ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.173:
(2pt)

う~ん、わからん。

何がどう怖いのかよく解らない。世評とのギャップが大きすぎて正直戸惑っている。
我らが影の声 (創元推理文庫)
ジョナサン・キャロル我らが影の声 についてのレビュー
No.172:
(4pt)

世評高さに期待して…。

ラストは秀逸。プロットは途中で解ったものの良質。ただ、語り口がどうも合わなかった。
死者の書 (創元推理文庫)
ジョナサン・キャロル死者の書 についてのレビュー
No.171:
(4pt)

最後に出てくるのは作者自身?

とにかく物語を動かしてみよう、主人公らに次々と危機また危機に見舞わせてみようと、実験的に書いてみたような、設定ありきでストーリーは二の次で書いてみたような作品。
そのせいか疾走感は確かにある。が、やはり物語と登場人物に厚みが無い。最後もとうとう収拾つかなくなって、えいやとばかりにデウス・エクス・マキナを放り込んだような閉じ方。
特に最後の締めの言葉は何なんだ?初のシミタツ出演作品?
夜の分水嶺 (徳間文庫)
志水辰夫夜の分水嶺 についてのレビュー
No.170:
(4pt)

地味で、且つ異色。

シミタツでは珍しく女性を主人公にして作品。しかも古書店に勤める女性という地味な主人公で、しかも稀覯本を巡る話。およそシミタツには似つかわしくない題材と人物設定で、物語も流されるままに流れていく。
題名は主人公の女性を例えた言葉なのだが、あまり印象的に使われている風でもない。この頃のシミタツはちょっと作品に迷いを感じるのだが、特にこの作品は作者の目指す方向性が見えない当時の状況が露呈しているような内容だ。
花ならアザミ (講談社文庫)
志水辰夫花ならアザミ についてのレビュー
No.169:
(7pt)

爽やかシミタツ!

秩父の山奥の集落を舞台にした田園小説の意匠を纏ったハードボイルド小説か。田園小説とは英国文学が本場なのだが、本書は日本の田舎を舞台にした、故郷小説ともいうべき農耕文化がそこここに挟まれ、日本人の魂の根源を感じさせられる。
北方領土、海男の厳しい戦いを描いたシミタツがこんな老成した境地にまで達したのかと思うと感慨深いものがある。
悪徳不動産業者との戦いが軸なのだが終始爽やかで、派手ではないが美味しい緑茶を飲んだような爽快感がある。
帰りなん、いざ (新潮文庫)
志水辰夫帰りなん、いざ についてのレビュー
No.168:
(7pt)

これがシミタツのベストではない!

シミタツ作品で一番エントリー数多いなぁ・・・。シミタツ読者としてはこれを読んでシミタツを解ったように思って欲しくはないのだが。
『このミス』1位の宣伝文句は単に購買意欲をそそっているだけで変な先入観をもたらしているだけ。非常に邪魔だ。
主人公に都合の良すぎる展開や身勝手すぎる登場人物たちという声が多く、それについては同意する。私の中でも本書はシミタツ作品10本の指に入っても上位ではない。もっと面白い作品があるのでこれに懲りず、もっと手を出して欲しい。
しかし文庫の表紙の絵は、不倫の香りがするなぁ・・・。
行きずりの街 (新潮文庫)
志水辰夫行きずりの街 についてのレビュー
No.167:
(9pt)

名作の本歌取り!しかし主人公は…

この作品の原典であるライアルの『深夜プラス1』は未読だが、あまりに有名なのでほとんどが原典の本歌取りである事は解ったが、主人公が元相撲取りだなんて・・・。
ただ162cmといえば舞ノ海よりも小さいんですよ、シミタツさん!もっと人物設定練った方が良かったんではないか?162cm、80kgの主人公が超絶技巧のドライヴィングテクニックを持つ( ^艸^)。
気の利いた台詞も主人公を想像すると自然と笑いが出てしまう。でもそんなマイナス点があっても本書は実に面白い!
深夜ふたたび (徳間文庫)
志水辰夫深夜ふたたび についてのレビュー
No.166:
(7pt)

けっこう好きなんだけどなぁ

前作『あっちが上海』に続くスラップスティック・エスピオナージュ小説。CIAやらFBIやらモサドやらが出てきて相変わらずドタバタ劇が繰り広げられる。
表紙に書かれた奇妙な動物は中身を見てからのお愉しみということで。
この後、志水氏は『そっちは黄海』という作品を書いて三部作にしようとしたらしいが、やめたらしい。理由は・・・ほとんど売れなかったからだと!
こっちは渤海 (集英社文庫)
志水辰夫こっちは渤海 についてのレビュー
No.165:
(3pt)

どうしたんだ、シミタツ!?

