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殺意の迷宮



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【この小説が収録されている参考書籍】
殺意の迷宮 (創元推理文庫)

殺意の迷宮の評価: 3.80/5点 レビュー 5件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.80pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全5件 1~5 1/1ページ
No.5:
(5pt)

コンマン(詐欺師)&ジェントルマン(紳士)

チェスターは詐欺師だ。株の信用詐欺で母国アメリカを追われる身となり、ヨーロッパへ逃亡中である。
もう一人の主人公ライダルは、本書と同じ著者による『太陽がいっぱい』の主人公トム・リプリーを彷彿とさせる。ライダルもトムも大学はでたが定職につかず、祖母や伯母の遺産でブラブラして暮らしていたが、25歳にして何かを求めてヨーロッパへやって来たアメリカ人。
逃亡中のチェスターと妻コレットがアテネに到着した。アテネにいたライダルは二人に関心を寄せる。チェスターがライダルの父親にそっくりで、コレットは彼の初恋の女性にそっくりだったから(この設定はわざとらしくて減点対象か?)。ただし、ライダルは、チェスターの父親似で紳士風の外見の奥に、詐欺師の本性を見抜いていた。ということは、ライダルにも詐欺師になれる「才能」が備わっていたということだ。なぜなら、詐欺師たるもの、決して他人を信用してはいけないから。
宿泊先のホテルに尋問にやってきたギリシャの警官をチェスターが殺害し、その現場にいあわせたライダルが二人の逃亡を手助けすることになり、詐欺師チェスターと詐欺師の卵ライダルの虚虚実実の駆け引きが始まった。
 チェスターがつぶやく。
  たしかにライダルは紳士だ。・・・あの男は・・・いわゆる“マナーのよさ”を身につけている。控えめで温和で・・・上流階級の匂いがするのだ。

 別の場面ではこうもつぶやく。
  あの男はとんだ食わせ者だ。用心深く徐々に強請に変わり、この先ずっとつきまとうに違いない。

チェスターもまた、ライダルが紳士にして山師であることを見抜いていた。
どうやら、信用が第一の詐欺師の仕事は、紳士でなければ務まらないようだ。
殺意の迷宮 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:殺意の迷宮 (創元推理文庫)より
4488224032
No.4:
(2pt)

ダラダラ

ライダルがチェスターへ抱く感情は、実父との重ね合わせと思われる。
コレットへの思慕が従妹つながりなのでエディコンの変化球かもしれない、
ハイスミスはやはりへそまがりである。
ネタバレになるが、中ほどでコレット退場、3人のかけひきが見られなくなる。
つづきはダラダラと引き締めを欠く印象だった。
終い、チェスターが示すライダルへの温情は不要と感じた。
邦題「ギリシャに消えた嘘」でソフトが出ている。

※写真・自己紹介はデタラメ、無視して下さい
殺意の迷宮 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:殺意の迷宮 (創元推理文庫)より
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No.3:
(4pt)

クラシック文学とノワール小説の邂逅

アテネに滞在していたアメリカ人青年ライダル・キーナーは、自分の父親そっくりの男チェスター・マクファーランドを見かける。興味を持ってチェスターをつけたライダルは、アメリカで詐欺を働き追われる身であったチェスターがギリシャ人警察官を殺してしまった現場に遭遇する。そこでライダルは、チェスターと彼の妻コレットの逃亡の手助けをすると申し出て。

原題は、"The Two Faces of January”(1964)。著者はアメリカの作家パトリシア・ハイスミス(1921 - 1995)。
本書は心理描写が秀逸なサスペンスだが、著者自身がどこかで「自分はミステリーもサスペンスも書いているつもりはない」と言っていたように、ジャンルものとしての「サスペンス」を期待すると少しがっかりするかもしれない。現代的なエンタメ性あふれるサスペンス小説を読みなれていると、心理描写や風景描写が詳細すぎるように感じられるし、ジェットコースターな展開でもないので退屈に思われる可能性があるからだ。
どちらかと言えば、クラシック文学にノワール小説のエッセンスを足した小説と言うべき作品であるように思う。

そうした点で本書の雰囲気は(本書はミステリーではないが)、著者とほぼ同時代を生きたハードボイド作家ロス・マクドナルド(1915 - 1983)の諸作品に似ている。マクドナルドと同様、精神分析学的な視点からアメリカ型家族の愛憎劇が描かれるのも近しいものを感じる。
たしかに本作中のキーナーとチェスターは血縁ではまったくない。だが、支配的な父から逃げ続けてきたキーナーが、父の面影を見出したチェスターとの対峙をとおして、自らを抑圧する者としての象徴的な「父」に打ち勝とうとする。こうしたキャラクターの心理のなかに、擬似的な父と息子の相克が生じているのだ。
しかし著者はそこに神話的要素をくわえることで物語をさらに多層的にしている。それは、キーナーとチェスターの緊張関係がついに決壊する地クノッソスにまつわる神話だ。すなわち、ミノス王が欲に眼がくらみ神との約束を違えたため、彼の妃が彼自身とは血のつながりを持たない鬼子ミノタウルスを生んでしまい、ミノス王がミノタウルスをラビリントゥス(迷宮)に閉じ込める、という物語である。この神話でも血縁関係ではない父と息子の軋轢が描かれている。そうした神話を援用することで著者は物語に厚みを持たせているのだ。

