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(短編集)

エラリー・クイーンの新冒険



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エラリー・クイーンの新冒険の評価: 7.67/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.67pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

訳だけが。

ひょっとするとこの一冊が、かつて読み残していたクイーン作品の最後の一冊かも!?ブックオフで見つけて購入!最近日本のミステリーや読み易い訳に慣れすぎたからか、こんなに昔の訳って読みにくかったとは。とにかく直訳、直訳。それどういう意味やねん!って突っ込みたくなりまくり!また、同じことを指しているのに、いろいろな呼び方をするので、それ何?誰?ってなる、なる。うーん、せっかくいいミステリーなのにもったいない。内容はクイーンは短編の名手でもあると思わせる内容。すごく論理的で面白かったです!

タッキー
KURC2DIQ
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

事件はポーラ・ハリスとのデート中に起きる!?

『エラリー・クイーンの冒険』に続く第2短編集。まずクイーンの傑作中編とされる「神の灯」から始まる。
これは確かに傑作。ワンアイデア物だがクイーンの特徴が実によく表れている。また120ページ強という長さの中編だったことも良かった。逆にこれが長編であればこのアイデアで延々引っ張るには冗長さを感じさせるものとなったろう。確かにこれは忘れえぬ作品だ。

「宝捜しの冒険」は元軍人バレット少将宅で起きた真珠の首飾り盗難事件をエラリーが捜査するもの。使用人を全て元部下で固め、さらに軍隊時代の風習を守っているというこの特異な状況を利用した隠し場所だ。
しかしこれはまさかこれではないだろうなと思っていた方法がほとんど当っていたのでびっくりした。

「がらんどう竜の冒険」は在米日本人宅で起きたドアストップ盗難事件をクイーンが捜査するもの。題名はこのドアストップが竜の形を模した物であることから由来する。
ドアストップが小さいものであるから片手で摘んでおくようなものを想像していたら、なんと死体を海に沈めるための重しの代用となるほど大きな物だというのが解り、これもびっくりした。確かに寸法と重さが書かれているが、日本人にはフィートとポンドは馴染みが薄く、なんとも想像しがたい。しかしこれは逆にドアストップという単語から連想する先入観をあえて利用したのかもしれない。
『ニッポン樫鳥の謎』でも披瀝したエラリーの日本人観が本作でも開陳される。どうもエラリーは日本人の考え方は自身のロジックには当て嵌め難いらしく、苦手意識があるように思える。あと作中に出てくるシントーなる日本人独特の道徳観というのは一体何を指すのだろうか?

「暗黒の家の冒険」は遊園地にある真っ暗な部屋、通称「暗黒の家」の中で起こった殺人事件を扱っている。
何も見えない暗闇で犯人はどうやって離れた場所から銃弾を撃ち込めたのか?典型的な推理クイズ的作品。複数の容疑者がいて、その中から犯人を搾り出す。これは容易に解った。

異空間のような貴族の屋敷のある島で繰り広げられるのが異色作「血をふく肖像画の冒険」だ。
なんとも評し難い作品。有閑貴族の邸宅で繰り広げられる気だるい雰囲気の中で起きる言い伝えを擬えたような事件。
しかし真相はなんとも珍妙。幻想的な謎を準備してそれに都合のいい事件と真相を当て嵌めた、そんな歪な感じを受けた。

「人間が犬をかむ」からはなんと『ハートの4』で知り合ったポーラ・パリスと付き合っているエラリーの事件簿だ。
衆人環視の中での殺人というのは『アメリカ銃の謎』でもあったが、作中の注釈にも書かれているようにいつかヤンキースタジアムを舞台に同趣向の作品を書きたいというのがクイーンにはあったようで、それを叶えた一編。観客席でサイン会の後での毒殺事件を扱っている。
一見至極トリックと犯人は簡単に解りそうだが、そこはクイーン、一筋縄ではいかない。特にエラリーから明かされる真相は蓋然性の面からしても、ホット・ドッグに仕込む方が高いので、疑問に思っていたが、最後の皮肉がそれを帳消ししている。

次の「大穴」ではタイトルどおり競馬場が舞台。
これも衆人環視での事件で、状況的にはあからさまに犯行は見えるが、一捻りがやはりある。これはマジックで使われるミスリードの一種だと考えればこの犯行方法はギリギリ許容範囲か。また結末が題名とマッチして洒落ている。

