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世界99



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【この小説が収録されている参考書籍】
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世界99の評価: 4.41/5点 レビュー 22件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.41pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全18件 1~18 1/1ページ
No.18:
(5pt)

これを読むと絶望的な気持ちになる理由。えぐすぎる話にサイレントヒルf状態

下巻に入り、年齢がどんどんあがり、最後は終末まで。つまりこれ、一人の女性の生涯を書いた物語だったわけですが
実は物語はものすごいスピードで価値観が変化しており、
上巻は昭和の女性像
上巻の後半から下巻の中盤までは平成、令和の女性像
上巻の後半は未来の女性像
を描いているんですね。しかも解像度がものすごく、とくに昭和時代の女性像を表現している上巻は
読んでいてイライラ、従順な主人公にもイライラ、なんで言いなりなの?言いなりな方にも問題がある、と
強者の理論を押し付けるような気持ちにさえなりました。でもこれってきっと、私が昭和生まれではないから。
自分で稼げない、生活の手立てがないということは、ここまで人を卑屈に不幸にさせるんだ
ということをこれでもかと書き、
男性に媚びへつらい、自尊心を削り、心を麻痺させていくことでしか生きていけなかった昔の女性の苦悩が読み手にのしかかります。
明人は天罰をくらって酷い人生になるべきだ、とずっと思っていました。
以下、全体の感想です。ネタバレを含みます。

しかし下巻、ネットに出回るスカッと系のような気持ちいい展開にはならず
むしろ主人公は加害側の(いわゆる男性側の)気持ちにさえなっていきます。
1000万円を超える高額の、見た目だけは美しい、家事がへったくそなピョコルン。
ただ養うだけの余計なお荷物ピョコルンのことを疎ましく思う主人公。
これは完全に「見た目だけで選んだ若くて綺麗な妻が、家事能力ゼロで金食い虫」だった男性の悲劇と同じ。
彼女が歳をとり美しくなくなった時に、怒りが爆発する男性の気持ちも想像できるくらい、
ピョコルンを通しての主人公の気持ちの変化はえぐいしリアルでした。

そして男性側の苦悩も描くのがこの小説のえぐいところ。
明人と匠はいわゆる、現代だとマッチングアプリで会えない側の人なんでしょう。
男として背負わされる重積に耐えられず、楽して媚びて生きているように見える女性に恨みを持つ。
女は若い時に全員得してると思うからこそ、なにより年齢を重視し、歳をとった女性を価値がないとバカにする。
そのくせ甘えて、自分の手の内におきたい。見下しながら女体とその母性に依存しているんです。
まるで明人と匠は現代のネットにいる女性蔑視の姿そのもの。
しかし、匠はそのまま成長せずこどおじになり、果ては始末される。
一方、明人はピョコルンになった。
ここでも生き方は別れ、憧れの「可愛がられるだけの存在」になれたはずの明人でしたが
同じピョコルンでも美醜の差があり、明人はぶさいくなピョコルン。
だから「お前は家事だけやってろ」という雑な扱いを受けている。
かつて自分が差別してきた対象そのもののような存在になってしまうのは、この長い物語のなかで唯一のスカっと部分だったかもしれません。

これは男女の軋轢、ひいては人種差別、ひいては現代の問題であるルッキズム、あらゆることに通じる壮大な物語です。
これを読むと絶望的な気持ちになるのは、
理路整然と圧倒的な解像度をもって「差別はなくならない」「格差はなくならない」を見せつけてくるから。
この物語の中で幸せに自分の意思で生きれた人はいるんでしょうか。
主人公に対する気持ち悪さが、自分のこれからの人生の教訓になるとさえ思える。
本を読み終わった時、私は
「いやだ いやだ いやだ 怖い怖い怖い お母さんになりたくない お母さんになりたくない」
と連呼するサイレントヒルfの雛子のようになっているのでした。
いやまあ実際は今、母親なんですけどね・・・。
少なくとも今の時代に生きられていることに感謝してしまう。

