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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数745件
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先が気になる面白さというのはこういう本ですね。
構造は犯人視点の倒叙ミステリ+被害者視点で展開するミステリ。 妻の浮気に憤慨するテッド。空港のバーにて酔った勢いで見知らぬ女性リリーに妻を殺してやりたいと気持ちを溢すと協力を受けてもらえる事に。 この出会いのシーンから面白く、空港での一時の出会いの相手にとって、何を話してもどうせ覚えていないし冗談と思われるだろうという気持ちや、殺してやりたいなんていう殺伐な気持ちを溢したい心境がよく伝わってきます。 本書の魅力は登場人物達の語り口や内面を細かく描く心理描写。後日テッドとリリーが再開し、ミランダを殺害する計画を立てて準備をしていく犯行までの倒叙ミステリの面白さはもちろんの事、テッドやリリー、殺害ターゲットのミランダはどういう人物なのか?各人のエピソードを章区切りで交えて絡ませる飽きさせない作りが楽しめました。 仕掛けやトリックがある話ではないので、そういうのを求める人には不向き。サスペンス寄りで要素要素を述べるとごく普通の殺人事件です。ただ、それを構成や心理描写で巧く調理している為、小説としての面白さがあります。 お約束というか安心感というか、結末もしっかり締めており、満足な1冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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アイディア勝ちな作品で面白かった。
現代と江戸の雰囲気、江戸の奉行や商人などキャラ立ちもよい。現代の科学捜査担当の友人もいい味出している。現世からタイムトラベルしているおゆうと江戸の伝三郎の男女物語あり。知名度があればドラマ化しそうな作品だと思いながらの読書でした。 "科学捜査"と書かれていますが専門的な話はなし。血液判定や指紋検査など今では一般的な内容の事です。ですが舞台を江戸時代にすれば非常に有効な手掛かりとなるわけです。答えはわかるが江戸の人に証拠として伝えられないので、それとなく真実へ誘導する面白さがある。 本書の巧いなと思うのは、おゆうの素性や証拠や行動に深入りしない雰囲気が作られている事。現代での科学捜査をする友人は分析マニアの研究者で、分析事以外は気にしないで頼み事を聞いてくれたり、江戸の面々も深くは突っ込まず信頼・納得しておゆうの話を聞いてくれる事。この雰囲気作りが非常に巧く、話がトントン拍子におゆうの希望通りに進んでいても違和感なく楽しめました。 本書がデビュー前の応募作という事もあってか、作者はネタを出し惜しみせず、もっと続巻で小出しにしておいた方がよい設定が明らかになっており、これは贅沢なような勿体ないような複雑な心境でした。 あっと驚く意外な展開はないですが、一歩一歩丁寧に物語が進む様が良かったです。2作目も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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海外警察小説×ファンタジー作品。
手に取った切っ掛けは宝島社出版の『この警察小説がすごい!ALL TIME BEST』の中に異色なファンタジー作品が掲載されていた事。 ラノベもアニメも許容範囲ですし、表紙のおっさんと王女様?の雰囲気に興味を惹かれ読書。 読んでみると、なるほどこれは警察小説です。警察組織の上司部下や、規律に縛られないハードボイルド風味の主人公の捜査模様。 もっと突飛なファンタジーを想像していましたが、土台は馴染みやすい警察小説。 よくある話を元に例えると、得体の知れない麻薬取引事件や、人種の違う少女と共にする主人公物語、地下社会や国同士の対立なんて要素が、非合法な妖精の売買取引や異世界の王女と捜査を共にすることになった主人公話という感じで、小道具をファンタジー色にして新鮮さを出している作品となります。 まぁ、特に先が気になる!とか、不思議な謎、仕掛けというミステリ的な要素は弱いです。誘拐事件(妖精)の捜査模様はあれど、異世界と繋がった世界観や、刑事と女騎士の進展の方が楽しく読めました。 SFのファーストコンタクト物で例えてしまいますが、言葉の問題や科学と魔術の相互理解や魔法と銃の戦いとか、互いにない技術・思想を用いた異文化交流の背景がしっかりしているので、単純なラノベとは一味違う骨太感がいいです。あと表紙絵の雰囲気凄く好み。2人のキャラが絵・文章ともに魅力的でした。 |
