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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへ書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点6.44pt |
レビュー数347件
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矢吹駆シリーズ4作目。かの『人狼城の恐怖』が世に出るまで世界最長の本格推理小説とみなされていたらしい1000ページ超の長大作です。
パリのユダヤ系資産家の大邸宅で”三重密室”状態で死亡した一人の男。 さらにその背景には数十年前のナチスの強制収容所内で発生したやはり”三重密室”内で死亡した一人の女の事件が浮かび上がる…… 2つの三重密室事件の謎を探偵役の矢吹駆(※以下カケル)が解き明かす……という基本プロットはこの上ない本格ミステリですが タイトル通り「密室」に加えて「哲学者」がこの作品のもう一つの主題となります。 誰でも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう、実在した20世紀最大のドイツ人哲学者ハイデガー(作中では彼をモデルとしたハルバッハというキャラが登場します) の”存在論”や”現象論”に基づいた死の哲学的な捉え方に倣って、カケルは”密室の死”という題材についても紐を解いていきます。 そして現実でハイデガーが哲学者として高い評価・名声を集めた一方、ナチスへの関与・加担が批判的な見方をされているのと同様 作中のハルバッハもナチスとの繋がりを持っていたことで作中の事件とも直接関わってくることとなります。 一番最初に説明した通り、この作品は滅茶苦茶長いです。 そしてそんなに長くなるのはこのシリーズ全体の特徴でもある、随所に挿入される哲学的なペダントリーが大きな原因であり、純粋な本格ミステリに徹していれば半分にも三分の一にも出来たと思います。 さらに、やはりこれもシリーズの特色であるのですがシリーズ前作のネタバレに配慮がないなんてものではない。ここまでくると作者が意図的に「前作を読んでからこっちを読みやがれ」と訴えてるのかと思うほど、前作の犯人たちの名前を作中で100回は連呼し(数えてないけど大げさじゃなくそれぐらい言ってると思う)100ページぐらいかけて前作を回想したりしているのも長さに一役買っています。 そして正直言って哲学的な部分は何言ってるかよくわかんないし、物語に本当に必要とも思えないんですよね。完全に作者の自己満足の衒学趣味としか。 それも常人とはかけ離れた頭脳と精神を持つカケルがつらつらと語るなら京極堂の蘊蓄みたいなもんで、シリーズの味として受け入れられなくもないんですが 読者の分身である、ワトソン役のナディアにまで何十ページもわたって、私の死の定義がどうのこうの哲学の世界に入られても、いつまで続くんだこれ、としか思えませんでした。 話が正常に進行する時のナディアの思考はとにかく「カケルが好き」「カケルが心配」「密室の謎解かなきゃ!」と凄いシンプルでわかりやすいキャラなだけに 突然長々と哲学的な思考に入ってる彼女は単に精一杯かしこぶろうとしているだけか、薬でもキメてるようにしか見えません。 哲学的、衒学的な部分は無視した単純な本格推理部分とドラマ部分で言えば結構面白かったですが、この長さに見合うかというとトリックも真相も小粒かなぁという気がします。 この作品を読んだ一番の収穫と感想は「こんなブ厚くて難しそうな本読んだぞ、凄いだろー」という自慢や自己満足感に浸れる所かもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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この作者おなじみの、実在人物や有名文学作品を二次創作(?)的に本格ミステリ作品として生まれ変わらせるシリーズの一作。
