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審判



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審判の評価: 4.31/5点 レビュー 49件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.31pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全49件 1~20 1/3ページ
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No.49:
(5pt)

レビュー必要なしの名作。

若い人にはピンとこないだろうが、2000年ぐらいから翻訳の質が1段あがったのではないかと思います。それに比例するようにさまざまな作家の作品が新たに訳しなおされたり、全集や選集が次々に出版されたのです。例えばボルヘスやナボコフといった偉大な作家。それに日本ではあまり知られていなかったペソアといったところ、そのようななかでの池内紀の手によるカフカ小説全集。今年没後100年と云うことでいくつかの企画があるようだが、全体的にみればいささかさみしい感じ。そこで本書を選びたい。20年近く経って書名も「訴訟」として、私の見た限りでも2冊でているようだが、私はかわない。池内訳には迫っていないのだ。今本書を手にするのは単なる懐古趣味ではない。ますます重要になってくるカフカの小説のなかでも本作は核心をついているのだ。改めてUブックス版で購入して思いを強くした。なお付言するなら岩波版の「審判」もおすすめしたい。それに岩波文庫には2冊の池内編訳の短編集もあるので、なお良い。
審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.48:
(5pt)

フランツ・カフカは、読み手を困惑させることに無上の喜びを感じるトリックスターだ――『審判』と『城』を読み終えた私の結論

『審判』(フランツ・カフカ著、中野孝次訳、新潮文庫)は、フランツ・カフカの未完に終わった長篇小説です。書名は『訴訟』と訳されることもあります。

主人公の30歳の大銀行の業務主任ヨーゼフ・Kは、ある朝、突然、理由が分からないまま逮捕され、裁判で勝利を収めようとあれこれ奔走するが、結局、犬のように処刑されてしまいます。

この作品は、<だれかがヨーゼフ・Kを中傷したに違いなかった。なぜなら、なにも悪いことをした覚えはないのにある朝逮捕されたからである>と始まり、<一度も見たことのない裁判官はいったいどこにいるのだ? おれがついに行きつけなかった上級裁判所はどこにあるのだ? 彼は両手をあげ、全部の指をひろげた。しかしKの喉には一人の男の両手がおかれ、もう一人の男は包丁を彼の心臓に深く突き刺し、二度それをえぐった。かすんでゆく目でKはなお、男たちが彼のすぐ前で、頬と頬をよせ、最後の結末を見守っているのを見た。『犬のようだ!』、と彼は言った。恥辱だけが生き残るように思われた>と結ばれています。

謎が多く、難解とされるカフカの作品は、これまで世界中の多くの識者によって論じられてきました。上級裁判所や城は近づき難い神の象徴だ、精力的で現実的な商人である父に対する抵抗の書だ、書全体がユダヤ人としての疎外感・不安感に包まれている、そして、これぞこの世の不条理を描いた作品だ――等々、さまざまな解釈が提出されてきました。

ところが、『審判』と『城』を読み終えた私の印象は、これらとは異なります。カフカは、読み手を困惑させることに無上の喜びを感じるトリックスターだというのが、私の乱暴な結論です。

<要するに私は、読者である我々を大いに刺激するような書物だけを読むべきだと思うのだ。我々の読んでいる本が、頭をぶん殴られた時のように我々を揺り動かし目覚めさせるものでないとしたら、一体全体、何でそんなものをわざわざ読む必要があるというのか? 君が言うように、我々を幸福にしてくれるからというのか? おい君、本などなくても我々は同じように幸福なのさ。我々を幸福にしてくれる本なんて、困った時に自分たちで書けばよい。本当に必要なのは、ものすごく大変な痛々しいまでの不幸、自分以上に愛している人物の死のように我々を打ちのめす本、人間の住んでいる場所から遠く離れた森へ追放されて自殺する時のようなそんな気持ちを抱かせる本なのだ。書物とは、我々の内にある凍った海原を突き刺す斧でなければならないのだ、そう僕は信じている>。1904年、友人オスカー・ポラックに宛てた書簡の中に、カフカはこのように記しています。

<(現在のわたしは)自分の才能の命ずるままに、不幸とはなんのつながりもないあれこれの意匠をこらしながら、あるいは虚心坦懐に、あるいは逆説を弄して、さらにはまた、観念連合による完璧な交響楽的構成を意図して、自由自在にこのような主題について即興的なでっち上げをすることができるようになっているのである>。1917年の日記に、カフカ自身がこう書きつけています。

