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だれがコマドリを殺したのか?



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【この小説が収録されている参考書籍】
だれがコマドリを殺したのか? (創元推理文庫)

だれがコマドリを殺したのか?の評価: 7.67/10点 レビュー 3件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.67pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

なぜ長らく絶版だったのが不思議な傑作

1960年に刊行されて以来、長らく絶版となっていたフィルポッツのまさに幻の作品がこの2015年に新訳で刊行されるとは一体誰が想像していただろうか?
ちなみに1960年刊行の同書をAmazonで調べてみるとなんと7,700円という価格が付いているのには驚いた。

幻の名作というのは実際のところ眉唾物であることが多い。名作ならば版を重ね、現代にまで読み継がれているべきものだからだ。それが初版から55年も経ってようやく新訳で再販されるとは、刊行当時さほど話題に上らずに淘汰されてしまったからだと考えるのが普通だろう。
しかし皮肉なことにその稀少価値ゆえに古書収集家の間で高値で取引され、今にその名を留める結果になったのだろう。つまり内容ではなく本そのものに価値がある作品なのだ、と読む前は思っており、さほど期待せずに読んだのだが、これが意外と、いや実に面白かったのである。

いやはや読み始めと読み終わりの抱く印象がこれほどガラリと変わる作品も珍しい。

まず開巻直後は若き医師ノートン・ペラムと教会の大執事の箱入り娘ダイアナ・コートライトの衝動的なまでの初恋と結婚までの道のりが描かれる。恋は盲目というが魂の結び付きと感じた2人は周囲の反対を押し切って結婚に向けて駆け抜けていく。ダイアナは準男爵のベンジャミン・パースハウス卿からプロポーズを受け、裕福な暮らしが約束されているにも関わらず、好きになったら止まらないとばかりにノートンと結ばれるのだ。

しかしそんな衝動的な結婚生活も長くは続かない。
安定を約束された生活よりも深い愛を選んだダイアナはしかし世間知らずのお嬢様で最初は自炊や洗濯をする生活に新鮮さを感じていたが、器用に思われた自分が意外と家事が苦手だと知るに至り、やがてノートンが将来資産家の伯父から受け取るであろう財産が毎日の質素な生活の中での光明となっていく。

しかしノートンは伯父の反対を押し切った結婚だった故に財産贈与を約束されなくなっていたことを妻に話せずにいた。その事実を自ら伯父を訪問することで知ったダイアナは嘘をついていた夫を深く憎悪するのだ。

愛情は深ければ深いほど、裏切りを感じた時に抱く憎悪はそれにも増して深くなっていくのだ。ダイアナはいつしかノートンに復讐心を抱くようになる。

そこから物語は急変する。
もはやぎくしゃくとした夫婦生活を送るダイアナとノートンの日々が描かれ、家庭に収まることを是としないようになったダイアナは女優を目指すようになるのだが、いきなり体調が悪くなっていく。そこからベンジャミン卿と結婚した姉マイラにも不慮の事故で子供が産めない身体になり、身体に障害を持ってしまう。

そしてダイアナは夫ノートンに毒を盛られていると姉夫婦に告げると、その予言どおりに亡くなってしまう。
そして彼女の死後1年半後、夫が妻殺しで逮捕され、友人たちがノートンの無実の証明のために事件の調査に乗り込む。
いわばミステリの根幹とも云える殺人事件が起きるのが約330ページ中200ページの辺りだ。

若き美しき男女の恋物語が一転してボタンの掛け違いでお互いを恨むようになった夫婦の憎悪の話、そして謎の妻の死とその罪を着せられる誠実な夫の無実を証明する話と、本書は紹介分にあるようにまさに万華鏡のような変幻自在な物語の展開を見せる。

そしてこのどうしようもなく上手く行かなくなった若夫婦の道程から妻の死に至るまでの物語と妻が死んでから死に立ち会った姉夫婦ベンジャミン・パースハウス卿の物語が、最後の最後で想像を超える真相へと繋がるのだ。

正直この真相には戦慄した。

冒頭にもこれほど印象が変わる話も珍しいと書いたが、それは物語の色合いのみならず、登場人物像もまたそうだ。

まずは何と云ってもダイアナだ。思慮浅く、人生経験も薄いと思われていた彼女だったが読み進むにつれて男女の愛に対する洞察の深さや心の移り変わりに思わずのめり込んでいくのには驚いた。

例えば当初家事もしたことのない世間知らずのお嬢様として、しかも夫ノートンが得るであろう伯父の多額の財産を生活の励みしていた、打算合っての愛ゆえに結婚した浅薄な女性と思われたが、伯父の反感を買って財産を相続できない夫の嘘を知ると、財産を得ることが適わないことを恨むのではなく、正直に事実を打ち明けない夫の態度に憎悪を抱くところに、ノートンとの恋愛が一時の烈情ではなく、貧しくも2人で生きていく覚悟あっての事だと気付かされて、見方が変わってしまった。

そして自らが信じた道を邁進する決意の強さこそが実は彼女の本性だと云えよう。
衝動的な結婚も自らの判断の正しさを信じたゆえの結果であり、また結婚後も優しいノートンを引っ張るが如く、生活の舵を取る。夫が渋るのであれば自らが伯父に逢いに行く行動力。しかしその行動力がまた自分が万能であることを過信させることにもなり、また復讐と云う負の方向へと突き進む原動力にもなってしまうのだが。

一方翻って世の女性たちは主人公ノートン・ペラムに対してどのような感情を抱くのだろうか?
誰もが振り返る美男子の医師とくれば玉の輿を狙う女性たちの垂涎の的だろう。
しかし一皮剥けば貧しい自分の境遇にコンプレックスを抱き、投資家で資産家の伯父の財産を当てにして自分の将来の安定を約束している、いわば他力本願の男。さらには伯父の同意が得られないことを知るといつまで経ってもその事実を妻に打ち明けず、妻の愛を逃したくないがためにずるずると先延ばしにしている男だ。さらには自分を慕う女性に自らの結婚の話をする無神経さも兼ね備えている。