雨の降る夜に拾った女、というドラマの1シーンを切り取ったかのようなベタな始まり方をする本書。しかし物語はなんとも行き当たりばったり感が拭えず、消化不良。シミタツ節もこれといって特に感じず、どうしたんだ!?と叫ばずにはいられない凡作。
題名からどうしても読んでいる最中にカーペンターズが流れてしまうのだが、全く内容とは関係がない。
オンリィ・イエスタデイ (新潮文庫)
志水辰夫オンリィ・イエスタデイ についてのレビュー
No.164:
(7pt)

いつにもまして地味

全体的に地味な作品。いや、シミタツの作品は総じて地味なんだけど、耐える男と女の感情の迸りが行間からにじみ出て、地味ながらも非常に濃厚な叙情性を感じるのだが、これに関してはとりあえず金塊強奪を設定してヤクザとか絡めて物語を動かしてみるかといった、浅慮のままで書いてしまったようにどうしても感じてしまう。
最後の唐突に主人公が告白する裏切り者の正体を見抜く根拠が小説では解らない臭いが手掛かりだったので苦笑した。
しかしそれでも最後にシミタツ節溢れる闘争シーンがあるのだから大した物だ。
狼でもなく (徳間文庫)
志水辰夫狼でもなく についてのレビュー
No.163:
(7pt)

シリアス路線の作家が書いたいきなりのスラップスティック小説

表紙のエグさにドン引きするが、これはシミタツによるスラップスティック・エスピオナージュ、もしくはスラップスティック・コンゲーム小説とでも云おうか。とにかく前2作で振るった緊迫感溢れ、叙情豊かな独特のシミタツ節は成りを潜め、びっくりするほど軽妙に物語は展開する。冒険小説の詩人という位置付けだっただけに、このいきなりの作風転換はかなりビックリした。そして面白いのだから畏れ入る。
いやあ、ギャグも書けるのか、シミタツは、と感心した一冊。
あっちが上海 (集英社文庫)
志水辰夫あっちが上海 についてのレビュー
No.162:
(7pt)

受賞作って相性が悪いのかも?

『飢えて狼』、『裂けて海峡』、『背いて故郷』とシミタツの冒険小説三部作と云われており、しかも本作は日本推理作家協会賞受賞作である。前2作は私のお気に入りでもあり、さらにこれはその上を行くのかと期待して読んだが、案に反して琴線に触れなかった。とにかく長いと感じた。しかもなんだか主人公が自虐的ながらも自分勝手な性格で、自分に酔っているという感じが終始拭えなかった。
まあ、本作も海洋業を生業とする人物設定であるから、ちょっと飽きが来たのかもしれない。北国の寒さだけが印象に残った。
背いて故郷 (新潮文庫)
志水辰夫背いて故郷 についてのレビュー
No.161:
(8pt)

ラストの三行は歴史に残る名文!

なんともやるせない物語。
つつましく小さな会社を経営していた男が、己の矜持を守るために掛け違えたボタン。それが終末への序章だった。望むと望まざるとに関わらず、主人公長尾に振りかかる災厄の数々。徒手空拳で立ち向かう彼と彼を慕う女性2人の姿が痛々しい。正に昭和の男と女の物語だ。
そして空虚感漂うラストの三行は今なおシミタツ作品の中でも金字塔として残る名文とされている。復刊された新潮文庫版よりオリジナルのこっちの方が断然好きだ。
裂けて海峡 (新潮文庫)
志水辰夫裂けて海峡 についてのレビュー
No.160:
(10pt)

