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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数773

全773件 561~580 29/39ページ

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No.213:
(4pt)

扉の外の感想

クラスメイトと共に修学旅行に向かう途中、急に場面転換。謎の空間に閉じ込められる。
状況が分からない中、人工知能から指示されたルールに従い過ごし始める。

デスゲーム系の空間内にいる人々による頭脳戦やパニックを期待したのですが、それとはまったく違った内容でした。
そこに閉じ込められてしまった主人公が、ルールを無視して外れ者になり、タイトルの意味通り、物語の外側に属し、流れるままに過ごすクラスメイト達を皮肉に見つめていると感じました。

物語の人々と、それを見つめる読者の立ち位置の間に存在する、メタ視点の主人公。行われているゲームを無視して他の行動をしているのが斬新でした。
主人公の行動は、クラスの輪に入れない心理模様を感じさせたいのか、外れている自分カッコイイと自己陶酔させているのか、読んでて共感要素がなく、ダラダラとよくわからない読書でした。

アメリカ映画のような、災害時に勝手に行動した主人公が救われる。そんな印象を持った作品です。
人に言われた事に流され続けるのではなく、井の中の蛙、ゲームの舞台など、見えない外側の世界を想像し、見えてくる新しい世界の発見を感じよう。そんなテーマを感じてました。

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扉の外 (電撃文庫)
土橋真二郎扉の外 についてのレビュー
No.212:
(6pt)

ムーンズエンド荘の殺人の感想

今年の作品なのに読んだ気持ちは昔の古典作品を彷彿させます。

探偵学校の同窓会として集められた雪の山荘にて起きる連続殺人。クローズドサークルもの。
山荘の見取り図やメンバーの名前を見ながら状況を把握したりと、なんだか懐かしい気持ちで読みました。

なんというか、ド定番路線で、これといった個性を感じられず刺激がなかったのが残念。
この手の本格物は好みなのですが、古典以降いろいろなバリエーションが生まれた現代において、あまりにも直球だと物足りなくなった個人的な心情も感じました。

この本の立ち位置が難しい所で、ミステリを読み始めの人で、この手の本が読みたい場合は、既に存在する有名どころを先に読むでしょうし、ミステリを読み慣れた方だと可もなく不可もなく無難に終わってしまう気がしました。
そんな事を考えると、作者の本格が好きなんだろうな。という気持ちを強く感じ、自分で作品を作ってみた。と言う所に落ち着きました。

デビュー作との事で、この路線でまた2作目が出たら、なんだかんだでまた読むと思います。

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ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)
No.211:
(6pt)

水の時計の感想

脳死の病所や月明かりの夜のみに話せる死者の声、タイトルの水、と言った単語のインスピレーションが影響して物語は幻想的で不思議な読書でした。
ミステリとして見ると特出した好みがなかったのですが、文学的には読書中に感じる空気感が良かったのと、重いテーマなのに読後は悪い気持ちにならないのが良かったです。

本書はオスカー・ワイルド『幸福な王子』の体の一部を他人に与える様を、臓器提供として現代版の物語を作り上げている所が見事です。有名な童話なだけに、使用されているモチーフに気付きやすい点が読みやさに繋がりました。

序盤の暴走族の模様は正直、嫌な気分にさせられたのですが、ツバメの代用となる臓器を運ぶ為に警察の検問を掻い潜って滑走するバイクを演出して、アクション要素で物語の中に起伏を作る、必要な設定と感じて読後は個人的に納得しました。
水の時計 (角川文庫)
初野晴水の時計 についてのレビュー
No.210: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

リライトの感想

読み終わって、何だこれは・・・。と、放心。
あらすじにて最悪と銘打っていましたし、こんな事も起きるだろうなと思いつつも、読まされるとなかなかの衝撃です。

タイムトラベルもので、過去が変わってしまった所から始まり、同級生も謎の死を遂げていき、何が起きたのか?と、この手の本が好きな人にとっては見慣れた設定です。
ラベンダーの香りがする錠剤で時間を移動する設定など、筒井康隆『時をかける少女』を筆頭に、時間移動を扱う、いくつかの本を感じますが、それらとは違う独特の味がありました。

