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骨の城



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【この小説が収録されている参考書籍】
骨の城 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

骨の城の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

やめられない、止まらない

スケルトン探偵ギデオン・オリヴァーシリーズも本作でなんと13作目である。
ここまで終始一貫して骨をテーマにしたミステリを展開しているエルキンズ。前作の『水底の骨』、前々作の『骨の島』ではそれぞれ辛口の評価を下したが、今回はもうかつてのシリーズの最盛期を思わせる、骨の検証と事件とがガッチリ結びついた好編となっている。

そう、上に述べたようにシリーズは13作目なのである。13作目にして、さらに骨に関して新しい見識・見解が本作で繰り広げられるのにまず脱帽。
今回、浜辺に埋められていた骨の正体について、その身体的特徴から死者の生前の職業を云い当てるのだが、これが見事。
よく考えると、詳らかになった事実を予め用意した設定に当て嵌めているようにも読め、他にこれらの身体的特徴を持つ職業って本当にないのかしらと疑問に思ってしまうが、それはそれ、野暮というものだろう。ここは素直にスケルトン探偵が一枚一枚覆われたヴェールを剥ぐが如く、展開していく推理に身を委ねるのが一番だろう。

そしてさらに現在において起きた殺人の解剖にギデオンが立ち会うことになるのだが、そこで開陳される解剖学における知識についても新たに開眼させられる思いがした。脳の損傷におけるクー損傷とコントルクー損傷について。なんと脳みそは止まっている状態で打撃を与えられた場合と、頭が動いた状態で静止した物に頭をぶつけた場合では、脳に受ける損傷が違うのだという。前者をクー損傷といい、これは打撃を受けた箇所が脳は損傷するのに対し、後者のコントルクー損傷とは、例えば落下して地面に頭を打ち付けるなどという事象では、脳は打撃を受けた箇所の反対側を損傷するというのだ。
さらに骨に関して云えば、クー損傷を起こす事象では骨は打撃を受けた箇所が陥没骨折を起こすのに対し、コントルクー損傷では、線状骨折となり罅が入るのだという。
私もミステリを長年読んできたが、こういった事実は初めて知った。いやはやまだまだ知らぬ事が多いことだ。特にこの辺の叙述は日本のミステリ作家にとっても大いに興味を引く箇所ではないだろうか。

そして今回嬉しいことに、250ページの辺りで犯人が解ってしまった。正確に云えば、浜辺に埋められていた骨の正体が誰かと解った時点で、そこから推測して犯人が解った次第。
今までこのシリーズを読んだ者ならば、このエルキンズという作家の創作手法から、犯人を推測できるのは想像に難くない。ここで“推理”と云わず、“推測”というのは、まさしくその通りだからだ。

21世紀の現在、日本を除いて、作中に散りばめられた事実から真実を推理する真の“推理小説”はもはや書かれていない。いや、正確にはフランスのポール・アルテなど、本格ミステリマニアから作家になった人たちがいるものの、それらはかなりの少数派だ。
これら少数派の作家以外の手によるミステリでは、読者のページを捲る手を牽引するために、新たに事件を発生させる、サスペンス型、昔で云うところの通俗推理小説がほとんどである。そして犯人は自身の蛇足による自滅によるところが大きく、動機などは最後の辺りで犯人の独白や人生背景などで語られることがほとんどである。
哀しいかな、このスケルトン探偵シリーズも現れた骨からギデオン・オリヴァーが遺体がどんな人物なのかを推理するところに主眼があり、犯人当てはそのイベントを彩る味付けとなっている。

しかし、この作者の良いところはあくまでフェアなこと。
全く関係のないと思われたエピソード―主にプロローグ―がきちんと事件に関連しており、そしてそれが最後のサプライズに寄与している。この作家のミステリマインドが他の作家と違い、昔の本格ミステリのテイストを微かながらに残していることが、シリーズの人気を長く保っている秘密なのではないかと私は思っている。特に今回はさりげなく犯人を推理するヒントが散りばめられており、犯人当てを趣向として愉しめるようになっていると思う。

そしてシリーズの長寿化はそれだけが理由ではない。やはりキャラクターの魅力もその大きな要因だ。
今回も読後感のなんと爽やかな事。出てくるキャラクター全てが気持ちよい。小説のキャラクターを印象付けるため、なかなかいそうでいない人物像を創作するのが、作家の手腕の見せ所だが、このエルキンズという作家は、そのハードルを楽々クリアする上に、しかも全てが善人で、本を閉じる頃には別れを名残惜しむくらい、キャラクターが立ち上がってきている。
コンソーシアム主催者のコズロフや、博物館長のマデリン、特殊能力犬訓練士のヒックスなどもいいが、何といっても今回は墜ちた英雄として描かれるマイク・クラッパー巡査部長とその部下ロブ巡査の造形が見事。この二人のその後について、絶対シリーズで描いてほしい。本作で終えるには勿体無い好漢たちである。

いささか疑問に残るのは邦題である。今回はシリー諸島のセント・メアリーズ島にあるスターキャッスルなる古城がコンソーシアムの主催者コズロフの持ち家であり、確かにこの城がギデオンらの常宿ともなっているわけだが、『骨の城』となるほど、骨には密接に関わっておらず、むしろ出てくる骨は島の浜辺からである。ここは『浜辺の骨』ぐらいが適当ではないか。確かにそれだとインパクトにかけるかも知れぬが。

そして原題の“Unnatural Selection”普通に訳せば「不自然な選択」となるが辞書でこの対義語を調べると”Natural Selection”で「自然淘汰」という意味らしい。この言意で考えれば原題の意味は「不自然淘汰」、つまり「殺人」ということになるわけだ。
作中、自然動物に関する保護運動がしばしば語られ、これが本作の底を流れるテーマともなっており、またメインではないものの、自然界における淘汰についても触れられており、この原題が実に知性とウィットに満ちたものであることが判る。

ともあれ、いやあ、やはりこのシリーズ、やめられない。そんな気にさせてくれる好シリーズだ。


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