<カフカは、とくに意図して自分の思想を表現しようとする時には、かならずひとつひとつの言葉に罠をしかけたからである(つまり彼は、さまざまの危険な構築をくみ上げたのだ。すなわち、そこでは、それぞれの言葉が、論理的に配置されていず、一語が一語の上へとつみ重ねられているので、まるでただひとを驚かし、当惑させることだけをねらっているかのように、また、作者自身だけを相手に話をしているかのように、まったく飽くこともしらずに、意想外から錯乱へと縦横にとびまわっているのである)>。ジョルジュ・バタイユは、カフカをこう評しています。

カフカの読者を戸惑わせるという目的が、目論見どおりに実現していることは、カフカの作品の意図を探ろうという論争が今なお繰り広げられていることに照らして明らかでしょう。
審判 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (新潮文庫)より
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No.47:
(4pt)

きれいな本です。・

きれいな本です。
審判 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (岩波文庫)より
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No.46:
(5pt)

審判──訴訟

読んでいる最中はちょっと読みにくいなと感じていましたが
読後にいろんな場面の映像が強烈によみがえってきました。
印象的でなかった場面ですらなぜか記憶に残っていて
読み終わってから少し経ってからのほうがおもしろかったなと思うようになりました。

理屈や理由など考えずただ黙々と読み進めていかないと本から振り落とされ
いったい何の話を読んでいるのかわからなくなると思いますが、
そのうち文字をたどるだけでもおもしろくなってきます。
どこのページでもカフカらしい不気味さやシュールな笑いが広がっています。
訴訟や裁判なんて一般人にはわけがわからない姿をコミカルに描いてくれています。
他の人の訳だと印象が変わるようなのでそれも楽しみです。
審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.45:
(5pt)

実はフェーメ裁判がモデル

本作を初めて読んだときは、世論の理不尽なバッシングに関しての寓話かと思っていたが、最近になって聖フェーメ団のことを知り、全く別の解釈が成り立つことに気付いた。
 聖フェーメ団とはドイツに実在した秘密警察的な組織のことで、独自の裁判権を持ち、彼らが有罪とした者は、名前の分からない十字路に出頭を命じられ、真夜中の十二時に判決が下されるために、目隠しをされ、黒衣の男に集会に連れていかれる。
 そこは広い地下室で、一人の声による尋問を受け、目隠しを解かれるよ、隅々まで照らされた部屋に、自由判事が覆面をして座っている。
 彼らの判決には無罪か死刑かしかなく、有罪を受けたものは判決文の抜粋が付けられた十字架の短剣を突き刺されて路上に遺棄されるのだという。
 まるでオカルトのようだが、本当に存在した組織らしい。
 まさに本作の描写とそっくりである。
 この秘密結社は772年にカール大帝により制定されたと、ウェストファーレン地方の古い記録にあり、1371年には皇帝カール4世により正式に司法権を認められ、1404年に国王ロバートが改訂。
 1811年にナポレオンのドイツ侵攻によって消滅した。
 カール大帝や国王ロバートなど、外国の君主が出てくるのは箔を付けるための嘘の可能性が高いが、無政府状態だったウェストファリア地方に生まれた自衛団のような組織に、カール四世が許可を与えたのは事実だという。
 一体カフカは何を思ってこの聖フェーメ団をモデルに、しかもその存在は隠しながら小説を書いたのだろう?
 それは当時残っていた都市伝説的な話から着想を得ただけなのか、ひょっとすると当時のドイツには、まだ聖フェーメ団が生き残って、非公式の活動を行っていたのだろうか?
 おそらく当時の権力者が、過去にいたこの組織の、尾ひれが付いた噂話を利用して、邪魔者の暗殺か、民衆への扇動、集団ストーカーの嫌がらせを行っていたのだろう。
 そもそも最初は自警団的な組織だったとして、時代が下るとシカリ派やアサシン教団の噂から触発された皇帝の私的な暗殺部隊として利用されていた可能性もある。
 彼らから処刑された者たちは、乱交をしたとか山賊の頭領だとかレッテルを張られたが、そんな山賊の頭領が律義に召喚令状に応じるはずもなく、裁判自体も完全な密室裁判だったことからも、その審判はデマなどの集団心理に左右されやすいと考えられ、ただ単に邪魔な政敵を葬る道具として利用されていた可能性も高い。
 陰謀論では、この聖フェーメ団こそ、ナチスのトゥーレ協会の前身となった組織だとされている場合がある。
 実際にナチスの一部や、東ドイツと戦う反共レジスタンスの中には、騎士道的聖フェーメ団の伝統を引いていると主張する者がいたという。
 ちなみにカフカの居たプラハも『千の奇跡と無数の恐怖の街』と呼ばれた世界三大魔術都市の一つである。
 ルドルフ二世が魔術にド嵌りして、多くの錬金術師のパトロンとなり、それが経済活動を制限されていたユダヤ人にとっての貴重な収入源となっていた為だという。
 カフカの作品は、そうしたオカルト的な素養と切っても切り離せないのである。
審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:審判―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.44:
(3pt)