読もうぜ、とくに女性。
読んだ方がいいよ。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
4087700011
No.17:
(5pt)

みんなに読んでほしい

私は本を読むのが苦手で人生で3冊くらいしか小説を読んだことがありませんでしたが、この小説は上下巻ともに夢中になって読みました。すっかり村田さんのファンになり、殺人出産と信仰も読みました。村田さんがインタビューに答えている動画をユーチューブで観るのも心が安らぎます。とても繊細な方であることが伝わってきます。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
4087700011
No.16:
(5pt)

すごいものを読んでしまった。ファンタジーでありながら現在の世界に突きつける刃

ものすごく分厚く、ものすごく価格の高い小説。私はいつも新書を電子で購入しキンドルで読むのですが
この本だけはまず上巻から手をつけてみて、だめだったら手放そう(売ろう)と思い
本当に申し訳ないのですが中古で購入してしまいました。
結果、下巻は新刊で購入しようと思ってます。
あまりにも目を塞ぎたくなり、何度ページを飛ばして、また戻ってちゃんと読んで、を繰り返したか。
こんな読み方をした小説は初めてです。
えぐい性犯罪などの小説や漫画はわりと平気で読める私なのに、この小説は心に刃のごとく刺さる。

最近だとサイレントヒルfというゲームをやったばかりだが、その作品も同じく
抑圧される女性、結婚とは自由を奪われ自分をなくすこと、という意味のえぐすぎる結婚式を行う描写があり
娘は「おかあさんになりたくない」と思って育つ。
最終的な落としどころは「どんな結果になろうとも自分で選択したい、それが私の幸せ」だった。現代的だ。
凪良ゆうさんの小説もわりと男性に抑圧された女性が出てくる。彼らもまた酷い仕打ちをうけるが
どこか「逃げ出す勇気」「したたかさ」を持っていて、読んでいて辛すぎることはない。
しかしこの小説はどうだ。ここまで従順に自ら「媚びて」生きている主人公には、怒りさえ覚え、そしてどこか、自らを刺す刃のようにも感じるほどだ。
それはなぜか。
彼らは媚びている。
そして、今の現実社会が「媚び」でできているからだ。

ここまでディストピアファンタジーな世界なのに、あまりにも現代社会にリンクし、見に覚えがあるような感覚になる。
これはどこかで見た光景だ。こんな人は実際に存在する。この感情は自分の中にもある。
それらがどうしようもなく読んでいて気色悪く、物語の終着点を見届けずにはいられない。
あまりにもすごいボリュームの小説だし、気分が悪くなること請け合いだが、我慢しながらも読む価値がある。
上巻だけだと男女の分断をさらに深めてしまいそうな未来が予想されるが、下巻に手を出すのは
また時間ができてからになる。なにしろ、気持ちも持っていかれる小説だからだ。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
4087718794
No.15:
(4pt)

えぐい〜〜〜〜!!!これ読むと男性がきらいになる

まだ上巻だけ、オーディブルで聞きました。
最初は「入りにくい物語だなあ」って思ったけど、どんどん続きが気になりやめられなくなる。
そのやめられなくなる感じが、物語の中で語られる「無意識に差別してる人」みたいでやんなった。
下世話なことに興味をもって、上から目線で感想を言うひとたち。私いまそれじゃん。
これ読んで男性が嫌いにならない人いる?笑
えぐすぎる、ひどすぎる。でもこれって、昭和の一部の世界に見えて、実は今に通じる差別なんだよな〜〜なんて。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
4087718794
No.14:
(5pt)

焦げるまで煮詰めたTwitterの世界

ディストピア小説というが、わりと今のX(Twitter)の世界観てこんな感じだと思う。
なんでそんな男と?という女、
女とその権利を嫌う男、
性犯罪、責任転嫁、情報弱者、陰謀論。

読んでいて目を塞ぎたくなるような描写のオンパレードであるが、完全なファンタジーとも思えない世界。

なんといっても描写力が半端ない…!
嫌なほど鮮明に想像させてくるので、途中で気分は落ち込み食欲も減り世界に絶望させられる。

下巻ではこれ以上落ちるのか?
それともなにか光が生まれるのか?