渋さ抜群のエンタテインメント

最近は時代小説に活動の場をシフトした志水辰夫ことシミタツだが、昔はハードボイルド路線のバリバリのエンタテインメント作品を書いていた。
私がこの作家を知ったのはもちろん『このミス』。
過去のランクを見るとほぼ毎年作品がランクインしており、しかも1位まで獲っている作家だから注目しないわけがない。
各出版社の目録を当たってみると、私が彼の作品を集めようとした学生時には既に作品が出ており、しかもその多くが書店で手に入りにくい状況だった故、けっこう探し回った記憶がある。
幸い私の故郷福岡は天神界隈に大型書店が軒並みあり、しかも良質の在庫を抱えていたので博多に遠征した時に一気に買いだめした。まだネット書店などない時代である。
とまあ、学生時代の書店逍遥の思い出話はこれくらいにして・・・。

シミタツデビュー作である本書は北方領土問題を交えた国際謀略小説だ。しかし、そんな風に書くと堅苦しく感じるが、それは読後感じる物語の構造であって、読んでいる最中はとにかく息がつまりそうなほどドキドキハラハラする冒険小説だ。
ボートハウスを経営する男、渋谷の許に現れた怪しげな雰囲気を纏った男達。彼らに付回された渋谷は店と唯一の社員の命を奪われる。
男達の1人青柳に接触した渋谷はソビエトの要人の亡命を助けるため、択捉に脱出道具を届けるよう頼まれる。
全てを失った渋谷は引き受け、青柳が用意した案内役の老人とともにソ連領の北方領土の一角、択捉へと向かう。

過去を持つ男がその過去を清算し、つつましながらも人並みの生活を送っていた最中に訪れる過去の亡霊のような仕事。そして手に汗握る択捉島・国後島潜入行にその後、尾行の影を感じる渋谷の緊張感などなど、普通と変わりない日常生活を送る我々には体験し得ない怖さを教えてくれる。
そしてストーリーもさながらその文体はデビュー作にして非常にクオリティが高い。現在シミタツ節と呼ばれている独特の文体が生まれる前の文章は実に堅牢で迷いがない。

これは利用する者とされる者の物語だ。人生の敗残者が生きるために必死にもがく物語だといえよう。特殊な技術を身につけたが故に招いた災禍。なんとも皮肉な運命だ。
さらに物語に厚みを持たせるエピソードにも事欠かない。特に印象に残ったのは主人公の唯一の従業員が亡くなった際にその父親が渋谷と駅で別れる間際に吐露する苦渋の言葉。こういう場面が実に忘れがたい物を心に残す。
また1人、追うべき作家が増えてしまったと苦笑しつつ、満足感を覚えた私がそのときいた。

飢えて狼 (新潮文庫)
志水辰夫飢えて狼 についてのレビュー
No.159:
(9pt)

単純明快な男たちの闘いの物語

これも長らく絶版の憂き目に遭っている稲見氏の数少ない長編。

夜な夜な歴戦の猛者たちが集うパブ「パピヨン」。そこに現れたレッドムーン・シバと名乗る男がその中の4人の男に勝負を持ちかける。自分と戦って勝てば三千万円を支払うと。
その男達は己の強さと賞金のために勝負に乗り、シバの待つ山へと向かう。

本書はギャビン・ライアルの長編『もっとも危険なゲーム』の本歌取り作品。
勝負に挑む男達はそれぞれ手裏剣の名人、射撃の名手、怪力を誇る元レスラーと、実に戯画化された人物たち。
ブルース・リーの映画にもなっていそうな設定で、この手の内容に荒唐無稽さを感じ、のめり込めない人には全くお勧めできない作品。
しかしこれほどシンプルな設定も昨今では珍しく、確かページ数も300ページもなく、すっと読めるのが特長だ。つまり色んなことを考えずにただ目の前に繰り広げられる戦いの物語に身を委ねるのが正しい読み方といえよう。
一応それぞれの登場人物の行動原理、人生哲学、生い立ちなども書かれており、ただの戦闘小説に終っていないとだけ付け加えておこう。
個人的にはこの手の物語は大好き。映画化されてもいいくらいのエンタテインメント性があるので、ひそかに期待しているのだが。

ソー・ザップ! (角川文庫)
稲見一良ソー・ザップ! についてのレビュー
No.158:
(10pt)