カフカの絶望

文字が小さくて読みづらいが、カフカの傑作をご堪能あれ
審判 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (岩波文庫)より
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No.43:
(4pt)

カフカに見る「常識は相対である」という視座

本作は、『城』『アメリカ』とともに「カフカ未完の長編三部作」の一作です。

未完であることに加え、カフカ作品特有の「迷宮的作品世界」という特徴も相まって、話の展開や結論を求めて読み進めても残念ながら通常の意味ではそれは得られません。

主人公の置かれた世界は、「常識の転倒した世界」であると言えます。
主人公の持つ一切の常識や培ってきた能力が、役に立たないどころかまるで問題にもされないという不条理の世界です。

そのような世界の中にありながらも、主人公は自分の常識を疑うことを知りません。
これは周りの世界も然りで、両者は最後まで相容れることがありません。

転倒しているのは自分かそれとも周囲か、そんな疑問を抱くことにすら及ばず、従って歩みよりも全くない、文字通りの並行性です。

この点、例えば異なる常識が対面する作品の一つであるスウィフト『ガリヴァー旅行記』とは非常に対照的と言えます。

あくまで私の私見ですが、思うに、常識とは解釈と価値判断の掛け合わせです。
解釈及び価値判断というものは相対的なもの、つまりは、ある解釈や価値判断は他のそれらとの比較において初めてその特性が浮かび上がる性質のものだと考えます。
私達の普段の生活においては、このことを身の危険を伴う形で思い知ることはなかなかありません。

カフカの作品の魅力は、リアリティを伴って読者に迫ってくる点にあると感じます。
この作品で言えば、読後、自身のの常識(解釈と価値判断)を疑い、また世界観を疑わさせられるほど、読者をある種の不安に誘ってきます。

相対性とは、「見方を変えれば」という「視座」の観点と密接に関係します。

カフカの作品からいつも教えられるのは、常識が解釈と価値判断であるということの奥にある、「視座」の相対性という問題意識です。
審判 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (岩波文庫)より
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No.42:
(2pt)

楽しく読める人が羨ましい

もともと未完の作品というせいもあるかもしれませんが、カフカの本は好き嫌いが分かれると思うんですよね。

特にこの小説は各章が独立した断片のようで、一つ一つの章が物語の終結にどう関係するのか、特定の登場人物が他の人物にどう影響を与えるのか、物語全体として一貫したスジが通っているのか、それとも繰り返し感じる不安こそがこの小説のキモなのか……私は結局最後まで理解できないままでした。

ぼんやりと、うやむやなまま進んで行き、最後は主人公が……。
結末として、全体として、いったいなんのメタファーなのでしょう?
好きな人からすれば、この不気味さが“カフカ的”らしいですが、私にはどの辺が面白いのかいまいちわかりません。
今も名を遺す名作のひとつとして、読んで損はないと思いますが、楽しめるかどうかは人を選ぶといった印象です。
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No.41:
(4pt)

人間と神との関係を問うた書かも。

難解で不条理な作品とされるが、どんどん引き込まれて読んでしまう。不条理が不合理という意味なら、本作はそんなことはない。ただし「大寺院」までである。 ヨーゼフ・Kの罪とは何なのか、読者には明かされない。その罪とは、訴追されれば「真の無罪」になることは無いが、「偽りの無罪の獲得」や「裁判の引き延ばし」でかわすことができるというのだ。多くの同罪の人々はそうしていると。ヨーゼフ・Kはそんなまやかしを嫌い正面から戦うという。大寺院で、帰ろうとするヨーゼフ・Kを裁判所の人(裁判官?)が大声でその名を呼んだ!いったいどんな解決がしめされるのだろう。。。ヨーゼフ・Kの罪とは何なのか、本人と周囲の人々は知っているようである。知ってはいるが口には出せないこと。つまり神に対する罪ではないかと思われる。とすれば普通の裁判所で裁かれることではない。確かに描かれている下級?裁判所は屋根裏にあったりする?上級裁判所はどこにあるかわからないとしている。裏返せばどこにでもあるのかもしれない。つまり神と。。。
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No.40:
(5pt)