章区切りで、1992年、2002年、1992年、2002年…と時代を交差させて話が進みます。
小説で最後に収束するよくある構成と感じるのですが、本書の面白い所は冒頭より過去が変わってしまった謎を活かし、前後の話の辻褄が合わさっていないと感じる所です。読み進めても自分が理解していた設定と異なっている気がして、なんだか嫌な感じで混乱します。過去が変わっていく不安感を読者へ巧く体験させていると思いました。

伏線回収の良い点とは逆に、タイムパラドックスについて細かな設定や矛盾を感じる粗さがあります。
それを覆い隠すかのように勢いよく話を展開して力技で押し切られた気持ちもありますが、読了まで良い意味で呆然とさせられ記憶に残る作品となりました。

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リライト (ハヤカワ文庫JA)
法条遙リライト についてのレビュー
No.209: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

存在しなかった男の感想

ハネムーン帰宅の飛行機内から夫が行方不明になってしまった。
仕方なしに帰宅して待つが夫の持ち物が消えている。警察に相談するも、虚言ではないかと疑われてしまう。

タイトルにある『存在しなかった男』と、夫がいなくなる導入は謎や葛藤が交差して面白いです。
実際問題、航空会社等で調べれば、席からいなくなったりする状況など調べてもらえそうだと想像しますが、
時系列のテンポもスピーディーなので、調査する余裕もなく焦る、主人公の奈々の行動がリアルに感じました。

ここからどんな事件への展望を遂げるかと期待したのですが、中盤からは社会派ミステリへ様変わりし、メッセージを帯びたものを読まされた印象です。
小説内でテーマを掲げそれを盛り込んだストーリーは好感触なのですが、訴え方が卑屈過ぎて、自業自得に思えてしまい共感できなくなってしまったのが個人的に好みに合わずでした。

初めて読んだ作家さんでしたが、社会的テーマ+ミステリを作る方なのですね。読みやすいので他の本も気になりました。


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存在しなかった男
No.208: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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美人薄命の感想

過去作より、『花窗玻璃』での読者に与える文学表現や『ジークフリートの剣』を読んだ時の印象を融合して継承したような作品でした。作りが巧いです。

物語は将来を見出せない学生が単位取得を目的に高齢者向けのお弁当配達のボランティアを始め、そこで知り合ったおばあちゃんの過去に触れていく。
介護問題、戦争話など、高齢者と若者の関わりも描いており、要所要所で社会への訴えを感じたりしていましたが、雰囲気はユーモアが多く楽しいのが良かったです。

この方の本は、小説の作品として意味があるのが素晴らしく感動します。
映画を見てストーリーが良かった。という感想だけなら、それは映画じゃなくてもよいと思いますが、
この本は本だから受ける感じ方を操作されていて、文章を紡ぐ作家の凄さを感じました。


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美人薄命 (双葉文庫)
深水黎一郎美人薄命 についてのレビュー
No.207:
(2pt)

殺人コンテストの感想

意地悪な、おばあちゃんがガン宣告を受けて余命僅かだから、楽に死なせておくれ。と子供たちにお願いする。
痛かったり苦しいのは嫌。また、犯行がばれて捕まってしまっては元も子もないので、完全犯罪をしておくれ。
一番良い案を出したものに賞金をあげます。
と言った内容で、明るくユーモアに描いているとはいえ、個人的には不謹慎で合わず。

知能戦や驚きも感じず、古い本であるので、これも時代せいかなと思いました。

おばあちゃん+犯罪劇のミステリは、天藤真の『大誘拐』を思い浮かびます。おばあちゃんの知恵袋や年季が入った他人に動じぬ立ち振る舞いなど魅せる要素が本作にもあった所は良かったです。
殺人コンテスト (角川文庫 (6079))
宗田理殺人コンテスト についてのレビュー
No.206: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

グランドマンションの感想

マンションを軸に、そこに住む者、関わる者の交差に謎を散りばめているのが面白いです。
上下左右の隣人がどんな人か分からない。人との関わり方が減った現代のマンション住民の模様を巧みに活用しています。

例えば、
・上の階から聞こえてくる子供の騒音に苦情を申し出た所、幼児虐待疑惑の母親に遭遇。『子供を静かにさせる』と言ったあと、確かに足音はなくなった。騒音の悩みはなくなったが、子供はあれからどうなってしまったのか気が気でない・・・。
・高齢のおばあちゃんを最近見かけない。部屋にいるのか。そういえば最近家から変な匂いがする気がする・・・。
と言ったマンション住民間で起きる疑惑の物語。