銃を巡る孤高の男たち

ポンプ・アクション6連発銃、ウィンチェスターM12。通称“シャクリ”と呼ばれる一丁の銃が人から人へ渡る。その銃を手にした者たちの物語を綴った連作短編集。
これが稲見氏の小説で一冊の本として纏められた実質上のデビュー作となる。

その端緒となる第一話「オープン・シーズン」は腰だめで撃つ自分の射撃スタイルにこだわった男が落ちていくさまを描いた哀しい物語。これを筆頭に、収められた4つの物語は何がしか魂を震えさせるものを感じさせてくれる。

「斧という字の中に父がいる、ということに今頃気づいた」
という印象的な一文から始まる「斧」は離別し、山に篭って生活する父の許に息子が訪ね、大自然で生きていく術を教えていく、親子の交流を描いた作品。

「アーリィタイムス・ドリーム」はうってかわって洒脱で軽妙な語り口で進むバーのマスターの物語。悪徳業者相手に無手勝流に立ち向かうマスターと彼を慕う若者たちを描いた好編。ハードボイルド調の語りが妄想混じりに挟まれるのが非常に面白い。

最後「銃執るもののの掟」は北の工作員が出くわした老猟師の話。この老猟師の生きることに対する考え・構えは心が震えるものがある。

どれも甲乙つけがたい短編集。軽妙さもありつつ、ストイックさも兼ね備えた、「男」による「男」のための短編集。硝煙の匂いが立ち昇ってくるかのようだ。
ガンに侵されていた著者が生きた証を残そうと著した本作は、まさにこの作者が読みたかった作品を書いたのだという強い思いが行間から立ち上ってくる。
これらの登場人物の考え、思い、譲れない領域などは全て作者自身の影が色濃く投影されている。
デビュー作にして人生の酸いも甘いも経験してきた作者の人間としての懐の深さが窺える作品だ。
これも絶版で手に入らない。全くもって勿体無い話だ。


ダブルオー・バック (新潮文庫)
稲見一良ダブルオー・バック についてのレビュー
No.157: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

古き良き老人の昔語り

稲見一良という作家との出会いは『このミス』である。見慣れない作家が過去にもランクインしているのを見て興味を持ったのが最初。寡作家だったので当時その作品は比較的手に入りやすく、文庫化されていた作品は容易に手に入った。

物語の構成は世俗に疲れて旅に出た若者が出会った男が紡ぐ物語という構成を取っている。その男は石に鳥の絵を描くのを趣味としており、それら石に纏わる、もしくは連想される話という趣向が取られている。

「望遠」はCM会社に勤める男が撮影用の写真を撮るため、何日も寝ずに待っていたが、そこに稀少種の鳥がいるのを発見するという話。仕事を取るか、己が心底欲する物を取るか、惑う瞬間を描いた作品。

「パッセンジャー」は危険と知りながらも敵対する村の近くへ狩りに行った男が目の当たりにする鳥の大量虐殺の話。

「密漁志願」では癌を患って退職した男が狩猟中に出会った少年とのふれ合いを描き、「ホイッパーウィル」ではネイティヴ・アメリカンの脱走兵とそれを捕まえに行った男を描く。

「波の枕」は老人が若かりし頃、難破した船から辛くも逃れて亀に捕まって漂っていた夢を、「デコイとブンタ」は狩猟用の木彫りの鴨の彫刻と少年の冒険譚といずれもメルヘンチックな話。

これらに共通するのは自然の恩恵に対する敬意と慈しむ心だ。読書と銃と狩猟を趣味とした作者が人生の晩年に差し掛かって残そうとした自然に対する思いが優しく、また時に厳しい警告を伴って心に染み渡っていく。
泥臭ささえも感じさせる男の矜持、不器用さ、腕白少年のカッコよさ、自分の主義を愚直なまでに死守する姿勢など、忘れかけていた人間として大切なものを思い出させてくれる。
便利さが横行した現在ではもはやここに書かれている内容はもう既に一昔前の話、老人の昔語り程度ぐらいにしか感じてくれないかもしれない。でも十人のうち一人でもこの稲見一良という作家が残したかった物を感じ取ってもらえればそれで本望ではないだろうか。

