失踪者
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
失踪者の総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
最近ようやく「失踪者」(元は「アメリカ」と呼ばれていた)を読み、へえ、カフカって人もまともな小説を書こうとしたことがあったのだな、と一瞬思った。 主人公はカール・ロマンスという十七歳のドイツ人。女性から「可愛いわね」と何度か言われるところからすると、美少年らしい。おかげで、三十代の女中に誘惑されて、孕ませてしまい、両親に家を追い出されて、アメリカへ赴く。カフカ自身はこの新大陸へ行ったことは一度もなく、従ってこの地の描写は読んだり聞いたりしたことから作者がこしらえたものだが、かなりのリアイティを感じさせるのはやはり才能と言うべきだろうか。 ここで主人公はしょっちゅういさかいばかり起す。招待されて行った銀行家の邸宅では、そこの令嬢と取っ組み合いの喧嘩さえして、しかも負けている(もっとも、勝っていたら、若い女性に暴力を揮ったということで、もっとやっかいなことになっていたろう)。 そんなこんなで、彼はやっと落ち着いたかな、と思えた場所から必ず追い出される。最後に調理長(女性)の好意で就けたホテルのエレベーター・ボーイの職も逐われる。この部分の筋立ては、濡れ衣を着せられる話で、その経緯はちゃんとわかるように描かれている。 だから主人公に感情移入しやすいのだが、この作品中の男性たちは、非人間的なまでに厳しく、自分のルールを一方的にカール君に押しつけてきて、しまいには彼を捨ててしまうので、どうも幸福な結末は見えてこない。 カフカは、チャールズ・ディケンズ「ディビッド・コパフィールド」のような小説が書きたい、と友人のマックス・ブロートに言っていたらしい。これに限らず「オリヴァー・ツイスト」や「大いなる遺産」など、ディケンズの青少年主人公の周りには、悪人も出てくるが、それ以上に親切な人々がいて、主人公を助けるので、彼らは最後には幸せになる。 どうも都合がよすぎる、いわゆるご都合主義だ、なんて言うのは野暮というもの、それはそういうフィクション(作り事)として楽しむしかない。 カフカは、読むときはそれでいいとして、自分では書けなかった。才能より、世界観の問題として。だからカール君は、しまいには広大なアメリカ大陸の中で、失踪してしまう、つまり、一定の結末にたどりつく前に消えてしまう。 さらに言うと、近代の長編小説は、ハッピー・エンドではなくても、首尾一貫した世界を、言葉で構築するものだ。なになにという男/女がいて、かれこれやって、これこれの結末に至る、と。小説だけではなく、一般人でも、自分の体験を人に説明するように求められた時には、嘘をつくつもりはなくても、できごとを取捨選択して、整理して言うので、「事実」とは微妙に違った何かになってしまう。そこまで踏み込むと収拾がつかなくなるので、やめよう。 とりあえず、バルザックを初めとするリアリズムの大作家たちは、自分から見た世界とは例えばこういうものだ、という雛形を示して見せた。それがどの程度に「事実」に基づくか、作家の頭の中でこしらえたものかは、二次的以下の問題でしかない。ただ、物語全体が、必然性、と感じられるものに貫かれていないと、文字通り話にならない。 言い換えると、小説とは、普段は現実世界に埋没している一般人に、ある「見通し」を与えるものだと言えるだろう。この場合、作者はいわば神の視点に立つわけで、それ自体が欺瞞と言えば欺瞞だ。なんて言うと前と同じ野暮になる。イヤなら読まなければいいだけの話なんだし。 でも、自分ではそんな見通しは持てない、と思いつつ、読むだけに止まらず、物語めいたものを書こうとするとどうなるか。 その一つの実践例が、カフカの三つの長編小説(これを「孤独の三部作」と命名したのは例によってブロート)で、すべて未完になるしかなかった。 カフカは、この世は不当で不条理な権力構造に支配されているけれど、正当な秩序を与え、善と悪の根拠を、罪と罰の真の照応を、さらには救済をもたらす何か(やっぱりベースはユダヤ教かなあ)はあると信じた、あるいは信じたがっていた。「失踪者」含めて、彼の長編の試みは、すべてこの信念の表白なのである | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ロードノベルのような体裁のおかげでカフカの長編作品の中でも 読みやすくとても楽しく読める作品です。 