隣人との干渉、騒音問題、年金不正受給、高齢化社会、etc...。
社会的なテーマを持ちつつ、それでいて結末は予想外な方向へ展開するのでミステリとして面白いです。

著者の持ち味である、話の隠す所、見せる所の作り方がうまい。何が起きているのか気になって読めてしまいます。
さらに雰囲気もライトでテーマが圧し掛からず、読みやすかったのが良かったです。
こんなにも問題を抱えているマンションはどうなのよ。と言うのは気にせず、喜劇を見る感じて楽しみました。


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グランドマンション (光文社文庫)
折原一グランドマンション についてのレビュー
No.205: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

眼球堂の殺人 ~The Book~の感想

好みの本格ミステリである事と読みやすさが良いです。

『館』の文字の使用を控えて、眼球堂の『堂』を選んだと思いますが、中身は館物でクローズド・サークル。
トリックあり、読者への挑戦ありと、直球の本格ミステリです。この手の本は好みで楽しいです。

少し厄介に感じたのが既視感が多い所です。
人物設定やトリックなど新本格時代の本を好んで読んでいる人には触れているだろう定番本のネタをいろいろ取り入れています。
が、それが悪いかというとそうではなくて、うまく組み合わせて作品を作ったなと思う次第です。
新鮮な驚きではなく、感心という気持ちでした。

ミステリ好き同士で感想を話すと、ここってこの作品のここだよね。こっちの設定はこの作品だよね。
と、他作の作品名はネタバレになるので言えませんが、そういう風に感じる本でした。

天才が集まる必然性が弱かったり、「ザ・ブック」と発言する主人公は数学者を超えたイタさを感じるなど、ひっかかる部分はあるのですが、本格が好きな気持ちと楽しさが伝わり良かったです。
次回作も楽しみです。

眼球堂の殺人 ~The Book~ (講談社文庫)
周木律眼球堂の殺人 ~The Book~ についてのレビュー
No.204: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ルパンの消息の感想

警察小説、3億円事件。社会的で硬質漂うので、あらすじを読んだ印象では好みに合わない感じでした。ですが、評判で気になって読んだ所・・・当たりです。これは食わず嫌い本でした。

自殺とされた事件が殺人の可能性をおびて、時効寸前の前日に調査を再開。関係者を集めて過去を聞きだし真相を探っていく。

時効寸前というタイムリミットと、警察内の雰囲気がとても緊迫感をだしています。
容疑者達から過去の物語を聞いていくのですが、何が起きていたのか分らないもどかしさも重なって、ミステリの謎が気になる。という好奇心ではなく、真相がわからない事による『焦り』の雰囲気が巧かったです。

謎や伏線に至るミステリの面白さに、警察小説の雰囲気や人間模様などうまく絡んでおり、警察小説も悪くないと思わせる作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ルパンの消息 (光文社文庫)
横山秀夫ルパンの消息 についてのレビュー
No.203: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

永遠の森 博物館惑星の感想

日本推理作家協会賞受賞作ではありますが、ミステリの要素は低いです。
絵画であれば、この絵にはどんな美が存在するのだろうか。と言った謎を提示するところが、
ミステリっぽいと言えばそうなのですが、本作は美に関わる人々の気持ちに触れて相手を思う。そんな作品でした。

芸術、音楽など、文章中に扱われる単語の多くが心地よいものなので、物語だけでなく文章作りの美も感じます。
頭を使わず雰囲気に触れている様な作品で、そこが求めている好みと違った点でした。

永遠の森  博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)
菅浩江永遠の森 博物館惑星 についてのレビュー

No.202:

know (ハヤカワ文庫 JA ノ 4-1)

know

野﨑まど

No.202: 8人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

knowの感想

いやはや。今回も楽しませて頂きました。この方の作品凄いです。
推理物のミステリとは違う小説ですが、『知るとは何か?』をミステリの謎と言うより哲学的に問いかけるSFよりな作品です。
堅物な作風だと頭が痛くなるような専門用語や論述をライトノベルの作風を使ってとても読みやすくしているのは毎回凄い所。
テーマの感じさせ方もうまく、読後余韻に浸り、いろいろと考えさせられました。

