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ローウェル城の密室



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【この小説が収録されている参考書籍】
ローウェル城の密室
ローウェル城の密室 (ハルキ文庫)

ローウェル城の密室の評価: 5.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
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No.1:
(3pt)

若気の至りミステリ

さて乱歩賞史上最年少である16歳で最終選考に残ったという本作。結末まで読んだ今となっては、よく当時の選考員たちが最終選考まで残したなぁと、その暴挙にも似た英断に感嘆というよりも戸惑いを感じずにはいられない。
特に当時最終審査員だった多岐川恭氏が本作をして、「その発想の若さに羨望を感じる」めいた感想を述べていたとの記事を読み、その度量というか、懐の広さにただ感心する次第だ。

なぜならば、これは一種の壁本だからだ。最後の結末を読むにあたり、この真相の是非を問うて、是と答える人はそうはいないだろう。
私の見解では本作を乱歩賞として刊行した場合、絶賛をするのは一部の物好き―普通のミステリに飽いた人々―であり、大方の読者ならば非難を浴びせ、もし当時、現在のようにインターネットが普及していれば例えば2ちゃんなどで喧々諤々とした論議が繰り広げられていただろう。それは乱歩賞が普段ミステリを読まない方々も手に取るほどのネームヴァリューを備えた賞の性質上、当然起こるべくして起こる現象だろう。

本作の内容に触れると、本作の特異な点は主人公の二人が少女漫画の世界に入り込んで、そのストーリーの登場人物となり、そこで起きる殺人事件に巻き込まれるというメタミステリである。
しかし本作で語られる少女漫画の内容というのが中世ヨーロッパを思わせる古城での宮廷生活、王子を巡る2人の花嫁の戦い、さらにもう1人の花嫁の因縁めいた血筋によって起こる騒動が延々と語られ、それはミステリを読んでいるというよりも、『ベルサイユのバラ』のような漫画、厳密に云えば作中で漫画とは云え、表現は文字のみでされているから、『ベルサイユのバラ』のノヴェライズ版を読んでいるような錯覚を覚える。実際本作でメインとなる密室殺人が起きるのは400ページ中260ページ辺りと実にストーリーの5/8を費やした辺りである。ミステリを期待する者にしては冗漫さを感じるだろう。
私にしてみれば、実はこの辺は苦痛でもなく、例えるならば、カーの歴史ミステリに見られるような舞台装飾の面白さを感じた。もしこれを16歳の人物が書いたままならば、驚くほど成熟した筆致・文体なのだが、恐らくこれはその後齢を経た作者の手による改稿版であろうから、そういう外側の部分にはあまり目が行かなかった。

で、本作の目玉、ミステリ界史上の問題作と云われるほどのこの真相、私は少女漫画の中の世界という特異な設定を前提にした驚愕の真相という前情報を得ていた事もあり、実は看破してしまった。というよりも「これだ!」という天啓にも似た閃きといったものではなく、「まさか、こういう真相ではないだろうな」と軽く思っていたのがそのものズバリだったという、なんとも拍子抜けした感慨だった。

こういうメタミステリは非常に読者の理解を得られにくいだろう。それを逆手にとって誰もが発想しない作品を紡ぐ作家も世界中にいるだろうが、本作がそれらと比肩するに値しないのは、真相のアイデアが誰もが思いつくだろうけど、敢えてしないだろうというレベルでしかないこと、これに尽きる。そのアイデアを得意満面に史上初の試みで自家薬籠中の物として長編本格推理小説として世に問うてしまったところにこの作者の若さがあったのだ。実際16歳だから本当に若い。
読後の今となっては、本作は作家小森健太朗氏の若気の至りとして末代まで記録される作品としか思えない。作者が今後どのような活躍を展開するか解らないが、もし大家になった場合、本作はその経歴に傷をつけかねない汚点になると思うので、早々に絶版にする方がいいんではないかというのが私の個人的な心配である。


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