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ギリシア棺の謎
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【この小説が収録されている参考書籍】
ギリシア棺の謎の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全31件 1~20 1/2ページ
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クイーンの国名シリーズの中で代表的な傑作とされる。かつて同シリーズ最高作は「エジプト十字架」であり、次点が「ギリシャ棺」か「オランダ靴」という位置づけだったが、約10年前に出された「東西ミステリ・ベスト100」では逆転し、本作がもっとも上位になった。 本作の真犯人は事件解明へのミスリードを繰り返し、かなり強敵。エラリィの最初の推理は犯人に騙されたカタチだが、そのロジックが非常によくできていて感心する。推理後に出てきた証言で、全てがひっくり返る趣向も大変面白い。 後半もトリックとロジック攻めで、さすがにエラリィ・クイーンというところだが、謎解きミステリの宿命とはいえ、本作のロジックはやや強引さが目立つし、犯行動機も説得力を欠くように思う。あまり細かいことは気にせず、パズラーとして純粋に楽しむのがコツ。 | ||||
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エジプト十字架の謎が通例では一番の傑作と評されているようですが、ぼくは一番はこの「ギリシャ棺」だと思います。 プロット・状況設定全てにクイーンの冴えたストーリー・テラーぶりが発揮され、その意外な犯人にたどり着くまで一気に読ませるその技量たるや素晴らしいの一言。国名シリーズ全部読まなくてもこれはぜひ読んで欲しいです。 | ||||
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トリックの奇抜さ、自然なストーリー展開、意外な犯人。しかし、実際の場合どうかなと思う点が一つ、そんなに簡単に死体を運べるか? | ||||
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1.長い思考操作の台詞でも論理の運びに無駄がない。 2.登場人物の多さにもかかわらず、登場タイミングと説明の良さで誰が誰だかわからなくならない。 3.伏線ではなくても各人物の性格を表す言動によってドラマに奥深さが感じられる。 4.論理は細かいが、男女の機微等人間の心の動きの描写はくどくなく読者の想像に任せる。 5.上記によって映画を観ているかのような読書感。 6.犯罪を論理で暴くことに主眼があるが、全ての人間が持つ善と悪の感情を否定しない。 「ギリシャ棺の秘密」は上記に加え、失敗から学び取る若きエラリィと好敵手との闘いと、 お洒落なラストシーンが好きだ。 | ||||
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これは一読して非常に面白かった。棺を掘り返したら、新しい死体が折り重なるように出てくる、という印象的な事件から始まり、途中でエラリーが光明に思われる推理を披露して犯人を名指しで指摘するも、すぐに反証が出て来て、父に慰められる始末。その後も彼の上をいく真犯人に翻弄され続けるが、最後に意外な真犯人を追い詰めて銃撃戦になり、犯人は射殺されるがエラリーも狙撃されて負傷すると言うアクションシーンや、クイーンには珍しい恋愛要素も入ってエンタメ度は満点。 個人的には真犯人の意外性だけでも楽しめたし、エラリーの推理のアラ探しをするつもりは全くない。私は本格ミステリの醍醐味は、名探偵の名推理に膝を打って感心すれば良いのだと思っており、細かい難点を指摘して悦に入るのは好きな人に任せれば良いのだと思う。趣向としては面白いし大賛成だが、自力で推理して名探偵に挑戦しようなんて露とも思わないのだ。本格ミステリ愛好家の態度としては良くないのかも知れないが、そうゆう他力本願のミステリの楽しみ方も十分アリではなかろうか。懲りに凝ったミステリでエンタメ度が高く十分楽しませてくれた本作を、私は高く評価する。 | ||||