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死ぬ人が分かる少女と、その能力を参考に人を死なせないように行動する僕のお話。
コンセプトとなっている"人を死なせないようにする"という作品が珍しいかというと、ループ物作品にて多くあるのでこの設定自体は真新しいものではないのですが、能力設定は面白い。人が死に近づくにつれて顔にモザイクが濃くなっていくというのはミステリ仕掛けを色々期待できます。今すぐは殺される心配はないとか。直ぐに助けなくてはいけないとか。活用方法は多いでしょう。ただ本作については期待する仕掛けの作品という趣向ではなく、設定や人物紹介の割合が多い為、ミステリとして読む本ではなく青春小説という印象を受けました。 過去に起きた学園での転落事件の検証も推理というより、関わっていた人達の心理を告白し受け止めるようなお話です。ハヤカワ出版なのでもっとミステリした物を期待してしまった気持ちでした。死なないミステリである為か全体的に緩い雰囲気ですが、次作にて、死までのタイムリミットの緊張感や、舞台の性質を活かしたり、事件の真相も推理により導かれるような作品を読みたいと思いました。志緒と僕のキャラクターは好きなので、このコンビによる次作の活躍を期待します。 |
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ミニマリスト、IOTで管理された家、性犯罪、精神分析など、現代社会を盛り込んだ心理サスペンス。
冒頭から始まる近代的な家の設定に興味を沸きました。正方形の空間内には家財はほぼなく、テクノロジーによりドアの施錠や照明はもちろん、精神安定の音波発生や日々の健康管理のモニタリングなどが行われる家。突き詰めた便利さがある一方、監視された空間ともとれる不気味さが読書中不安な気持ちにさせます。 この家に過去に住んだエマと現在住むことになるジェーンの2つの物語が交互に展開されます。2-3ページ毎に切り替わるので読書の区切りがしやすく、物語の把握がしやすいのが良かったです。この交互に進む話の構成が面白く、過去と現在の異なる女性の物語なのに、同じようなストーリーが展開する作りに、何が起きているんだと先が気になりました。登場人物達が怪しさ満載であり、セリフから推測される出来事は嘘で真実とは限らない為、誰も信用できない不安感が凄かったです。 本作で個人的に魅力があったのは心理慮法士のキャロル。エマやジェーンが相談した悩みに対して的確な内容と言葉選びが凄く心理慮法士のプロを感じました。 『家』を用いて、何事も監視されたい・自己を表現したいという心理を、男女間と事件に結びつけて、クセのある物語に仕上がっているのが面白い。登場する人物達に対して読者が思い描く姿が二転三転するのは見事でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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著者4作目の読書。