また本書では、三人称形式でキーナー、チェスター、コレットの三人だけで物語が進む。そのなかで、男二人のどちらにもに色目を使い、彼らのあいだの諍いを誘発するコレットは、ノワール小説の典型的な「宿命の女(ファム・ファタール)」のように思われる。そうした女性像はフェミニズム批評ではかっこうの餌食となるが、それゆえ、はじめ女性作家がこれを書いたのが驚きだった。
しかし読み進めていくうち、それは勘違いだったと気づく。たしかにコレットは貞操観念に “ゆるい” ところはあるけれど、実際には、男二人がコレットに対する過剰な恋慕から嫉妬心を抱き、互いに憎しみを増長させているだけだからだ。
本書では男二人の心理描写は詳述される一方、彼らを虜にし対立を煽るコレットの描写じたいは彼らの眼をとおしてしか説明されない。三人称という「神」の視点から語られているにもかかわらず、彼女の心理は二人の男の推測から判断しうるだけで、彼女の真意を語ることは巧妙に避けられている。コレットは記号的な「悪女」のように装わされているだけで、本当に「悪女」なのか明言されることはないのだ。
ノワール小説のなかで物語最大の動因となる「宿命の女」の形式的な役割をコレットに背負わせながらも、キャラクター造形において彼女を実質的な「宿命の女」としては未決のままにする。まるで「宿命の女」とは男の女への独断的なまなざしが生みだした存在にほかならないことを、あえて男のまなざしを借りてなぞることで浮き彫りにしているように見える。こうした描き方は、フェミニズムが一般化した現代であればいざ知らず、半世紀も前では女性でなければ難しかっただろう。

結末は少し「情」に流れすぎる嫌いがあって、自分のなかでは納得しづらい。人間の心の機微なんて合理的に説明がつかないとしても、それを説得的に描写することにこそ小説家としての力量が問われるはずだ。その点では少しツメが甘い気がした。
殺意の迷宮 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:殺意の迷宮 (創元推理文庫)より
4488224032
No.2:
(4pt)

20年前の作品とは思えないぐらい、非常にモダンなサスペンス

これは、なかなか面白かったです。
今週から上映される映画の原作ということで、新装の帯書が目につき、手に取りましたが、20年前の作品とは思えないぐらい、非常にモダンなサスペンスだと思います。

登場人物が誰も彼も、考え方、行動があまりに身勝手、自己中心的さらには楽観的で、それがために先行きの展開が全く読めません。
 
ストーリーの冒頭では、打算、保身のために、少しばかりは相手を信用して、グルになって、行動する。
時間がたつにつれ、あらぬ疑念がドンドン沸き起こり、ついには殺意を持つまでにいたる。
 
この、登場人物の心理の移り変わりがリアルに描かれているさま、このストーリーに最も強く引き込まれたところです。
 
また、ギリシャを主な舞台として展開しますが、ギリシャのお国柄、登場人物たちが滞在する地域の状況が克明に描かれています。
(宿泊施設の様子の記述がこだわりを感じるほど細やかだったことが、妙に印象に残りました))
また、出身地や生い立ちを踏まえて、登場人物が皆、非常に「伝わる」キャラクタ設定がされています。
 
舞台設定のリアルさ、緊迫感を高める時間経過の書かれ方、登場人物の奇妙なまでの、行動・心理が絶妙なコントラストを為していたと思います。
殺意の迷宮 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:殺意の迷宮 (創元推理文庫)より
4488224032
No.1:
(4pt)

ハイスミスらしさ

ハイスミス・らしい、ハイスミスにしか描けない人物像。矛盾すれすれになりそうな心理描写を、巧みに説得力のあるものにしている。「人間が考えることなんて、このように不確かで不安定なものなのだ」と教えてくれる。犯罪小説は理屈の成り立つ心理→行動、と言う事によって成り立つことが多いが、『殺意の迷宮』を読めばその方がよっぽど不自然なことのようにも思えてくる。ハイスミスにしか書けない種類の、とは言ってもやはりミステリである。犯罪が出てくるからという理由ではなく、何をがこの世で最もミステリな存在なのか、という理由で。

トム・リプリーは犯罪小説の主人公にしては、いささか不可思議な存在にも思えるのに、しかしリアリティを持ってそんな謎を(ユーモアを交えつつ)読み手に迫ってくる希有な小説上の人物であり、この小説からも享受できる人間の謎について読み手が迫る事を手助けしてくれる、ハイスミスの結晶だ。この小説の、ライダル、チェスターも同様である。

(これはリプリー・シリーズではありません)
殺意の迷宮 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:殺意の迷宮 (創元推理文庫)より
4488224032

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