読むのが怖いけど…読みます!!
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
4087718794
No.13:
(5pt)

村田沙耶香さん、あなたのことですから、ピョコルンになる覚悟はとっくにできているのでしょうね!

いつの世か定かではありませんが、「恵まれた人」、「クリーンな人」、「かわいそうな人」という階層に分かれた人間と、ピョコルンという家畜が日常生活を送っています。人間には、オス(男)とメス(女)、そして、優秀なラロロリンDNAを持つ「ラロロリン人」と、そうではない「非ラロロリン人」という区別もあります。国外に対しては「ウエガイコク」と「シタガイコク」という区別もあります。

こう言われてもわけが分からないと思いますので、『世界99』(村田沙耶香著、集英社、上・下)の上巻の第2章から、一節を引用しておきましょう。

「肉体がある家電である私(=空子)は、掃除、洗濯、料理などを請け負っている。ピョコルンは、性欲処理と、出産をするための肉体家電だ。家事だけでも身体はぼろぼろだったが、この身体が性欲処理に使われることはない、ということは、私をとても救っている。ピョコルンが飼えるような、富裕層の家電になれてよかったと思う。明人(=夫。ラロロリン人)の部屋の中から、微かにピョコルンの喘ぎ声が聞こえる。明人の声も途切れ途切れに聞こえる。・・・私は明人の性欲処理の邪魔をしないように、部屋で息をひそめている」。

そして、第2章の最後で、驚くべき事実が明らかにされます。ピョコルンは人間のリサイクルだったのです。

下巻の第3章からも引用しておきましょう。「ラロロリン人は、生きている間『恵まれた人』として、得をしながら楽に人生を送り、裕福な暮らしをする人がほとんどだ。その分、死んだ後はピョコルンにリサイクルされて、生きている人間の性欲のゴミ箱になり同時に子産みマシーンになる。本当に公平なシステムだなあ、と思う」。

「音ちゃん(=空子がマネジャーをしていた仕事場でアルバイトとして働いていた女性。ラロロリン人)は当たり前のようにピョコルンを人間扱いせず、性欲処理と出産と家事のための家畜として扱っている」。

年老いて病院に入院して、ほっとした様子の母。「母は私の家の家畜だった。何十年かぶりに、やっと、誰からも『使用』されない状態になったのかもしれなかった」。

非ラロロリン人のピョコルン化も可能になったと、音ちゃんに上手く説得されて、49歳になった空子はピョコルンになる手術を受ける決意をします。「『あのね、今年の夏、私、人間じゃなくなる。ピョコルンになる。ええと、まだ本決まりじゃないんだけれど』」。

村田沙耶香さん、これほど背筋がゾクゾク・ザワザワする世界を描き出す才能に「恵まれた人」であるあなたのことですから、あなた自身がピョコルンになる覚悟はとっくにできているのでしょうね!

「かわいそうな人」で「非ラロロリン人」である私(=榎戸)のレヴェルでは、これ以上の紹介はできません。そこで、このとても書評とは呼べない代物を書き上げた段階で、私より遥かに賢いChatGPT5に「『世界99』の書評を280字でお願いします」とお願いしました。1~2秒のうちに、「『世界99』は、現代の不安定な世界情勢を99の切り口で読み解く試みです。経済・政治・環境・技術といった多様な領域を横断し、グローバル化の功罪や分断の深まりを軽妙かつ鋭く論じています。数字とエピソードが緻密に組み合わされ、複雑な問題も直感的に把握できるのが魅力。大局的な視点と具体的な事例が交錯するため、知的刺激に満ち、読者に『次の世界像』を考えさせる力を持った一冊です」という回答が示されました。うーん、私には難し過ぎて、よく分からないなあ。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
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No.12:
(5pt)