まず感じたのは『情報格差』です。
脳に付与された機器によって、得られ、隠せる情報制限を人々にランク付けさせる世界。
一般人はランク2。官僚はランク5。社会適性がないものはランク0で個人情報筒抜け。
コンピューターの進化や超情報化社会に発展する未来において起こり得る格差世界を体感させられます。
脳とコンピューターが接続する世界において知識とは、事前に知っている必要はなく、瞬時に検索してアウトプットできれば同義になるなど、未来における考え方の変化も興味深いです。
現代でもすでに知らない事はネットを活用して瞬時に回答を得られる能力があれば事足りる状況もあるわけで、その世界においての『知っている』『知らない』『知りたい』とは何なのかを感じる読書でした。

人間の生きるとは何なのか、全てを知るとはどういう事なのか、深いテーマを掲げて、
脳とコンピューターのSF世界をライトに楽しめる作品はそうそうないです。
ネタバレは後述するとして、作者の考え方の仏教や宇宙など巻き込んだ思考の到達点はかなり痺れました。

▼以下、ネタバレ感想
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know (ハヤカワ文庫 JA ノ 4-1)
野﨑まどknow についてのレビュー
No.201: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

青い館の崩壊の感想

バカミスから著者の本を読むようになった為、昔の本書を読むにあたってはその手の先入観を感じながら読みました。

シリーズ3作目ですが、本書が初めての読書です。
話は、死なない吸血鬼の主人公が時間を持て余しているので5万枚のミステリーを書こうと思い、何を書こうかと、つらつら述べていく所から始まります。
序盤から『この事件は時が解決してくれる!』それ、探偵の名前が(とき)さんって人じゃないですよね?とか、
『密室は嘆いていた』それ、(ひそかむろ)って名前の男がいる叙述じゃないですよね?とか、
ユーモアなやりとりでクスっとさせられながら、昔からこんな話を書いてたんだと感じていました。

ですが、作中作「青い館の追憶」が現れた辺りは、氷の館に住む女王と7色の氷人である賢者の幻想小説になり、その本を書いた人を調べていく中で、顔の溶けた幽霊が現れる現実のマンションに出くわし、ホラーテイストから話が繋がっていくミステリへ変容していきます。

吸血鬼が主人公なので、氷の女王やら幽霊やら不思議な現象も作品の設定として感じてしまう所ですが、結末へはそれらを必然的にうまく繋げていくんだなと思いました。

バカミスに特化、ホラーに特化。と、1ジャンルに洗練させているのではなく、色々な持ち味を混ぜ込んでいる所に今と昔の作風の変化を感じられました。

青い館の崩壊―ブルー・ローズ殺人事件 (講談社文庫)
倉阪鬼一郎青い館の崩壊 についてのレビュー
No.200: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

深い疵の感想

いやはや。久々に頭使って読みました。かなり重厚です。

久々の翻訳物を読んだ為か名前や人物の把握に苦労しました。
中盤までは登場人物ページをいったりきたりしていました。
ピア警部に至っては、最初勝手に"警部"だからと、男の印象で読み進めてしまっていて、
女性警部と把握した時は、日本の警察小説で女性の階級が高いものって少ないな。と、国の違いを感じていました。

著者に関しても男性作家だと思っていたのですが、
読書後に著者を調べたら女性作家だった事に驚き、
それで、女性のキャラが生き生きしていたのかと合点。
などなど、名前に然り、ドイツの事をまったくもって把握していない自分を改めていました。
そんな自分に対して、本書がドイツのご当地物といいますか、情景・歴史がよく描かれているのでかなり学ばされた本でした。ミステリを通して他国を感じられるのは良いです。

かなり緻密な構成でストーリー展開は良い意味で混乱。
全容が分かる後半は、もうなんか凄い事になってるな。と感じるしかなかったです。

オリヴァー とピアの関係も素敵で好み。人物把握が慣れた所で、他のシリーズを読もうと思いました。
個人的には本書はシリーズの雰囲気・下地を把握する魅力的な体験版と言った感じでした。
深い疵 (創元推理文庫)
ネレ・ノイハウス深い疵 についてのレビュー
No.199: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

