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地下室の殺人



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地下室の殺人の評価: 3.75/5点 レビュー 8件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.75pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(3pt)

イギリス社会の縮図を見ることもできる。

バークリーを初めて知った。本屋で歩き回って目に止まったので、偶然に購入
した。私自身はあまり「本格推理」は読まない。推理ものなら日本の松本清張が気
に入っている。
 ネタバレしないようにごく簡単にレビューする。

 バークリーの文体は柔らかく、堅苦しいスタイルではなくすっと読み通すこと
ができる。文章も混み入っておらず、ストーリーが素直に理解できる。さすが流
行作家と、変な褒め方をしたくなった。スカスカの文章ではないのだが、よく文
章を練っているのか、非常に読みやすい。
 幕開けは劇的。転居した家の地下室で女性の変死体が見つかることから事件は
始まる。「首席警部」が登場し、そこから推理が行われる。会話文とその他の情景
説明の文章のバランスがいい。さりげなく当時(1930年代)の家や町並みが記述さ
れている。現在と言っていいほど古びていない情景だ。

 イギリスなので、どうにも堅い雰囲気が予想されるが、結構明るく?描写され
ている。(どうにも変な言い方だが)。イギリスが「階級社会」であった(である)こ
とを示す「知識階級」なる表現もあった。犯人のプロファイリングでも、街並みで
も「階級」を意識させられてしまう。これは仕方ないか。
 犯罪捜査のあり方でも驚くのが、単に一つの事件(まあ殺人事件だが)について
再鑑定するだけなのに、(おそらく)スコットランドヤードの序列第二位の「総監補」
や現職の大臣まで直接口出しをしている。イギリスの警察はかなり細かな指示命
令系統があったのだろう。ふとTVのドラマを思い出したが、隣国フランスでも
上役がかなり個々の事件捜査に口出ししていた(「アストリッドとラファエル」)、
そう思いが飛んだ。
 そしてようやく「被害者の身元」が判明する。
 「果てしなく地道な作業」である捜査、その捜査に行き詰まりそうな時に首席警
部は、探偵でもある作家に情報を漏らす。そして…。

 第2部は被害者が寮母として勤務した学校に、「偶然」立ち寄ってその人間関係
の機微を知っている作家による、ノンフィクション仕立ての小説となる。
 「私立初等学校」がその学校。あまり聞かない名称なので少し調べるた。「パブリ
ック・スクール」入学以前の学ぶ小学校であるらしい。その卒業生はほぼ全てパブ
リックスクールに入学する。ただ、学制の改編でかなり当時と現在とは違ってい
るらしい。(パブリック・スクール自体がなくなっていることも多い)。本書執筆
時ではいわば「特権階級のエリート校」で、全寮制。登場する小学生は全員上流階
級。
 教師も尊大で、階級利益を代表することを任じている。校長や秘書、教員の様
子も興味深い。ただ学校はほぼ校長の独断で運営されている。

 その初等学校で取材したことを元とした小説だが、事実と考えていいとある。
 この学校の勤めている教師の様子や教師間の軋轢、校長の家族の専横、等がコ
ミカルに描かれている。決して暗鬱ではなく軽快な描写で読みやすい。
 驚くのが「不倫」がごく普通のように扱われていること。「性的放縦さ」は紳士と
淑女の国=イギリスでは不可分のものだったらしい。このような淫靡なことが底
流にあったのだろうか。(最近のイギリスを舞台としたドラマでも不倫はよく出て
くる)。フランスでは陽気に描かれる(ゾラなど常に不倫を描く)が、イギリスはや
はり陰湿。
 また、プライドが異常に高い人間ばかりで、読んでいてもさぞ窮屈な世界だっ
たろうと思う。これはイギリス社会の縮小図なのだろう。階級社会はさぞ愚かし
いことが大切にされていた。

 第3部は、また捜査活動に戻る。2部に曝された複雑な人間関係から、夾雑物
を取り除き少しずつ核心に迫る首席警部だが、どうにもいかなくなり策を弄して
小説家を捜査に関わらさせる。
 容疑者の尋問等があるが、この時代でもこれほど人権に配慮しているのかと、
びっくりした。この人権配慮に関しては現在の日本よりもっと厳しい。市民法を
最初に確立したイギリスらしい。無闇な逮捕をすればまず犯人は逮捕できない。
 取調の中で、「謀殺」をmurder、「殺害」をslay、「殺し」をkillとしている。
確かにニュアンスの差はかなりあるようだ。おそらくは階級によっても使用単語
は異なるのだろう。