現実に肉薄するディストピア

ディストピア作品は災害や戦争が引き起こす人類の死滅や、全体主義による個人の抑圧を主題とすることが多い。

しかし村田沙耶香が描く終末世界は、我々の社会や個人の内面に潜むものをつぶさに具象化しており、それがゆえにリアル。
それがゆえに決して逃げられない。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
4087700011
No.11:
(5pt)

衝撃がここまで来た。

質も量もこれまでの村田作品を大きく凌駕する大作。現実の一皮下に広がるグロテスクで偏見にまみれた世界をこれでもかと描き、パラレルワールドでありながら現実よりも本音と実感に満ちた衝撃の展開を発表してきた著者が、ついにここまで来た。
主人公・如月空子をはじめ、すべての登場人物に注がれる容赦のない視線と辛辣な評価、そしてこれでもかと降りかかる数奇な運命。男性陣にはひときわ厳しい批評が加えられ、救いの要素はごくわずか。
第一部・第二部・第三部とも、終盤にかけて大きな転変があり、しかもスケールが広がっていく。読者を翻弄してやまない村田ワールド、ここに極まれり。
読むのが怖い、でも読まずにはいられない。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
4087718794
No.10:
(5pt)

最高

これは、ポストコロナ時代というか現代の社会観、世界観を描いた小説として最高峰と感じました。
日本社会に属する以外の読者にどう読まれるか楽しみです。後巻は進化したピョコタンが現代の私たちからは少し想像しにくいあり方になっていて(映像化は難しそうですね)、その分少し弛緩した印象も受けます。一方でこんなイメージに出会ったことがない、というような鮮烈な印象を受ける場面もありました。いずれにせよこんな小説を書く作家が現代の日本にいて、それを読むことができたということに感謝します。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
4087700011
No.9:
(5pt)

村田沙耶香さんの真髄

村田沙耶香さんの作品は全て拝読していますが、その中でも特にお気に入りの一作になりました。
彼女の作品では主に性別、生命、社会、人間関係等の普遍的なテーマを独特の切り口で扱っていて、彼女の双眼から捉えた言葉は私が生きる世界に潜む当たり前という違和感を可視化してくれます。
『世界99』においても彼女の作品に通ずるテーマは一貫していて、この作品では特に生命や人間のペルソナについて深く取り上げています。
私たちを私たちたらしめる要素を限りなく排除していったとき、そこには何が残るのか、人間の本質とはなんなのか。そんなことを考えさせられる作品でした。
村田さんの『消滅世界』が今秋に映画化決定とのことで、そちらもとても気になりますね。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
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No.8:
(5pt)

図書館で借りて読めば良かった

普段から小説はよく読んでいて村田沙耶香さんのもこれまで4、5冊読みましたが今回のはまず価格が高い。内容は興味深いけどいつも寝る前に2時間ほど読書しますが寝る前にこれを読むと気が滅入る(作者が読者の気を滅入らせようとしているなら成功)
50前の平凡な母親女子の私には引っかからないことが多すぎて、読みながら、私はこの貴重な自分時間を何を読んで消費してるんだ?と途中で何度も読むのやめようと。でも村田沙耶香さんの文才はこんな私をも引きずりあげる。3千円近い価格を払ってしまったので読み終えないのも嫌だ。
侍女の…をディストピア小説だと思っていたのでこの小説がディストピアと言われているのは間違いではないがあの侍女の世界観とは全く違うなーと思ったり。
暗い小説が好きな人は大好きでしょう。
村田沙耶香さんはコンビニ人間が好きです。村田沙耶香さんついつい気になって読んでみたくなりますね。

あと余談になりますが、ソファに寝っ転がって読む際こちらの本はとても重い。

内容はいいんだが読み進めたいかどうか確認できるようにいきなり買わずに図書館で借りて読んでみたら良かったという感想です。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
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No.7:
(5pt)

