■スポンサードリンク
緋色の記憶
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
緋色の記憶の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.78pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全16件 1~16 1/1ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ストーリーを追う本ではない。 過去の陰惨な事件の中に埋め込まれた、少年の日の美しくも苦い回想。 一瞬きらめく女性の美しさの前にはすべてが意味を失ってしまう、それがすべての始まりだった。 その美しさは少年だけでなく、その父親である謹厳な校長も、そして妻子ある男性教師も魅了してしまう。 一方、母親や教師の妻からみればその女性への讃嘆は軽蔑の対象でしかない。「男というものは、まったく、、」というセリフに集約されてしまう。 ともに、女性に対し積極的な行動に出ない少年と父親との心の交流は、息子にその真意が伝わりがたい故にかえって胸を打つものがある。 私が60年に苦くも悟った人生の真実がいたるところにちりばめられて、苦い感傷に浸ることしきりだった。 私の読書歴の中でも最高ランクの作品。一気読みだった。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
原題の「チャタム校事件」が、どんな大事件かと思いきや・・・。とにかく話が進みません。じわり、じわりと少年時の記憶を老人が一人語りするのですが、私にはストーリーも訳文も、もったいをつけすぎていて、好みに合いませんでした。たとえば、タイトルの「緋色」ですが、文中では「深緋」となっていて「こきひ」とルビを振っています。この類の単語使いが頻出して、それを格調高いと捉えるか、眼がつまづくと捉えるかは読者によるでしょうが、私は後者でした。泉鏡花じゃあるまいし。同じ作者の本をまとめ買いしてしまったけど、次を読む気がなかなかしません。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ネタバレをしないように 文中に気になった文章を 抜書きしてみたい。 まず、P299から 人間ははかなく、人は欲深く、 熱に浮かれやすいというのに、 われわれはすべてをかなぐり捨てて、 自分の幸福だけをわき目もふらず 追求するようなことはしない。 人間のせめてもの美徳、 誇りといえるのは、 自分以外のものにささげる この不可解な真心だと、 それだけはわかっているのかもしれない。 続いてP366から 父はこちらにやってくると、 わたしの肩に手をおいた。 「ミス・チャニングは 優しい心の持ち主だったんだ。ヘンリー」 そして、これが人生の確信だとでもいいたげに、 誤記を強めてつけたした。 「忘れるな。大切なのは心だ」 最後まで読み通せば、上の二つの文章の意味と この本のテーマである、原罪に対する償いと 人間の心の闇が悪を為したという事が 理解できると思う。 やはり名作中の名作だと思う。 1997年度MWA(アメリカ探偵作家クラブ賞) 最優秀長編賞を取っただけの内容であると 理解できるとおもう。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
トマス・H・クックの「緋色の記憶」を読了。ミステリの範疇の作品です。しかし痛快ではなく、娯楽でもない、心にズシンと重いものが残る作品です。様々な場面が入り組んで、物語はゆっくり進んでいきます。子供時代の記憶が生きることに大きく影響します。その人間の心の形成に大きく影響します。 この種の作品は、レビューするとネタバレの可能性が大です。だから中身は何も書きません。 私は最後まで緊張感を持って読むことができた作品です。ゆっくり進む物語に自分を反映させてみるのも良いのではないでしょうか。いい作品です。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
「記憶シリーズ」の中での最高峰です。 久しぶりに、ミステリ好きな人に勧めました。 ホーソーンの「緋文字」を読んでいた時の感覚が一挙に蘇りました。 中学生時代に、家にあった「なんとか世界文学全集」の中に「緋文字」があり、 とにかく「愛すべきでない人を愛した不幸」が強烈な印象を私に残しました。 過去が次第に蘇る恐怖と主人公の過去。 ゆっくりとしかし確実に真実に迫るその恐怖。 過去に縛られながらもそのまま生き続けて行かなくてはならない主人公。 この手の本は読み慣れているつもりでしたが、私には十分強烈でした。 ただ、「緋文字」を読んだ人でないと、このタイトルも印象が薄れると思いますし、 内容も「こんなんでは謎とは言えない」と思うかもしれません。 ちなみに、この本を薦めた人(ミステリ好き)からは、「結末が分かってつまらん」とのこと。 人によって様々な評価があるでしょうが、ミステリではなく小説として評価すれば、 極めておすすめの本です。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