私はこの作品を手に取るまでにはずい分と時間が掛かった。ずっと積上げたまま、読むその日が来るのを待っていた。その待っている最中に作者の人となりを知る機会があった。彼自身が癌に侵され、闘病生活の末に生き長らえた事。しかしまだ病巣は残っており、いつ再発してもおかしくない事。そんな背景から彼が高齢になって作家に転身した思いが作品に乗り移っていることを知った。
そしてこの作品に出てくる人物は作者の分身だ。稲見氏の生き様さえも見え隠れして、それまでの歩みを、またはこれからしたいであろう事が語られている。一人の人間として尊敬の念を自然と抱かせてくれる、そんな作品だ。
男ならば是非とも読んでほしい珠玉の短編集。私は永遠にこの本を手元に置いて決して離さずにいようと思う。


ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)
稲見一良ダック・コール についてのレビュー
No.156: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

実験的な意欲作ではあるのだが

綾辻行人氏、法月綸太郎氏、歌野晶午氏、我孫子武丸氏ら4名の島田荘司推薦による作家たちの作品が「新本格」と名づけられ、ミステリ界に新本格ブームが巻き起こった。そのブームに有象無象の新本格作家が続々とデビューし、また消え去っていった。
この斎藤氏もその中の1人であるが、ちょっと毛色が違って、本格ミステリだけでなく、『魔法物語』というファンタジーのシリーズ作品も書いている。
また専業作家ではないようで、何年かに1冊の割合で細々と新作を発表している。

その少ない作品の中で「思い」シリーズといわれるミステリシリーズがあり、本作はその第1作。
推理マニアの大学生大垣は合宿先の殺人事件を見事解決して帰ってきたところだった。同じアパートに住む陣内からその一部始終を話してみろと云われ、大垣はその顛末について語る。
彼は所属するテニスサークルの夏休み合宿で吊橋を渡った断崖にある洞窟と一体となった館に行った。そこで何者かに吊橋が切られ、外界との接触を断ち切られる。それを皮切りにその館で次々と殺人事件が起こり出す。

この内容を見ても本格ミステリのコードを忠実に再現した作品であるといえよう。目新しいところでは物語の時間軸が既に探偵が事件を解決した後であるということだ。そしてそれを聞いた陣内がまんまと犯人のミスリードに嵌ってしまった探偵に代わって真相解明に乗り出すという二段構えの作品となっているところか。

しかしこの斉藤氏の諸作は実に実験性に富んだ作風である。探偵不在の状況で真の探偵が事件を解明するという趣向、探偵役が後日事件を語るということによる事件の最中における探偵役の存在意義、そういったものが見え隠れする。
しかしそのあまりに平板な文章はなんのケレン味もなく、物語にフックが感じられない。実験小説なのだろうが、何の血も通わない人々が行き来し、行動する様子をただ眺めているだけで、推理クイズに特化した作品のように感じた。

寡作家の斉藤氏の文庫作品は全作品が文庫化されているわけではないため、輪を掛けて少ない。さらにそのほとんどが絶版である。しかし書物の森を逍遥して探し当てて読むほどの価値はないというのが私の個人的な意見だ。新本格草創期の幻の作品をぜひとも読みたい方のみお勧めする作品だ。


思い通りにエンドマーク (講談社文庫)
斎藤肇思い通りにエンドマーク についてのレビュー
No.155:
(1pt)

何がしたかったのか解らない。

私が竹本氏の作品を集めだした時はほとんどが絶版状態で、唯一この作品が文庫新刊で発売されたという状況だった。数少ない最近の作品ということで期待して手に取った。

幼馴染に誘われて夏休みに故人の怪奇幻想作家のベルギーの古城を訪れたあなた。しかし気晴らしに来たはずなのに、謎の少女に出会ってから次々と怪事が起こる。

本書の最たる特長は二人称叙述で書かれているところだ。つまり主語が「あなた」なのだ。私は主語が「あなた」で書かれた作品は法月氏の『二の悲劇』と中学生の頃に夢中になったゲームブック以外、読んだことなかった。この二人称叙述で書くことの狙いは読者自身を物語の世界により没入させることにあると思う。ゲームブックはまさに自身が主人公になって物語に参加する趣向の作品だから、当を射ているといえよう。
また作品がミステリの場合はこの二人称叙述を使った叙述トリックが想定される。しかしこれは一人称、三人称叙述と違い、かなり高度なテクニックを要するように感じる。

