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(短編集)

夜の蝉



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夜の蝉の評価: 7.33/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.33pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(7pt)

ミステリという先入観を外して読むのが吉

日本推理作家協会賞受賞のこの短編集。しかし私は1作の『空飛ぶ馬』の方を推す。
今回も主人公私が出くわすのは日常の謎だ。それもいつもとちょっとだけ違う違和感に似た現象だ。それらを円紫師匠と私が問答を行うように解き明かすと、人間の心の暗部が浮き上がる。

今回収められた作品は3編。第1編「朧夜の底」では友人正ちゃんのバイト先の神田の大型書店で遭遇する国文学書に対して行われる些細な悪戯が、悪を悪と思わない都合主義な利己心に行きつく。
2編目の「六月の花嫁」はもう1人の友人、江美ちゃんの誘いで軽井沢の別荘に行ったときに起きた、連鎖的消失事件について語った物。チェスのクイーンの駒→卵→脱衣室の鏡と続く消失劇は「私」の推理でその場は一応解決されるが、1年後、江美ちゃんの結婚へと結実する。しかしそこには江美ちゃんが「私」を利用したやましさがあった。
最後は表題作「夜の蝉」。「私」の姉の交際相手、三木さんが新入社員の沢井さんと浮気しているという噂を聞いて、姉は歌舞伎のチケットを三木さんに渡し、待ち合わせをするとそこに現れたのは沢井さんだった。後日喫茶店で3人で話し合ったときに三木さんに「なぜあのような意地悪をするのだ」と叱責される。誰が姉の手紙を沢井さんへ送ったのか?女のしたたかさを感じさせる1編。


今回特徴的なのは『空飛ぶ馬』よりも各編が長くなり、事件が起きるまでに「私」を取り巻く人々の知られていない部分について語ることにページが費やされている。1、2作目はそれぞれ「私」の友人の正ちゃんと江美ちゃんのサークル活動について。3作目は今までほとんど語られる事のなかった「私」の姉との関係について。そして各編で事件が起きるのは1作目では全91ページ中39ページ目、2作目では全80ページ中36ページ目、3作目では全91ページ中37ページ目で。つまり今回の謎は各登場人物を描き出す因子の1つとして添えられているようだ。
純粋に推理だけに終始する物語は好きではないものの、このように謎そのものがメインでない物語も好きではない。逆にもどかしさを感じずにいられなかった。だから私は今作よりも前作の方が日本推理作家協会賞に相応しいと思うのだ。

確かに各編で語られる人間模様、「私」の感性豊かな主張、落語や日本文学について語られる侘び寂び溢れる薀蓄、日本の良さを強く感じさせる品の良い自然描写などどれをとっても一級品でそれら「寄り道」は確かに面白い。
しかし、それらをメインで語るならばミステリでなくて良いわけで、やはりミステリと謳うからには物語の主柱に謎があって欲しいのである。

ところで1作目で「私」にも恋の訪れがあるのかと思わせたがその後の2編では全く出てこない。代わりに2作目では江美ちゃんの結婚、3作目では姉の失恋と続く。
そうか、これはミステリの意匠を借りた恋愛短編集なのかもしれない。しかしそれらは惚れた、振られただのを声高に叫ぶど真ん中の恋愛ではなく、昔の日本人の美徳とされた慎み深く、他人に見せびらかすことない、忍ぶ恋愛だ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:
(7pt)

心がホッコリ

地味ながら安心して読める短編集でした。

わたろう
0BCEGGR4
No.1:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

夜の蝉の感想

季節は春、「私」は20歳になり所謂「大人」の仲間入りをしたが、相変わらずお洒落より読書を愛する文学少女である。
ある日、友だちの正ちゃんがアルバイトをしている本屋へ出掛ける。
正ちゃんを冷やかしがてら国文コーナーを見ると、本が数冊逆向きに置かれている。
これはただのイタズラなのだろうか。
何故こんなイタズラをするのか。
またまた円紫さんと会う機会を得た「私」はさっそくことの次第を話す。
今作も「私」と円紫さんが日常の謎を解いていくが、そこで語られるものは人間の悪意だけではない。
「女」であること、「男と女のつながり」、そして「姉」との関係。
「大人」になるにつれ、受け入れていかなければいけないことが多くなる。
「私」もまた少しずつ受け入れ、成長していく。
「私」と円紫さんシリーズ第2作目。
今作も「私」を取り巻く日常の謎を、「私」の成長と共に解いていくー・・・

「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の全三編です。
構成は前作と同じで、やはり文学作品からの引用や、落語の噺も多いです。
さらに今作は俳句といった詩の引用も多いです。
軽い説明はあるため、私のような教養不足な者でも、わからないなりに楽しめます。
ひとつ賢くなった気分になれます。
しかし一方で、吉田利子氏の解説を読むと、その詩の意味、なぜその落語や詩が使われたか、それが結末にどう繋がるかなど、より作品の理解や北村薫氏の話の巧みさがわかるのだと思います。
それを思うと教養不足が口惜しいです。

前作の「私」は円紫さんと出会い、彼との謎解きを通じて「大人」の美しさも汚さも噛みしめ、成長します。
今作は前作でいう「女」や「男と女のつなかり」といった恋愛面が多目です。
「恋愛」もまた美しいだけでなく、汚い面もあります。
「私」は「恋愛」の甘さもほろ苦さも噛みしめますが、今作は前作よりほろ苦さが残る印象です。
また、今作は前作から少し見え隠れしていた「姉」へのコンプレックスについても語られています。
そこではよくある微妙な姉妹間の確執(実際は確執というほど重いものではないが)と、それぞれの思いが穏やかに語られています。
「大人」になるとほろ苦い思いをすることが多くなります。
しかし、すでに「大人」である「姉」との会話はほろ苦さだけでなく、人生の先輩として、そして「姉」としての優しさにあふれています。
そのため、ほろ苦くも優しい気持ちになれる一冊です。

▼以下、ネタバレ感想

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あんみつ
QVSFG7MB

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