原題は、The Chatham School Affair(チャタム校事件)。 主人公のわたし(ヘンリー・グリズウォルド)は、 ニューイングランドのチャタムの村で 「チャタム校」の校長である父を持ち、 自身もその学校の生徒である、15歳の少年。 年老いた弁護士となった彼が、 1927年の当時発生した「チャタム校事件」を 回想するという物語構成です。 このストーリーのユニークな点は、 「チャタム校事件」とは、どんな事件だったのか、 その全貌がなかなか見えてこないところです。 物語の冒頭、1926年8月、チャタム校に、美しい美術教師、 エリザベス・ロックブリッジ・チャニングが赴任してきます。 彼女は、やがて妻子ある英語教師、 レランド・リードと親密になっていくのですが・・・。 ヘンリーの紡ぐ物語は、 現在と過去を行きつ戻りつしながら進行していきます。 そこには、1927年に起きた事件に関する公判の記録もあり、 ヘンリーが証言台に立っているようなのですが、 では、どんな事件に関するものなのかは、なかなか明かされません。 この作品は、作品解説にもあるとおり、 「だれがだれになにを為したのか」、 その謎を巡るミステリと言えます。 その真相は、ラストで明かされますが、 それは、ヘンリーのその後の人生を変えてしまうほどの、 恐ろしい内容のものとなっています。 ところで、本書を読んでいて特に印象に残ったのは、 文章が美しいということでした。 抑え込まれた人物描写に思わず引き込まれてしまいます。 原文ももちろん素晴らしい文章なのだと思いますが、 訳文としても優れているのではないでしょうか。 それほど日本語的に美しい小説に仕上がっています。 この作者の文章は、 「雪崩を精緻なスローモーションで再現するような」 と評されているそうです。 文学的な香りのするミステリに、 一度酔いしれてみてはいかがでしょうか。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
孤独な老人の回想から始まる話。 封建的な田舎町で鬱屈した少年時代を送るヘンリーが出会った美しい女教師。 斬新な授業で生徒を魅了し、父と旅した異国の話を聞かせヘンリーの自由への憧憬を煽った彼女が当事者となったチャタム校事件の顛末とはー 推理物だと思って読むと、いつ事件がおこるのか人が殺されるのかとそっちばかりに意識が集中してじれったい思いをする。だがこの本のテーマはそこにあらず。 郷愁と回想。 誰もが体験した年上の女性への淡い憧れ、少年時代の終焉。 厳格な校長を父にもち、メイドのサラに身分差に阻まれた恋心を抱くヘンリーの思春期特有の焦燥や鬱屈などが繊細で情緒的な文体により瑞々しく描写される。 不貞な女の烙印を押され排斥されたチャニングの芯の強さ、凛々しさ、終盤で明らかになる彼女が法廷で嘘を吐いた理由が素晴らしい。 少年時代に犯した罪によりその後一生罪の意識に囚われ続け、妻子も持たぬまま老境にさしかかった現在のヘンリーと、愚かでひたむきな少年時代の彼との落差が深く静かに胸を打つ。 人の心の深奥に分け入り、その複雑さの一端を紐解く本書もまた広義のミステリーだと思う。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
物語は一老人、ヘンリーの学生時代の回想という形で進む。ヘンリー学ぶ田舎校に赴任してきた美人教師チャニング。妻子もちの同僚教師リードとただならぬ恋に陥る2人だが… 次第に事件の真相が明らかになってくるが、ストーリー上、事件自体はさほど重要ではなく、特別な趣向もない。深い余韻を放つ回想と、フラッシュバックのような強烈なシーンの回顧、ストーリーの流れ自体を楽しむ本。心の奥底にしまい込んだ真実に人はどう対峙するのか。なかなか読み応えが、ある。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
なんというか、詩的というか映画的というか、読んでいると映像が目の前に浮かんでくるような美しい文章です。現在と過去が入り交じった形で描かれているせいで、時間の感覚がなくなってきて、昔の話を聞いているのではなく、読んでいる私自身もその当時にタイムスリップしたような感じがします。最後まで読んでよかったなあ、と思いましたよ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
老弁護士が少年時代を回想するという形で語られます。 ある日、少年の住む町に一人の若く魅力的な女性教師がやってきます。やがて彼女は、妻子のある同僚と不倫の関係になります。姦通罪のある頃のこと、それだけでも、十分スキャンダラスですが、純粋さ、正義、率直さ、憧憬を追い求める少年がこの二人にのめりこむことによって、終息するはずだった不倫が、思いがけない事件に発展してしまいます。 見事なプロットの構成により、読者には最後まで“事件”の顛末は語られません。―いったいどういうことなのか、本当にそうなのだろうか―必然的に読む側は先へ先へと読み進めることになります。そして最後に、ひとつひとつの断片が定位置にはめ込まれます。これは単なる犯人探しのミステリーではありません。人のなせる、悲しい物語なのだと思います。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
