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(短編集)

解体諸因



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【この小説が収録されている参考書籍】
解体諸因 (講談社ノベルス)
解体諸因 (講談社文庫)

解体諸因の評価: 7.11/10点 レビュー 9件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.11pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全7件 1~7 1/1ページ
No.7:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ほんのりエロいバラバラ殺人短編集

なぜ死体はバラバラにされたかという様々な謎をロジックで解き明かす書解体事件を扱った短編集で、現在、奇抜な設定下の中でのロジックを得意とする異彩の本格ミステリ作家、西澤保彦のデビュー作である。

まず「解体迅速」は後の西澤作品で探偵役を務める匠千暁が早くもお目見えする。
この作品、状況説明の段階で早や犯人は解ったものの、バラバラにした動機が不明だった。その説明は、まあ納得の行くといった程度だったが、真犯人が第1被害者を殺す理由に思わず唸ってしまった。話の前後から交通事故が絡むと思ったが、いやなかなかに鋭い。
こういうさりげない伏線が西澤作品の特徴のようで、それは今後の作品でも同種の趣向が見られる。

続く「解体信条」は後にフルネームと匠千暁の学生時代の先輩である事が判明する高校教師の辺見祐輔が主人公を務める。
これも真相解明前に犯人とどういう風に被害者が毒を飲んだのかまで解ったが、やはりバラバラにした理由までは解らなかった。死体をバラバラにする理由となると、どうも持ち運びの利便性に囚われがちである。まあこれこそ作者が期待するミスリードなのだけれども。

収録作品中、最も魅力的な謎であるのがこの「解体昇降」だろう。
マンションの8階から1階に降りるわずか16秒の間に乗った女性が全裸のバラバラ死体で発見されるという魔術的な殺人事件が起こったエレベーターはどの階にも停止することなく、まっすぐ1階に降り、しかも8階では住民が入れ違いに被害者がエレベーターに乗り込む様子を見ている。死体は首と左手足が切断されていた。あまりにも不可解な事件に捜査陣は値を上げた。堪らず平塚刑事は入院中の上司中越警部に救いを求めるのだった。
次の「解体譲渡」では再び辺見祐輔が登場する。
辺見祐輔はその日お見合いの席にいた。相手の藤岡佳子は垢抜けた美女であったが、どこかであった記憶がある。しかしそれがどこなのか思いつかなかった。傍らでは付添いの中年男性が先週の土曜日に起きたバラバラ死体遺棄事件について語っている。藤岡佳子はおもむろに口を開くと意外なことを行った。彼女は祐輔が毎週土曜日にエロ本を立ち読みしに通っている本屋でいつも見かけていた名も知らぬ美人だったのだ。愕然とし、自己嫌悪に陥る祐輔だったが、彼女の口から意外な話を聞かされる。それは先週土曜日にある妙齢の婦人がそこの本屋で101冊ものエロ本を買い占めていったというのだった。その婦人の目的が何なのか気になってしょうがないという。祐輔と佳子は見合いそっちのけでこの奇妙な出来事について推理を巡らす。
奇しくも(?)2作とも男の煩悩、エロ関係が関与する話となった。前者はこの短編集中、随一の不可能状況で読者の知的好奇心を誘う謎でありながら、最も下らない解決が示される、駄作だかなんだか判らない奇妙な1編。
後者は101冊ものエロ本を買う婦人の謎とこれまた『五十円玉二十枚の謎』を髣髴とさせる面白い謎だが、これもかなり無理がある推理である。この2作は奇抜な謎のために辻褄を合わせるような回答を持ってきたという不自然さが目立ち、好きではない。

「解体守護」では匠千暁のパートナーであるタカチが登場する。
この作品が本短編中ではベスト。事件の真相の約6割くらいは見えていたが、あのおこわが絶妙なアクセントになっている。
今までの短編から作者の手法という物を解っていただけに、この小道具の意味が解らなかったことが悔しいが、清々しい悔しさだ。もう一方の挿話に関しては念頭に置いていたのだが、私の予想を上回る使い方で、これも気持ちのいい敗北感。泡坂氏独特の論理に通じる真相でもある。なんとも云い様の無い奇妙な事件の発端から最後に心温まる家族の話に落ち着くのが私の好み。

