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上高地の切り裂きジャック



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上高地の切り裂きジャックの評価: 6.50/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.50pt

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No.1:
(7pt)

御手洗の超人ぶりと石岡の情けなさにちょっとついていけない感が

本作は「上高地の切り裂きジャック」と「山手の幽霊」の2つの中編で構成された作品集。

まず「上高地の切り裂きジャック」は2000年の頃に石岡が解き明かした事件の話。大学を卒業し、みなとみらいにある法律事務所に就職した犬坊里美は石岡の許を訪れる。「最後のディナー」事件で知り合った磯子署の蓮見刑事が御手洗に相談したい事件があるというのだ。
それは上高地の山中で美人女優細川みどりが変死体で発見されたというものだった。死体の状況は死因は絞殺だが、腹が一文字にぱっくり裂かれ、腎臓や膀胱、子宮が持ち去られ、代わりに石が詰められていたという陰惨なものだった。しかも死亡推定時刻は細川が上高地へ帰った次の日の午後だというなんとも奇怪な状況だった。
犯人が子宮を持ち帰った目的は?なぜ細川は上高地へとんぼ返りしたのか?
真相を探る石岡はしかし、迷走のまま、スウェーデンに留学中の御手洗に助けを求める。

次の「山手の幽霊」はまだ御手洗が日本にいた1990年の頃の話。
頭を抱え込む丹下刑事が御手洗の許を訪れてきた。山手のトンネルの上にある家は呪われた家と云われており、最初の家主は急性の癌で病死し、その後、購入した家主大岡修平は娘が難病で病死して、そのあおりで妻が自殺し、大岡も自失のまま、仕事を辞め、飲んでくれて街を徘徊する廃人同様の生活を送っていた。三番目の家主正木が住み始めた時、地下のシェルターに餓死した大岡の死体が見つかったのだ。
さらに御手洗は電車の運転手を夫に持つ老婦人から、山手のトンネルで起きた奇怪な出来事の解明を依頼される。それはトンネルを通った時にいきなり前面の窓に女性の死体が貼りついたというのだ。電車を停めて探したが遺体らしきものは見当たらなく、しかもそれはその夫婦が亡くした幼児の成長した姿だという。

この二つの怪奇譚に御手洗の推理が冴える。
「上高地の~」はスピンオフ作品「ハリウッド~」の創作中に生まれた副産物のような感じだ(あれほどグロテスクではないが)。題名の「切り裂きジャック」から連想される残酷なイメージとは違って事件は単発、しかもどちらかといえば死亡推定時刻に関する話が多く、陰惨さの味わいは薄れている。
またこの頃、島田氏が力を入れていた冤罪事件への取り組みの色合いもあり、ここでは容疑者とされていた牧原信吾の無罪をどうにか証明しようという方向でストーリーは進む。これは金川一事件というのがモチーフになっているらしい。
しかし『最後のディナー』や『Pの密室』の頃に比べるとだいぶん石岡も以前のペースを取り戻しているようだが、犬坊里美の携帯電話の留守電組の話を聞いてショックを受ける件は50を間近に控えた男の台詞か?と思った。蓮見刑事に嫉妬するところもちょっとなぁと思うのだが。

翻って「山手の幽霊」は、『~挨拶』や『~ダンス』の頃を髣髴とさせる御手洗の活躍ぶりが堪能できた。関係のないと思われた二つの事件がまたも大胆な設定で結びつく。これこそ御手洗ファンが読みたかった作品だろう。
しかし両作とも共通するのは御手洗潔の超人的な推理力。いきなり真相が見えているように動き回る様、人に命令を下す様は確かに面白いが、超人的すぎて、少々辟易した。これと比べるとやはり私は吉敷シリーズの方が地味ながらも堅実で面白いのである。

オレも歳を取ったかなぁ。

Tetchy
WHOKS60S

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