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本陣殺人事件



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本陣殺人事件の評価: 4.29/5点 レビュー 65件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.29pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全65件 41~60 3/4ページ
No.25:
(4pt)

『9番目のムサシ』の怪我の功名

私が本書を購入したのは、ドラマ性の無いアクション主体の漫画を読んだからだ。現在「ミステリーボニータ」で連載中の漫画『9番目のムサシ』の第1シリーズで“顔の無い死体(死体損壊トリック)”と“クローズドサークル”により秘密組織「UB」のエージェントである主人公の篠塚高(No.9 / ♀)が身も心も結ばれた恋人の橘慎悟を捨てた「DUTY12:果てなき日々への追憶」を読んだのが切っ掛けだった。きっと慎悟も古い版の『黒猫亭事件』を読んだに違いない。

『本陣殺人事件』(表題作)
→ 金田一耕助の探偵デビュー作。作者の疎開地であった岡山の旧家を舞台にした事件で、別名「妖琴殺人事件」。一柳家の当主である賢蔵は結婚する克子が処女ではないと知り、他人の触った火鉢ですらアルコール消毒する病的な潔癖症であったため、汚れた身で自身の妻に成り上がろうする悪女だと克子を蔑んで初夜に惨殺し自殺してしまう。弟の三郎の知恵を借り、他殺に見せかけて。
グラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』の「ソア橋のなぞ」の流れを汲む事件だ。他殺に見せかけた自殺、死後の凶器の隠滅、しかしながら結局は真相が暴かれる。ハンス・グロスの著書に記された穀物商の他殺に見せかけた現実の自殺事件がソアの事件のモデルであり、更には現実の事件でこの“ソア橋のトリック”は使われたことがある。或る男が他殺に見せかけた自殺を決行し、ドイルの遺品は呪われていると世間に噂を流した。容疑者を特定できずに警察の捜査も行き詰まってしまうが、シャーロキアンの一人に“ソア橋のトリック”を利用した自殺ではないかと助言を受け、被害者とされる男による狂言だと判明した。死を賭した願いも虚しくドイルの遺品は離散してしまった。

『車井戸はなぜ軋る』
→ 弱冠17歳(数え年の時代だから、満16歳)にして金田一耕助に明敏な頭脳の持ち主と評された薄倖の女性探偵である本位田鶴代による事件解明とその惨劇の舞台となった本位田家の一員としての深い悲しみ、それが結局は鶴代の心の臓の鼓動を永遠に断ち切ってしまった。本位田家に対する難癖の私怨を異父姉おりんに吹き込まれた秋月伍一は片目の瞳孔が二重になっていることを除けば本位田大助に酷似していたため、出征するまでは境遇により欠片も似ているとは思えぬ風貌にしたが、戦争という同じ境遇により再び相似を齎してしまった。そのため、伍一が戦死し大助がボロボロになりながら生還した時、不幸にも事件を解明した探偵役の少女を含め周囲の人間全員、腹違いの兄弟が戦争で入れ替わったという「犬神家の一族」に似た設定の妄想に憑りつかれてしまう。それも絡んで大助は結婚前に関係があったという伍一の死に際のウソを真に受けて妻の梨枝を惨殺し、療養所にいる弟の慎吉を殺そうとして揉み合う内に自身が命を落とす悪夢の事件が起こった。事件を解明したことで悲しみのあまり先天性弁膜症を患う心の臓を断ち切られて鶴代は絶命し、祖母も老齢により余命幾ばくもない祖母を送った後、自身を処す覚悟を固めた。最終的に秋月姉弟の復讐は成就したのだった。