「死」こそ最大の不条理(理由が全く分からないで襲ってくるもの)

この小説を社会的存在としての人間の有様に着目する解釈も出来ようが、
実のところは、このKという人物の描写を通じて、「死すべき存在」としての、あらゆる人間の根本的恐怖や根本的不安をカフカは表現したのではないかと、私は最近感じている。
身近な人の死が現実になると、切実に、人間というのは(あらゆる生物を含めるが)、「死」に脅かされながら、日常を営んでいるなと思わされるのである。
そういう、本来、脆弱な人間という存在を、『審判』という作品において、極めてシュールなのだが、極めて現実的にカフカは描いたのである。
どうも、私は「死」を仏教的に解釈して平穏を掴もうとする姿勢、死後の世界を信じ、神の愛や試練を信じるキリスト教的姿勢は、頭ではわかるのだが、骨の髄までは感得できないのだ。
カフカもおそらく、死を宗教的達観で乗り切ろうとしてもできなかったのではないかと思うし、ふつうの人はそうだろう。カフカはなぜ私は(もしくは「存在」そのものは)死ななければならないのかと、何者か(「神」ではない何者か)に強烈に問い続けながら、「死」との闘いを止めなかった。そういう過程を小説で表したと、私は思うのである。
審判 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (岩波文庫)より
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No.39:
(5pt)

理不尽な仕打ちを受けてモヤモヤしている誰かへ

"『犬のようにくたばる!』Kは云った。屈辱が、生き残っていくような気がした"日本で初めて著者の本として翻訳された本書は突然逮捕された銀行員Kの果てなく、そして報われない問答が続く理不尽さがかえって様々な余韻を残してくれる。

個人的には【変身】以外に初めて読む著者の、しかも未完の作品ではあったが、なるほど確かに【幻想的な描写】がシュールレアリスムや、ラテンアメリカ文学のマジックリアリズムに与えた影響を感じたり。あるいは『無実なのに逮捕される』その設定そのものにKの語り自体を『信頼できない語り手』として捉えるべきでは?とかを考えたりさせられました。

日常で理不尽な仕打ちを受けてモヤモヤしている誰か、あるいは著者にとって未完であっても他者の手によって編集された【物語】の是非を考えたい誰かにもオススメ。
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No.38:
(5pt)

理不尽な仕打ちを受けてモヤモヤしている誰かへ

"『犬のようにくたばる!』Kは云った。屈辱が、生き残っていくような気がした"日本で初めて著者の本として翻訳された本書は突然逮捕された銀行員Kの果てなく、そして報われない問答が続く理不尽さがかえって様々な余韻を残してくれる。

個人的には【変身】以外に初めて読む著者の、しかも未完の作品ではあったが、なるほど確かに【幻想的な描写】がシュールレアリスムや、ラテンアメリカ文学のマジックリアリズムに与えた影響を感じたり。あるいは『無実なのに逮捕される』その設定そのものにKの語り自体を『信頼できない語り手』として捉えるべきでは?とかを考えたりさせられました。

日常で理不尽な仕打ちを受けてモヤモヤしている誰か、あるいは著者にとって未完であっても他者の手によって編集された【物語】の是非を考えたい誰かにもオススメ。
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No.37:
(5pt)

じわじわと襲ってくる不安と絶望

どう考えても逮捕される理由など一つも思いつかない平凡なサラリーマンKが、ある朝突然自宅に押しかけた監視人の男たちに逮捕される。「変身」と同様、カフカの小説は意味や根拠といったものをごっそり欠落させたまま話が進んでいく。

平易な文章にも関わらず読むのに苦痛を感じるのは登場人物たちの退屈極まる話と言葉の空々しさによるものかもしれない。その空々しさは、第1章から第10章まで(付録も2つある)のうち、第7章の弁護士の話まで続く(ここで小説全体の半分くらい)。