「解体出途」では匠千暁は叔母の沢田直子に呼び出されて、娘の結婚を妨害してくれと頼まれる。
今までの短編でそれぞれ探偵役をしていた匠千暁と中越警部が邂逅する作品。だが本作での探偵役は事件に巻き込まれた匠千暁が務め、中越は最初の現場捜査のみの登場で、専ら匠の相手は部下の平塚刑事となっている。
さて物語はなんとも苦笑したくなる性的欲求不満熟女の話で昼のメロドラマのような展開にちょっと引けたが、事件は今までの中で一番難しかった。犯人までは特定できた物の、これにも二重の犯行が成されており、なかなか簡単にはいかない内容だ。こういう三文ポルノ風な話が作者の趣味なのかも。

「解体肖像」では「解体信条」で祐輔に謎を提示した小菅亜紀子・麻紀子の双子の姉妹が今度は匠千暁に謎を提供する。
収録作品中、この短編の謎が最も簡単だろう。私もこの作品の謎はすぐに解った。シンプルな謎で、恐らくおおよその読者も真相は見破れるだろう。
しかし本作で訴えたかったのは傍観者も共犯者であるという重いテーマだ。ある事がきっかけで死者が出てしまったことを知りつつも何もアクションを起こさない貴方達も同罪なんだという作者の熱いメッセージが込められている。

本書の約4割を占める中編「解体照応」は推理劇のシナリオという形式を取っており、180ページという中編ながらも読者にブレイクタイムを促すような軽い読み物になっている。
「解体昇降」で出てきた中越警部と平塚刑事と思われる二人にベテランで狂言回し的な存在のチョウさんという仇名の部長刑事が全般を通しての登場人物。
“読者への挑戦状”が挟まれた唯一の作品。しかしこれは解らなかった。首が切られている上に、髪が全て短く切られているというのは、それぞれの名前についてアナグラム的なパズル趣向があるのかと別の方面での推理をしていたが、全然違った。
明かされる犯人とその動機は、突拍子もないものと思われるが、推理劇という趣向がこの突拍子のなさを逆にフィクションであるが故の、ミステリゲームという意味合いを持たせており、個人的には許容できる内容だ。

以上、7編の短編と1編の戯曲の体裁をした中編だが、
さてこの感想の冒頭で述べたように各短編は「解体」という二文字をキーワードにして、何かを切り取られた事件を扱っているが、非常にヴァラエティに富んだ内容で緩急を持たせ、同類事件の話の繰り返しにならないよう、作者が入念に配慮しているのが解る。
文字通りバラバラ殺人事件から、ぬいぐるみの腕切断や街頭ポスターの首切抜きといった小事まで扱っており、殺人事件から日常の謎までと作者の器用さが十分に出ている短編集だ。

そしてそれらは昔TVで放映されていた「私だけが知っている」という推理ドラマ趣向のクイズ番組のように、「解体照応」以外は“読者への挑戦状”が付されていないものの、作品に提示された情報で読者が真相を解き明かす事が出来る、非常にフェアな作りになっている。かくいう私も、1つ1つの短編について作者が提示する謎に挑戦し、全ては解き明かせないにしろ、犯人やトリックを断片的に解き明かす事が出来、ミステリを読む愉悦に浸る事ができた。
さて本作で登場したタックこと匠千暁、中越警部に辺見祐輔らの探偵役のイントロダクションとしては格好の作品だと思う。彼らが今後どのような活躍をするのか、非常に楽しみになった。

しかし匠千暁の初登場シーンは笑ってしまった。彼の部屋には膨大な書籍で占められているとのこと。これは明智小五郎を筆頭とする日本の推理小説の探偵役の系譜である。乱歩没後数十年経っても、名探偵の特徴は変わらないのだなぁと苦笑した次第である。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.6:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

バラバラのようでバラバラでない。

西澤保彦氏のデビュー作であり、匠千暁らキャラクターが初登場の作品である。時系列で言うと次作以降は学生時代に戻るようです(本作は社会人であったり、大学生であったり)。次作以降が楽しみです。

9つから成る話はどれもバラバラ殺人に関するもの。よくこんなに思いつくなぁ、デビュー作でこんなにもバラバラ殺人ばかり書かなくても、と驚きを隠せません。特に最初の物語の真相については驚嘆しました。合理的理由を明確にしてくれます。
ともあれ、1つ1つの話を伏線にしてしまうあたりが凄まじいです。その伏線が面白いんですが、それが「解体諸因」の一部分に過ぎないとは。