『黒猫亭事件』
→ 密室殺人・一人二役・顔の無い死体トリックを推理小説の三大トリックとしており、3つめの顔の無い死体トリックに一人二役を組み合わせ、バー「黒猫」のお繁は糸島大伍の手から完全に抜け出し風間俊六と一緒になる夢を実現させようと企んだ。
大工の娘の“松田花子”がお繁の本名であり、洋画家で資産家の三宅順平に嫁すも教養云々で姑のやす子に疎まれ、家庭に波風が絶えず、そうして嫁姑の争いの果てに姑の毒殺を図り間違って夫を殺してしまったのだ。花子は警察の手が及ぶ前に中国に逃げて素性を隠して暮らしたが、そこで過去を知った糸島に捕まり食い物にされた。お繁は風間に会い初めて恋をしたが、そこに糸島が現れ再び食い物にされ始めた彼女は糸島を殺す決意を固めた。お繁は彼女自身と鮎子という一人二役を演じていた。糸島も知っていたことで、一種の遊びとして彼女が持ちかけた。お繁に横恋慕していた日兆は計画に利用された。千代子を殺して日兆に埋めさせ、同時に黒猫も殺した。これは千代子の殺害時に部屋中に散った血糊を誤魔化すと同時に糸島に嘘を言わせて黒猫の代役を捜させるなど、彼が積極的に関与した証拠を作る意味もあった。その後、わざと体に合わない化粧品をつけて奥に籠もって転居を持ちかけ、引き払うと同時に糸島を殺したのだ。お繁は日兆も殺す気でいたが、彼女を我が物にしようとする日兆に閉じ込められたことで逃亡の機会を失ったのである。
金田一を殺そうとした時、風間が現れてお繁を制止した。すべてを風間に知られたことを悟り、お繁は自身の心臓に銃口を向け自殺した。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.24:
(5pt)

蝶々殺人事件が新品で手に入る

電子書籍ならいつでも新品??で読めるが、電子書籍を読むための環境が整ってない人で、中古嫌いな方にはこれで読むしかない。
蝶々殺人事件は隠された横溝先生の傑作である。
蝶々殺人事件はミステリーランキングの日本版に獄門島、本陣殺人事件に次いでランキングに入ってることが多々ある。
ミステリーマニアなら蝶々殺人事件は読んでおきたい作品。獄門島、本陣殺人事件、犬神家、八つ墓村といった名作を生み出した作家の傑作といえば読まざるを得ないはず。

横溝正史作品を読んでない人は横溝正史集とこれと適当に横溝正史作品で有名なのを買っておけばいい。
横溝正史自選集〈1〉本陣殺人事件/蝶々殺人事件Amazon書評・レビュー:横溝正史自選集〈1〉本陣殺人事件/蝶々殺人事件より
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No.23:
(4pt)

活字だけだとなかなか映像的に把握し辛いのでは?

日本ミステリ史に残る傑作として名高い表題作。
昔、ドラマを観たことがあるのでトリックについて理解できたが、
活字だけだとなかなか映像的に把握し辛いのでは?
読み手側の想像力の問題かも知れないが。
名付けて“探偵小説狂殺人事件”。

第2話『車井戸はなぜ軋る』は短編ながら『犬神家の一族』とそっくりの展開。
但、初出はこちらの方が早い。展開は同じでも結末は…。
“元祖絵馬手型殺人事件”。

最後が“ワタシハ、ダアレ?コスプレ殺人事件”じゃなくて『黒猫亭殺人事件』。
この作品には横溝特有の雰囲気はない。そして金田一の解説が長すぎる。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.22:
(4pt)

『黒猫亭事件』がベスト

メインの『本陣殺人事件』は、少々トリックに無理があるというか、いまいち景色が目前に広がらない。こういう類の密室トリックは小説ではなかなか難しいと感じた。
それに対し、『黒猫亭事件』は面白かった。そこまで複雑ではない人間関係や登場人物の少なさも理解しやすさに貢献し、どんどん物語りに引き込まれる。導入の長ったらしい説明もないので読みやすい。真犯人がひそかに隠れているという展開には、すこし非現実的なものを感じてしまうが、推理小説としては、犯人のめぼしをつけられないために、犯人を物語の中に出来る限り登場させたくはないので仕方ないかもしれない。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.21:
(4pt)