続いて「正気にかえる」ではボクシングのタイトルマッチが舞台。
この真相は見抜けなかった。

最後の「トロイヤの馬」はアメリカン・フットボールの大学対抗試合での事件だ。
盗品の隠し場所については解ってしまった。

まず本作の大きな特徴は2部構成になっていることだ。
前半の「~冒険」という名の付けられた一連の作品は第一短編集からの流れをそのまま受け継ぐ純粋本格推理物だが、後半の「人間が犬をかむ」からの4編はクイーン第2期のハリウッドシリーズに書かれた物でエラリーは『ハートの4』で知り合ったポーラ・パリスとコンビを組む。

まず第1部とも云うべき前半部は、傑作と名高い「神の灯」から始まり、これが正に本格ミステリど真ん中の奇想を扱った作品。それ以降も元軍人のみが住まう館を舞台にした「宝捜しの冒険」、「ニッポン樫鳥の謎」の流れを引き継ぐような在米日本人宅で起こる事件を扱った「がらんどう竜の冒険」など、国名シリーズの衣鉢を継いだようなロジックに特化した作品が続く。

しかし「人間が犬をかむ」以降の後半から物語の舞台も球場、競馬場、ボクシングヘビー級タイトルマッチの会場、フットボール競技場とエンタテインメント性が高い場所になり、しかも物語の彩りとしてそれら試合の模様も書かれ、更に当時の著名人、有名人なども続出し、印象は実に華やかだ。

つまり本作を読むことで、第1期クイーンと第2期クイーン作品のそれぞれの特色が目に見えて解るのだ。

謎の要素としては「神の灯」を除いて各編の難度はそれほど高くない。トリックは案外解りやすい。しかしそれを成す犯人を焙り出すまでのロジックはやはりさすがはクイーンといったところだ。特に最後の2編に至る犯人が上着を着なければならなかった理由と、宝石の隠し場所から導き出されるロジックはこちらの想像を超えた物があり、感心してしまった。

個人的には純粋本格推理小説に特化した前半の5編よりも、後半のハリウッドシリーズの延長線上にある4編の方が好みである。
例えば「人間が犬をかむ」では野球観戦に夢中になるというエラリーの人間くさい一面が見られるし、何よりも各編でパートナーを務めるポーラ・パリスの存在が物語に彩りを添えている。

今までクイーン作品に登場する女性たちは容姿は端麗でも、どうにもステレオタイプでクイーンの男性的主観が大いに入った頼りない女性像が描かれ、個性が全く感じられなかった。唯一主役を務めたペイシェンス・サムが、男性社会で孤軍奮闘する女性として描かれていたくらいだ。
このポーラも初登場の『ハートの4』ではエラリーがこの世の美しさとは思えないと一目惚れするほどの容姿を持っていたが、作中で「人混み恐怖症」と書かれた軽い群衆恐怖症を患っているキャラクターであった。そのため、浮世離れしたイメージがあり、現実味に乏しいキャラクターであったのだが、ここではクイーンの恋人としての地位で振る舞い、なんとも躍動感に満ちたキャラクターになっていたので驚いた。
この2人が織成すやり取りは物語にコミカルさと男女の化学反応を感じさせ、エラリーが今までの作品に比べてもかなり人間くさく感じて好感が持てる。単なる気取り屋、頭でっかちの素人探偵というイメージを覆して、なかなか新鮮である。長編では『ハートの4』の次作となる『ドラゴンの歯』で既にポーラの姿は無いことから、恐らく本書がポーラの見納めになるようだ。なんとも勿体無い話だ。

第1短編集では純粋なロジックの面白さを堪能させてくれたクイーンだが、この第2短編集はそれに加え、エラリーの新たな側面を見せてくれた。
よく考えると法月綸太郎の第1短編集『法月綸太郎の冒険』も全く同じ構成だ。あの短編集も前半はロジック一辺倒の作品で後半は沢田穂波とのコンビであるビブリオ・ミステリシリーズだった。ここにクイーンの意志を継ぐ者の源泉があったのか。ここでまた私は現代本格ミステリに繋がるミステリの系譜を発見したのかと思うと感慨深いものがある。


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