作品傾向が見えてきましたが、著者作品は心温まる話が巧いですね。プチミステリでユーモアある読後感が気持ち良い作品が読みたい方には好まれます。 主人公はバンド活動をしているアルバイトのピザ宅配人。信念を持ってピザを届ける熱血な主人公は分かり易く気持ちよい。そんな彼が立て籠もり事件に巻き込まれてしまいます。 事件に巻き込まれはしますが作品雰囲気は殺伐としていなく、熱血主人公物のような困っている人を助ける!と言った雰囲気で気持ちよく読めました。 ふと思うのは、主人公の30歳で夢見るバンドマンで住んでいるアパートには母親が押しかけてきて親父との確執がある設定は必要だったのかな?無くてもよさそうな主人公のウィークポイントでした。親父譲りの人思いや、おっさんと絆を深める為や、ピザ屋にする為のアルバイト生活ゆえの設定から生まれたものなのかなと思いました。 違和感あるとは言え、出会ったおっさんとの話やバンドメンバーとの会話から感じる信頼感は、人の絆をとても感じるエピソード。事件パートや終盤の話もよい。タイトルの意味も上手くまとまって締める。ご都合主義でベタっぽい展開と思われるかもですが、安心して読める面白い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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学園ループもの。シリーズ作品ですが続巻へ続く事なく本書単品で楽しめる作品です。
本作の特長はSFではなくファンタジー寄りのループ作品。 何でも願い事を叶えてくれる『箱』が存在する世界で、誰かがループ世界を実行している。表紙に描かれている転校生の音無彩矢が転校してくる日に閉じ込められた生徒の物語で、序盤は何故ループしているのか?何が起点と終点となっているのか?の謎を感じつつ、ループの世界に閉じ込められ何をしてもうまくいかない定番の失意を味わいながら物語は進行します。 世界の枠組みの謎がキーとなりますが、正直な所そのネタを楽しむ為には複雑過ぎるというか、理解し辛いのが難点でした。『箱』の存在が何でもありに感じられるとルールは意味がなくなる為、没入感は消えてどうでもよくなったような気持でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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率直に言うと嫌いな本ですね。
もう、出てくる人物達との感性が全く合わない。その為、本書はより一層他人事な気持ちであり傍観して物語を眺めていました。 とすると誰にも感情移入できない為、可哀想とも怒りも起こらずです。日本推理作家協会賞なので何か面白い仕掛けがないかなという期待を求める読書をしていました。それも叶わずでした。 ま、内容が嫌いとはいえ本書の物語はとても読み易かったのが好感。 世の中のニュースで飛び交う事件の数々。人相や雰囲気、凶悪犯罪者のテロップ。読者がやっぱりねと感じさせる加害者の悪い過去の表現たち。凶悪犯罪者は本当に凶悪な犯罪者なのか?そんな外見の印象の裏にある内面や人との関わりの複雑さが描かれていました。 正直な所、他人はあくまで他人で本心なんて分かりません。 本書の物語にしても皆の願いが叶ってハッピーエンド!としても別に良いですし、何も救われないでバッドエンド。。どちらでも捉えられるわけです。 明確的な解答を示すのではなく、物語に触れて読者はどこにどう感じるかお任せですね。好きなキャラクターがいればその視点で幸か不幸か示されるのですが、全員嫌いなタイプな為に勝手にすれば状態でした。 日々垂れ流される事件のニュースの1つに過ぎず、何も記憶に残らず通り過ぎる物語でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ物の倒叙ミステリ。ページ分量に対する質が高い。面白かったです。
なんというか舞台内容はとても現実的で、何か特徴的な派手さがあるわけではない。一見地味に思える内容でも楽しめるのは、登場人物達の質の高い会話と心理模様が巧く描かれているからだと思う。このシリーズの良さが本作でも健在でした。 現場検証パートにおける可能性の模索は非常にざっくりしていて、読者視点から見たら結末は2つ。犯人が特定されてしまう道筋があるのか?疑われた人が犯人なのか?だけに焦点をあてているのですよね。他の登場人物達が犯人の可能性はあるのか?などはカットです。必要ない人物と主要人物の差が目立ちました。事件後の模様を想像すると警察による現場検証で直ぐに犯人が特定できてしまいそうな犯行の粗をとても感じる読書でした。 が、たぶんそれはそれで良いのだと思います。読後に納得できました。本書のポイントは彼女の恐ろしさですから。 ラストの幕引きも見事でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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奇妙な味作品。頭を使って読むのではなく、雰囲気の不気味さ、妖しさ、非現実感を味わう作品。
