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魔術師(イリュージョニスト)



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魔術師(イリュージョニスト)の評価: 7.75/10点 レビュー 4件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.75pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1~4 1/1ページ
No.4:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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米版『怪人二十面相』

リンカーン・ライムシリーズ第5作の本書はシリーズの中でも1,2を争う傑作だという下馬評が書評家のみならずネット読書家からも漏れ聞えて来ていたのでものすごい期待値が高い状態で読み始めた。

今回の敵は題名どおり“魔術師”。英語ではイリュージョニストと呼ばれているが、日本では手品師というのが一般的だろう。
しかし早変わり、クロースアップマジック、読心術、腹話術、動物のトリックにピッキング、さらには脱出マジックなどの細かで繊細な物から大掛かりな物まで全てをこなすオールマイティのマジシャンだ。

とにかく今までと違うのは犯人である魔術師ことマレリックが殺害の途中に警官たちに囲まれてしまうところだ。それにもかかわらず逮捕の寸前まで行きながらも逃れてしまうのだ。この顛末が非常にスリリング。
手錠を掛けようとすればフラッシュコットンを使って閃光で目眩ましをして逃れたり、腹話術や目線などで気を逸らせたりと、マジックの手法を巧みに利用して捕まらないのだ。さらには手錠を掛けても脱出トリックで解錠技術に長けたマレリックにしてみれば一瞬に解除出来てしまうからすぐに逃れてしまう。まさに最強の殺人犯なのだ。
毎回その作品でスゴイ!と唸らされる連続殺人鬼を生み出すディーヴァーだが、今回も今までの作品の更に上に行く犯人を送り出してきた。いやはやホントこの作家のアイデアの豊富さには畏れ入る。

原題は“The Vanished Man”。「消された男」だ。つまり見事に他人になりきることでその存在自体を消し去る男のことを云っている。まさに変幻自在の殺人鬼「魔術師」に相応しいタイトルだ。

この魔術師に絡めてカルト集団「愛国同盟」の指導者アンドリュー・コンスタブルの手下によるチャールズ・グレイディ検事補の暗殺計画が並行して語られる。

この2つの事件はやがて複雑に絡み合うのだが、とにかく二転三転するストーリー展開に読者は何が真意なのか、そして誰が魔術師なのか疑心暗鬼に陥ってしまう。

しかしよくよく考えると今回もディーヴァーが創案した魔術師は実は日本のミステリ読者ならば誰もが一度は読んだことがある古典的な名シリーズを思い浮かべるだろう。そう、江戸川乱歩の『怪人二十面相』シリーズだ。
しかし西洋人であるディーヴァーならばやはりここは同じく変装の名人怪盗ルパンがモチーフであるのだろう。つまりディーヴァーは古くからある物語を現代のマジシャンの最新技術とライムの鑑識技術と装置とを使うことで新たなエンタテインメントを紡ぎだしているのだ。
まさに古き器に新しき酒を注いで現代に新たな本格ミステリを生み出すこのディーヴァーの着想の冴えにはただただ感服するばかりだ。

今までのシリーズと違うところはライムが何度も魔術師と対面するところだ。その都度ライムは推理を開陳し、戦いを挑む。しかし魔術師はその名の如く逮捕されるたびに誤導や手錠解錠、偽造死などマジックの技法を使って巧みに脱出を繰り返す。

さらに興味深かったのは魔術師が以前火を使ったイリュージョンの失敗で重度の火傷を負い、かつ妻を失った過去を持つことだ。それは捜査で事故に遭い、四肢麻痺に陥ったライムと似た者同士だということだ。
しかし一方は犯罪に走り、一方は正義の道に戻ったこの二人の対照が物語の陰と陽を象徴しており、なかなか考えさせられた。

また今回も他の作品からのカメオ出演があった。パーカー・キンケイド。『悪魔の涙』で主役を務めた文書検査士だ。この辺の演出はディーヴァーの他作品への売り上げを上げるためのコマーシャルなのだろうか。

しかしこれまでの作品の中で最高のどんでん返し度を誇ると著者が豪語した割には読めてしまったというのが正直な感想だ。つまり読者として作者の手筋が見えてきたのだろう。
ちょっと過剰にサーヴィスしすぎた感が無きにしも非ずだ。この辺は哀しいかな、シリーズのマンネリ化を防ぐが故に生じた弊害だろう。
逆にもっと意外なところで不意打ちを食らいたいものだ。そう、作者の企みに満ちた微笑が行間から見えるような不意打ちを。

