スティール・キス
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初版刊行(参考)
種別
長編
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評判
スティール・キスの評価:
7.25/10点 レビュー 4件。 B ランク
スティール・キスの総合評価:
7.35/10点 レビュー 26件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1〜4 1/1ページ
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リンカーン・ライムシリーズ12作目の本書ではリンカーンはNY市警を辞め、大学で鑑識技術の講義を行っている。
従っていつものようにアメリア・サックスとコンビを組んでの捜査とはならず、それぞれがそれぞれの事件を追っている。
アメリア・サックスが追っているのは未詳40号と付けられた、異様に背の高く、痩せた風貌の殺人容疑者だ。しかしリンカーンの手助けを借りれないアメリアは遅々として進まないNY市警の鑑識結果にイライラしながら、それまでの捜査で培ってきた洞察力で容疑者を追っていく。
一方リンカーンはそのアメリアが偶然出くわした容疑者を尾行中に入ったショッピングセンターで起きたエスカレーターの事故の調査を行っている。上りのエスカレーターの上り口の乗降板が開き、そこに落ち込んだ店の従業員がモーターに挟まれて圧死した原因を突き止め、残された家族のために賠償金を請求するための証拠集めを強引に休暇を取らせた相棒メル・クーパーと講義の熱心な聴講生である、同じく四肢麻痺の生涯を持つ、元疫学研究者のジュリエット・アーチャーと共に当たる。
この2つの捜査(調査)はやがて1つへと繋がっていくのだが、これまで読んだリンカーン・ライムシリーズとは異なり、非常にじっくりと時間をかけて進むのだ。
今まで彼らが相手にしてきた犯人は次から次へと犯罪を、殺人を繰り返し、事件を未然に防ぐために証拠類と奮闘するリンカーンとの秒刻みの戦いが醍醐味だったが、アメリアが捜査する未詳40号は、彼の犯罪が発覚した被害者トッド・ウィリアムズ以降の殺人がなかなか起きないでいる。
またリンカーンサイドも自室内に実物大のエスカレーターのモックアップを設けてまで、事故を起こしたメーカーのエスカレーターの調査を行うが、彼らが想定する誤作動の原因探しは試行錯誤の連続で、なかなか捗々しく進まない。
これほどじれったく長く続くこの2人の捜査も珍しい。
この並行する2人の捜査は300ページを過ぎたところでようやく交わる。アメリアの追う未詳40号とライムの調べるエスカレーターの事故が繋がる。
エスカレーターの事故は内蔵されたスマートコントローラーを意図的に遠隔操作した者の仕業だった。その人物こそが未詳40号だった。
いつもながらディーヴァーは色んなテーマを扱い、我々の生活と彼の対峙する敵の犯罪が実に近いところで繋がっていることを知らしめてくれるが、本書ではさらにその距離が縮まっている。
今回の敵、未詳40号が殺人に利用するのは我々の生活を便利する通信技術だ。スマートフォンのアプリで遠隔操作するシステムの穴から潜り込み、誤作動を起こさせて人を殺す、なんとも恐ろしい敵だ。
まずはエスカレーターの乗降板を意図的に開放させ、人を落としてモーターに巻き込んで殺害。
次に家庭のガスコンロを意図的にガス漏れさせ、ガスが室内に充満したところで点火し、住民を丸焼きに。
そして大型テーブルソーを誤作動させて腕をスパッと切るかと見せかけて電子レンジの出力を何倍にも上げておいて温めていた飲み物とマグカップの中に含まれている水分を水蒸気爆発させる。
さらには自動車の制御システムも遠隔操作して猛スピードで逆走させ、衝突事故を起こさせて渋滞を招き、アメリアの追跡を交わす。
生活が発展し、便利になるとそれを悪用する輩も出てくる。スマートフォンのアプリで色んなことができ、色んなものとリンクすることが可能になったが、ウィルスを侵入させて壊したり、スパイウェアを侵入させて個人情報を搾取したりと枚挙にいとまがない。
しかしディーヴァーは過去に『ソウル・コレクター』で他人の情報を奪って成りすまして犯行を行う犯人を描いていたが、今回は便利さを利用して人を殺すという誰もが被害に遭いそうな犯行方法を生み出した。
何とも恐ろしい犯行を、犯罪者を生み出したものである。あまりにリアルすぎて背筋が寒くなる。
更には街ですれ違って自分を罵倒した弁護士の素性を調べ上げ、アパートのセキュリティシステムに侵入して、幼児誘拐まがいの悪戯を仕掛けることもできる。
また恋人との情事を盗み聞きしていた隣人を防犯カメラで捉え、自分たちのプライベートを汚したことで殺害する。
題名の「スティール・キス」とはこれら便利な物たちの誘惑を比喩した“鋼鉄のキス”という未詳40号の比喩に由来する。
また一方でアメリアも刑務所に服役していた元警官で恋人だったニック・カレッリが再び彼女の前に姿を現す事態に出くわす。彼は強盗事件に関わった容疑で逮捕され、服役していたが、実は冤罪でそれは彼の弟のやった事件で彼は弟の身代わりになったというのだった。しかしその弟も今は亡く、彼はやり直すために当時の事件の資料を調べ、潔白を証明したいとサックスに協力を求める。
そしてサックスもかつてと変わらぬニックに心を傾けていく。
またロナルド・プラスキーはプライベートでヤクの売人と接触し、独自の調査を行っている。
そんな複数のエピソードを交え、今回も大なり小なりのどんでん返しを見せてくれた
ディーヴァーだが、ある程度パターン化してきた感は否めない。
行く末が逆に判っているからこそヒヤヒヤさせられることも無くなってきた。そう、免疫がついてきてしまった。
あといささかあざとい仕掛けも感じた。
そんな風に思っていたら、なんと今回の結末は意外にもリンカーンとアメリアにとっても苦いものとなる。
人生全てが順調ではなく、万全ではない。生きていれば一度や二度、挫折もし、苦汁を舐めさせられることもある。
しかしそれを乗り越えて生きてこそ、人はまた成長し、そしていつかは笑って話せる過去へと消化できるよう、心が鍛えられるのだ。
転んでもただでは起きない者もいる。
今回色々な悪が描かれてきた。
巨大企業のビジネス優先主義によって製品の欠陥を隠匿しようとした悪。
その犠牲になり、復讐のために次々と人を殺してきた悪。
自らの犯行を正当化し、かつての友人や恋人を騙してまで大金をせしめようとした悪。
それぞれの悪が円環のように巡り、そして殺しの連鎖を導く。人が利己的にならなくなった時に犯罪は無くなるのだろうか。
スティール・キス。
それは便利さの裏側に潜む甘美な罠。
もう我々はスマートフォンなしでは生活できなくなってきている。我々の便利な生活が危険と隣り合わせであることをまざまざと痛感させられた。便利と危険は比例することを肝に銘じよう。
▼以下、ネタバレ感想