今回の探偵役は日本でも『動物記』で有名なアーネスト・トンプトン・シートン氏と、彼に関わった動物たちで、短編七作で構成されています。 今作でのシートンは、動物の生態調査で養った観察眼をもって、かのシャーロック・ホームズよろしく、人間の行動に関しても抜群の観察眼と推理力を発揮して数々の事件を解決するという役回りですが、もちろん彼が主役なのですから全ての事件に動物も登場して重要な役割を果たし、またその動物は『狼王ロボ』を始め全て元のシートン動物記にも登場したものとなります。 なので子供の頃などにシートン動物記を読んだ人の方が当然楽しむことができ、また動物記を読み返したくなるような一冊でしょう。 文章は、誰の翻訳版を意識しているのかはわかりませんが、いかにもな海外翻訳物っぽい淡白な文章な一方で、どこか大げさで芝居がかった登場人物の言動などが表現されており見事だと思いました ▼以下、ネタバレ感想 |
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一言で説明すると不老不死の技術が実現した時に日本はどうなるのか、という設定の元描かれたSF小説。ミステリ、推理小説の枠組みには入らないと思います。
上下巻でそこそこの分量があり、作中で50年以上の時間が経過する壮大なストーリーですが基本はエンターテイメント小説なので読みやすいです。 ほぼ全ての日本人が成人年齢を超えるとHAVIと呼ばれる、不老不死になる処置を受けるという世界。ただし法律で100年後には強制的に安楽死させられる。 本当に永遠に個人が生き続けたら人口はパンクしてしまいますので少し考えれば子供でもわかる当然の処置です。 どのみち普通に人生を送って120歳まで生きることはほぼ不可能ですし、仮にその年齢まで生きたとしてもその間の老いの悩み・問題からは逃れられません。 だから当然100年後に死ななければいけないと判っていても作中の人間はほぼ全員がこの処置を受けますし、この作品を読んだ読者もほぼみんな「自分も受けたい」と思ったのではないでしょうか。 そんなまさに全人類の夢が実現したような世界なのですが、正直個人レベルで見ても全体レベルで見ても、人々は全く幸せそうには見えず、どちらかと言えば夢のない世の中が広がっています。 そして「まぁ実際この技術が実現したら、こんな感じになるだろうね」と思わされてしまうものでした。 それはひとえにこの作品が個人レベルでも全体レベルでも「人間とはこういうもの」という描写が上手く、説得力があったからだと思います。 個人的にこの作品を見て感じたのは、本来生物というものは全体がまた一つの生き物のようなもので、種全体の存続、繁栄のためには個は細胞が新陳代謝を活発にするように適度に入れ替わらないと、全体として停滞、それどころか逆に「老化」してしまうものなのだなということです。 人は有限だからこそ、老いるからこそ今を大切に生きられるなどという言葉は、普段はなんか説教臭くて嫌いなのですが、この作品を読むと理屈と感情双方で納得が出来るような気がしました。 また読んでいて面白いと思ったのは他の人の感想にもありますが、この作品は自分の意思でHAVIを受けていないケン以外の人間はみな外見的には20代のはずなのですが、思い浮かぶイメージが実年齢通りのヨボヨボのおじいさんおばあさんまでは行かないまでも、いい意味では大人の貫禄のある、悪い意味では疲れの見えた40代・50代ぐらいの見た目なってしまうことです。(ある意味歌野氏の例の作品の逆バージョン的なものを感じますw) これは実際作者も意図している所で、この作品の実写版をケン役意外は全員20代の若手役者で作ったら面白そうと思う反面、叙述トリック作品並に映像化せずあくまで文字で想像する作品だからいいのではないのかとも思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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先日レビューした『蛇棺葬』が今作の作中作という形になる、『蛇棺葬』の謎を解く完結編(ややこしい)
つまりは『蛇棺葬』を読んでいないとさっぱり意味がわからないので先に読みましょう。 『蛇棺葬』には登場しなかったシリーズの主人公である作家・三津田信三と探偵役である彼の友人飛鳥信一郎がようやく登場します。 今作はようやく本格ミステリパートに入り、『蛇棺葬』で起こった不可解な人間消失の謎を理論的に解明していきますが、しかしオカルト要素も依然絡み続け、さらなる脅威として三津田や飛鳥を襲います。 内容としてはただの暗くて気持ち悪い話だった『蛇棺葬』よりはずっと面白かったんですがラストは、うーん…… ▼以下、ネタバレ感想 |