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この作品は初めてだがエラリークイーンは 何十年ぶりかに読んだ 雰囲気がとても懐かしい まあ細かい推理などは すべて合理的で緻密というわけではないが、 物語の展開の仕方や 多彩な登場人物の関係は 見ていてとても面白い | ||||
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十代の頃読んだ時は推理小説の最高峰で他作品を全く寄せ付けないほどの究極の完成度があると感激した記憶があるが、六十代となって他のクイーンの作品を読み直すと人間の描き方が稚拙である事に気づきがっかりしていた。本作が重厚で難解であった事は記憶していたので再読するにはかなりの覚悟が必要と思いしばらく敬遠していたがこの10連休を使って何とか読破しようと紐解いた。 犯人は覚えていたので伏線や人物描写、謎解きの論理性等に注目しながらじっくりと読んだみたが、感想はやはり謎解きゲームとしてはその重厚さ、複雑さという点で究極を実現しているがあくまでも机上のものでしかなく、現実の生きた人間ドラマとしては物足りなさを感じた。登場人物にも魅力が感じられない。特にクイーン警視等捜査陣の弱者に対する高飛車で見下した言動には幻滅した。これがアメリカ社会の現実あるいは常識なのかもしれないが、せめて若きエラリーは弱者を思いやるような優しさを見せてほしかった。 犯人がわかっている状態で読んでみると確かに伏線は普通に張られているが感銘を受けるようなものではない。また論理の妥当性であるがこれも他の方も指摘されているように共犯説を否定する説明に説得力が無い。3つの茶碗や2つのタイプライタ等を使った一見論理的と見える説明もよく考えると強引あるいは荒唐無稽でありそれを証明として言い張る姿はむしろ滑稽という感もある。クイーンの論法は数学の証明問題を解くかのような厳密な演繹的説明になっているが、それがかえってこじつけのようで幻滅してしまう。ここは真相を裏付ける状況証拠の一つとして帰納的に軽く説明したほうが真実味があり格調も高くなったような気がする。 事件や人間関係だけを考えると平凡であり外面的には犯罪としての凶悪さもあまり感じられない。その割には捜査陣の議論の部分が濃厚で全体的には冗長感がある。ただ前半の事件発生場面やエラーが推理を述べる場面は緊迫感があり引き込まれた。それ以外、特に証人尋問の場面はヴァン・ダインの作品等と較べると洗練されたものが感じられず興ざめすることがしばしばであった。動機も簡単に述べられているだけであるが犯人の心理面を考えるとかなり複雑なものが想定できるのでこの点でも不満が残る。また、ロマンスは蛇足であり友情レベルで余韻を残すだけの方がよかったのではなかろうか。 十代の頃に初めてクイーンを読んだ時はその演繹的な推理手法に感激し推理小説とは数学の証明問題を解くようなイメージで読むものと思い込んでいたが、その後それはやはり味気ないと思い直していた。最近では本作を含めクイーンの他作品を再読するにつれむしろその手法はそもそも無理があり、やはり従来の帰納的な推理手法とそれを裏付ける地道な証拠集めが本来の姿であろうと思うようになった。 | ||||
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ギリシャ棺の謎の最大の問題は旧訳の読みづらさであったが、新訳となり読みやすさが格段に増した。(一部気になる訳はあるが) クイーン初期作の代表として国名シリーズはあまりにも有名であるが、最初期のローマ帽子などはややエラリィの機械的すぎる言動が 舞台装置としてのそれを強く意識させるがため青臭さが残り、シャム双生児の謎やドルリー・レーン最後の事件などはややメロウに過ぎる きらいがある。その丁度中間となる本作は、若エラリィの生意気な態度、プロットの秀逸さなどが相まり推理小説としては最高に瑞々しい果実になっている。古典と呼んで侮るなかれ、今読んでなお古臭さを感じさせないまさに傑作。 | ||||
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読者への挑戦状が存在しフェアな内容。個人的にはエジプト十字架の方が好きだが、こちらの作品も謎が多く散りばめられていて読み応えがある。遺言状、絵画など本格推理的ガジェットが際立つ点も評価。 | ||||