ミステリーの語り部、横溝正史の代表作

表題作を、読売新聞紙上で西村賢太氏が推薦していたので手にした一書。
いわゆるミステリーと思っていたが、意外や意外本格推理だった。無論、種明かしはしないが、率直な印象はちょっと話が込み入っていて、素直に楽しめないという感じ。
全ては合理的に説明され尽くしており、その論理に破綻はなく、謎解きという意味では大変面白かった。しかし、動機、トリック共にやや自然さに欠ける憾みがある。ふつう人間は、こういう動機で人を殺したりはしないだろうし、そこまで込み入った方法で工作したりもしないと思う。犯人が、そういう性格の人間である点の説明は為されるが、説明がくどければくどいほど、かえって不自然さが募る。そのためには、人物造型がしっかりしていないと、真実味を失ってしまうのであるが、いかんせん種明かしの前にあまり特定の人物の出所来歴ばかりに紙幅を割くと推理の面で支障をきたしてしまうのだろう。
かつて三島由紀夫が言っていたが、推理小説に今ひとつ肩入れ出来ないのは、どうしてもストーリーが推理中心になるため、人物造型が甘くなり、真実味を失いがちになるからだ、と。要は、登場人物らが、推理のための道具として都合よく仕立てられていて、人間としての存在感に乏しくなるというのである。その点横溝は、地方の旧家に伝わる一族の血脈というものを設定に取り入れることで、ストーリーにリアリティーを持たせようと工夫しているようである。そういう意味での読み応えは、確かに十分にあると感じた。
他に、2編の中篇が併載されているが、一つ目の『車井戸はなぜ軋る』は、表題作同様、地方の旧家間の秘められた血の繋がりが忌まわしい事件を惹起してゆく成り行きを、ミステリー風に仕上げた佳編で、手紙や新聞記事などを交えた著者の語りの上手さには目を瞠るものがある。これは文句なく楽しめる作品としてお薦めだ。
もう一つの『黒猫亭事件』は、いわゆる「顔の無い死体」を扱った本格推理だが、謎解きが始まるまでは満州から引き揚げてきた男女の過去など興味深々に読ませてもらったが、やはり表題作同様謎解きが始まると、初めは意外なトリックに驚かされたものの、動機や込み入ったトリックにどうしても不自然さがつきまとい、かつそこを著者が(つまり金田一耕助が)詳細に説明すればするほどうそ臭くなって来る点が、難といえば難だ。
本の帯に「読んでいない、では済まされない。全人類必読の名作」という綾辻行人の推薦文があるが、私にはちょっと誇大広告と感じられた。
著者は作家になる前、新聞記者をしていたらしいが、会話を含めた人物造形はやや類型的でおざなりに感じたが、事件のあらましや背景を語る地の文の語りに、目を見張るものがあると思う(H24.1.2)。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.20:
(5pt)

推理の鋭さが抜群

本陣については、これはホント、現代ではとうてい成立し得ない動機ですね。
トリック云々よりそっちに感心してしまった。このあたりに時代を感じる。
いい意味で。
表題を含む三編の短編集。
「車井戸はなぜ軋る」が一番好きです。
そしてこの本は次の獄門島への前座みたいな向きがあります。
ちょいちょい「獄門島」というワードを出して煽ってるし。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.19:
(5pt)

文句なしのトリック

横溝氏の代表作品の一つ。

トリック、登場人物と事件の関係など全てに無駄がなく、探偵金田一の頭脳明晰が堪能できます。

密室殺人の代表作品に入りますね。

そして伏線として張られた、その他の出来事も偶然性を用いた発想が、最後まで読者を唸らせてくれます。

他に収録された「車井戸はなぜ軋る」、読んでいる内に、犬神家の佐清君を思い出しましたが、、、

トリックよりも主人公の心理描写を楽しめる作品だと思います。ちなみに金田一さんは余り登場しません。

「黒猫亭事件」の主犯は推測しやすいのですが、もう一人の犯人はあまりにも以外で最後迄一気読みでしたね。

この3作品は、読みごたえあります。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.18:
(3pt)