それまでの各章の内容は、睡眠中に見る夢をリアルに言語化された世界を見ているようで、しかもそれぞれの章に有機的なつながりを見いだせず、突然場面が切り替わるような訳の分からない感覚があった。がしかし、それらを前提として第7章の画家の話あたりからこの物語が他人事ではなくなり、読む側にもじわじわと不安がにじり寄ってくる恐ろしさと緊張を強いられることになった。

自分たちの周りに幾重にも張り巡らされた得体の知れない巧妙な“仕掛け”が、大きく黒い翼で世の中を覆っているような不気味さ、その仕掛けがシステムだとして人がシステムに監視されているとしても、システム自体を監視するもの、あるいは疑問を持つものが存在しないという無防備さ、のみならず保身を優先するあまり、自分の中に持つ無防備なシステムによって自分の罪悪にすら気づこうとせず、決定を引き延ばすことしか考えない人間のずるさと愚かさ。Kは“何かをしているフリをすること”が人間の本質ではないことが分かっていながら、不安と絶望に苛まれて不気味な仕掛けに力を奪われていく。混沌とした時代の中におけるK(カフカ自身)の、相当な精神的葛藤を思わずにはいられない。

第9章に出てくる教誨師は、あの脳裏に刻まれる究極の短編「掟の門」の解釈の困難さを説明している。あまりの斬新さと複雑さに頭がクラクラしたが、奇妙な騙し絵の連続のようなこの作品では、巨大な仕掛けから戦うことによって逃れることの困難さ、ひいては自分自身から逃れることの困難さを示唆しているように思える。

出口なし。希望なし。戦うか、踏みとどまるか。

カミュの「異邦人」における”不条理”と通じるところもあり、非常に斬新であると同時に普遍性もあり、類似性のない独特のな魅力を放つ作品だと思います。
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No.36:
(5pt)

深遠の極致。ただし,言われてるよりは,謎解き可能では?

「小説」というジャンルの一つの極致。ストーリー全体は奇妙奇天烈なのに,半径1mくらいの範囲では妙なリアリティーがあり,主人公の心理描写はさらにリアルで,イタいくらい。世界の深遠を覗くような凄みが有るのに,あちこちが妙にコミカル。『ビジュアルバム』など全盛期の松本人志にも通じる笑いだが,カフカを読むと,逆に松本が ぬるく感じられるようになる。

ただし, 私には,カフカ自身は意外としっかり「裏設定」を決めた上で書いている気がしてならない。

作中の「謎の裁判所」の出先の事務所は,殆ど全ての住宅の屋根裏に存在しているとされ,その内部は時空が歪んでいる様に描写される。この「裏世界」に不慣れな主人公 K. は,そこの空気を長く吸うと倒れそうになる。逆に,裏世界の住人は,外の通常の空気は苦手のようだ。一部,表と裏の世界を行き来する者は,手の指に水かきが付いたり,足に障害があったり,と言った特徴を持つ。現代日本人から見ると,特撮ドラマのエイリアンのようである。

現代哲学では「シミュレーション仮説」と言うのが有るが(Wiki参照),計算機の発明の遥か前に,天才カフカは似た着想を得ていたのではないか?謎の裁判組織に属する連中は,オンラインRPGで言うところの,「運営(が動かすキャラクター)」に近いイメージで設定されているように思える。
実際,あちこちに伏線らしきものが張られており, たとえば,「家具としてのベッド,特に壁際に置かれたベッド」には,何がしかの意味が有る筈。これらを丁寧に読み解いていけば,ある程度までは謎が解けそう (作品の底が浅いと言ってるのではなく,表面のミステリ的な要素は,意外にちゃんと解けるのでは,と言うこと。)
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No.35:
(4pt)

理不尽、恐怖、もやもやが心を揺さぶる!?

何でしょう…好きな人は読んで下さい。としか言いようがいいようがないですかね、カフカは。読んでスッキリもしないし、涙が出るような感動もない。でも、こういうものが描けるのって凄いと思うんです。トーマスマンとか、ドストエフスキーとかに比べれば、まだ気軽に楽しめるのではないかと思います。「変身」とか「審判」を読んでみて、ハマった人は次の作品を。ハマらなかった人はもうやめた方がいいと思います。
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4102071040
No.34:
(4pt)