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内容は素晴らしくとも、表紙が…。ええ、好みですよ。こういう男性。だけど電車の中でクイーン氏の美しいお顔を晒すのはどうにも恥ずかしくブックカバーをかけてしまいました。 | ||||
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クィーンの国名シリーズの中でも代表作とされる作品。事件自体はこじんまりとしているが、いわゆる偽りの手がかりによる論理的解決の多重構造をモチーフにしてクィーン問題として後の推理作家が取り組む推理買の重要問題を定義した作品して歴史的に重要な作品である。 前半はやや地味な展開が続くが、後半の意外な犯人によるどんでん返しは今読んでも十分楽しめる。 | ||||
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エラリークインの王道のミステリーですね。何度読み返しても面白いです。忘れた頃によくこういった作品を読み返すのが好きです。 | ||||
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クイーンの作品中最も評価の高い作品、かつ探偵エラリーの登場作。 ホームズ物語でホームズの登場作は『緋色の研究』だが、これはドイルの処女作で全く評価されなかったし今でも評価されないのとはある意味対照的。 二十代の作者が戦前にこれだけ集中して内容の濃い長編の数々を発表していたというのが未だに私には信じられない。まあ、天才秀才のものである証左だろう。 国名シリーズは、以下十作品だとされるようだが、全て新訳新装し完備してほしいものだ。新訳の訳文自体はしっくりと堅実で読み易い。 本作について一つだけ不満なのは、最終場面でまるでライトノベルかチープロマンスのようにダ・ヴィンチの絵画が捨てられ、ないし軽んじられて、チェイニーとブレットが暗に結ばれている処で、ここさえ書き替えていれば本当に傑作だったかもしれない。 ホームズ物語なら皇室か行政府に感謝されても毅然と現実の犯罪世界に戻っていく締めの場面なのだが、愛嬌と云えば愛嬌である。 「霊媒なみに霊感が強いのよ」(77頁) 「いくつか、非常に啓示めいた点があります」(214頁) 「これから起こりうる出来事を予測するという点では、降霊術と変わりません」(430頁) ドイルがホームズ物語には霊的要素を一切排除しつつ終生関心を持ち続け、かつこの問題に解決の道筋を明確には見出せなかったのとも、これもまたある意味では対照的である。 | ||||
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国名シリーズ中、最も錯綜し複雑なプロット展開で名作の誉れ高き第四長編。(1932年刊行) 注目されるのは後年の作品に描かれる試行錯誤し煩悶する探偵像の萌芽が既に見られる事だ。 実際、本作において若きエラリーは狡猾な犯人に翻弄され、何度も苦杯を舐めさせられるが、それ故に終盤明かされる謎解きのカタルシスがひときわ爽快に感じられる。 読了後、伏線の張られた該当箇所を読み返せば、その周到さと巧妙さは溜め息ものであり、本格ミステリは再読に耐えないなどというのは全くの妄言だというのが改めて実感できる。 既刊の宇野利泰訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)と比較すると本書の方が若々しくも未熟だがプライド高きエラリー探偵(本書においては大学を出た直後の設定)の肖像がより鮮やかに味わえる。 そして巻末の辻真先氏が寄せた解説には氏のミステリに寄せるいまだ軒昂な情熱に感動を禁じ得ない。 | ||||
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著名な美術商が亡くなり、その遺言書がなくなるが・・・というお話。 設定がまだクイーンが若く大学をでてまもないということで、推理に試行錯誤、二転三転するプロットに翻弄されます。この後、沢山出るどんでん返しに次ぐどんでん返しの推理小説にかなりの影響をあたえたことが察せられます。「オランダ靴~」の方でも触れましたが、殺人事件を扱った小説なのに、謎の解明されるプロセスに清々しささえ感じられます。さすが、ミスター・ミステリの名に恥じない傑作になっております。これが、30年代に書かれた小説というところにも驚かされます。原著刊行から90年経っても古さを感じさせないので。 国名シリーズ初期最高傑作に度々挙がるのもうなずける傑作。是非ご一読を。 | ||||
