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償いの報酬



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【この小説が収録されている参考書籍】
償いの報酬 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

償いの報酬の評価: 7.00/10点 レビュー 4件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

スカダーシリーズとしては、ちょっと物足りない感もありますが

年をとったスカダーも魅力的ではあります。
昔話を聞いているというよりも、若かりし頃のスカダーがすぐ目の前にいるような気がして(ここが作者の腕なんでしょうが)
話自体が生き生きとしていて、「今」の話を聞いているようでもありました。

スカダーの魅力は何といっても相手との会話です。
エレインの話題がほんのちょっとだけ出てきましたが、片方のジャンもなかなか妖艶でした。
私が読み落としたのか、どうかはまだハッキリと調べていませんが、若い男の子の話題がなかったような・・・。tjです。
もう一度駆け足で探してみようと思っています。

ももか
3UKDKR1P
No.2:
(8pt)

あの頃のあの女性に思いを馳せて乾杯

マット・スカダーシリーズ17作目の本書はなんと時代は遡って『八百万の死にざま』の後の事件についての話。
幼馴染で犯罪者だったジャック・エラリーの死についてスカダーが調査に乗り出す。マットが禁酒1年を迎えようとする、まだミック・バルーとエレインとの再会もなく、ジャン・キーンがまだ恋人だった頃の時代の昔話だ。

AAの集会で再会した幼馴染ジャック・エラリーの死にマットが彼の助言者の依頼で事件の捜査をするのが本書のあらすじだ。

マットは警察という正義の側の道を歩み、翻ってジャックはしがない小悪党となってたびたび刑務所に入れられては出所することを繰り返していた悪の側の道を歩んできた男だ。

かつての幼馴染がそれぞれ違えた道を歩み、再会する話はこの手のハードボイルド系の話ではもはやありふれたものだろう。そしてマットが警察が鼻にもかけないチンピラの死を死者の生前数少なかった友人の頼みを聞いてニューヨークの街を調べ歩くのも本シリーズの原点ともいうべき設定だ。

今回の事件は禁酒者同士の集まりAAの集会で設定されている禁酒に向けての『十二のステップ』のうち、第八ステップの飲酒時代に自分が迷惑をかけたと思われる人物を書き出し、償いをする活動がカギとなっている。ジャックがその段階で挙げた人物たちに過去の謝罪と償いをしていたことからそのリストの5人が容疑者として浮かび上がる。

しかし彼らの中には犯人がいないという意外な展開を見せる。
さらに容疑者の1人の元故買屋マーク・サッテンスタインが殺され、ジャックの助言者グレッグも殺される。マットはジャックの部屋から第八ステップで書いたジャックの全文を見つけ、ジャックがかつて行った強盗殺人の顛末とそこに書かれたE・Sなる相棒の存在に気付く。

そしてマットも意外な形で真犯人の襲撃に遭う。ホテルの部屋に戻るとそこにバーボン、メーカーズマークの瓶とグラスが置かれ、さらにベッドのマットと枕に同じバーボンがぶち撒かれ、部屋中一帯にアルコールの臭いが充満していたのだ。
禁酒1年目を迎えようとする直前でマットはまたもアル中になるのかと恐怖に慄く。禁酒中のアル中を殺すのに刃物も銃もいらないのだ。ただそこに強い誘惑を放つアルコールがあればいいのだ。 本書の原題である“A Drop Of The Hard Stuff(強い酒の一滴)”だけでも十分なのだ。

しかしなぜここまで時代を遡ったのだろうか?
ブロックはまだ語っていないスカダーの話があったからだと某雑誌のインタビューで述べているが、それはブロックなりの粋な返答だろう。

恐らくは時代が下がり、60を迎えようとするマットがTJなどの若者の助けを借りてインターネットを使って人捜しをする現代の風潮にそぐわなくなってきたと感じたからだろう。
エピローグでミック・バルーが述懐するようにインターネットがあれば素人でも容易に何でも捜し出せる時代になった今、作者自身もマットのような人捜しの物語が書きにくくなったと思ったのではないだろうか。

しかしそれでもブロックはしっとりとした下層階級の人々の間を行き来する古き私立探偵の物語を書きたかったのだ。
それをするには時代を遡るしかなかった、そんなところではないだろうか?

そして忘れてならないのは『死者との誓い』で病で亡くなったジャンとの別れの物語だろう。
お互い幸せを感じながらもどこかで負担を感じつつある2人。暗黙の了解であった土曜日のデートが逆に自由を拘束されるように感じ、デートに行けない理由を並べだす。これといった理由もないが、どこかで2人で幸せに暮らす情景に疑問を持ち、避け合う2人の関係。
大人だからこそ割り切れない感情の揺れが交錯し、そして決別へと繋がる。どことなく別れたジャンとマットの関係をきちんと描くのもまたブロックがこのシリーズで残した忘れ物を読者に届けるために時代を遡って書いたのかもしれない。

2013年からシリーズを読み始めた比較的歴史の浅い私にしてみても実に懐かしさを覚え、どことなく全編セピア色に彩られた古いフィルムを見ているような風景が頭に過ぎった。
私でさえそうなのだから、リアルタイムでシリーズに親しんできた読者が抱く感慨の深さはいかほどか想像できない。これこそシリーズ読者が得られる、コク深きヴィンテージ・ワインに似た芳醇な味わいに似た読書の醍醐味だろう。

物語の事件そのものは特にミステリとしての驚くべき点はなく、ごくありふれた人捜し型私立探偵小説であろう。
しかしマット・スカダーシリーズに求めているのはそんなサプライズではなく、事件を通じてマットが邂逅する人々が垣間見せる人生の片鱗だったり、そしてアル中のマットが見せる弱さや人生観にある。

そして物語に挟まれるマットが対峙した過去の事件のエピソード。そして最後のエピローグで本書の物語に登場した人物や店のその後がミックとの会話で語られる。それらのいくつかはシリーズでも語られた内容だ。
とりわけジャンの死は。

古き良き時代は終わり、誰もが忙しい時代になった。ニューヨークの片隅でそれらの喧騒から離れ、グラスを交わす老境に入ったマットとミック2人の男の姿はブロックが我々に向けたシリーズの終焉を告げる最後の祝杯のように見えてならなかった。

しかし私のマット・スカダーは終われない。『すべては死にゆく』を読んでいないからだ。
二見書房よ、ぜひとも文庫化してくれないか。私にケリをつけさせてくれ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ベテランの話芸に酔う

終わってしまったと思っていたマット・スカダーシリーズの復活! それだけでも驚きだが、74歳になったスカダーがミック・バルーに思い出話を聞かせるという構成の妙に脱帽した。さすがに74歳でN.Y.での探偵稼業はきついとみえて、そこで編み出したが炉辺夜話ということで、スカダー45歳のときの物語が展開される。
ストーリーは、幼馴染を殺害した犯人を探す話で、探偵ものとして十分に合格点の出来なのだが、読んでいるうちに犯人探しはどうでもよくなってくる。なにより、スカダーの人間性、人生観、他者とのかかわり方、恋人との関係の感じ方などが深く心を打ってくる。
読み終わったらスカダーをもっと身近に感じるようになる、シリーズファン必読の一冊だ。

iisan
927253Y1

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