夢中で読書を楽しめました

突拍子もないような設定ですが、気が付けばその世界にのめり込んでいます。作品の中で、どんどん世界が変化していくにつれ、性格を持たない空子の考え、生き方に、次第に共感していくのが不思議でした。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
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No.6:
(5pt)

フィクションなのにリアル過ぎる感覚

この作者の作品を読むのは「コンビニ人間」以来です。第一章のラスト、第二章のラストで息が止まりました。第一章を読みながら、コニーウィリスの某作品を、全体を読みながら「家畜人ヤプー」を想起しましたが、表層をなぞった感想です。作品内の世界はフィクションですが、決して未知の世界ではない。私達はこの感覚を知っています。単なる意見、感想、感覚が違うというだけなのに、それは対立を生み、簡単に攻撃や誹謗中傷へとなってしまう事を知りすぎてしまった私達は相手を傷付けるより、自分が傷付く事を恐れて口を噤み、次第に違和感を感じる事すら忘れてしまう。相手と同じ表情を作っていれば間違いは起こらない。
無垢な少女であっても搾取する側であり、加害者で在る事から免れる事が出来ない、というのが一際恐ろしく感じます。
「習字セラピー」に乾いた笑いが零れました。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
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No.5:
(5pt)

「描いてくれた」という救い

当然ながら上巻から続いた話なのに、かなり違うことを考えながら最後まで読みました。
文字通り分断された、互いの存在を認識しつつも交わらない幾つもの「世界」が共存する世界と、その複数の「世界」ごとにキャラクターを棲み分けている主人公。ただしフィジカルな自分の肉体は「便利に使われる人間家電」との認識で、常に死ぬほど疲労している。その「使用者」たる夫すら決して満ち足りてはいない…上巻の後半で描かれた地獄は、ある意味「フォーカスできる」地獄でした。
しかし最終的には読者としての自分はもっともっと捉え所のない場所に漂うことになりました。

「ひととひととが共有できるものは何か?そんなものはひとつもないのではないか?」「シタガイコク、ウエガイコク。可哀想な人、クリーンな人、恵まれた人。終わりのないヒエラルキーの更新と変わらぬ搾取の果てに、『幸福』はどこかに出現し得るのか」「記憶とは?個々の記憶がその基盤となるはずの、『世界』とは?」「自己が底のない暗闇の虚無であるとして、『私』をみる人がみている『もの』は何か?……」
読んでいくにつれ、作中の人々が歳をとり、新しい世代が育つ。時には進んで、時には無意識のうちに変化していく。見守る読者に、つづけざまに湧いてくる問い。手がかりのない真っ白な空間へ、問いの力で徐々に押し出されて、いつか放り出されていた気がしました。
そして気がつけば現実の卑近な世界もまた違って見えてきました。私が自分の内外でよく知っている、たくさんの「母ルン」、「アミちゃん」、「明人」、「白藤さん」たち。
村田さんが、感情の無い主人公を通して描いた「リセット後の世界」の概念は非情でドライです。クライマックスに向かう幾つかのシーンが、舞台設定として「センチメンタルでやさしい」要素を含んでいるように一見みえましたが、そんなはずはなく…涙など場違い甚だしいシビアさが際立つ演出でした。
それでも何故か、傷ついた後には心が救われている。これ以上なく正面からビターな表現体を直視しているはずなのに。最終的には、このお話をこの文章で噛み締めさせてもらえてよかったな、としか思えませんでした。
村田さんのディストピアは、私にとっては「極端な残酷さを描いた、後味の悪い悪趣味」ではなくて、もっと明るく白っぽく「ずっと前からそこにあったもの」のように思える身近な地獄です。この不思議な感覚は、日常に根ざしているが「知っていると知る」すべがなかった実体のない現実を、物語の力で可視化してくださったから感じられるのだと思います。どんな地獄であっても、私たちは自分の暮らす世界について、誠実なことばで何通りにでも語られてほしい、そうやって世界を知りたい、という尽きせぬ願望があって、それこそが同時代の文学への渇望なんだな、と改めて思いました。
村田さんに大拍手、お辞儀、そして無意味な合掌を。
個人的にかつてない読書体験でした。
感謝とともに読み終えてふと思ったのは「これ…慧眼のウエガイコクの人々から早々に賞を授与されてしまうのでは…?」ということでした。そしたら村田さんどんなことをおっしゃるのかな、と楽しみです。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
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No.4:
(5pt)