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本格ミステリが好きなら、必ず通る道──それが、エラリー・クィーンの国名シリーズ。 1932年発表の本作品はその第四弾で、一般的には、シリーズ中、一、二を争う傑作とされています。 数十年前の若い頃に読んだ本作品、「新訳」に惹かれて再読してみました。 既刊の第一弾から第三弾と同様、「本格ミステリ」をよく理解した訳出となっており、満足度は高いです。 作品的には、誰が犯人かは憶えていましたが、犯人特定のロジックは組み立てられず、「読者への挑戦」には、完敗…。 でも、自己弁護になりますが、本作品から、名探偵ならぬ「名犯人」が登場、犯行の痕跡を隠すための罠の巧妙さに、探偵が嵌まってしまい、途中で推理を誤ってしまうくらいなので、完勝できる人はまれでしょう。 ちなみに、この新訳国名シリーズは、巻末解説が充実しています。 上記のような展開の結果生じる「多重推理」を<後期クィーン的問題>と呼んでいますが、その点もきっちり説明されています。 さらに、エラリー・クィーンは本編以外にも趣向を凝らすことでも、有名。 本作品では、目次に凝らされた趣向は誰でも気づくのですが、それ以外にもあるのです。 この部分は解説の「本編読了者限定ページ」に記載されていますが、初読から数十年、本書を読むまで気づきませんでした。 脱帽! この新訳シリーズは、原書の初刊バージョンから訳出してきており、これからもその方針は変わらないようなので、発刊当時の雰囲気を厳密に伝えられる新訳として、レベルは高いと感じています。 第五弾以降にも、期待しています。 | ||||
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大学を出たての探偵エラリー最初の事件。いきなりこんな難事件を、報道の前でど派手な解決をしてしまっては、この後、警察関係者の絶大な信頼を得るのも無理はない。ですます調で喋る他社訳に比べ、角川版の新訳はエラリーの生意気ぶりが新鮮。 | ||||
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エラリークイーンの真骨頂の作品。 犯人の意外性ならYの悲劇にも劣らない作品(クイーン問題もあり、少しもやっとはしたが) ストーリーも長いながらも飽きさせず、苦痛に感じることは無かった(訳がいいからかもしれない) 新訳は本当に素晴らしいですね。 オランダ靴もそうでしたが、原書の初版にあった仕掛けとかもきっちり残しています。 カバーがあれだとか思う方もいると思いますが、この訳のバージョンを買うのをおすすめします。 エラリークイーン作品で、一番良い訳なのは間違いないです。 国名シリーズが終わっても、エラリークイーンの今後の作品や、ヴァンダインやクロフツ、カーといった作家の作品も翻訳してくれないかなと期待しています。 | ||||
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大学を卒業して、エラリーが初めて遭遇した事件であるとともに、最高レヴェルの難関事件。初めて事件に出くわしたこともあって、張り切ってフィールドに出たはいいが、へまをやらかしプロの捜査陣の失笑を買う、これが前半の山場。しかし、この辺りは読者が相当引き込まれる場面ではある。 「ローマ帽子」で国名シリーズ第一作としてリリースされたのが1929年だけど、実際の事件は1928年9月に発生している・・・・・今回のケースはオリジナルがリリースされたのが1932年だけど、エラリー最初の事件ということもあって、実際の事件は1926年9月から11月にかけて起こっている。こういうことも簡単にネット上のカレンダーで検索できちまうっていうから、すごい時代になったもんだ。 プロットは複雑極まりない。エラリーが完全に翻弄される前半、後半数十ページの盛り上がりと、意外な犯人。どれをとっても超一級のミステリであること、これが80年以上も昔に書かれたモノであること、いやはや今読んでもまったく色あせていない・・・・でも、クイーン、ちょっとやりすぎたかな | ||||