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実質的に上下巻の上巻にあたる今作。
完結編に相当する『百蛇堂 怪談作家の語る話』の作中作という位置づけでもあります。 つまりこちらだけ読んだのでは多くの謎が残されたままなのですが、「ホラー作品」として読めば一応こちらだけでも完結しているとも言えます。 内容としては、駆け落ちのような形で家を出たはいいけれど、結局今度は出戻りのような形で田舎の旧家である実家に戻った父に連れられた主人公が、そこでさまざまな不可解な恐怖体験をするのといった話ですが、しかしオカルト的な受難よりむしろ主人公が大人たちに直接的なものから遠まわしなものまでいろいろ虐待を受けて幼少期を過ごす、なんともジメジメとした話という印象が強く、主人公の性格も境遇的に当然といえば当然ですが控えめで暗く、正直面白くなかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ポーのゴシックホラー短編作品。
国内に「赤死病」という恐ろしい病が蔓延し国民たちが死に絶えていく中、王族たちは城内に篭り、優雅に宴を楽しんでいた。しかしそこにもやがて死の影が…… 非常に短く、シンプルで、はっきり言ってしまえば「だから何?」って話なのですが、それぞれ美しく彩られたステンドグラスの部屋、ただし一番奥の黒と赤の部屋だけは不気味がり誰も近寄らない。そんな城内の風景が強烈なインパクトと想像力を読み手に与え、いろんな作品の作中で取り上げられたり、オマージュに使われていますね。 現実的に考えると短い話の中にもいろいろおかしい部分があるのですが、それは単純に創作世界ゆえの破綻というよりは、いろいろなものの暗喩と思われ、読み手側の受け取り方が問われる作品でもあると思います。 |
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まさにタイトル通り、容疑者候補は2人でどちらが犯人なのか……というのが主題の作品であり、読者にしっかり推理しながら読んで欲しいという意志が込められた作品となっています。しかし、個人的には見所というか読者としての作品として楽しむポイントはどちらが犯人なのかよりも、被害者の遺族にして第一発見者であり、そして警察官の身でありながら、最愛の妹を殺した犯人を司法の手にゆだねる気はなく、証拠を意図的に回収し独自捜査を始めるという、主人公も一種の「探偵」であり「犯人」でもあり、シリーズ本来の探偵役である加賀と対決するという、この作品独自の構図が面白く、行く末が気になるストーリーでした。
▼以下、ネタバレ感想 |
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『学生アリスシリーズ』や『作家アリスシリーズ』のようにシリーズ化はされていない、有栖川有栖氏の初期作品。
ロジック重視で、大掛かりなトリックを弄した作品はあまり書かない印象の作家ですが、今作は鉄道ダイヤトリック、双子入れ替わりトリックなど本格ミステリの王道とも言える複数のトリックが仕掛けられた一冊です。 時刻ダイヤトリックを扱った作品は正直「なんとかしてなんとかしたんでしょ」って感じで、真剣に考える気もおきないしあまり好きではないのですが、この作品はそれ以外の部分にも仕掛けられたトリックが面白く、出来も良いと感じました。 作中のアリバイ講義も面白かったです(私は基本はこういう単に作者が自分の趣味を語りたいだけのパートは嫌いなんですけどね) 極めて王道な本格推理小説であると同時に、この作品そのものが「本格推理小説」というものをそのままテーマにした作品というか、「本格推理小説」というもののテーゼであるかのように感じました。 作中に出てきた「トリックというもの自体が面白すぎる」「本格推理小説というジャンルが面白すぎる」という言葉。 私のような人間にとってはまさにその通りだと思います ▼以下、ネタバレ感想 |
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金田一耕助シリーズの中で所謂代表作と呼ばれるような作品よりは評価・知名度ともに一段劣る作品でしょうが、古い小説ながら読みやすく、終始ダレない展開で面白かったです。