M.G.H. 楽園の鏡像の感想

これは好みの作品ですね。埋もれてました。

冒頭から始まる『無重力空間での墜落死』という不可解な状況の提示は魅力的です。
宇宙ステーションが舞台なのでSFとなりますが、何でもありの奇想のSFではなく、ほんの少し先の未来が舞台である現実的な世界を描いてます。

また、理系用語豊富ですが教養範囲。特殊なものは丁寧に説明されています。
ライトノベルも描く方なので、キャラの気持ちも入りやすい。
本書は初心者から楽しめるSFミステリだと感じました。
なんとなく、森博嗣『すべてがFになる』の設定や雰囲気を色々と感じましたが、
S&Mシリーズが好きな方には本書も好まれると思いました。

事件の魅力も然る事ながら、テーマ性もよかったです。
『ミラーワールド』と表現された、現代で言うインターネットのバーチャル空間においての相手との対話。
相手は人なのか人工知能なのか。人の死後、その人の情報はネット中にどのように存在し続けるのか。と、語りかけられるテーマに面白く触れられました。
2作目の『海底密室』にも話題として出てきましたが、ネットと言う新たな世界での『人の存在』を意識させられました。

SFを読みなれていないのもあって、宇宙での表現方法が新鮮でした。
気に入った所を引用しますと、
>舞依の瞳から、涙がこぼれた。地上に比べて、ほんの少しだけ、ゆっくりと流れ落ちるその透明な液体を、凌はとても綺麗だと思う。
重力の違う宇宙空間にいる事を感じさせる表現が素敵です。

シリーズをもっと読みたいのですが、無いのが残念。
よい作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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M.G.H. 楽園の鏡像 (徳間文庫)
三雲岳斗M.G.H. 楽園の鏡像 についてのレビュー
No.198: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

いろいろな独りを感じる

500Pを超えると読むのを躊躇ってしまうのですが、著者の本は読みやすい安心感があり手に取りました。本書も苦なく読めたので巧さは健在。
序盤から『何かの事件が起きた後』の事情聴取やインタビューの場で、登場人物達の供述でストーリーが進みます。

読者が質問者になったかのように、会話が一方的にこちらに話しかけてきます。
例えば、他人が携帯電話で誰かと話しているのを横で聞いているような印象を持ちました。
ですが、内容がよくわかる。片方の会話文が無いのに話がわかるのです。これはとても凄いと思いました。
不思議な構成や文章で読み進め、結局何が起きたのか?を悶々と考え、もどかしさを感じながら最後まで読んでしまいました。

読んでいて苦はなかったのですが、読み進めて行く最中に頭に過る、『何か』の想像を脱した結末ではなかったのが少し好みと逸れました。これは話のボリュームが長く、色々考える時間があった為です。もう少し話が短くて、心の準備をする間が無かったら違った印象を受けていたでしょう。
岡嶋二人作品で、話を短くシンプルにして勢いよく真相をぶつけてくる。あの感じを求めていたのかもしれません。

さて、長いから悪いとかそうではなくて、驚きよりも物語作りに唸ります。
顔が醜く社会と断絶していた人物が、とあるきっかけでモデルに心を奪われストーカーと化していきます。
『醜さ』が幾度となく表現され、それは見た目の顔だったり、歪んだ考え方だったりするわけですが、
『醜い』というのは相手があって初めて感じる表現なわけで、映像ではなく、文章で作っていった所の巧さを感じます。

構成のインタビュー形式にしても、相手の存在をなくして、独りで話していたりします。
ストーカーの一方向な思い込み、ビートルズの評論で自身の存在を認めていくのも然り、個の表現が不思議と目に留まりました。

いろいろな見方ができて面白い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ラバー・ソウル
井上夢人ラバー・ソウル についてのレビュー
No.197: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

海底密室の感想

深海4000メールの実験施設で起きる密室殺人。
SFミステリまで空想ではなく、理系ミステリと言った所です。

ミステリの舞台からしてシチュエーションの新鮮味を受けます。
外界から閉ざされたクローズド・サークルものであり、
犯行方法も然る事ながら何故ここで殺人を犯さなければならなかったのかの議論も魅力です。
登場人物達は施設にいる研究員なので、状況把握、思考回路も理路整然していているのもよいです。

