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発火点
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発火点の評価:
| 書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.45pt | ||||||||
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全22件 21~22 2/2ページ
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| 昨年『鷹の王』を<このミス>一位に投票したのは、大好きなこのシリーズの頂点を極める作品と感じたからのこと。しかし続く本書も、一歩も引かぬ快作であることに、ぼくは驚く。そもそも、どの作品も、高水準のエンターテインメントとして面白く読めると同時に、大自然をバックに愚かでちっぽけな人間たちのなすあらゆる悪と闘う、善良な猟区管理官、ジョー・ピケットとその家族たちへのキャラクター愛が素敵なシリーズでもある。 ジョーは、どこにでもいる地味なキャラに見えながら、恐ろしいほど堅物で、徹底した頑固者で、ワイオミングの荒野を守る仕事を愛してやまない。銃は得意ではないが、勇気と良識は人一倍持ち合わせている。家族思いで、友人思いで、優しくタフである。 妻メアリーベスを初め、二人の娘、一人の養女で構成されるジョーの家族たちの個性も明確に示され、長所も短所もそれぞれに異なるばかりか、活き活きとして血が通って見える彼女らの表情も、ジョーの家族へのいっぱいの想いや悩みについても、シリーズとしての魅力の重要な構成要素となっている。 本書は、冒頭からショッキングなバイオレンスとアクションでスタートする。武装した男たち。死体。逃亡者。危険な追跡。ジョーの情感に満ちた仕事と家族への姿勢が、酷薄な様相で彩られる血塗られた現場で、読者の心を人間の世界に繋ぎ止める。けだものの方向にではなく。そう、いつもの構成なのである。 冒険小説の復権、とぼくは本シリーズに触れる度に、この上ない喜びと共に思うことができる。すべての舞台が大自然。圧倒的な権力を持つ悪の横暴が見える中で、繰り広げられる命がけの冒険行は、次々と生じる危機と命の駆け引きのシーンが連続するたまらないページターナーぶりである。 今回、講談社文庫から創元推理文庫に版元が変更となった理由は定かではないが、永らく本シリーズの出版を続けていた講談社が、本作の前に電子書籍のみという形ながら、これまで未訳だったシリーズ第二作『逃亡者の峡谷』(原題"Savage Run")を提供してくれたのは読者としてはとても有難かった。というのも当該作で舞台となる「サヴェージ・ラン」という名の極めて危険な地形、深く抉れ渡ることが奇跡としか思えない谷に、本書でジョーは本作でふたたび向かうことになるからである。 大自然の持つ危険な要素をふんだんに使うのは今に始まったことではないが、今回はそこに新型殺人兵器や、作年のオーストラリア大火災を想起させるような大規模な山火事を盛り込むことで、さらに冒険小説の新しい時代の到来を肌にびしびしと感じさせてくれる。 雄々しく、しかも家族愛、友情、なども優しく感じさせてくれる現代のエンターテインメント。荒野のディック・フランシスと呼ばれる本シリーズのうちでも、相当にスケールアップした冒険小説の世界に生き生きと甦る、馬上の等身大ヒーロー・ジョー・ピケットんの他を寄せつけない活躍物語に新しい読者がさらに急増することをぼくは願ってやまない。 | ||||
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| 出版社が変わってワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの新しい翻訳が刊行されました。信頼する訳者による翻訳ですので、出版社はどこでも構いませんね。ということで、「発火点 "Breaking Point"」(C.J.ボックス 創元推理文庫)を一気に読みました。 娘の友人の父親ブッチ・ロバートソンと山中で出会ったジョーは、違和感を抱きながら別れてしまいますが、その後ロバートソン夫妻が持つ地所から米国環境保護局の捜査官二人の射殺死体が発見されます。その捜査官たちは、その地所の工事差し止め文書を送達しに来ていました。 そして、ブッチが彼らを殺害し、山へ逃亡したことが疑われ、地元保安官事務所、環境保護局、FBI、(州知事までが馳せ参じて(笑))による大規模な「マン・ハント」が始まり、先兵としてジョーも積極的に巻き込まれていきます。 著者あとがきによるとアイダホで起きた「権力対2人の民間人」によるある訴訟がベースになっているそうですが、ストーリーの骨格がしっかりしていると伺える所以だと思います。中盤からは、小体なスリラーからダイナミックな筋立てを持つストレートな冒険小説に変貌し、謎解きもあり、読ませます。いつものワイオミングの美しい自然、エルクを筆頭とする多くの動物たち、ドローンが飛び、高射程の狙撃があって、引き起こされる自然災害の果てに、「逃亡者の峡谷」(2002年刊行。翻訳は、2019/12月)の"Savage Run"でのエキサイティングな逃避行がプレイバックされます。ある意味、邦訳の順番も相応しい。 ジョーは、メアリーベスと3人の子供たちを持つよき<家庭人>としての側面を見せつけながら、「自警の論理」に基づくウェスタンの伝統的な血脈を継承しつつ、いつも規則も法律も超えたところでしっかりと筋を通そうとします。物語の中で言及される「ワイルドバンチ」のような”滅びの美学”を見せることもありません。 2018年11月に読んだ「鷹の王」に引き続き、あの"Falconer"も登場しますよ。(今回は、郡のあちこちに死体がころがることもありません(笑))不満があるとすれば、今回もまた少し「敵」側が弱く、カリカチュアライズされ過ぎているようにも感じますが、それもまた一つの技巧なのだと思っています。 ワイオミングの大地、森林が一旦破壊されても多くの労苦を伴いながら再生していき、そのことが一人の少女の再生を励まし、寄り添うことを明確にシンボライズしています。 これからを生きる少女たちの「再生」という名の大いなる希望に比べたら、ジョーやブッチやネイトの男の哀しみなどどれほどのこともない。 | ||||
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