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Zの悲劇



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Zの悲劇の評価: 5.86/10点 レビュー 7件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.86pt

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(7pt)

異色のZ

まず本作は悲劇四部作において、変奏曲ともいうべき作品になるだろう。それは前2作から打って変わって物語はサム警視の娘ペイシェンスの一人称叙述で語られることから明らかだろう。
そしてレーンは冒頭に出てきてからは成りを潜め、終始ペイシェンスとサムが物語の中心となって事件の捜査に当る模様が語られ、読みながらしばし「これはドルリー・レーンシリーズなのか?」と首を傾げる事があった。物語もちょうど中間に差し掛かってようやくレーンが事件に乗り出す。
しかし今回のレーンは前作『Yの悲劇』から10年経った設定であり、70を超える老境に入っており、そのため身体的にも衰えが著しく、前2作に比べると精彩を欠き、快刀乱麻の如き、もしくは全知全能の神の如き活躍を見せない。

そんな人物配置であるから物語は自然ペイシェンス・サム中心となって語られる。それが故に、この作品では1930年代での女性に対する男性社会の偏見がそこここに見られる。
この時代では女性の社会進出はまだ珍しく、女だてらに殺人現場や容疑者を尋問の場に立会い、自分の意見を開陳するペイシェンスを蔑視する描写がところどころに現れる。事件捜査の中心人物である地方検事ヒュームはペイシェンスには見向きもせず、意見を述べると鼻で笑ったりもし、洞察鋭い意見であっても見直すこともなく、女如きが、と蔑む。
私が並行して読んでいる現代の海外ミステリ、例えばフリーマントルの諸作やエルキンズの諸作で活躍する女性に対する主人公含め男性諸氏の眼差しとは隔世の感がある。

またクイーンは到底レーンが活躍するものだと思っていた読者に対し、このペイシェンスがレーンに匹敵する叡智の持ち主であることを納得させるためにホームズ紛いの推理のお披露目をレーンとの邂逅シーンで設けている。それは初対面でいきなりレーンが回顧録をタイプライターで打っていることを云い当てるのだが、この推理に疑問を感じる。
レーンがペイシェンスの推理を補完するために、老境に達した男が今頃になってタイピングを習得し始めたとなると、自らの功績を書き残しておくためしか考えられぬと述べているが、これはどうだろう?
隆慶一郎氏のように老境に入って作家活動を始めるという人間もいるのではないだろうか?これを以て唯一無二の真実とするには論理としては弱すぎるだろう。それともこの時代はそういう作家はいなかったのだろうか?

で、本作『Zの悲劇』だが、やはり前2作に比べるといささか迫力に欠けるのは巷間の評価とは一致するものの、結末まで読んだ今では、最後怒濤の如くレーンが開陳する弁証法による消去法で瞬く間に容疑者が絞られ、1人の犯人が告発されるあたりはロジックの冴えと霧が晴れていくカタルシスが得られ、個人的には凡百のミステリよりも優れており、楽しめた。

巷間の評価が本作についてかなり低いのは、やはりこのペイシェンスというキャラクターが妙に浮いている感じを受けるのと、前2作に比べ、タイトルに掲げた「Z」の意味がインパクトに欠けるからだろう。

さて次の作品でこの悲劇四部作は終焉を迎える。本作で登場したペイシェンスは更にレーンに関わりを持つのか?そしてどんな結末が待っているのか、楽しみして臨みたい。


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Tetchy
WHOKS60S

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