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第八の日



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【この小説が収録されている参考書籍】
第八の日 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-6)

第八の日の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

探偵の存在が否定されるミステリ

エイブラハム・デイヴィッドソンによって書かれたとされる本書はクイーン作品でも異色の光彩を放つ。閉じられた世界での物語といえば『シャム双子の謎』や『帝王死す』などそれまでにもあったが、本書は世界観から創っているところが違う。

微妙に英語と異なる独自の言葉と宗教を持つコミュニティ。50年前に一度横領罪があったきり、その後半世紀に亘って犯罪の起きていない共同体クイーナン。そこは200人余りの住民で構成され、それぞれが役割を持って自給自足、地産地消の生活を送っている。
ひょんな偶然からそこに招かれることになったエラリイは来たるべき災厄の救世主として迎えられる。それは前もって予言されていたことなのだと教師と自称する統治者ウイリーは述べる。

そしてウイリーが予見していた大きなトラブルとは殺人。ウイリーの従者であった雑品係のストリカイ。そしていまだかつて嘘をついたことのないとされるウイリー相手にエラリイは捜査を進める。

ピーター・ディキンスンを髣髴とさせる異様な手触りを放つ作品。
閉じられた共同体であるクイーナンはアメリカにありながらアメリカではない。全ての物は村人の物であるという共産主義的社会。美術、音楽、文学、科学さえも存在しない。教典とされるのはMk'h(ムクー)の書と呼ばれる存在すらも危ういまだ見ぬ聖書。
犯罪そのものを知らない人々に対して指紋がどんなものかから教えるエラリイ。

そんな中で起きた殺人事件の真相は実はさほど意外なものでもない。限られた世界の中に限られた登場人物。推理をすれば真犯人が解る読者も少なくないだろう。私もその一人だった。動機もまた納得できる。

しかし本書はそれだけではない。この圧倒的に奇妙な世界は何が起因して創られたのか、本来の謎はそこにある。
そしてその正体を理解するには前知識が必要なようだ。そして残念ながら私にはそれがなかった。

エラリイが最後に目にするMk'h(ムクー)の書の正体を知っても衝撃は走らず、その内容がクイーナンの世界とウイリーが述べる予言にマッチする内容が書かれているのか解らないからだ。

しかし本書の真価は最後の最後に現れる本当の救世主になりうる男マニュエル・アクイーナの登場にあるのだろう。

この結末はエラリイの存在、到来自体を否定するものだ。
つまり本書はエラリイのための事件ではなかったということだ。
つまりは探偵の存在を否定する探偵小説。本書の本質とはまさにこれに尽きるのかもしれない。


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Tetchy
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