すでに古典

圧倒的に面白かった。吐きそうになるほど臨場感のある、現代社会を射抜いたディストピアに流れる物語に、紛れもなく人間の深層を優しくそっと溶かす、そんな真実があった。

新刊でこれほどの読書体験をさせられたのは、村上春樹の「1Q84」と「騎士団長殺し」以来。

時代の空気を吸って、平積みされてるうちに読めたことに幸福を感じます。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
4087700011
No.3:
(5pt)

作者の透徹した、人間と現代社会への、軽蔑と慈悲の眼差し

月20冊読む本の虫ですが、この本に、初めてレビュー書かせられました。

読み始め、自我に関するよくある小説かと思いきや、展開するにつれ、現代社会を見事すぎる手さばきで射抜いた世界が拡がっていく。

うっすらと心のどこかで感じていた違和感や既視感が、言葉と文脈を与えられ、自分の中で居場所を見つけていく。

歴史に残る古典小説以外で、ここまで心を振り回されぶん殴られ、癒されいたわられた読書体験は人生でも数える程だったと思います。

挫折せず上下巻、読み通して下さい。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
4087718794
No.2:
(5pt)

最先端の文学は日本にあり

日本文学はいつから面白くなったのか、とよく考える。

『蹴りたい背中』『蛇にピアス』(2003)から
『コンビニ人間』(2016)『推し、燃ゆ』(2020)
そして『ハンチバック』(2023)『DTOPIA』(2024)

もう、最強である。

そして今年に、あらゆる意味で決定的な「純文学」が出てきた。
日本文学が「その後のポストモダン小説」を牽引していることは疑いない。
そう確信した本作であった。
世界99 下Amazon書評・レビュー:世界99 下より
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No.1:
(5pt)

容赦のない切先(の快感)

「コンビニ人間」の頃は、村田さんの鋭い刃は卓抜なユーモアに何重にも包まれていて、その切先が誰かを傷つけることはあまりなかったのではないか…という印象を持っている。しかし今作となっては、ハッキリとこちらに向いた切先が、私の鈍さを突き破って、グサグサと、何度も何度も刺さってくる、読んでいてそんな気がした。とても痛い。激痛。だけどページを進めてしまう。
ディストピアもディストピア、極端すぎる地獄の小説。いやいやまさかこんな…と思う。それなのに、認めたくないけど、すべての地獄要素は、どこかで嗅いだような、すれ違ったような、既視感の延長にある。そのこと自体が何よりの地獄、という絶望の入れ子構造がまずすごい。
たしかにネットなどを見ていて「こんなヤバい人、まさか現実に居るわけない」→「うわ居た!マジで居た!」という経験は、40代女性ともなれば数え切れないほどにあり、ブラックな意味では笑えるけど、本当の意味では笑えないのだった。
村田さんによる広義のディストピア、または少なくとも架空の世界を描いた小説を、私は幾つか読んできた。迸る想像力、突き抜けるユーモアはいつも共通する魅力であった。現実にはない条件付きの世界だからこそ、比較的普遍的な「●●ってなんだろう?」のような疑問をクッキリ浮かび上がらせて頭にも心にも残る。どれも最高だった。そして今回、徹底的に、私も含めた多くの人が直視できない・語れない、深い闇に照準を合わせているように感じた。闇、なんてぬるい表現が適切とも思えないけどとりあえず他に言いようがない。
上巻最後の数十ページで、ストーリーにはブワッと違う風が吹き始めて、緩急!!と嘆息しながら本を閉じた。下巻、読むのがもったいない。
世界99 上Amazon書評・レビュー:世界99 上より
4087718794

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