私は正直顔がいいだけのダメ男だと何度もレッテルを貼ってしまった。
特に嘘をつかれながらもどうにかノートンと暮らし、貧しい生活の中に自分の張り合いを見つけようとする妻の行動力を制御しきれず、もはや妻は自分には目を向けておらず、愛情はとうに消えてしまったと愚痴をこぼす辺りでは、あまりの女心への無知ぶりに呆気に取られたものだ。妻に冤罪を着せられて刑務所暮らしをさせたくなるほど恨まれても仕方のない男だと思う。
つまり優しいだけの男なのだ。

そしてこの作品で最も好意を抱くのはノートンの婚約者として登場した彼の伯父の秘書を務めるネリー・ウォレンダーではないか。
ノートンを慕いながらも、もはや結婚目前まできながら、ノートンの口から他の女性との結婚を打ち明けられる。しかしそれでも気丈に振舞い、ノートンの幸せを祝福する懐の深さを見せ、更には自分との結婚が破棄になることで財産を渡さないと断じた彼の伯父の説得まで試みる女性なのだ。
社会的に自立し、物事をバランスよく見る人物なのだが、正直現代でもこんなにいい女性はいないだろう。
しかしこのような善人ほど辛い目に遭うのだ。ダイアナの死後1年半後にようやく心の傷が癒えたノートンと晴れて結ばれた結婚式の日に妻殺しの容疑で伴侶が逮捕されてしまうのだから。
う~ん、なんて意地が悪いのだ、フィルポッツは。

さてこの題名だが、実は我々団塊の世代の子供たちの世代では実は翻訳された“コマドリ”よりも英単語の“Cock Robin”の方に親しみがある。それはアニメ『パタリロ』の主題歌『クックロビン音頭』のフレーズ「だれが殺したクックロビン」で耳に焼き付いているからだ。
作者の魔夜峰央氏はミステリ好きとして有名だが、さすがに本作から取ったフレーズではなく、マザーグースの一節から取られており、この題名も同様なのだ。
しかしあまりに日本人にとってお馴染みなフレーズであるため、もしかしたらこの作品が語源では?と勘違いする読者もいるのかもしれないがウェブで調べると出典は萩尾望都の作品に由来するとのことだったのであしからず。

しかしたった330ページの分量ながら、男女の愛憎劇にとんでもないサプライズまで仕掛けられている本書が50年以上も絶版だったのは何とも不思議だ。
正直高を括っていたが、今でも本書に描かれる男女の機微、運命の皮肉、そして最後に感じられる女性の恐ろしさは現代でも十分読ませる内容だ。
今こうやって新訳で読める事の幸せを改めて嬉しく思う。この機会を逃すと次に手に入るのはまた50年後かもしれないので、ぜひとも多くの人に読まれ、版を重ねて絶版とならないようになることを強く祈るばかりだ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

古き良き時代の香り

探偵小説の古典的名作「赤毛のレドメイン家」で有名なイーデン・フィルポッツの1924年の作品。長く絶版になっていたのが、創元推理文庫の新訳で登場した。
若き医師ノートンは、保養地で出会った美人姉妹の妹ダイアナ(あだ名はコマドリ)に一目惚れし、結婚にこぎつけた。自分の秘書と結婚しろという、大金持ちの伯父の要望を裏切ることになったノートンは、伯父の遺産を受け取れなくなってしまう。それでも、愛を貫いたノートンには幸せな未来が訪れるはずだったのだが・・・。
はっきり言って、現代のミステリー愛好家からすれば致命的な欠陥があるトリックだが、1924年という時代を考えれば、かなりの高評価だったのもうなずける。古き良き時代の香りを感じさせる人物描写、風景描写、社会心理描写を楽しむ読み方なら十分に読み応えがあると言える。

iisan
927253Y1
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

だれがコマドリを殺したのか?の感想

ミステリの黎明期に触れ、先人の知恵が今のミステリ界にどれほど影響を与えているかを知るために古典を好んで読む人には外せない一冊です。今時のミステリで街を歩き聞き込みだけで調べを進めるタイプの探偵はいざ知らず、鑑識課員が
主人公になっているような形式のミステリでは完全にアウトなトリックです。しかし、この本は1924年の作品です。あの当時これを読んだ人はどれほどの衝撃を受けたことでしょう。物語構成の巧みさ、人物造形と心理を語る丁寧な文章。
すっかり物語の世界に入り込んでしまいます。恋に落ちた二人の心情は読んでいるものには何の違和感もなく納得させられます。熱々の恋愛関係から結婚となって二人で暮らす実生活からの些細な亀裂の種。二人の生活と周りの人物たちとの
係わりや距離と影響を及ぼす人たち。しっかりと丁寧に描かれていますのでこの部分だけでも読んでいて楽しめます。ニコル・ハートは私立探偵で主人公の親友でもある。親友の窮地を救うために事件を調べ始めるが、途中で奇想天外な
仮説を思いつく。まさにあり得ない仮説であるが、それ以外には説明がつかないともいえるのが告発の手紙の存在である。告発の手紙はどのような意味があるのか、それがこのミステリの芯になるところで良く考えられたところでもあると思います。いろんな本でこのトリックのバリエーションを読んだものですが1924年であればさぞ驚いたことでしょう。読みやすい新訳で出ているので古典好きの人にはお勧めしたい作品です。だれがコマドリを殺したのか?さて、真相は・・・。

ニコラス刑事
25MT9OHA

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