今作の時代設定は昭和26年。 終戦後何十年も経ってから産まれた身からすると、まだまだ戦争の爪跡の濃い時代……というイメージがあるのですが、『獄門島』や『犬神家』などまさに終戦直後で戦争の爪跡が事件にも影響している作品に比べると、そういった影響はなく日本がようやく「戦前」の生活水準を取り戻した様子が感じられる作品でした。 (なのでむしろもっと古い、戦前の江戸川乱歩の作品などをどこか連想してしまう雰囲気・描写がありました) ▼以下、ネタバレ感想 |
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県有数の富豪の家で一人の婦人が不審な死を遂げ、それからも一回忌、三回忌、七回忌……と法事の日の度に家の少女たちが無残に殺されていく……といういかにもな舞台で起こるいかにもな殺人事件というまさにコテコテの本格推理小説。
清清しいほど本格推理以外の要素を持たない作品で、本格推理小説である以上の意味もドラマもテーマもメッセージもそこにない小説。 なのでまず本格推理小説ファン以外にはオススメはできませんし、本格推理小説としても、名作・傑作とはお世辞にも言えないですが私はこういうの好きです。 どっかで見たようなのの流用感はあるものの、各殺人ごとにそれぞれトリックを用意しているのも個人的に好きですね。 特に第一の串刺し殺人は、島田氏の秘蔵っ子だけあり、島田氏に通じるような馬鹿……もとい大胆なトリックが見れます。 (細かいところはともかく、なんとなく予想がつくとこも含め) ▼以下、ネタバレ感想 |
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全く無駄のない構成の、非常に完成度が高い作品だと思いました。
テンポの良さ、読みやすさ、人物描写、ドラマ性、テーマ性、そして結末。 全てにおいてほとんど非の打ちようのない素晴らしい一冊だったと思います。 純粋に物語の出来の良さを評価すればもっと高得点でも良かったのですが、この点数どまりなのは、やはり私は何も悪くない子供が死んで、その親の苦悩が描かれるような話は読んでて辛くて、楽しくは読めなかったからです。(なのでおススメは押したけど、お気に入りは押していません) いずれ再読したい、その価値はあると思う作品ですが、何時になるでしょうかね…… ▼以下、ネタバレ感想 |
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国名シリーズ二作目。
そこそこ評価は高め(少なくとも一作目の『ローマ帽子の謎』よりは)の作品ですが、後のクイーンの傑作と呼ばれる作品を先に読んでいるためか、今作は正直納得できない部分や粗が目立ちました(他の人の感想を見てもそういう声が多いみたいですね) 麻薬組織や暗号云々は正直無駄に話を間延びさせただけな感がありました。 あとどうでもいいですが、私の読んだのはかなり古い訳版だったので、黒人が登場すると当たり前のように地の文で再三にわたり「黒ん坊」呼ばわりして、作中キャラも「黒ちゃん」とか呼んだり、黒人の口調だけ訛らせたり、差別意識を隠そうとしない(意識すらしていないが正しいか)のに苦笑しました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイトルからまるで綾辻氏の『館シリーズ』か!?と思ってしまいますが(実際間違えて買った人も日本に10人ぐらいはいるんじゃないかと思ったり)
内容は全然所謂「館物」ではないです。奇妙な館で起こる連続殺人、みたいなものを期待してはいけません。 実際は同作者の『倒錯のロンド』の姉妹版というべき作品で「螺旋館の殺人」はこの作品のいわば作中作的位置づけであり、その内容の詳細は作中でも触れられてはおらず、実際のこの作品の内容は『倒錯のロンド』同様、小説の盗作を題材にした、人物間の駆け引きとどんでん返しの物語です。 話のテンポは非常に良く、読みやすい作品ですが、作者自身も確信犯的というか開き直ったB級感に溢れる作品です(だから倒錯三部作には含めずあくまで番外的位置に納めたのだと思います) 『倒錯のロンド』が楽しめて、かつ過度の期待はせず、広い心を持った読者なら多分楽しめる作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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元々法廷ミステリがあまり得意でない私が読むのには少し早かったかもしれないと感じた作品です。