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ニューヨークのある荘厳な屋敷を中心に起きた怪事件の数々に、名探偵エラリー・クイーンが挑んだ代表作。如何にも本格ミステリーらしい雰囲気など、 話としては面白かったです。 しかし、エラリー・クイーンの諸作品の中でも、本作は特に、推理に緻密さがありません。 緻密さに欠けるというのは、作品を問わず、エラリー・クイーンの推理法の多くに共通したミステイクで、“アンチクイーン”な人々を生み出してしまう理由でもありますが、 新訳で久しぶりに読んでみたところ、残念ながら本作は、それが顕著な作品でした。そこで先ずは、エラリー・クイーンの主な推理法に対する批評を書いてみます。 1・仮説を立て検証する、ことを怠る “推理”についてよく言われることを私なりに咀嚼してなるべく平易に言えば、推理とは、“広義での論理的活動”ですが、より分解して言えば、基本的に2つの側面があります。 それらを表現するなら、一方は、“判断的命題”、もう一方は、“狭義の論理的命題”とでも呼べましょうか。 “判断的命題”とは、物証、証言、心理等が理屈によって分析された結果であり、“狭義の論理的命題”とは、導かれた複数の“判断的命題”を基に、 話に整合性を持たせて整理したものです。また、こうして導かれた幾つかの論理的命題を、最終的に更に一通り論理的にまとめることで、推理が完結します。 さて、ここで、クイーンの問題と関連して考えるべきは、“推理を進めて行く過程において、より比重を置くべきなのは、判断的命題か、狭義の論理的命題か?”なのですが、 多くの場合、“判断的命題”の方に比重を置くべきと言えるでしょう。 何故なら、推理においては、“狭義の論理的側面”なんて、ちょっと慎重に話を整理してまとめるぐらいの役目しかないのに対して、“判断的命題”を導くには、 物証、証言、心理等を基に、様々な角度から仮説を立てた上で検討することが求められるので、ここでちゃんとした答えが幾つか出てくれば、あとはそれを踏まえて、 “狭義の論理的思考”を少し使えば、簡単に最終的な答が出せるからです。 しかしエラリー・クイーンの物証等に対する判断というのは、まず仮説を立てる、という発想に欠ける点からして不十分なのです。よって、導かれたとされる命題も、実に“テキトー”です。 そして、このテキトーに導いた命題を前提に、あとは論理的に話をまとめ、「私はミステリー界のロジカル・シンキングの王者です」みたいなことを本気で主張していますから、 失礼を承知で言えば、まさに本物のタチの悪さがあるわけです。 そこで私は以前にも、東京創元社の旧訳版『エジプト十字架の謎』や、角川書店の新訳版『オランダ靴の秘密』のレビューを書いた時に、それらの論法のまずさを 簡単に指摘しておいたのですが、この『ギリシャ棺の秘密』に関しては、まずい理屈がてんこ盛り過ぎて、細かな点は書いても切りがありませんので、 とりあえず、エジプトやオランダより遥かにまずい側面のみについては後に書きますので、興味のある方は、本作を読みながら見つけてみて下さい。 ちなみに、緻密な仮説の検証を中心に、狭義でも広義でも論理的に上手い作品に、『悪魔の家系図(エラリー・クイーンへの挑戦状)』という秀作が最近ありました。 理詰めの作品を読みたい方には良いでしょう。それから、例えば過去の本格作家で言えば、私の好きなクロフツの場合、彼はコツコツとした捜査に重きを置いた リアリズムの作家だと言われますが、彼の出来の良い作品の中には、仮説の検証に重きをおいていて秀逸なものもあるので、代表作でさえ緻密さを欠いた作品ばかりの クイーンよりは、クロフツの方が理屈の上でも優れていたと言えます。 2・馬鹿馬鹿しいトラップの多用 将棋で言う“詰め将棋”や、サッカーその他のスポーツでよく言う“トラップ”を、まさにその本質を理解せず、これまたテキトーな思いつきでよく使ったのが、クイーンです。 