陰気な私は地球を回さない
L1K3MG03
No.5:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

バラバラ殺人ばかりを集めた短編集

題名の通り、殺人犯が死体を解体する諸々の理由を扱った短編集。犯人が死体バラバラにするエピソードが出てくると、大抵は怨恨とか犯行場所から持ち去ろうとしたとか隠そうとしたとかという話になるものだが、それ以外にも色々な理由があるのだということを教えてくれる作品。最後の章で前の章までの話がひとつにまとまる、という形で終わるのだが、そこでも死体をバラバラにした意外な必要性が明かされる。

ヘッポコ屋敷嬢
XG82ACXM
No.4:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

解体諸因の感想

西澤保彦氏のデビュー作にして、匠千暁シリーズ一作目。
全九話の連作短編集です。
一見、解体にこだわっただけで大した繋がりのない、短編集のように思えます。
登場人物も、第一因でAとB、第二因でBとCが知り合い、第三因でAとCが出会うが、AとCは互いがBと面識があることを知らない、という程度の繋がりです。
しかし、第八因の作中作を踏まえた第九因でそれまでの短編が繋がってきます。
そこが面白いのですが、間が空いてしまうと忘れてしまうので、あまり間をおかず読むことをおすすめします。

全話「解体○○」という題で、○○はその話の一応キーワードになっています。
人体をメインに、とにかく解体しまくります!
解体するには当然時間・労力等々リスクがあります。
それでもやるからにはどんな論理的根拠があるのか!にとことんこだわります。
現実にはそんな理由では解体どころか殺害もしないだろうとか、トリックに無理があるとか、難点はあります。
現実には論理的根拠などなく、狂気の沙汰によるものかもしれません。
でも、極端に言ってしまうと、そんなことはどうでもいいとこの本に限っては思えます。
そもそも作中の事件は、作中の時系列でも過去のものです。
安楽椅子探偵自身、事件の真相に興味はありません。
事実は狂気の沙汰でも、その解体に論理的根拠を求めてみて、解が出ればいいのです。
安楽椅子探偵が推理した結果、別の真相が見えたとしても、一度警察が出した結論を覆す気は全くありません。
遺体は当然解体されているので猟奇的なはずなのですが、まるでパズルのピースのようで凄惨さは感じません。
この解体と論理的根拠へのこだわりっぷりは、一歩間違えればギャグです。
また、話そのものも面白いのですが、事件には関係ない諸所の会話や思想も面白いです。
個人的にはなぜ自己投影できない成人向け雑誌を男性は見るのかについての答えが特に面白いです。

本書の執筆に至る発端があらすじで書かれていますが、それがまた面白いです。
首なし死体さえ転がしておけばミステリなんて簡単に書けるという、ミステリに対する不当評価。
首なし死体がひとつだと安易ならば、いっそ無闇やたらにゴロゴロ出してやろう!
この反発から発想し、執筆してしまうのはすごいと思います。
また、若かりし頃は肢体切断といったグロテスクに対する嫌悪感云々とあり、この人がいずれ謝肉祭を執筆したのかと思うと面白いです。

西澤保彦氏の作品の中では『七回死んだ男』には及ばないし、楽しみ方が純粋とはいえないかもしれませんが、面白い一冊です。
時系列的には過去になるようですが、匠千暁シリーズを読んでいきたいと思います。

あんみつ
QVSFG7MB
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

解体諸因の感想

西澤保彦氏のデビュー作。
バラバラ殺人事件における何故バラバラにされたかの理由を、事件と全く関係のない第三者視点から安楽椅子探偵よろしく、論理的に解明していくという一風変わった短篇集です。
実はこの短編集「連作」になっているところがミソですので、通勤途中とかにとぎれとぎれ読むのではなく、休みの日などに一気読みする事をお薦めします。
終盤において、序盤の記憶が曖昧になっているようなら、作品全体としての面白味は恐らく半減すると思います。


▼以下、ネタバレ感想

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梁山泊
MTNH2G0O
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

解体諸因の感想

なぜ死体は解体されたのか?徹底的なまでに論理的な作品。推理が真実かどうかはともかく、論理的には辻褄があっている。短編集だが、最終的にそれぞれが絡んでくる点も良い。

BOY
IM7XWAPW
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

解体諸因の感想

バラバラ殺人てんこ盛りの短編集。
ロジカルに何故バラバラにするか?の謎解きが楽しめた。

Ariroba78
5M53WTS6

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