センスがないねぇ

角川文庫やブックオフで安くて簡単に読める超有名作品を今さらハードカバーにして何の意味があるというのだろう。 自選といっても、横溝正史が直接選んだわけではなく、一位から五位までは、田中潤司が選んだ作品を追認しただけのものである。 おまけに全七巻で七位までと中途半端な上、非金田一ものの「蝶々殺人事件」までまぜているし、全くセンスがない。 発表当時のままで収録するとか、中絶版「仮面舞踏会」、中編「迷路荘の怪人」を収録するなどして、付加価値をつけない限り、マニアは見向きもしないだろう。 レビューがほとんどないことから見ても、そう売上は見込めないだろう。
横溝正史自選集〈1〉本陣殺人事件/蝶々殺人事件Amazon書評・レビュー:横溝正史自選集〈1〉本陣殺人事件/蝶々殺人事件より
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No.17:
(5pt)

これを読まずに密室ミステリーは語れない

『本陣殺人事件』は、横溝正史の代表作であると同時に、日本の密室殺人ミステリーの最高傑作である。ゆえに、これを読まずして横溝は語れず、日本の密室ミステリーも語れない。物語の背景から人間関係、細かな道具立てから小さな会話の端々まで、全てがあますところなく、惨劇のたびに妖異な音色を奏でる琴の糸にからめ捕られるように、一つの絵模様へと収斂してゆく論理の構造は、間然とするところがなく、読者はただ瞠目に立ち尽くすばかり。その大団円に浮かびあがったものは、鮮やかな明知の光であり、暗い情念の淵であり、また深い因果の宇宙でもある…。読書による心揺さぶられる酩酊を約束する一編だ。収録されている他の二編も秀作。ぜひ多くの人に読んでもらいたい本である。
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No.16:
(4pt)

面白い密室

久しぶりの金田一シリーズ読みましたが横溝先生の作品は面白いに尽きる。
次は獄門島を読もうと思います。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.15:
(5pt)

良質の短篇集

この作品には『本陣殺人事件』、『車井戸はなぜ軋る』、『黒猫亭事件』の3編が収録されています。

まず『本陣殺人事件』について
商品説明にもあるように密室殺人を扱った事件です。作者の疎開地でもあった岡山を舞台として起きた事件について書かれています。所謂密室トリックの解明が肝となり、現代の娯楽作品に繋がる作品でないかと思います。

次に『車井戸はなぜ軋る』について
腹違いの兄弟が戦争で入れ替わる…という『犬神家の一族 (角川文庫―金田一耕助ファイル)』に似た設定ですが、違った結末を迎える作品です。金田一がほとんど活躍せずに事件が解明されます。

最後に『黒猫亭事件』について
身元不明の腐乱死体を巡る事件を扱った作品です。犯人が分かったときには、そういう結末になるのか!と思わず唸らされます。

それぞれの作品の文体も第三者視点でかかれたもの、当事者の手紙で構成されたものと様々な方法でかかれており、作者の多才さを感じさせられる作品です。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.14:
(5pt)

どうしても映画版をイメージしてしまう、ミステリのお手本

表題作は、どうしてもATG制作中林陽一監督の映画版の印象が強い。大学生時代に見たが、とても美しい画面と、俳優たち(金田一がなんと仲尾彬だった)の熱演、そして何よりもあのトリックが見事に映像化されて動いていることに、大変感動したものだ。

 本作は、古典として、作品背景の時代設定を考慮して読む必要がある。おそらく現在の日本では考えられないだろう動機は、しかしこの当時では当たり前だったのだから。本作を読むと、現代が良い時代になったのかどうかと、考えてしまう。

 本格ミステリのまさにお手本のような、伏線、ミスディレクション、そして探偵の推理である。この長さがちょうど良い。これ以上だと冗長だし、探偵が有能に見えなくなる。これより短ければ、それこそディテール不足で物足りないものになるだろう。戦争で抑圧されていた著者の本格スピリットの、まさに爆発した作品といえる。著者の長編(中編かも?)ミステリの中でもベスト3に入るだろう。ちなみに私見では、あとの二つは表裏一体作の「獄門島」と「犬神家〜」だが、これを一緒と考えれば、あとのひとつは社会性と都会性を取り入れた「悪魔が来りて笛を吹く」か。