恥ずかしながら内容が難しく、頭に入ってこない部分が多々ありました。 海外翻訳にありがちな、人物の名前が一致しないのもそうですし、各人の相関関係や立ち居地も理解しにくかったです。 そして作中の展開そのものも、私の理解力が乏しいせいでしょうが 「今主人公はどれぐらい不利な立場にあるのか」「結局これは主人公側にとっていい展開なのか」 この辺がよく理解し辛い法廷の流れが続きました。 その反面、真犯人と真相はすぐに予想がつきました。なので結末も特に驚くことはなかったですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ギリシャ神話の「ミノタウルスの迷宮」をモチーフに孤島に建てられた館で起こる連続見立て殺人事件。
1400ページを超える大作クローズドサークル作品であり、さらにクローズドサークルそのものも一つのテーマになっているメタミステリ作品でもあるという、まさにクローズドサークルマニアの私のためにあるかのような作品だと思ったのですが、読んでみるととにかく話がなかなか先に進まず、決して駄作とは思わないのですが、読んでて辛いものがありました。 クローズドサークル本格ミステリだったらどんな長くても無問題、むしろ望むところと考えていて『暗黒館』も『人狼城』も「なげー、なげー(笑)」言いながらも楽しく読んでいた私ですがこれはキツかったです。上の2作を読むのにかかった時間を足したののさらに倍ぐらいかかって読みました。 話を無駄に長くしているのはやはりこのシリーズの特色である哲学的なペダントリー。 ギリシャ神話は好きなのでそれ自体は割と興味深く読めたのですが、如何せんクローズドサークルシチュエーションとは相性が悪い。連続殺人犯と一緒に閉じ込められてる状況でそんなこと話してる場合じゃないだろっていうツッコミが頭をよぎるし、かと言ってそれを無視すると今度はせっかくのクローズドサークルの緊迫感が失われてしまうという。 大掛かりな見取り図があった割にはあんまり推理やトリックに関係ないのも残念でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とうとう2000ページを超え、文庫版でも一冊に収まらず上下巻という形で出されたシリーズ最長作品。
上巻の特徴としましては「ぬっぺらほう」「うわん」「しょうけら」などの伝承にも十分に正体の記されていない妖怪たちについて、今後の事件の伏線などを散りばめながら我らが京極堂の講釈を聞いていくような連作短編にも似たような形式になります。 正直ここで個々の妖怪に下される解釈などはこの物語そのものの謎解きや真相には殆ど無関係なのですが、この部分こそ楽しめなければこのシリーズを読んでいる意味はないでしょう。 下巻は上巻で散りばめられた各種の事件や伏線を受けて、一つの収束に向けて物語が動き出すというもの。 これまでのシリーズのオールスター総出演と言いますか、ボリュームに相応しい非常に豪華な作品で、エンターテイメントとしては楽しめました。 (正直脇役キャラはいちいち覚えてねーよ、ってのもチラホラいましたが) しかし、最後の最後の黒幕登場後の茶番と言うか、本の分厚さと反比例するような薄っぺらい展開には悪い意味で唖然としました。 なんですかこれ、厨二ラノベ作品ですか?という感想です。 いや、そもそもこのシリーズ自体がこれまでも別にそんな高尚なもんじゃなく、ちょっと薀蓄多可で異様に分厚いだけの厨二ラノベみたいなもんだったのかなぁと思ってしまいました。 こんな風に揶揄してますけど、私は基本厨二ラノベみたいな作品が好きな人間で、なんだかんだで今作もこんな長くても投げ出さず楽しく読んじゃってますからね。 (小難しい本はそれほど厚くなくても読むのに一週間以上かかったりするのに、この本は分厚い上下巻合わせて4日で読んだし) とはいえなんというか私の中でまさに催眠が解けたというか、このシリーズに抱いていた幻想という名の憑物が落ちてしまったような気がします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今作で4作品目になる『S&Mシリーズ』ですが、1作目の『すべてがFになる』のインパクトだけ図抜けていて、ここまでその後の作品は特筆することのない、小ぶりなミステリ作品としか思えません。それこそシリーズ作品でなかったらなんらかの賞に応募しても最終選考以前で落選しているんじゃないかと思ってしまいます。