どういうことかと言いますと、将棋でいう詰め将棋や、スポーツのトラップというのは、「自分がこうすれば、相手の棋士や選手はついついこう動くだろうから、 (それを読んで)出し抜いてやろう」というものですが、この罠は、将棋でもサッカーでも、相手もそれが得意な人でないと、かえって通用しません。 例えば将棋もサッカーもできるわけでない私が、羽生名人と将棋で、メッシとサッカーで、お手合わせ頂き、彼らが私にトラップを仕掛けてきたとしても、私は反応できず、 トラップは意味をなさないでしょう。 ところが、(本作はまだ許せる展開の部類ですが、)クイーンの複数の小説では、誰も反応できずにスルーされると犯人の計画に大きなマイナスを及ぼすようなトラップを、 犯人が仕掛けてきます。そのトラップというのは天才的な探偵でないと気付かないレベルのものなので、作品によっては、犯人がそうしたトラップを仕掛けるというのは、 状況としておかしいのです。相手にスルーされたら、一体どうするつもりだったんですか?という話になってしまうのです。 この点については、代表作で言うと、『エジプト十字架』が完全に破綻していますが、本作も、かなりまずいです。 ただし、本作の場合、唯一の救いは、捜査関係者の全員がスルーしたとしても、犯人にとって計画が“万事休す"という程ではないことですね。また『エジプト』と違い本作では、 犯人のトラップがスルーされないだろうという予想に、少しはちゃんとした理由があるので、(まともに考えればそれも非常に怪しいわけですが、)『エジプト』よりはマシです。 さて、1、2と、クイーンの作品に共通する欠点を挙げてきましたが、本作における最大のとんでもなさは、2のトラップの話と似たところにあります。 少し具体的に言えば、最初の殺人が起きた経緯は納得するとしても、犯人がその対処のために取った行動を始め、それ以降の行動に、不可思議なものが幾つかあるのです。 もう少し言いますと、犯人は一連の犯罪を計算して行ったとされているのですが、しかし、その前提に立脚した上で犯人像をまともに分析してしまいますと、 誰でも予測可能なリスクすら計算できない、矛盾した不自然な人物ということになってしまうのです。また、本作は連続殺人事件なのですが、最後の殺人に関して言えば、 被害者も犯人と同様、誰にでも分かるようなことが分からない人物像となってしまい、この被害者が殺されるに至った経緯もおかしいのです。 と、以上をまとめながら、とりあえず私がレビューを書いたクイーンの他の代表作と本作を比べてみます。 2の馬鹿馬鹿しいトラップに関して言えば、『オランダ靴』はそうした展開とは無縁なので、『エジプト十字架』や本作だけの問題です。1の仮説の検証に関しては、 『オランダ靴』がまだマシな方で、『エジプト十字架』はそれよりいささか劣るものの、随所にテキトーな論理が散見される本作よりは、遥かにマシです。よって、 本格ミステリーとしての出来を総合的に評価すると、これらの中では、それでも『オランダ靴』が最もまともで、逆に本作『ギリシャ棺』が圧倒的に劣るということになります。 さて、ここまでは、かなり本作を攻撃してしまいましたが、一方で、“クイーンらしい良さ”という点を真に突き詰めて考えれば、この『ギリシャ棺』こそ、究極です。 そこで今度は、クイーンの長所について考えてみましょう。上記の通り、クイーンはロジックを売りにしていながら、実際にはロジックや緻密さの方はあまり期待できませんし、 また、例えばカーのような“ハウ・ダニット(如何にして行われたか)”の作家と違い、トリックという見せ場も特にありません。ミステリー・ファンには言わずもがなです。 しかし一方で、“意外な犯人を提示する”ということにかけてだけは、本当に優れていたと言えるでしょう。 上で述べた通り、滅茶苦茶な理屈が多いので、読者はまともな推理はできず、クイーンが読者に求めるように犯人を絞り込むことは実際には不可能ですから、それならば、 そんな彼の論理に立脚した犯人が誰かということに、本格ミステリーとして意味があるのか?と疑問に思うかもしれませんね。しかし、それでも理屈を抜きにその意外さが面白いのが、 クイーンなのです。特に本作は、まさかの意表を突かれて足を掬われる感じで、驚きますよ。 犯人の意外さだけひたすら極めた人こそが、クイーンだと言えるでしょう。 例えば、私の好きなクロフツなんて、犯人は分かりやすい作品が多いですし、そもそもクロフツはアリバイ崩しを得意とするため、むしろ犯人は簡単に見当がつくようにさえ なっていますから。