本書は日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した『玩具修理者』と、奇妙な話の中に時間SFを盛り込んだ『酔歩する男』の2作が収録されています。 ■玩具修理者 あらすじとしては、何でも直してもらえる玩具修理者の存在の噂話と、重症を負わせてしまった幼児の弟を直してもらおうと噂にすがり玩具修理者の元へ向かう話です。本書の魅力は物語の設定ではなく、不気味な雰囲気の文章。 『ようぐそうとほうとふ』『くとひゅーるひゅー』と言った平仮名の単語が不気味に目立つ。噂では玩具修理者の叫び声らしいが、こういう意味不明な単語を不気味に感じさせ不安になる文章が凄かった。また、日常的な文章とグロい文章での会話文の混ぜ方が凄い。同じ時間軸上の2つの表現を混ぜ込んで進行したような文章が異様かつ魅力的であり不気味でした。この感覚は読まないと伝えられない。小説として意味のある作品でした。 ■酔歩する男 『つかぬことを伺いますが、もしや、わたしを覚えておいでじゃありませんか?』と全く心当たりのない男性から話しかけられた事から始まる奇妙な物語。 パラレルワールド、タイムトラベルを扱った時間SF作品です。自分を知っている世界、知らない世界。時間跳躍、波動関数の収束・発散、観測する事で決まる事象などのお話。世のタイムトラベル系の作品群の中での本書の位置は、その能力を活用して何かをするのではなく、この能力に巻き込まれて、物事が不確かで曖昧で存在とはなんだろうと精神がおかしくなるような話。時間SF作品において、恐ろしく不安な気持ちを味わった珍しい作品でした。90年代の作品なので、その後に生まれた時間SF物を味わっていると、概念的な話の作りが時代を感じさせます。不思議な物語として楽しみました。 2作合わせて200P台なので手軽に読めます。ホラー・SF・ミステリーが混ざった奇妙な作品として印象に残る作品でした。 |
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面白い試みの小説だと思いました。
本書は、作者の長江俊和がある事情から出版できなくなったルポルタージュの原稿を入手し、これは世に埋もれさせてはならないと感じ出版した本です。 ※というのは、まぁ設定で、個人的にはノンフィクションを装った作品かと思います。 現実にあってもおかしくない内容なので、読者に「これって本当の事?」と思わせる物語のバランスがとても巧いです。 届けられた原稿は2002年に起きたある男女の心中事件のもの。心中は未遂で終わり、生き残った女性を取材したインタビューが記載されています。 小説として現代の"心中"を扱う場合は、一昔前のサスペンスドラマにて多くの男女のもつれによる殺人や偽装の作品が世にでた為、読者はこれってこういう話なんじゃない?と疑った見方をしてしまう難点があります。 本書の巧い所は、現実にあった事件の取材原稿としている為、読者へ事件内容を疑わず史実として受け入れさせている所。さらに物語ではないので、取材に漏れがあるかもしれないですし、作者の考察が正しいとは限らないといった地の文の正確さの保証が無い小説となります。 この点が好みの分かれ所でして、ミステリとして読むか、こういう作品として認められるのかという心構えで評価は大きく異なるでしょう。 個人的な感想ですが、正直な所読んでいてまったく興味をそそられなかったのですよね。ミステリなら仕掛けを期待しますが史実設定なので他人の男女の死に興味が沸かないというスタンスでした。 ただ最後の閉じ方は印象に残りました。 表向きの考察と解答は作者の考えとして示されますが、それが真実とは限らず、もっと他の真相があるのでは?と読者に含みを与えて悩ませる深読み系作品ですね。なので読後感はモヤモヤしました。 読後にネットで著者を調べたら、放送作家の方で似たような番組を作られていたのですね。 これは非常に納得で、読者を虜にする仕掛けが巧いと思いました。 考察サイトを巡回しましたが、考察者は作者のアイディアや仕掛けを見つけ出す事を楽しんでおります。この動きを狙った商品として考えると非常に巧い仕掛け本だと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても面白かった好みのSFライトノベル。ループもの。
