■スポンサードリンク


ハーモニー



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

ハーモニーの評価: 4.15/5点 レビュー 253件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.15pt


■スポンサードリンク


Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全253件 221~240 12/13ページ
No.33:
(5pt)

無くしたもの探す物語

読むのは2度目。
1度目にはSFなどの意匠に目を奪われて気づかなかったのですが、実はシンプルな物語。
レイモンド・チャンドラーに代表されるような、無くしたもの探す物語。
見つけるのが目的とはいえ、見つけることがハッピーエンドには往々にしてならない。

人の意識の問題は常に物語につきまとう。
精神とは何か、人と神との関係は繰り返し用いられる。勿論未だに解決しないし、これからも解決しないからこそ魅力的なのだろう。

オーグ(拡現)の使い方は数十年以内に本当に実装されそうだ。
実装されている内容や生活様式はつきつめると人類はこうなるというリアリティを感じる。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.32:
(4pt)

虐殺器官の続編。そのスピード感にわくわくします。

1974年に生まれ2009年に夭折した伊藤計劃による長編小説第2作である。
第一作の「虐殺器官」(この題名は疑問があるのですが)も十分、そのプロットの壮大さに驚いたものですが、この「ハーモニー」は「虐殺器官」によって国家の中で暴動が吹き荒れた世界のその後の「平和」な世界の物語です。
 人類の多くは大人になると体内に自分の健康状態を認識・診断し、疾患を予防し体調をチェックする装置WatchMeを埋めこめられる社会に住んでいます。お互いに労わりあり、自死などは忌むべきものと思われる社会です。
 そんな共同体意識が強い世界に生きる女子学生3人がこの物語の主人公であり、語り手もその中の一人です。
 彼女らは思春期の中にあり、まだWatchMeを埋めこまれていないのですが、世の中の息の詰まる有様に、自らの生命を断つことで反抗し、存在を示そうと思っています。
 そんな彼女たちの13年後の世界が第二部として現れ、世の中を震撼させる事件を追う主人公の前に現れるのは・・・・。
 虐殺器官と同様の思考方法で作られた小説であり、その速度も似ています。
 XMLのような文体を模した、まるでプログラムのコードのような文章を使用していますが、非常に読みやすく論理的な文体です。
 P.K.Dickのヴァリスが神学になってしまったのに、伊藤計画の「ハーモニー」は抒情的かつ活劇的なものにできあがっています。良品です。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.31:
(3pt)

十数年の放課後

伊藤さんの、オリジナル長編が、
待望の文庫化され、個人的に大事に丁寧に読みました。

「『生命主義』という世界観」、
「ほぼ完璧に統率された社会」
という設定は、個人的におもしろかったです。

随所記されている、htmlのタグというのも人を選びますが、
文章のみの表現の中、非常に挑戦的だと思います。
意外に、↑が重要だったりします。

ですが、主要人物3人が女子高生という過去の設定が肌に合わず、
「過去に縛られた、十数年の放課後」というのが、正直な感想です。

虐殺器官が、あまりにもおもしろかったので、
期待しすぎたのかなと今では思います。

以上、
熱狂的な伊藤ファンの感想でした。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.30:
(5pt)

みんなが平和に暮らせる世界

21世紀後半に起きた大災禍は人類に滅亡を感じさせた。旧来の政府が弱体化した代わりに、人々は生府という共同体を作り、個人の情報をすべてオープンにして危険を事前に回避し、また、個人の身体を共同体の資産として管理することが常識的となった。
 だから、自らの体を傷つけるような行為は常識的ではない。人々はWatchMeという恒常的健康管理システムを導入し、異常には瞬時に対応することにより、人類から病気や苦痛という単語はほぼ駆逐された。その代償として、酒やたばこ、カフェインなどの嗜好品も健康に悪影響を与えるものとして遠ざけられているのだが…。

 そんな世界において、霧慧トァンは友人の御冷ミァハの誘いに乗り、一緒に自殺をしようとする。自分の身体を自分のものとして扱えない世界に対して、決意表明をするためだ。しかし、トァンの自殺は失敗し、生き残ってしまう。
 それから十数年後、螺旋監察官という世界の生命権を保護する立場に就いたトァンだったが、少女時代の影響はこっそり残り、どこか世界の在り方に対して息苦しさを感じていた。そんなとき、世界中に点在する数千人もの人々が、何の前触れもなく、一斉に自殺するという事件が起こる。その事件の影には、死んだはずの御冷ミァハの影が見え隠れしていた。

