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ルパン、最後の恋



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ルパン、最後の恋の評価: 4.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.50pt

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No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

老いらくの恋と思いきや、まだ40歳!

本書にはつい最近になって発見された未発表原稿からなる表題作と短編2編が収録されている。

21世紀になってルブランの伝記を著したジャック・ドゥルアールの調査によって発見されたタイプ原稿が本書『ルパン、最後の恋』。正真正銘のルブランの手による最後のルパン物語だ。
なんと作者ルブラン没後70年経ってからの発表である。

そんな出版をされた物語は何ともロマンティック。これだよ、これがルパンだよとかつてルパンシリーズを読んで胸躍らせた読者の期待を裏切らない展開の速さとルパンという男の懐の大きさに満ちている。

高貴なる女性と彼女を守る四銃士。その中の一人こそがアルセーヌ・ルパンであるというドラマティックな設定だ。

しかし予想に反して4人のうち、誰がルパンかは物語の2/5に満たないところで早々に判明する。

つまり今までのルブラン作品では、明らかにルパンと思われる人物が最後の方で正体を明かして、あまり興趣をそそらなかったが、本書では4人のうち誰がルパンかという複数の候補を用意しながら、早々と正体を明かすという読者の予想を裏切る演出を採っている。

これはその後に続くコラ嬢とルパンことサヴリー大尉とのそれぞれが惹かれ合いながらも将来を考えて―特にサヴリーが―遠慮し、本心を隠しつつ幸せを願うという、フランス人らしからぬもどかしい恋模様を描くことを主眼しており、あくまでルパンが誰かなどはその恋愛劇の添え物にしか過ぎないことが解る。このルパンが自らコラ嬢に惹かれていることを自覚しながらも一介の快盗である自分と結婚するよりも正統なるイギリス王家に嫁いでロイヤルウェディングを実現させる方が女性の幸せと願って止まないという、なんとも恋知らぬ男のような純情さとストイックさを頑なに持っているのはちょっと違和感があった。

なんせルパンと云えば彼と一緒に時間を共有した女性なら惚れてしまう男であり、過去の作品でもそのプレイボーイぶりを存分に発揮している。
どの作品か忘れたが、眠っている女性を全身を軽くキスしてあげてリラックスさせるという、21世紀の今でも顔を赤らめてしまうような行為をするのが彼なのだ。

そんな彼がコラ嬢の求愛を悉く拒むのは身分の違いという引け目と、文中で語られる年齢にあるようだ。

本書でのルパンは既に怪盗業(こんな言葉があるとは思わないが、ルパンはやっぱり泥棒稼業と書くよりもこちらの方が合う)を引退し、世界各地にその膨大な財産を保管しては、世の役に立つ事業や運動に100億単位の金を融資するという慈善家となっている。年齢40歳。まだ40歳なのだ。
しかし既に心持は引退した事業家のそれとなっており、若くて活発な眩しいほどの美しさを放つコラ嬢に遠慮をしているようなのだ。

しかしそれでもルパンはルパン。タイトルにあるように最後の恋をして物語は終わる。

従って本書はやはりルパンの人生の終の棲家を得るための最後の恋物語というのがメインなのだが、それを通奏低音としながら本来の物語はコラ嬢へイギリス王侯が贈った400万ポンドの金貨とコラ嬢自身を巡っての悪党とルパンの攻防戦という図式。

かつてのルパン譚には彼の万能性を以てしても窮地に陥る難事件が数多くあったが、それに比べれば今回の敵は彼にとっては掌上の何とやらで、実に容易い相手であった。

しかも彼には世界中に彼を慕う部下が何千人とおり、無尽蔵とも云える財産もあるが、イギリス側の敵と対峙するのはルパンと飲んだくれの親から引き取った才気煥発な兄妹2人という人員構成。
そんな手薄な人員でイギリス政府からの刺客を撃退するのだから、ある意味胸躍る活劇を期待する分にはいささか物足りなさを感じるかもしれない。

しかし今回の邦題がそういった先入観を軽減する一助になっていると私は思う。この題名があるからこそ、本書の方向性が読む前から見え、冒険活劇よりも恋愛劇がメインであることを許しているのだと思う。
こういうのを訳者のいい仕事と云うのだろう。

そして本書には表題作に加え、ルブランのルパン物第1作の短編「アルセーヌ・ルパンの逮捕」、ルブランによるエッセイ「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」、そして文庫化に際し、ボーナストラックとして幻の『バーネット探偵社』の1編である「壊れた橋」が収録されている。

正直「~逮捕」は既読であり、ネタも解っていたのでそれに関する新鮮味はなかった。
しかし現在流布する短編集『快盗紳士ルパン』の収録作がアレンジヴァージョンであるようだが、それを比較して批評するのは好事家の方々に任せることにしよう。

エッセイについてはルブランがどうしてこれほどまでに自身が生み出したピカレスク・ヒーローが世界中の読者に親しまれることになったのかを第三者的立場で批評した物。
やはりそこには先達の生み出したヒーロー、シャーロック・ホームズに対してのライバル心が窺えて興味深い。作者自身はホームズ作品は読んだことなかったので全く関係ないのだと述べてはいるが、ホームズとルパンとの比較を2ページ半に亘って記述し、更には自身の作品には事実をも取り入れた謎解きが含まれているのだとその優位性を述べるくだりもあり、言葉とは裏腹にかなり意識していたことが窺える。

そして本書の目玉であるのが長く埋もれていた短編「壊れた橋」の収録。仲のいい隣人同士だったが、お互いを結ぶ橋が壊れ、一方の家主が死ぬに当たり、隣人夫婦間の裏に蠢く泥沼劇が明るみになるという物語。
上のように書くと実に陰険な物語のように思えるがルブランの筆致はあくまで明るく、特にルパン=ジム・バーネットの天真爛漫とも云えるあっけらかんとした謎解きのプロセスが物語に暗さをもたらしていない。逆に同作の概要をまとめるに当たり、ああ、こんな物語だったのだと読書中には感じなかった重さを知らされたぐらいだ。

さてルパンが怪盗でありながら、実はフランスと云う国をこの上なく愛しており、国のピンチであればスパイのように他国へ侵入して自国への害を未然に防ぐことを厭わないヒーローであると最近のルパンに纏わる書評で読んだ記憶があるが、本書ではルパン自らが愛国者であることを宣言している。そして残りの余生を世界平和に役立てるために私財を擲つとまで述べている。
ルパンは元々アンチヒーローとして生まれたが、最後となる本書ではルパンがヒーローであることを作者が強調していたのが興味深かった。

数年前、早川書房はルパン作品を全編訳出すると意気込んでいたが、現在ではその動きは停滞し、半ば消失したかのように思われた。
が、この未発表原稿の訳出が大体的に各書店で行われたのは実に喜ばしいことである。この余勢を買って、再度新訳でのルパンシリーズの訳出に拍車がかかることを願って、筆を措きたい。


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