表紙やあらすじの印象に反してしっかりとしたSF。想いの人を助ける為に平衡世界や時間軸を超えてループを繰り返す。 著者コメントより、本書は『ロボットと女の子』がテーマの発端となった作品。はい、確かにそうでした。そうなのですが、"女の子"や"ロボット"から受けるインスピレーションから随分と良い意味で飛躍していく作品です。拡大する話の膨らませ方と綺麗に収束する展開が素敵。 本書をお薦めするターゲットは、ライトノベルに苦手意識がなく、量子力学やループ物が好きで、個性的な作品が読みたい人となります。 最初の物語は表紙の女の子『毬井についてのエトセトラ』。「人間がロボットに見える女の子」のお話。 この設定を見て勝手にアニメっぽい話かなとイメージしましたが、そう軽い設定ではない。人間がロボットに見えるという事をしっかりと考える。ロボットだから男女の判別が苦手、一方、あの人は足にローラーやバーニアが付いているから陸上部に向いていると才能や特徴が見抜ける。あーなる程、能力物として読む作品かな?と思えば、「赤」に関する考察で、私がみる赤と他人が見ている赤は同じなのか?という観測から、人間とロボットの違いは何なのか?結局の所、自分と他人が見ている景色が同じかどうかはわからない。その違いの差は?識別するのは目なのか脳なのか?と哲学や科学的な話に展開されます。 ふむふむと読んでいると猟奇的なバラバラ事件が発生します。TVのニュースで逮捕者が報道されますが、人間がロボットに見える女の子には、あの人が犯人ではありえないとロボットの特徴から断言可能なのです。そういう視点から事件が見えるのか、、、という感じでライトノベルのようなミステリのようなSFのようなと話の方向性が読めない面白さがありました。 ここまででも、まだまだ序盤の話ですが、1つの転換である『毬井の世界』の章に至っては、良い意味で展開に頭が追い付かず吐き気を催しながらの呆然展開。マネキンとか想像のさせ方が巧い。うーんそうきたか。表紙からこうなるとは想像できないぞと。 既視感ある設定は多々あれど、それらは良い意味で融合して300ページ台に収まっているのが凄いし、硬派なSF作品特有の読み辛さがなく、SFネタはライトノベル調で分かり易く受け入れやすい。キャラ視点でも毬井の「わ!わ。」と喋る会話文から感じるキャラがとてもかわいい。文章が巧いので綺麗にまとまり楽しめる。個人的に好みの作品でした。 |
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頭部がない死体、胴体がない死体、右手がない死体……と言う具合に遺体の一部が持ち去られる猟奇事件の警察小説。
小説内でも示されていますが、島田荘司『占星術殺人事件』を模した事件です。横溝正史ミステリ大賞を受賞した作品でありますので、単純に占星術殺人事件を使わせてもらっただけの作品ではない、何かある期待を感じた為の読書でした。 島田荘司の御手洗シリーズの初期の頃を読まれている方は、あの作品やあの作品を感じさせる話なのでオチが見えてしまうのが残念。見立ての元ネタのファンがターゲットに含まれているのですが、ファンには仕掛けが見えてしまうという、もどかしい気持ちを味わいました。ただ、社会派的なテーマを盛り込んだ現代警察としては、面白い立ち位置にいる作風だと感じます。堅くなく、捜査はそれとなく熟し、特徴的でわかり易いチームメンバー物の雰囲気が軽い警察小説です。 悪い意味では、捜査の苦労が見えなく、解決へも理論的でなく思いつきの発想で真相へ辿り着いてしまう根拠の無さが納得できない。物語背景も壮大なんだけど何か重みがなくて軽い設定を読んでいる感じがする。と、不満はいっぱいなのですが、作品は面白く感じる不思議。たぶん好きな系統で、不満はもっと面白くなりそうな期待の裏返しなんだと思います。今後の作品に期待。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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金田一少年の事件簿の小学生編が青い鳥文庫の児童書でスタート。