 映画版もたしか90分弱という、けっこう短いが締まりのある作品だった。なお、併映が「東京エマニエル夫人」だったのにはまいった。もちろん併映作は見ないで帰った。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.13:
(5pt)

作者のターニングポイント

記念すべき第1回日本推理作家協会賞受賞作にして、金田一耕助のデビュー作。金田一耕助のジャンキー時代にも言及されている。
解説の山村正夫氏によると、ディクスン・カーの『帽子収集狂事件』、『プレーグ・コートの殺人』の一読を契機に、本格探偵小説を志向したとのこと。本作品においても、冒頭でルルー、ヴァンダイン、スカーレットが言及されており、なるほどと思った次第。
あまりにも有名で、映像化されているがゆえにストーリーは分かってはいるものの、書物として読んだ場合には優れたミステリーであることを認識させられる。金田一耕助がどのように真相を究明していくか、興味とじれったさを持続しつつ、物語が進んでいく。一気に謎解きをするあたりは、爽快感すら感じてしまう。晩年の、いたずらに長くて、登場人物ばかり多いものに比べても、すっきりまとまっていて読みやすかった。
以降の作品のような見立てはないものの、ターニングポイントであることを考えると、作者の重要な作品に違いない。
山村正夫氏によると(氏の解説が本文庫版の良いところでもある)、金田一耕助がA.A.ミルンのギリンガムに発想を得ているとのことなので、『赤い部屋の秘密』も読んで見たいなぁ。
本陣殺人事件 日本推理作家協会賞受賞作全集 (1)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 日本推理作家協会賞受賞作全集 (1)より
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No.12:
(4pt)

世間から隔絶された村、もの言わぬ人々、呪われた名門一族……

世間から隔絶された村、もの言わぬ人々、呪われた名門一族……
金田一作品に共通するこの雰囲気が顕著にあらわれつつも、
初期作品らしく、後々に見られるようなこってりした文体ではなく、
素直な文章と、複雑な心理描写が、トリック以外にも見せ場を大いに盛り上げています。
新婚初夜、離れで起こった血みどろの密室殺人を扱った『本陣殺人事件』
思い込んだ、あるいはそのように追い込まれた人間の残忍さ・教房を巧みにを描き出した『車井戸はなぜ軋る』
どんでん返しが二重三重に張り巡らされている『黒猫亭事件』
私は『車井戸』目的で購入しましたが、他の作品もすばらしいです。
派手なトリックはありませんが、心理的なひっかけが多彩に用意されていて
気づかないうちに「盲点」に入り込んでいることに気づかされる、とても興味深い3作品です。
もちろん、当の金田一のツメの甘さも存分に味わえます(笑)。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.11:
(5pt)

これこそプリンシプル

金田一耕助の初登場作品にして、戦後本格の幕開けを飾ることになる横溝の代表作だ。
土俗的で因習めいた舞台設定が醸し出す独特の雰囲気と、それを加速させ際立たす異様な
登場人物の配置。そして、それは取ってつけたものではなく、優れた人間観察による裏打ちが
あるのは歴然で、特に、やりきれない想い、報われない想いを胸の奥底にこだまさせている
繊細でとことん弱く、それでいて病的にストイックな人間を描かせたらあまりに天才的。。
そして、従来密室自体を構成しにくいと謂われる日本家屋で、これだけの和風大仕掛けを
創案した気概。あくまで本格、これでもかというぐらい本格に徹した主義・信条が見事。
本作が規範となり才能ある追随者が続き、確乎とした流れが出来た。まさに源泉であり原点。
これを読まずして何を読む。必読。
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No.10:
(5pt)