 この本の結末にもたらされる世界を、ユートピアと呼ぶのか無と呼ぶのか、あるいは地獄と呼ぶのかは読者により異なるだろう。何故マークアップ言語風の記述になっているかも、その時に分かる。
 世界の最も効率の良い管理方法は、人々の間に差異を認めないこと、そしてそれを人々が受けられている状態なのだろう。しかし実際には、個人個人で価値観は異なるし、文化圏でもそれは異なるので、世界中の対立の根源としてなくなることはない。
 作中世界は、一度滅びを目前に見た人類の世界だ。だから、人々の争いの根源に対する恐怖感は、現代に生きる人々より現実感がある。ゆえにそれをなくそうなどという冒涜的な試みが現実に計画・実行されてしまうわけだ。

 みんなが平和に暮らせる世界をユートピアと呼ぶならば、この物語が導く世界はまさにそれであろう。しかし、人間が暮らすという意味は何かと考えてみれば、その答えによっては、作中世界はユートピアとまったく正反対の世界に見えるに違いない。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.29:
(2pt)

申し訳ないですが…

着目点が自分が古い人間だからかもしれないのですけど、「よくある」ことのように思えて…。
心象風景の表現がたりなかったのでしょうか、それとも…。
とにかく私にとっては「SF]ではなかったです。
ファンの人すみません。
このお話の中では、読書をダイビングして泳ぐことができませんでした…。
 お亡くなりになった方の作品なのに、申し訳ないです。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.28:
(5pt)

必読の書

沢山の方がレビューを書かれているので、内容については
触れませんが、小手先(単に文章が上手いとか、アイデアだ
けが良い)の小説ではなく、文字どおりの大作です。

 一生のうちに、このような感動を与えてくれる本に何冊出
会えるのか・・・、というレベルです。

 SFが苦手な人には、どうしてもとっつき難いでしょうが、
最初の数十頁を読んで世界観・用語を理解できれば、作品の
世界にどっぷり浸ることになります。

 架空の(当然ですが)未来でありながら、圧倒的にリアル
世界が広がっており、文字の、本の、力というのを感じます。

 このような本は本当に数少ないです、必読です。

 著者の早世が本当に惜しまれます。存命であれば、この先
どんな作品を生み出したのかと思うと・・・。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.27:
(5pt)

SFをツールにした哲学小説

楽しめたか楽しめなかったかというと、非常に楽しめました。作品序盤に感じるいろんな違和感がエピローグで見事に結実する作品構造は「なるほど!」と。前作に引き続きミステリとしても優秀な出来。
ただし前作にあったような近未来SFっぽさはかなり控えられているように思えました。

ところで、物語作品には、ある一つの主張をするための表現と、とにかく触れる人間を楽しませることに主眼が置かれた表現とがあるといえます(もちろん娯楽と主張とが共存している作品もありますが、ここで言いたいのはあくまで目的としてどちらを重視するかということ)。
そして本作は明らかに前者にあたります。作品によっては強いメッセージを発しすぎるあまりに、逆に偏見を助長したり、娯楽性を損ねたりするものもありますが、本作に関してはそのような心配は不要です。娯楽性よりメッセージ性を優先してはいるものの、そのテーマの解に迫る思考過程そのものがエンターテイメント的面白さを持っているので、非常に好奇心を刺激されるものがあります。

本作を貫くテーマは、タイトル通り「ハーモニー」です。最も「調和」した社会とは何なのか?という問いを突き詰める中で、「人間とは何なのか?」という新たなテーマが首をもたげてくるという巧みな展開。そして、究極の「ハーモニー」とは何なのか? それを作者が論理的に追求した結果、導かれる衝撃的なラスト。グイグイと引き込まれるものがあります。

ただ惜しむらくは、極めて演繹的で論理的な展開を見せるこの作者において、この作品世界を支配する「生命主義」という価値観(世界設定)だけがどうしても浮いてしまっていると思える点です。この「生命主義」という価値観だけが、本作の主張をするための舞台装置として作為的に設定されたとしか思えないのです。
その他の展開が極めて論理的であるがゆえに、全体を貫くこの世界設定だけが最後まで違和感を残した、というのが個人的な感想です。