事件が起きても他に影響されず、行動は自分で何事も判断。研究を続ける。個人の問題。無関心。
光が無い深海の冷たさ同様、『個』が強調されているのが魅力でした。

本書には地球の資源問題や深海を研究する上での土地問題、生物や食糧問題の解決、エネルギー問題の重要性などのメッセージ。
コンピュータが発達してネットワークでコミュニケーションが取れるようになった今、
人の繋がりを求める場合、物理的に同じ空間に人は必要なのか?
コンピューターに映し出された文章に人を感じるなら、感情をもった人工知能が人の繋がりを代用できるのか。など、
人との触れ合い、孤独とは何かのテーマ性を色々と考えさせられました。

ミステリとしても、テーマ性にしても特徴的で面白く、
また、それらが巧く融合された作品となっています。
理系のミステリが好きなので満足でした。

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海底密室 (徳間文庫)
三雲岳斗海底密室 についてのレビュー
No.196: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
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聯愁殺の感想

事件の生存者、梢絵の疑問、
なぜ私は襲われなければならなかったのか?という犯行の動機から始まり、連続殺人のミッシングリンク、推理によっては犯行現場が密室や犯人消失模様になって混迷する真実など、序盤に事件の概要が展開されたあとは、ひたすら推理する作品です。
ロジカルな思考に触れる展開が好きなので面白かったです。

ただ、推理場面は良いですが、題材の謎自体の魅力が弱く、
惹きこまれて先が気になるような展開ではなかったのが残念です。
事件がサスペンスドラマな印象で、もっと不可解な怪奇性があれば良かったと思いました。

推理だけの本と思いきや、ミステリの要素はかなり豊富です。
盛りだくさんの要素を巧く組み合わせた、技巧的な作品でした。
聯愁殺: 新装版 (中公文庫, に18-9)
西澤保彦聯愁殺 についてのレビュー
No.195: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

二流小説家の感想

読み所が豊富で、1冊読んだだけなのに何冊も読んだ気分です。

冴えない二流作家のハリーはSF,ミステリ,ヴァンパイア,ポルノを描く時にそれぞれペンネームを使い分ける。
ペンネームをコロコロ変えて自分固有の名前で出版しないのは自己ができてなく自信が無いないからなど、作家ハリーの人柄がとても良く感じる事ができました。
著者近影を母親や友人に頼んだりと、自身をとにかく伏せているのですが、これらが相まって読後にふと思った事。

本書の著者デイヴィッド・ゴードンは何者なのでしょうか?

映画監督や実験新作などで使われたりしますが、著者はハリー同様に自身を伏せた名のある作家の別名義なのかもしれないと勘ぐってしまいました。

作家や作品作りの思い、
推理小説が一番面白いのはページの最初の方だ。というミステリの考え方。
(例えが多く、かなりのミステリ好きだと感じさせる雰囲気もある)
著者の様々な思いを登場人物達に語らせている所が興味深く面白かったです。

あと翻訳がとても凄いと思います。
キャラや物語など色々と詰め込んで盛りだくさんなのに、
それぞれの表現が分かりやすいし気持ちが伝わる。この感覚は久々でした。
二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
デイヴィッド・ゴードン二流小説家 についてのレビュー
No.194: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

少女ノイズの感想

恋愛や友人関係、家庭事情、思い詰めての自殺願望など、
日常生活に入り込んでしまった歪んだ感情を"ノイズ"と表現している所が感慨深かったです。

闇に染まってしまう悪い感情もあれば、
よくよく考えると相手を思って生まれていた恋愛的なノイズもあるわけで、
複雑な寂しさや悲しさの感情が漂う作品だと思います。

さて、そんな世の中のノイズから耳をふさいでいるのか、
表紙に描かれたヘッドフォンを装着した少女が探偵役。
超頭脳で瞬時に解き明かす真相の流れは気持ちがよいです。
ヘッドフォンなどで外音をしっかり遮断した場合、
自分の血流のノイズを感じたりするわけで、
この少女が耳にしているものは自分自身の回想なのかと思いました。

連作集最後の『静かな密室』。
これはミステリとして、また、恋愛物としてもラストを飾るのに良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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少女ノイズ (光文社文庫)
三雲岳斗少女ノイズ についてのレビュー