青い鳥文庫は全漢字にルビが振ってあり、ミステリ特有の殺伐とした雰囲気は抑えられていますので、子供が読んでも大丈夫なミステリとなります。 小学6年生の金田一一と七瀬美雪の幼馴染の距離感は相変わらず。というか昔からずっとなのですね。学校内での金田一のふざけている姿、ふとした1コマで見せる推理、テンプレのような展開がいつもの金田一で微笑ましい。児童書でミステリとなると日常の謎か、冒険物か、vs怪盗物かと思う所ですが、本作はストレートに冒険もの。金田一が所属する冒険クラブの担任が古い宝の地図を入手。夏休みに宝探しをしようとクラブ一行が合宿に行く流れ。 合宿先の蝶の形をした烏島(からすじま)にて宝探しのはずが、姥捨て山の伝承に似せた島姥の怪物が現れ島はパニック。児童書ではありますが、歴代金田一作風のおどろおどろしい雰囲気は、島姥の怪物で健在。島で何が起きているのか?を金田一くんが挑みます。 ミステリ好きの大人が読むと、特に真新しい要素や驚きがあるわけでは無いと感じますが、児童書・小学生向けのミステリとしては読み易くて分かり易く、冒険心、ちょっと怖い所、大団円の気持ちよさと扱うテーマのバランスはとても良いです。ターゲット層に合わせた作品作りだと思いました。 金田一好きとして残念なところは「読者への挑戦」がなかった事。 「謎は、すべてとけた。」の名セリフは健在ですが、金田一少年シリーズといえば真相が解けたタイミングで、読者へ謎の要点を問いかけ、事件を再考する幕間がありましたが、今回無かったのが寂しい。謎を列挙して「この島で何が起きたのか君は分かるかな?」ぐらいの出題ページが欲しかったです。 事件の真相より、宝の意味を含む、島姥伝説の解釈が面白かったです。 なにはともあれシリーズ続編楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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凄く面白かった。というかクオリティが凄すぎた。満足でもっと読みたい。ミステリは壮大。人物も魅力的でもっとエピソードを読みたい。香港の歴史に触れられる。翻訳もよく読みやすい。海外ミステリという感覚がなかったです。
読書前は、海外ミステリだし、中国でより馴染みがないし、何か難しそう。そして警察小説で社会派で堅そう。なんてイメージで敬遠してましたが、多くの良い評判を耳にして手に取りました。いやーこれは凄い。ミステリ好きは読んで損はないですよ!先に書いた読書前の億劫な気持ちな人もいるかもしれないので払拭すべく紹介です。 6つの中編集であり、それぞれの作品の時代設定は2013年、2003年、1997年、……という具合に時代を遡る構成になっています。 最初の作品、2013年『黒と白のあいだの真実』は安楽椅子探偵もの。まず探偵の存在がぶっ飛んでます。 末期がんの為、人工呼吸器で繋がれて昏睡状態の老人。動く事も喋る事もできない名探偵。これはジェフリー・ディーヴァーの四肢麻痺のリンカーンライムを超えたかと存在に驚きました。昏睡状態のクワン警視は頭脳明晰、検挙率100%の実績があり、"謎解きの精密機械"、"天眼"の異名を持つ名探偵です。もう、この登場シーンだけで読書前の堅そうな作品イメージが払拭されていきました。ラノベではないですけど、キャラ物として面白そうと惹き込まれました。昏睡状態のクワン警視の病室に集められた事件の関係者達も寝たきりの老人をみて驚きます。どうやって事件を解決してもらえるのか?クワン警視の弟子にあたるロー警部が皆に告げた内容は、耳と脳は機能している、事件の概要を語りかけ、YESかNOか脳波を測定して名探偵の判断を仰ぐという事だった。って設定が凄い!2013年という時代設定は現代医学的な要素取り入れ、名探偵の末期から始まるのです。事件の真相は壮大であり、これで長編書けるのでは?というぐらい濃すぎる。 1作目から強烈な印象を読者に与えます。