大学を舞台に密室殺人が起こるというプロットは2作目の『冷たい密室と博士たち』とかぶってますし(本当に密室トリックしか興味が沸かなかったその作品よりは今作の方がまだ楽しく読めましたけど)犯人もかなり見え見えでした。 そしてやっぱり主人公2人のキャラが好きになれないです。犀川のことあるごとに世間の不合理さを指摘するような思想にイラっときます。しかもその内容が正直知性を感じるよりは、斜に構えた10代の世間への文句と大差ないレベルに思えてしまいます。事件に首突っ込んでは毎回危険な目に逢う萌絵も何時までたっても好きになれないです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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一年以上の断筆期間を経て発表された本作は乱歩御大の代表作の一つであると同時に、これまでの乱歩の集大成的作品でもあります。
この作品の後にも『孤島の鬼』や『少年探偵団シリーズ』など数々の有名作は生み出されており、彼の創作史全体を通せばむしろまだ初期の部類の作品にはなるのですが、それでもここで乱歩はこれまでの作家としての自分の総決算的な意味を込めてこの作品を書いた、一つの区切りとなっている作品なのは間違いないと思います。 まずこの作品は乱歩本人がモデルと思われる二人の作家が話の主役となります。 この二人の作家は表面的な性格や作風は対照的なのですが、どこかお互いに意識しあう、まさに乱歩の二面性が表現されている気がします。 なお、話の主軸となる作家二人が乱歩がモデルというのは読者が抱く印象であり、乱歩本人はあくまで自身がモデルなのは奇妙な作風で人間嫌いの春泥の方のみで、本人も作風も常識的な語り手である寒川は甲賀三郎氏がモデルとしているようですが、私はどちらかと言うと、作品の世界から離れた乱歩は社交的な常識人であり、春泥のような異常性に惹かれている(あくまで本人は正常)のが彼だったのではないかと思います。 さらにこの作品は『屋根裏の散歩者』『パノラマ島奇談』『二銭銅貨』などの乱歩のこれまでの代表作のセルフオマージュなどがふんだんに用いられているので、これらの作品を先に読んでいた方が楽しめることは請け合いでしょう。 こうした乱歩のこれまでの集大成となった作品は、さすが数ある彼の作品の中でも代表作の一つに選ばれているだけあり高いクオリティを持っており、終始飽きさせない展開と今日までの日本の推理小説に大きな影響を与えただろう衝撃的な結末が用意されています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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もう御手洗潔シリーズに『占星術』や『斜め屋敷』のような作品を期待してはいけないと最初から思いながら読んだ作品。
そしてもう明らかに『暗闇坂』『水晶のピラミッド』の系譜を継ぐ作品だということが読み始めてすぐにわかったので、期待するべきところは期待し、期待できない所は期待せずに読んだ結果。見事に良くも悪くも期待を裏切らなかった作品でした。 まさに『暗闇坂』『水晶のピラミッド』同様、あるいはそれ以上に、実際のページ数でも、世界規模の舞台設定も、作品に設けられたさまざまな仕掛けという意味でも非常にスケールの大きな作品であり、エンターテイメントとしては一級品、本格ミステリとしては「ちょっと待て」と言いたくなる、壮大なるバカミス作品でした。 まず序章となる、吸血鬼と呼ばれた実在する女性エリザベート・バートリーの物語だけで約200ページとこれだけでも長編小説と言えるだけの分量があり、正直「別にここ読み飛ばしてもあんま本筋に問題ないんだろうな~」と思いつつも、滅茶苦茶面白かったので(正直ここが本編より面白かったかも)不満なく読むことが出来ました。 全体としてはツッコミ所満載なのですが、1000ページ近い長さが苦にならず一気に読めてしまう面白さはやはり認めざるを得ないです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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