しかしこれはあくまで個人的な感想であって、小説を読む上で「設定は設定」と思えるのならこの点は全く気にならないと思いますし、そもそも違和感を感じる僕のほうがおかしい可能性も否定出来ません。知的興奮を得たいと思う方には強くおすすめできると思います。
また、世界観が直接共通しているわけではありませんのでどちらから読んでも内容の理解に支障はありませんが、個人的には前作を読んでからこちらを読むことを勧めます。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.26:
(3pt)

とても とても とても・・・

早世された筆者の遺作になる完結長編。衝撃的なデビュー作をさらに超える評価を得た作品です。
このレビューにも様々な賛辞が連なり、この作家の早世が如何に惜しまれたものか今更に感じ入りますが、
日本のSF文壇がこれに至り、こうした創造性を発揮できたことが、やはり喜ばしいことなのだろうと思います。
 では本作を成さしめたリソース(資源)とは、なんだろうかと考えてみました。一例ですが、参考になればと思います。
 言葉と物―人文科学の考古学
 自分が神を殺したのだと告示するのは、最後の人間なのではあるまいか・・・
 彼は神を殺したのだから、自らの有限性の責任をとらねばならぬのは、彼自身であろう・・・
 しかし彼が話し思考し、実存するのは神の死の中においてであるから、その虐殺そのものも死ぬことを余儀なくされる・・・
 新しい神々、同じ神々が、既に未来の大洋をふくらませている。人間は消滅しようとしているのだ・・・
 神の死以上に−−というよりはむしろ、その死の澪の中でその死との深い相関関係において−−
 ニーチェの思考が告示するもの、それは、その虐殺者の終焉である・・・           ミシェル・フーコー『言葉と物』より抜粋
 フーコー (河出文庫)          
本作は、引用される思想家・作家等に豊かで、且つまたその的を射ています。筆者も巻末で語っていますが、小説はロジック(論理)から入るということで、
キャラクターやプロット構成よりも、やや理屈っぽい印象の文体によって構築された世界観が魅力の中心です。これは初作より独自性があって更に顕著です。
そして、そこにこそ筆者の捉える現代的な諸課題が見えることが、ある種の驚異とこの評価を齎しているのだと思います。本作は、後期フーコーの批判する
【生-権力】にモチーフを採っています。紡がれるユートピア(ディストピア)は、古典的な主題で、トマス・モア、H・G ・ウェルズなどに連なる系譜上に
表現されたものです。この系譜を貫くのはアイロニー(皮肉/批判)で、当然、本作も巧みなアイロニーとして読ませてくれます。終段の構成が縮こまっており
残念ですが、主人公ミャハ(最後の人間)の冷涼な終焉に、刹那の心を奪われます。そして人類は・・・エピローグに記されてゆきます。
 タイムマシン (角川文庫) 
暴力表現でグロスアップされた物語の構造(ロジック)は、しかしカフカの描いたそれと変わりません。本当の問題は常にその先なのだと思います。
しかし、それを伝えたくとも伊藤計劃という才気は、もうこの世に在りません。今、賞賛の花を掻き分けて、その意を汲んでみたい気もします。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.25:
(5pt)

健康至上主義、不死願望のはびこる日本への痛烈な批判をこめた傑作

「虐殺器官」が「メタルギア」に強く影響された作品であったことは疑いないが、本作は伊藤計画のオリジナルが開花したすばらしい作品になっている。作品の出だしで女子高生たちの自殺願望と健康至上主義の管理社会への憎悪というありふれたテーマから、人間の欲望、管理社会、自我・意識といった根源的な内容に踏み込んでいく。また、ストーリはミステリタッチになっており、主人公が日本に帰国して友人と再会し、食事中に自殺するところから事件が転がり始め、その謎に迫る展開がとても緊迫感があり読ませる。彼の作品に共通するところは語られる物語の世界観のデティールに対する徹底的なこだわり、そして論理性である。バックボーンがしっかり構築されているので、ストーリが破綻しないのだ。このようなすばらしい作品を病床でがんと戦いながら、作り上げていった作者には頭が下がるし、もう彼の作品が読めないということが残念でならない。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.24:
(5pt)