移動が多いのでわくわくする展開が非常に多いです。 一章の火夫からカフカ特有のすばらしくうまい孤独の描写が始まり、 アメリカに到着して客が下りたあとの船内の空気がすっと変わる瞬間は圧巻です。 どこにいても主人公には不安と孤独が付きまとい、 シュールな笑いとグロテスクな人びとや不穏な気配の描写があります。 他の小説にも出てくるようなコミカルな登場人物も顕在で この失踪者にもやはり二人組が出てきます。 失踪者も例にもれずカフカでは当然のような未完の作品ですが、 そんなものまったく気にならず最後まで楽しく読めてしまいます。 カフカの作品はオチなどより、読んでいる瞬間がとても楽しいです。 まだ読みたい、まだ読んでいたいと思っているうちにいつの間にか最後のページになり、 読後も物語はいつまでも続いているような不思議に高揚する気持ちにさせてくれます。 とても好きな作品です。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
"カール・ロスマンは、いましも汽船が速力を落としてゆるゆるとニューヨークの港に入って行ったとき、ずっと前から目をそそいでいた自由の女神の像がとつぜん一段とつよくなった日光にまぶしく照らし出されたような気がしたものだ。"1927年発刊の本書は『孤独の三部作』中、最も具体的な物語。 個人的には著者の長編、いわゆる『孤独の三部作』のうち『審判』『城』は既読であったので、マックス・ブロート刊行時『アメリカ』、現在は著者の予定していた『失踪者』と呼ばれる本書も手にとってみました。 さて、そんな本書は著者の実際の【従兄弟のエピソードに着想を得て書かれた作品で】年上の女中に誘惑されたばかりに、両親にやっかいばらいにされた16歳の美少年、カール・ロスマンが故国ドイツから未知なる新世界アメリカへと渡る事になり、ニューヨークの裕福な叔父にしばらく面倒をみてもらうも一転、何とも【不可解な理由で追い出されて】放浪の旅を続けることになってしまうのですが。。 まず、他の二作『審判』や『城』あるいは『変身』といった他の代表作のイメージから、同じく【抽象的、明確に語られない世界観】かと思いきや、著者が【ディケンズ風のロマン小説(!)を書こうと意識した】とも言われる本書。映画タイタニックを何故か彷彿とさせるような、いかにも"新世界で冒険が始まるぞ!"という冒頭からの現実的な描写、また、他の長編二作の『記号的なK』に対して【善良で正義感溢れる】理想的な主人公カール・ロスマンといった主人公の人物設定には戸惑いと、率直に言えば(自分の求めている)【カフカ作品はコレじゃない】と強烈な違和感を感じました。 また一方で、せっかく他の長編二作にくらべて、理想的であり古典的でもある主人公を登場させているにも関わらず【取り巻く登場人物に関してはやはりカフカエスク(不条理)】で、主人公に心情を重ねながら読み進めると【異様にストレスフルな展開】なんですが(しかも未完)どこか『あっ、こちらはカフカらしい』と安定感を覚えてしまうのは良いのか悪いのか?いずれにしろ【インディーズのパンクバンドが突然、王道ポップバンドに路線変更したような】戸惑い続けた読後感でした。 抽象的な一般イメージとは一味違う作品として。また著者の『想像力だけで描かれたアメリカ』の描写に興味ある方にもオススメ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
「変身」、「審判」、「短編集」などにいつもある、カフカ独特の「ゾクッとさせられる感性」をこの小説でも堪能できました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
章ごとに強弱があって読みやすい、難しく読む必要はない 長編三部作の中では一番読みやすくライトだと思う ハードな読書家には軽すぎるような気もする 後半に気がつくと妙に湿った世界に巻き込まれる、それはやはり幻想的で変わっている世界 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 16件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|