1920年代,アメリカ東部のケープコッド.伝統と重んじ,しきたりを守るこの町の名門校に,若く美しい美術教師が赴任してくる.校長の息子である少年は,彼女の美しさに魅了される.やがて,彼女は学校の英語教師と密やかに愛し合う.呪縛から逃れたいと願う少年の一途な思いが,男を寄る辺ない未来へと駆り立てる.妻と子を捨て,彼女と新たに生きる決意.あまりにも大きな犠牲に,彼女は男と決別することを選ぶが,その矢先,事件が起きる.ピューリタニズムが支配する旧い町で,不倫には縛り首が相当と,住人たちの容赦ない証言が続く.原書を読むと,鴻巣友季子の翻訳が古典的な香り高い名訳であることに気づく. | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
MWA長編賞受賞作ということでミステリーを期待して読んだが、かなり趣きの異なった作品だった。英文学の古典を読む思いだった。こういうタッチが好き嫌いに別れると思うが、私は嫌いではなかったが、すらすらとは読めず時間がかかった。恐らくアメリカ人なら興味深く読める所が、理解できずに冗漫に感じたり、人物の心理描写が不自然に思えたりしたせいだろうと思う。全然違う話だが、松本清張の「天城越え」を思い出した。老人が子供の頃遭遇した事件の思い出を叙情的に辿っていくという方法が類似していたせいだろうが、日本人の私には清張の方がピンとくるものがあった。父の象徴としてチャタム校は描かれており、父を乗り越え自由になりたいと願う息子が必死にもがく内に起きてしまった過去の事件を軸に、全編を通し、主人公の今は亡き父への悔悟の念と眼差しの優しさが心に残る作品となっている。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
趣を異にする推理小説というよりは、文学作品として読むにふさわしい。全編を通してせまってくるトーンの陰鬱さは、過酷なまでの自然を描いて有名な、あの『嵐が丘』を彷彿とさせる作品です。本編の中にも、女性教師とその同僚との恋を、ヒースクリフとキャサリンに例えた場面がでてきます。ニューイングランドの田舎、チャタム。保守的な色合いが濃いこの小さな村に、緋色の服をまとった女性教師が降り立つ場面から物語が始まる。やがて彼女は、妻子ある同僚との“邪悪な恋”へと導かれ、舞台となるチャタム校や大勢の人々を巻き込み、“黒池の事件”の唯一の罪人へと転落していく。突如、黒池の淵で起こる惨劇。十五歳の少年が池の底で目にしたものは?そしてその後の彼女の運命は?数十年を経て、今では老人と成り果てた少年の語り口により、忌まわしい過去、そして事件の真相が徐々に明らかにされていく。度々登場する“黒池”の不気味な描写が少年の心情とあいまって、物語に不吉さをそえている。スリルを味わう推理小説やサスペンスを求める読者には、残念ながらお勧めできません。ちなみに私は、クックの作品を読むのはこれが初めてですが、すっかりはまってしまいました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ステレオタイプの話なのだが、ぐいぐい引き込まれる。読後しばし余韻にひたる馥郁たる香りがあった。鴻巣友季子さんの仕事は賞賛に値する。名訳だ。原文の詩情に直接ふれる事はできないが、クックの文章を少しは理解した気がした。 過去の出来事を振り返るというのは、その出来事が衝撃的であればあるほど封印を解くという忌まわしい作業が伴うので、真相に近づくにつれ鼓動がはやくなってくる。だが、クックは抑えた筆勢で静かにそして丹念に物語を綴ってゆく。ラストでも、よくあるように同時進行のカットバックを使ったりせず、真正面から事の真相に近づいてゆく。ああ、こういう書き方もあるんだな、と思った。小説の醍醐味を味わった。文庫で、こんなに素晴らしい作品を読めるとは幸せなことで!ある。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
この人の作品は、遅ればせながら初めて読みました。地面に近い部分で淀んだ空気が漂っている感じです。嫌いではありません。作者の他の作品も読んでみたいです。 ただ、全編通して、「この〇〇は、後に××となって来るのである。」といったような書き方が、とても鼻につきました。この言い回しがあまりにしつこく、逆にしらけてしまうのです。前半は「それで?!それで?!」と先を知りたい気分にさせられましたが・・・。 独特の空気は、特筆ものかもしれません。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
トマス・H・クックの作品は過失に満ちている。本書も例外ではなく、「チャタム校事件」にかかわった人々は道徳心に満ち、良心に苛まれ、古き良きアメリカの道徳を背負って生きていこうとする。しかし、起こってしまった犯罪は誰かが背負わなければならない。著者は緻密な構成とノンフィクションを手がけて養った裁判の心理戦を追うことで、一人の人間がそれをかぶる経緯を淡白な文章で負いつづける。そこで私たちは、犯罪というものはけして一人の加害者が、一人の被害者に向けて作られるものでないことを知る。クックの作品は全て共通している。腕は新作ごとにあがっているが、あとはお好みで、というような感じで内容は似たり寄ったりのものであることが多い。これも、彼があるひとつのものを追いつづけており、読者もこの一つのものが欲しいために彼の著書を読みつづけるのではないだろうか。 | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!