個人的にはライムシリーズを映像化したような『CSI』シリーズや『ミッション:インポッシブル』などのドラマや映画に触れている小ネタにニヤリとしてしまった。これら実在のドラマや映画に触れるということは逆に作者自身も対抗意識を燃やしているという表れなのだろう。
期待値が高かったせいもあって、10ツ星献上というほどのサプライズは感じなかったが、サプライズよりも今回は魔術師とライムら捜査側の騙し合いの攻防が非常にスリリングで面白かった。
まだまだネタは尽きないディーヴァー。次も読むのが愉しみだ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.3:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

魔術師(イリュージョニスト)の感想

奇術師、手品師、それらを犯人に設定した作品は作者の意気込みをとても感じます。
総じてマジシャンと呼ばれる職業は相手を騙す仕掛けのプロ。単純な事件の犯行トリックでは作品が物足りなくなる為です。読者の期待に応えねばなりません。
その点、本書は満たしており、お腹いっぱいになるぐらいの展開と魅力に溢れた作品でした。

本作の魔術師(イリュージョニスト)という異名をつけられた犯人は第一の犯行から人間消失トリックを用いて現場から消えます。対する探偵役である犯罪学者のライムは現場で見つかった微細証拠物件による科学捜査を用いてトリックを暴き犯人を追い詰めていきます。消失トリックは速攻で仕掛けが明かされていく贅沢仕様であり、引き続き魔術師の連続犯行に対する探偵と警察捜査の攻防が繰り返していく様子は1作目を彷彿させて非常に楽しい作品でした。
アドバイザーのイリュージョニストのカーラの助言において、マジックにおける相手を欺く騙しの数々を解説していくのも見物です。エフェクトとメソッドの違い。物理トリック、心理トリック、見せるもの・見せないもの、行動を欺く誤導については作品のキモとなっています。

本書で少し気になる点としては、『犯人を追い詰める』事に趣が置かれた作品であると感じます。
理由は犯人がかなり神出鬼没であり、どうやって侵入したの?と疑問を感じる点が多々ある為です。侵入模様は特に描かず、犯人が現れた!捕まえろ!逃げられた!という展開が出来すぎておりちょっと興が覚めます。とは言え、前向きに捉えればこの犯人を追い詰める緊張感が本書は続くので、先が気になるジェットコースターミステリとしてみれば大満足でして、些細なことは気にしないでいいや。という気分にもさせられました。

シリーズ作品として、1作目の登場人物を把握した後なら、いきなり本書5作目を読んでも問題ありません。
犯人との対決や、ヒロインのサックスの物語としても楽しめました。
上下巻物でボリュームある為、毎回読むのを躊躇するのですが、読めば面白いのは相変わらず。また時間が取れたら続きを読もうと思います。

egut
T4OQ1KM0
No.2:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

魔術師の感想

リンカーン・ライムシリーズの作品です。
タイトルからも想像出来るように、マジックのトリックを駆使して犯罪を犯していく犯人が登場します。


▼以下、ネタバレ感想

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松千代
5ZZMYCZT
No.1:5人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

魔術師の感想

イリュージョンとは単なる物理的トリックではない。イリュージョニストは観客心理を学び観客を騙す為の
トリックを考案する。観客の目だけでなく心も欺こうとする。演技の目的は25セント硬貨を消して観客を笑わせる事ではない。現実とは正反対の物を見せ、信じさせ、それが現実であることを欠片も疑わせないこと。絶対に忘れてはいけないことは誤導・・・ミスディレクションがイリュージョンの核となすものである事。
捜査協力のマジシャン修行中のカーラの言葉。相手は変相、早変わり、脱出と変幻自在の魔術師。リンカーン・ライムのチームはこの難敵にどう立ち向かうのか。興味は深々。この作ではライムは徹底した現場からの微細物証拠採集を科学的分析で解明して犯人を特定していく。解明された事実をリストにして思考を重ねる。天才的な閃きによる推理ではない。いわば地道な捜査だ。だが、相手はイリュージョンの達人。ミスディレクションにより翻弄される捜査陣。犯人の本当の狙いは?
ストーリーにはとても興味を惹かれるが読み終えてしばし黙考。プロローグを派手にして読者を惹きつける狙いは解かるがあれこれと盛り込みすぎなのもどんなものか。かえって捜査陣の眼をひきつける結果となるだろう。結局本当の狙いとは何か、そこの攻防が描かれただけの話しとなっている。その割にはあれこれ横道に逸れる印象で魔術師とライムの頭脳戦を期待したがそれすらも薄い感じ。
エフェクトとメソッド。プロットそのものが歪んでいるようなそんな印象の物語。
長編なのでひと月ほどかかって読み終えたが、ちょっと残念な感想となった。ヒューマンなサイドストーリーもイマイチの感じだ。

ニコラス刑事
25MT9OHA

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