続編として十分な満足感がある

冒頭は奇抜な名前の女子校生トリオの集団自殺の話から、時代が大きく飛んで戦場を移動中という状況。この展開に最初はついていけない。しかし読み進めていくと、前作「虐殺器官」の後、世界はどうなってしまったのか。そして主人公が追いかけるものは何かという点に引き込まれていく。「続編なんだ」という認識が前作を読んだときの興奮を思い起こしてワクワクした。
 個人意識レベルからの完全管理社会や、それを実現するテクノロジーギミックは、相変わらずリアルさに満ちていて感心させられる。次々と起こる事件は、モニタに表示される映像のように淡々と描写され、それを見ている主人公と自分の目線が同じであるような気がする。これは結構薄ら寒い感じだ。
 何より印象的だったのは、前作のキイとなる現象(というか技術というか)の影響力の大きさである。結局、この連作はその一つのアイデアに基づいている。その現象と個人の存在こそが作家の抱えるテーマだったのだろう。見た目のカジュアルさとは裏腹な、過激な作品だ。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.23:
(5pt)

“真綿で首を絞めるような”現代日本を鋭く批判。

本書の最後の方でミァハの口を通して宣言されているように、本書は1932年に発表されたハクスリーのSF小説の古典すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)の換骨奪胎、もしくはオマージュだと思われます。見掛け上のユートピアに異分子が入り込むことによって、その虚構が暴かれていく。その様を通して現代社会を鋭く批判する。ミァハは、“真綿で首を絞めるような”今の日本に生きることの息苦しさや見えない叫びを代弁しています。

多くのSF小説同様、本書も最初の方は状況説明が多く、決して読みやすいとは言えません。そこでは現代の我々の常識が通用しないため、発想をアジャストするのにやや時間がかかりました。しかし、徐々に話の方向性が見えてきてからはいよいよ面白くなっていき、エンディングへと突き進むスピード感には脱帽させられます。

確かに、日本語でしか読めないのはもったいなく、各国語に訳して世界の人にも読んでほしいと思います。また、リドリー・スコットあたりに映画化してもらい(世界観をどこまで描ききれるかは別として)、その主張を世界に知らしめたい作品です。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.22:
(5pt)

とても感慨深い作品でした

伊藤計劃さん最期の作品「ハーモニー」読み終えました。
舞台は未来と言えど、現在の延長線上の話。
それなのに、非の打ちどころのない現実感です。

人類の科学は自由と便利を求め、常に進歩している。
すべての人の体内に医療監視システムが導入され、病気のない世界と化したユートピア。
その次の段階はもう、科学の臨界点を突破しようとしていた・・・。

幸福とは何か。
人が死なない世界が幸福なのか。
苦痛のない未来を約束されることが自由なのか。

答えを実現させようとして自殺したミァハと、
答えを探し出そうと彼女の影を追うトァン。
二人の女性が人類の最終局面に立ち会う。

何百年後か、実際に人類はこうなってしまうのかなぁと思いながら読んでいました。
今生きていることが幸せなのか。
死ぬことが自由なのか。
このまま人類は進歩を続けていいのだろうか。
そんなことを考えさせられる、とても感慨深い作品でした。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.21:
(5pt)

ゼロ年代の一つの到達点

私の中では「虐殺器官」は正直3に近い4です。

しかし、これは間違いなく5です。
それも、何故か昔読んだアシモフやクラークの名作と同様の
感動・恐ろしさを何年ぶりに感じました。
簡潔的な文章でこれほどの内容とは。
無駄に長編化する現代の作家に対する一つのアンチテーゼでしょうか。

これから読むなら、是非「虐殺器官」を読んだ上で。
焦る必要はない、今後しばらくは(邦洋問わず)これほどの作品は出ないから。

ただ一つの、残念な点は、作者がミァハの言う
「あちらの世界」に既に旅立たれてしまったことだけ。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.20:
(5pt)

どの要素を採り上げても一級品!

暗黒の『虐殺器官』の時代の後に来た、染みの無い、
真っ白な世界を装った時代を舞台としたディストピア小説。

『虐殺器官』の主人公のように「感情感覚を統御され」ている、
というギミックに頼ることなく、真正面から生命と死、
人間の自意識といった難問に挑んでいる。
(無論、答えが出ているわけではない)

PC画面や翻訳小説など様々な叙述形式を嵌め込んだ
スタイリッシュな文体・用語、
前作にも増して緻密に組み立てられた世界観、
様々なイズムを並列してみせる社会観、
どの要素を採り上げても一級品である。

閉じ急ぎすぎのラストに批判もあろうが、他の要素が補って余りある。
この小説家の進化のステップを、今後一緒に踏んで行けぬことが
返す返す残念でならない。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.19:
(5pt)