20年の遅れを一気に取り戻した記念碑的作品

本書は昭和21年(1946年)に発表された、おそらく日本で最初の本格推理作品(それまでの「変格」推理作品とは違って)で、横溝自身が本書とほぼ並行してあるいは本書の後に「蝶々殺人事件」「獄門島」という日本推理小説史上、屈指の名作を立て続けに発表した他、角田喜久雄「高木家の惨劇」、坂口安吾「不連続殺人事件」、高木彬光「刺青殺人事件」という横溝作品に負けず劣らずの名作・傑作群が、本書に続いて登場している。
その本書の内容については、もはや語る必要はないだろう。
犯行現場の離れの座敷は内部から施錠され、さらに雪が降り積もっている中、犯人の足跡がない二重の密室仕立てという不可能殺人をテーマに、英米の論理的な本格推理の手法を用いながら、琴や屏風、灯篭などの日本的小道具を用いて「和風」の美を追求し、さらに徘徊する謎の三本指の男、生涯の仇敵といった味付けを加えた本書は、紛れもない名作と言えよう。
唯一の欠点は犯行現場を密室にした理由で、正直なところ、金田一の推理には開いた口が塞がらなかったが。
とは言え、イギリスではアガサ・クリスティーの名作「アクロイド殺し」が、アメリカではヴァン・ダインの処女作「ベンスン殺人事件」がそれぞれ1926年に発表され、以後黄金時代に突入した英米から遅れること20年目にして、ようやく本書を皮切りに日本は本格推理小説の黄金時代を迎えたわけで、そういう記念碑的な意味において、本書の意義・功績は計り知れない程に大きい。
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No.9:
(5pt)

婚礼初夜に起きた密室殺人

名家の婚礼初夜、離れで寝ていた新郎新婦が殺害された。
離れの建物にはしっかりと戸締りがなされ、しかも、
周囲は雪で覆われており、いわば二重の密室状態だった。
にもかかわらず、犯人が立ち去った足跡は見当たらず、
凶器の日本刀のみが離れの外に残されていた……
大掛かりで複雑な機械トリックが特徴の本作。
普段ミステリを読まない人が、本作を読めば、犯人のあまりに旧弊な犯行動機も含め、
「なんでわざわざ、そんなことすんの?」と思うんじゃないでしょうか(w
しかし、ミステリ的にみれば、純日本家屋の中で、あくまで「和」の道具立て(琴、
日本刀、鎌など)によって密室を構成してみせた本作の歴史的意義は大きいです。
そして、そうした日本的なモノがそれぞれに帯びる象徴性が捨象され、単純な機能に
解体されることによってトリックとして再構成されるメカニズムこそ、ミステリの勘所です。
我々は、横溝作品といえばつい、おどろおどろしさや猟奇性ばかりをイメージしますが、
あくまでそれは演出の一面にすぎず、伝統的な和の意匠が、ことごとく抽象的なロジック
へと還元されていく、ギャップや異化効果にこそ、その真骨頂があるといえます。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.8:
(5pt)

密室殺人事件

本書は、本陣殺人事件の他に二つのショートショートがついている。
『本陣殺人事件』は密室ものである。途中で筆者は金田一に密室の探偵小説について語らせている。曰く、犯人がある方法で−針金だの紐だのを使ってですね−あとから錠だの閂だのをおろしておいた、などというのは感心しない・・・
であるならば、本件はこういうトリックではないということが分かる。
ではあくまで密室なのであろう。しかし、犯行に使われたと見られる凶器は部屋の外にあるのである。となると・・・
『車井戸はなぜ軋る』は、酷似している異母兄弟が戦争から帰って来る、が、一人は戦死し一人だけで。さあ、その本人はどちらか、というのが話しの中心である。何か犬神家の一族にこんなのがあったような・・・
『黒猫亭事件』は「顔のない屍体」ものである。筆者曰く、探偵小説には「一人二役」型だの、「密室の殺人」型だの、「顔のない屍体」型だのがある。後の二つは途中でそれと気付くが、「一人二役」型は読者に感付かれたが最後、その勝負は作者の負けであると。また、「顔のない屍体」は、十中八九被害者と加害者がいれかわっていると考えて間違いはないと。
さあ、本件のトリックは如何に・・・
この作品の最後にこういう文章がある。
「私は正直にいうが、見破ることが出来なかった。読者諸君はいかに?」
至らない作家がこんなことを書けば噴飯ものだが、この作家に言われるとどうにも、にやりとして、ああ分からなかったよ、と言うしかないのである。
三篇の内では『本陣・・・』が有名なのだろうが、トリックとしては『黒猫亭・・・』が一番練れている気がした。
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No.7:
(4pt)