でもこれは本書の入口にすぎず、このクオリティがずっと続くよという挨拶でしたね。 2作目は2003年で10年遡り、まだ元気なクワンとローが関わった事件が描かれます。どんな話かは読んでのお楽しみです。 6つの物語は名探偵クワンを共通とした逆年代で進みます。各物語は本格ミステリとして非常に高密度。1作目が安楽椅子探偵もので、2作目、3作目と、各物語はミステリとして"○○もの"といった異なる趣向となっておりバラエティ豊か。そして各作品は大長編でも遜色がないぐらい壮大な仕掛けを施した本格ミステリであり贅沢三昧。中編に圧縮しているので、文章1つとっても無駄がない。事件の話以外にも香港の歴史、人物達の想い、ちょっとした会話のやりとりでどういう関係かが見えてくる面白さがあります。 年代を遡っていくので、人との出会いや、人生の教訓、人の変化がどこで起きたのか見えるのも面白い。ミステリだけではない物語が味わえる為、各エピソードが非常に心に残りました。 読み終わった人は、もう一度最初から読みたくなると思います。 これはトリックがあったという意味ではなく、逆年代構成で歴史を遡って読んだ事により、時代や人の想いの起点に触れた為、その後の人や時代の未来にもう一度触れてみたくなる為です。再読の1作目はクワンやローの回想や想いがより感じられる読書でした。 著者のあとがきより、作品構成の巧さを感じました。書きたい内容は、「ある人物とこの都市とその時代の物語」。「本格派」と「社会派」ひとつの小説で結合するとどちらかの味が強くなる為、6つの独立した「本格派」推理小説を描き、6つの物語をつなげると社会の縮図が見えてくる試みをしたそうです。いやはや、、、そうなってます。凄い。。個人的に苦手で敬遠しがちな社会派・警察小説・歴史物を意識することなく、名探偵の本格推理小説を楽しんでたら、いつの間にか社会派を味わって香港の歴史に触れていた。という感覚なのです。 あと、短編集というとハズレ作品が混ざっている心構えが起きるのですが、本書はハズレなしでどれも凄く、当り作品を6つ読んだ気分で大興奮でした。 なので本書のあらすじで、堅そうだな。難しそうだな。と敬遠していたら勿体ないです。好みは人それぞれですが、こういう作品は中々出会えません。非常にオススメです。 |
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戦争の特異性を活かした戦争ミステリであり、本書の状況だからこそ起きた事件という固性がある小説です。
著者作品はデビュー付近の作品を読んでいます。2017年度ミステリランキングで久々に名前がでたので手に取りました。 久々に読みましたが率直な感想として気軽に読めなくて難解になっていると感じました。特徴ある戦争色が強くでた内容で、作品を楽しむには戦争・組織・国の情勢の知識が必要、またはそれらに興味が無いと頭に入ってきません。ビルマ戦線、重慶軍、中国政権など、単語や当時の情勢のイメージが沸かず、自分には状況を楽しむ以前の問題でした。時代や軍隊など無駄な解説がない200P台のコンパクトさは良いので、戦争ものが好きな人が楽しめるかと思いました。歴史小説や戦争小説が嫌いなわけではないので、本書は単純に合わなかった模様です。 人物像も浮かばず、淡々とした文章が状況だけ書かれているように感じ、当時のレポートを読んでいるような気分でした。 |
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現役医者の著者ならではの医療の話を巧く取り入れた恋愛ミステリ。
本作はとても面白かったです。そして相変わらず著者作品は読みやすい。 気になるのは宣伝方法。 あらすじや帯が過剰広告過ぎ。"どんでん返し"とか"2度読み"とかそういう宣伝もういいからと個人的に思ってしまう。それに期待すると本書は誤解されて良くない。 程よく気持ちよい恋愛小説。そこにミステリ要素をプラス。ぐらいな感覚が期待値として良いです。ま、結果として釣られて手に取ったのでそういう意味では宣伝は成功なのかもしれませんが、なんかモヤモヤ。 あらすじは、富裕層向けのホスピスに研修医としてやってきた主人公が脳に爆弾を抱える女性と出会い、その女性と打ち解けていく中で、己の悩み、心の呪縛が解きほぐされ、やがて恋愛小説模様で惹かれるが、ある事件が起きて混迷していくと言った流れ。 主人公と女性の距離感や考え方やセリフが程よく、ちょっぴり大人な20代の男女模様がとても楽しめます。 そのうちドラマや映画になりそうな気がします。イベント的な要素・内容・仕掛けが良いのは然ることながら、小説としての文章やセリフの雰囲気、現場状況の把握のしやすさが良かったです。 久々に恋愛ミステリを読んだ刺激で点数甘いかも。でも好みで面白かったのでこの点数で。 |