21世紀のユートピア/ディストピア小説

今年の2月に文庫本で出た『虐殺器官』に続き、こちらの文庫版で読んだ。どちらもものの見事な傑作。この文庫化で著者の作品に初めて触れた読者はかなり多いと思うので、私情と思い込みの混じりすぎた倒錯的な表現になるが、2010年の最も優れたエンターテイメント小説がこの2冊であり、最も注目された作家の一人が著者である、などとも言えるのではないか。
人間とは何か。特に現代の社会に生きる人間とは何か。この問いをめぐりここまで思考を刺激してくれる作品にめぐり合える喜びは、滅多にない。前著では国民・国家の存立を言葉の次元で揺るがす「虐殺の言語(文法)」、本書では国家・国民の身体を公的に保護・管理するウルトラ医療社会の「生命主義」と、なんとも壮大な理論を中核に置きつつ、だが緻密な記述の妙によって説得力高く架空のありえそうな世界を描き出しながら、人間存在の意味を探求する。しかも、そのさなかで生きる「ぼく」や「わたし」の宿命を、読者の感情移入を巧みに誘い出しつつ提示していくのだ。面白すぎるではないか。
文庫のカバーだが、『虐殺』は真っ黒、本書は真っ白。ごく素朴に考えれば、それぞれ「死」と「生」をあらわしているだろうか。もっとも、どちらの作品も、人間の生死の極限と交点を示唆深く書いている。いずれにせよ、明らかに対をなす書物。繰り返しの再読に耐える本だから、是非二つ並べて本棚に。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.18:
(5pt)

伊藤さんの描く近未来はリアル過ぎて、背筋が

私見ですが「虐殺器官」において具体的に描写されることのなかった言語学の生成文法を究極的に発展させたものと思われる「虐殺の文法」の機構の一旦が本書において詳らかにされているように読みまして肝を冷やし続けています。言語中枢が解明された暁には、伊藤さんが3篇の長篇で描かれた世界へ段階的に以降していくのだろうと信じてやみません。その是非は本書の「宣言」を突きつけられるように返答に困るものですが。科学の発展が幸せとイコールにならない世知辛い21世紀だとつくづく思います。今のところ資本主義と民主主義が政体として謳歌していますが、歴史というものは諸行無常なのだから、現状の逼塞状況を打破するこれまでにない新たな政体が生み出されるだろうけれど、それはいったいどういう機構になるのか・・・何度考えても全く想像もつかなかったのですが、伊藤さんの文章を通じて、その予見を目の当たりにし、さらに想像を絶する思いに翻弄されています。略歴を見て同い年であったことを知りました。もっともっと伊藤さんから世界の理を教えてもらいたかった。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.17:
(3pt)

残念・・・

「虐殺器官」のあまりの完成度の高さに度肝を抜かれ、無条件で本書を手にしたが…。「虐殺」を10とすれば本書は残念ながら6〜7の出来。さすがの著者の天才もこの重すぎるテーマを持て余したか、やはり病魔が集中力を奪ったのか。特にクライマックスにおいてミァハにせよヌァザにせよ敵役のカリスマの描き方がやや陳腐に過ぎ、ヒロインの「復讐」も一本調子で深みを欠いた。「虐殺」と同様、全面的に改稿する機会があればとんでもない傑作になった可能性もあるが…。只残念。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.16:
(5pt)

最大の弱点にして、いとおしい「意識」

人類が地球上で生態系の頂点に君臨した要因は何か?体力的には虚弱な人類が文明を築き繁栄しているのは、まさしく巨大な大脳がつかさどる意識による選択の結果によるものだと思います。もう古典とさえいえる映画マトリックス [Blu-ray]でサーバにつないだ脳に送り込んだユートピアが実現されました。本書で提示されているひとつのユートピアの選択肢のうちの意識なきハーモナイズされた世界はまさにこのような世界になるのでしょう。ちなみにマトリックスが作ったユートピアの住人は選択のない世界に絶望し、そのユートピアは失敗に終わりました。