文体は読みやすい‼︎

まだ最後まで読んでないのだが…。

最近 、大学生にもなるし、本を読なきゃっ‼︎と思い始め、取り敢えず失敗のない岩波から読み始めた。恥ずかしながら、あまり読書習慣が身に付いていないため自分のとっかかりやすい恋愛モノや比較的読みやすい文体のものから読んでいる。
内容が面白そうだったので、カフカの「審判」を手に取った。 文体は易しいが、内容はやはり難しい。しかし、Kに同調して読んでいると思うと、不意に「おい、K。それは変だし、おかしいだろ。気づけよっ‼︎」とツッコミたくなり、物語から少し離れた位置から見ることがでいる。これを繰り返しながら読み進めている。この自分のリズムが、Kのどんどん追い込まれていく様が面白いほどみてとれて、自分的には楽しい。

様々な読み方があり、「確かにそうかもな…」と考えさせられる。ナチスを予見していた、とあるが確かにそうとも言えるし違うのかもしれない。
最近思うのは、本をもっと楽しむには様々に知識がないとダメだということだ。

この本が読み終わったら、歴史・哲学など様々な本を読んで、自分の視野を広げてからまた読み直したいと思う。
審判 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (岩波文庫)より
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No.33:
(3pt)

作品はいいが最近の岩波文庫は価格が高すぎる

気に入ってる作品の一つなので文庫版で購入しました。(2009年に)今手元にあるのは600円、アマゾンの2016年9月の価格は926円。年数がたつとかなり変色する紙質の割にお高いですね。私の学生時には大量の岩波文庫を購入して読んだものでしたが、現在の価格設定だと今の若い学生さんは買わずに済ませるでしょうね。
審判 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (岩波文庫)より
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No.32:
(5pt)

「いつわりが世の秩序に成り上がった」

『審判』はカフカの小説のなかでも抜群に面白いし、重要度が高い作品だと思います。自分の無実を主張するために奮闘するKの性格がとても主人公らしいし、役人の腐敗が率直に批判される場面もあります。カフカの小説は抽象的でつかみどころがないものが多いのですが、『審判』は物語らしい体裁が整っているし主題を読み取りやすいと思いました。

主人公のヨーゼフ・Kは罪を犯した覚えがないのに、逮捕されて裁判の被告になってしまいます。Kは自分が訴えられた理由を探ったり、協力者を探したりします。しかし、どんなに頑張っても自分のどこに非があるのかわからないし、協力者の助けを得るのにもたびたび失敗します。いかにもカフカらしく不毛な行為が延々と続く物語ですが、Kの日常が徐々に歪んでいくところにスリルがあるので面白く読めると思います。誰も面と向かってKのどこが悪いのかを具体的に言おうとしないところに、妙な生々しさを感じました。

Kのように善良で潔白なはずの人間が裁かれることは、残念ながら現実の世界でも起こりうることだと思います。腐敗した法律や政治、大衆の誤った判断によって善人が処刑されることは、理不尽でも実際にありうることでしょう。何も悪いことをしていないのに酷い仕打ちを受けたり、自分にはよくわからない理由で人々に煙たがられたりしたことがある人なら、この小説の内容に案外すんなりと共感できるのではないでしょうか。
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4560071543
No.31:
(5pt)

カフカ「審判」

近くの本屋には同作者の「変身」と「城」
しかなく困っていたので重宝しています。
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4560071543
No.30:
(5pt)

裁くのは俺のスタンドだ!!

この小説は我々における認知の問題及びそこから導き出される行動の不条理性の問題を考える上での金字塔となる作品であると私は考える。

主人公のヨーゼフ・Kは急にかけられる裁判、好意をよせるビュルストナー夫人、仕事仲間の銀行の同僚など様々な要素に自分が認知しえぬ水面下の動きが存在することを感じ取る。そんな中で誰もKには本当のことは言わずに漠然とした不安のみが募っていく。(このような問題は現代において特に顕著な問題と言える。)

そして、第9章において掟の門の話が出てくるわけであるが、ここでは我々の認知とは本質的に錯誤であることが語られる。我々は親の心情すら本当は知りはしないのだということを思い知らされる。そして、掟の門の前でその門を通るのは自分だけだと語られる。すなわち、人は自らを掟に基づき人を裁くということである。その門を通ることは当然のことながら自分にしかできない。

この世界の人間すべてが自分の掟を真実と錯覚し人を裁く。私はこの小説のこのようなメッセージにこの世の不条理の根源を見た。
審判 (岩波文庫)Amazon書評・レビュー:審判 (岩波文庫)より
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