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元マル暴で現在警備員、警察組織との折り合いがつかず抜けてから3年、辞めた時にバツイチとなり孤独に自堕落な生活を過ごす日々。そんな主人公が警備業務中にヤクザに追われていると思われる2人の男女を助けた事から陰謀に巻き込まれつつも人生を見出していく。
この序盤の主人公の過去・現在そして希望の無い人生の哀愁漂う雰囲気から、物語が一転する様子が楽しめました。ぶっきら棒な様で実は照れ隠し、言葉は汚いけれど人思いの主人公の優しさと熱さが魅力的でした。100kg越えの強面のおっさんなのですが味があります。序盤はハードボイルド模様。 中盤以降は、あらすじにある様な敵との戦いとなりますが、これは派手なアクション映画のようなドタバタ模様となり、著者が好きなんだと思われる機械や軍事ものの専門用語が飛び交います。 前半は"静"で後半は"動"と雰囲気が違う作品です。好みとなりますが、前半は面白かったのですが後半は好みに合いませんでした。 ただ、最後の最後は落ち着く所に落ち着いており、よい読後感でした。 |
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著者初読書。シリーズ3作目の長編をいきなり読みました。
というのは、著者作品は気になる存在でしたが、作品は短編集ばかりであり個人的に没入感が途切れやすい短編集は苦手で見送っていたのです。 今回は長編なのでやっと手に取った次第。同じような方へお知らせしますと本書から読んでも大丈夫です。 少し補足すると、序盤は主キャラの"マツリカさん"の存在が幽霊なのか実在する人物なのか設定不明であり、本書がファンタジーなのかよくわからず混乱すると思います。読後に前作を調べた所、マツリカさんは元々そういう"謎の存在"の扱いらしいので、気にせず読めば本書からで問題ないです。 さて、本書は学園ミステリにおいて女子高生に異常なこだわりを魅せつつ、それが本格ミステリに結びつけられた面白い作品でした。作中に『これが男性作家が書いた推理小説だったら、その作家はただの変態ではないか』という自虐的な地の文がありますが、これは特徴的要素なのでプラス。"学園ミステリ"として単純な高校生の物語ではなく、必然的な学園の設定を活かした内容が好感かつ面白かったです。 扱う事件は女子制服盗難事件。盗まれた制服がトルソーに着せられた状態で密室で発見されます。死体ではなくトルソーなので、人が死なないミステリを好む読者にもよいです。そしてこの密室をどうやったら実現できるかを、全10章のうち半分以上の各章において、各人の推理を披露・検証する推理合戦となっているのが見所でした。 主人公の男子は、うじうじしている情けないキャラなのでちょっと苦手でもどかしかったです。周りには一緒に考え相談したり、励まし合ったりできる仲間に恵まれているので、自信を持って周りと接する成長をしてほしい所ですね。みんなでわいわい相談している様は青春だな~と感じて微笑ましかったです。 気になる所としては、犯人がかなり面倒で綱渡りな行動をしており、何故そんな事をしているのだろう?というのが、何度か読み直してやっと納得出来る所。実際これって調べればバレバレじゃない?とか、やれるの?とか、もっと巧い方法があったのでは?とか余計な所で違和感が多く残りました。 まさかな着眼点からロジカルな推理を展開して犯人を特定する所など、見せ所豊富で面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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