他の動物に比べ明らかに優れているが、弱点にもなりうる人間の「意識による選択」は、唯一他者と差別化できる優位点であり、弱点があるので排除するというのは、自分の持っている唯一の強みを封印して生きるようなものだと思います。私自身は強みを含んだ弱点を封印して生きる人生より、時として自滅への道を踏み出すかもしれないが自分の持つ強みを活かして生きていくことを選ぶように思います。それがたとえ全体の解に反するとしても個の意思は人間の生の原動力になるのだと思います。作中でも、それぞれがそれぞれの立場で意識による選択を行った末の行動であることも偶然ではないと思います。

作品は必ずしも個人の価値観にふさわしい結末が用意されているとは限りませんが、だからといって作者の提示した問題提起や作品の価値が損なわれるものではないと思います。あなたが誰であれ、一読に値する作品であることは間違いありませんので、ぜひ手にとってみて下さい。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.15:
(5pt)

私たちに「意識による選択」は不要なのか必要なのか?

人類が地球上で生態系の頂点に君臨した要因は何か?体力的には虚弱な人類が文明を築き繁栄しているのは、まさしく巨大な大脳がつかさどる意識による選択の結果によるものだと思います。もう古典とさえいえるマトリックス [Blu-ray]でサーバにつないだ脳に送り込んだユートピアが実現されました。本書で提示されているひとつのユートピアの選択肢のうちの意識なきハーモナイズされた世界はまさにこのような世界になるのでしょう。ちなみに「マトリックス」の作ったユートピアの住人は選択のない世界に絶望しマトリックスの作ったユートピアは失敗に終わりました。

他の動物に比べ明らかに優れているが、弱点にもなりうる人間の「意識による選択」は、唯一他者と差別化できる優位点であり、弱点があるので排除するというのは、自分の持っている唯一の強みを封印して生きるようなものだと思います。私自身は強みを含んだ弱点を封印して生きる人生より、時として自滅への道を踏み出すかもしれないが自分の持つ強みを活かして生きていくことを選ぶように思います。それがたとえ全体の解に反するとしても個の意思は人間の生の原動力になるのだと思います。作中でも、それぞれがそれぞれの立場で意識による選択を行った末の行動であることも偶然ではないと思います。

作品は必ずしも読者それぞれの価値観にふさわしい普遍的な結末が用意されているとは限りませんが、だからといって作者の提示した問題提起や作品の価値が損なわれるものではないと思います。あなたが誰であれ、一読に値する作品であることは間違いありませんので、ぜひ手にとってみて下さい。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.14:
(5pt)

ユートピア&ディストピア

素晴らしい作品だった。
世界観がまず繊細で、ほんの少しだけ匂わせるように「虐殺器官」とリンクしているのも、読者としては好ましかった。
SF的な面白さも、素晴らしい。満点を付けたいくらいだ。
中心人物となるトァンとミァハも魅力的で、キャラクター的にも読んでいて楽しい。
特に、そのキャラクターが独特の……ユートピアとディストピアが表裏となりないまぜになったような世界観(あるいはSF的設定群)と絡み合うようにして話が展開していく様は、芸術的でさえあったと思う。
虐殺器官と同じように、途中で様々な哲学的問いかけがあり、読者を悩ませる。
そして科学的(主に生理学、進化論)アプローチでその問いかけへのある種の回答案を提示してあるのも、いちいちものすごく興味深く、関心をひかれる。
この作品を執筆中、作者が大病を患い死の淵にあったことを想えば、そのあたりはさらに興味深く読めるだろう。
まず、読んで損はない作品だと思う。

だが、唯一気になったのは、ラスト最終局面での展開であった。
(他のレビュワーの方が散々書いている通り)展開がキッチリと纏まり、読者の方々の胸の内にピッタリと収まるような、誰しもが納得できるような最後では到底なかったように思う。
もっとも残念なのは、詳細はネタバレになるのて勿論語らないが、問題のラストが物語全体を通してのエッセンスとも言うべき核心的な部分をボヤけたものにしてしまっていることだ。
そこをキッチリ書ききれていれば、この作品は不朽の名作として語られることになっただろう。と思われるだけに、残念である。

ラストに対してかなり辛辣な批判をしたが、それでも★5をつけたのは、
ラスト以外のところが十分面白く、★6を付けたいほど素晴らしい作品だったからだ。
早世した故人を偲んで★5を付けるとかではなく、僕はこの作品に★4を付けたいとは思えなかった。
ラストに問題(あえて「多少の問題がある」などと言葉を濁すことはしないでおこう)はあるにしても、凡百のSF小説より頭何個分も飛びぬけて面白い。
そういった作品であった。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!