黒猫と井戸

 「本陣殺人事件」「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の3篇が収められている。いずれも中篇という分量である。
 「本陣殺人事件」は金田一耕助のデビュー作。本格的な密室トリックが使われており、著者の代表作としても広く知られている。しかし、正直なところをいえば、それほど優れた作品とは感じなかった。トリックもアレだし、真相もいまいち。探偵小説史上、貴重な作品だとは思うが。こういう、正面から取り組んだ密室トリックは著者は得意でないのでは。
 「車井戸はなぜ軋る」は、煮え切らない作品という印象。
 「黒猫亭事件」が、本書では最良なのではないか。プロットにトリックが組み込まれており、ついついだまされてしまう。読者への挑戦の仕方も粋だし、サービス精神に満ちた一編と思う。
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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No.6:
(5pt)

『オペラ座の怪人』『クマのプーさん』と金田一の関係は?

本書は第二次大戦後、国内で初めて発表された本格推理小説で、金田一耕助初登場作品にして、第1回日本探偵作家クラブ賞(現在の日本推理作家協会賞)を受賞した、作者の代表的傑作である。
本書の魅力は大まかに次の3つである。
1)本格的な密室トリック
作者いわくはカーター・ディクスンの『プレーグ・コートの殺人』に刺激を受けたとのことだが、密室トリックに類似性や関連はないに等しく(『プレーグ・コート〜』は、密室の構成方法という点では機械トリックではなく、むしろ心理トリックのように思う)、「雪の密室」という点からはむしろ『白い僧院の殺人』を連想する。
またこれも作者の言だが、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』を意識して、「黄色い部屋」に対してべにがら(紅殻)塗りの「赤い部屋」に仕立てている。
(ルルーの作品はミュージカルのおかげで『オペラ座の怪人』の方がすっかり有名になってしまったが、『黄色い部屋〜』は江戸川乱歩が名作推理ベスト10の2位に挙げる、密室ものの古典である。)
なお、私は本書の密室トリックについて、クリスティー唯一の密室ものの長編『ポアロのクリスマス』に近しいものを感じる。一度読み比べられたら面白いと思う。
2)謎の三本指の男
この謎の三本指の男のように、たとえば『獄門島』の謎の靴跡の男や『犬神家の一族』の復員兵とか、『悪魔が来たりて笛を吹く』の椿子爵(に似た人物)、『悪魔の手毬唄』の「おりん」など、本書以降も作者は様々な作品で謎の人物を徘徊させているが、とくに本書ではこれが謎を深めさせ、怪しげで不気味なムードを醸し出すことに成功している。
3)金田一耕助の登場
本書の最大の功績は、金田一耕助を登場させたことに尽きるのではないだろうか。
本書とほぼ同時に発表された『蝶々殺人事件』と本書について、江戸川乱歩ら職業的推理作家たちは本書に軍配を挙げ、坂口安吾ら純文学作家たちは『蝶々〜』を支持したらしい。
もはや好みの問題だろうが、私は金田一の登場しない『蝶々〜』には味気なさを覚える。もしも本書に金田一が登場していなければ、きっと同じように感じたことだろう。
なお金田一耕助のモデルは、本書で作者が記載しているとおり、A・Aミルンの『赤い館の秘密』(本書では『赤屋敷の殺人』と記されている)に登場するアントニー・ギリンガムで、『赤い館〜』は江戸川乱歩が名作推理ベスト10の8位に推した作品である。
ちなみに『赤い館〜』の著者A・Aミルンは、『クマのプーさん』の作者である。
もう一つついでに、本書に記されている金田一耕助が解決したアメリカでの事件について、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』の続編として、『僧正の積木唄』という作品が山田正紀によって執筆されている。
(この中でファイロ・ヴァンスと金田一耕助のコラボが実現している)
本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)Amazon書評・レビュー:本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)より
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