代表作における犯人の意外性こそ、クイーンの専売特許と言って良いものだと思います。 そして、その唯一のクイーンの強みが究極的な形で引き出されたのが本作です。 本作の前に出版された『オランダ靴』は、クイーンが大して得意でもないロジカル・シンキング的なものを極め様とした“直球勝負”の作品ですが、結局は地味なだけだったのに対して、 本作の後で出た『エジプト十字架』は、オランダ靴とは真逆に、ある種のエンターテイメント性を極めた“変化球”的な作品です。そしてその間に書かれた本作は、 『エジプト十字架』ほど面白いわけではないものの、犯人の意外性という、これまた“別の球種の変化球”が炸裂した作品なのです。と言いますか、この作品、「犯人は本当に意外だよ」 と事前に言われて読んでも犯人に気付かない作品の典型、のように昔から言われてきましたが、これより犯人が意外な本格ミステリーは、いまだにないのでは!? というわけで、犯人の意外さを極めていることや、話もそれなりに面白いこと、また、ロジックの方はかなり滅茶苦茶ですが、それでも本作はその点で“反面教師”になりやすく、 読者が自分で反証を考えながら読むことができ、ロジカル・シンキングも鍛えられるでしょうから、全体的に考えて、おまけの星4つかな、と。もちろん、本作が後の作品に与えた歴史的な 価値も踏まえましてね。 ただし、犯人の意外性という、本作におけるクイーンの良さを最後に称えた私にも、一つだけ不安が残ります。と言いますのは、私がこれを初めて読んだのは、東京創元社の旧訳版で、 云十年だか前の15、6歳の高校生の時でしたが、この度、角川書店の新訳版を読むまで、ただの一度も再読せず、話の詳細はサッパリ忘れていました。にも関わらず、 犯人だけは漠然と覚えていたのです。本格ミステリーを読み始めたばかりの少年時代にはあまりにも意外だったとしても、もしかしたら、どうしても勘が鋭く働いてしまう人で、 そこそこ本格ミステリーを読み慣れた人には、本作の犯人でさえも、見当がついてしまうかもしれません。そうであるなら、犯人の意外性という唯一の長所も、打ち消されてしまいます。 しかも、以前にどなたかが、「エラリー・クイーンは中高生の時に読み感動したが、大学で読んだらけっこう印象が変わっていた。ましてやそれなりの年齢になって読んだら、 中高生の時とは殆ど正反対の印象さえ受け、何より理屈のチープさばかり感じた」と述べていたのを思い出しました。精神や肉体の成長に比べ、推理小説が得意かどうかに年齢は そんなには関係ないのかもしれません。しかし私も過去を振り返れば、その人と同じような感じ方の変化をしてきましたし、子供時代から本格ミステリー読んできた人の場合、 エラリー・クイーンの小説に対する感じ方は、そんなものでしょうね。ですから、クイーンの理屈は実際には大したことがないということと掛けて表現すれば、 まさに“子供騙し”という他なくなってしまうかもしれません。 そうして考えますと、代表作の一つと言われながらもとりわけ“子供騙し”の論法がやたらと繰り広げられる本作の場合、本格ミステリーを読み慣れていてロジカルなミスにも 簡単に気付き、しかも勘が鋭く働いてしまって犯人に見当がついてしまうような人であれば、さすがに「何なんだこれは!?」ということにしかならない可能性があるな、と改めて思い直し、 私も、「犯人が意外だから読んでみて下さい!」とはあまり主張できないかもしれません。 ですので、“アンチクイーン”になりがちな方々の存在も考慮に入れると、星4という評価も正しいか分かりませんが、“とりあえず”と考えて下さい。 面白さだけで引っ張れる『エジプト十字架』ほど無難にはオススメできるわけではありませんが、それでも、私は本作の犯人を覚えていていたにも関わらず、 それなりに楽しく読めたのですから、改めてもう一度言いますが、理屈を放り出しさえすれば、話はけっこう面白いと思いますよ。 それにしましても、特にこの『ギリシャ棺』は、東京創元社の旧訳版は文章が硬く、読みにくかったのですが、この新訳版は非常に読み易くなり、スイスイ読めたので、 この度の国名シリーズ再読に際して最大の山場を越えたと言いますか、何だかんだ言っても、新訳版を読めて本当に良かったと思います。 | ||||
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