 「足で探す(捜査する)」のが当時の捜査基本だが、その何回も続く捜査の様子も
ストーリーがスピーディで冗長さはない。さすがと思う。
 銃についての科学的捜査がまだまだの時代。ライフル痕の調べることもなく、
特定の銃器が使用されたのか否かも分からない。
 終盤近くに、「どんなフランス人の管理人より善行を積むことに熱心」という表
現が出てくる。これは背景にイギリス人のフランス人への軽侮感があるのだろう。

 ポーターやタクシー運転手の証言など、現在では捜査対象がかなり広くなって
いて情報を得ることが難しい。これらも、比較的に人数(タクシーの運転手さんな
ど当時の何倍にもなる)の少なかった当時は、こうして警察が足で情報を得ていた
のだろう。かなり牧歌的とも言えようか。
 容疑者が否認し続けることに対しても、声を荒げることは後の裁判での不利に
なることから、警察の対応はあくまでも丁寧だ。これは読んでいてイライラする
ほどだった。

 推理の主人公=作家がここで再登場。事件の要素を分析し、時系列を逆転する
かのような推理を行う。いささか持論に溺れてはいるが、論理だった推理とはこ
のことだろう。ただ、人間が必ず論理的な行動をとるとは限らないのだが。
 会話だけで容疑者を追い詰めていくのが後半の山場。「論理的すぎる」ことはど
うしてもリアリティを失わせるが、著者は筆が巧みだ。偶然の出来事を必然と思
わせてみたり、論理の穴を次の瞬間に消してみたり。
 最後に一番疑わしい容疑者と探偵たる作家の会話。その中でこの事件の全体像
が語られる。しかし「オチ」については、えっと思う人が多いだろう。私にはこの
結末は驚きでしかなかった。これは「推理」ではなく「おもしろ話」でしかない、こ
うとも思った。最後の十数ページは評価が分かれるだろう。

 全体として。この作品はよくできているとは思う。この作品で使われるロジッ
クは少々強引すぎるが、作品自体はよく締まっている。最初のページから最後ま
で、途中で冗漫な部分や「ダレる」ところはない。 
 ただ、「大団円」として提示される結末は…。
 純粋な推理ものとしても、どれほどの証拠を事前に読者に提示しているのか疑
問だ。
 私自身は「本格ミステリ」は好んで読むことはないが、それでもこの作品の最後
はどうにも首を傾げざるを得なかった。確かに面白く読めたのは事実だが、人物
描写についても不十分で不満が残った。
 ただ、今から90年以上前に上梓された作品がこれほどの出来映えとは驚く。
 と、様々なことを勘案し、☆は三つだろう。
地下室の殺人 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:地下室の殺人 (創元推理文庫)より
4488123104
No.2:
(3pt)

無駄な明るさが無くなってちょっと寂しい 1932年作

二段構えの導入部というのはとても上手い工夫だと思いましたが、(作中人物が作中人物をモデルにした作中小説!) 肝心の推理部分にアクロバティックな味が薄く、結末もモヤっと感が残りました。アイルズに栄養を取られちゃったのかな?原文にはおなじみの日付の矛盾があり、翻訳では訂正されてるようです。
地下室の殺人  世界探偵小説全集 (12)Amazon書評・レビュー:地下室の殺人 世界探偵小説全集 (12)より
4336038422
No.1:
(3pt)

後半が残念

ロジャー・シェリンガム物の長編第8作目。地下室に埋められていた死体を巡っての推理が繰り広げられます。この死体、時間が経っていたのと手がかりになるようなものがほとんどないのとで、身元がなかなかわからない。前半はこの身元を確認するための調査なのですが、これが滅法おもしろい。くわしくは書きませんが、なかなか凝った構成で楽しませてくれます。それに比べて、謎を解き犯人を探り当てる後半は、よくまとまっているとは思うのですが、どうしてもコジンマリとした感じがしてしまいます。特徴のある人物たちを登場させ、裏に秘められた人間関係などで、せっかく前半であれだけ盛り上げたのに、とちょっと残念でした。もう一つのお楽しみは、名探偵にして迷探偵のロジャー・シェリンガム、今回の事件を無事解決できるのかということ。ロジャーの作家としての顔が見られるのも、ファンにはうれしいサービスですね。
地下室の殺人  世界探偵小説全集 (12)Amazon書評・レビュー:地下室の殺人 世界探偵小説全集 (12)より
4336038422

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