しかし本作はそんな企みとは全く無縁。単に二人称叙述で書きましたというだけに留まっている。解説者はまるで自分が物語の世界にいるような錯覚を覚える、などと絶賛しているが、全然そんな風には感じなかった。
また本書はゴシック趣味溢れた幻想小説風なミステリであり、なんだか曖昧模糊としたイメージが常に付き纏っている。以前にも書いたが私はこの手の少女漫画趣味的な世界は苦手で、それだけでもう物語に没頭できないのだ。

文体も私が驚嘆した『狂い壁狂い窓』のような凝ったものではなく、実に平板。本当に同じ作家が書いたのだろうかというくらい違っていた。
書かれた年代が違うとこれほどまでに作風が違うのかと落胆したりもした。
結局当時はこれに続く文庫作品が出ていなかったので10年以上もこの作家の作品から離れることになる。

カケスはカケスの森 (徳間文庫)
竹本健治カケスはカケスの森 についてのレビュー
No.154: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

字面さえも怖い

大学でミステリに目覚めた私が各種ガイドブックを読み漁って、手当たり次第にその道の作家の作品に手を出していたのは既に別の感想でも述べたが、その中の1人に竹本健治氏がいた。
この作家の代表作として必ず挙がるのが『匣の中の失楽』。しかしこの作品は当時絶版であった。数年後どこかの書店でノベルス版を見かけたが、文庫本で購入することを原則としているので文庫落ちをじっと待っているような感じだった。
とにかくいわゆる新本格ミステリ作家の方々が影響を受けた作品としても『匣の中の~』の名はたびたび挙がっていたので、この竹本健治という作家の作品とはいかなるものかと各社の文庫目録を調べてみたところ、ほとんど作品がなく、唯一角川文庫だけがこの作品を文庫で出版していた。現在は竹本氏の文庫は各出版社から出ており、容易に購入できるが、90年代当時は実に稀少だったのだ。

本書の舞台は元産婦人科医院を改装した「樹影荘」というアパートを舞台にした作品である。そこに住む男女はどこか歪んでおり、屈折した性格を持っている。そんな彼らに起こる奇怪な出来事。虫が這いずり回り、天井から血がしたたり、生首を思わせるマネキンの首が玄関に放り込まれる。便所には「死」の文字が殴り書きされ、廊下一面に血が流される。そんな怪異に住人たちも疑心暗鬼に捉われ、お互いを疑い出す。やがて住民の1人が首吊自殺を遂げる。それがカタストロフィの始まりだった。

この作品を読むまで私はホラー小説を読んだことがなかった。文字で人を怖がらせるなんて到底できるものではないと高を括っていたのだが、それが間違いだと気づかされたのがこの作品。とにかく怖い。書かれている内容もそうだが、並んでいる文字の字面が怖い。あとがきによればとにかく怖い文章を書こうと使う単語を吟味し、漢字からひらがなの表記、つまり文字が与える印象までを徹底的に考え抜いたのだそうだ。その成果は竹本氏の期待以上に出ている。常に湿り気を纏ったようなじとじとしたような印象と指に血が付いてこすり合わせた時に感じる、あの粘着感。特に最初の産婦人科時代に行われた中絶場面など、いきなりこれかよ!と気持ち悪さに身悶えしたものだ。
昭和の安アパートを思わせる「樹影荘」も舞台効果が抜群だ。六畳一間の日焼けした畳敷きの部屋に天井から1本ぶら下がる裸電球。部屋の隅には照明が届かず、影が常に下りている。そんな風景が終始頭に浮かんでいた。
この作品との出逢いがなければ私は竹本氏の作品を追う事はなかっただろう。数ある作品の中で当時本書のみを文庫として残していた角川書店に感謝したい。


▼以下、ネタバレ感想
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狂い壁 狂い窓 (講談社文庫)
竹本健治狂い壁 狂い窓 についてのレビュー