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詩的私的ジャック



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詩的私的ジャックの評価: 5.67/10点 レビュー 9件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.67pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

萌絵に親近感を覚えるのはまだ先か

S&Mシリーズ第4作目の本書もまた密室殺人を扱ったものだ。もしかしたらこのシリーズは密室殺人事件のみを扱っているのだろうか。

もしそうであるならばシリーズの専売特許とも云える密室の謎だが、本書では3つの密室殺人が発生し、そのうち2つの密室殺人は物語の冒頭でいきなり起きるのにも関わらず、なんと全12章で構成されている物語のわずか第3章でそのトリックは明らかになる。

そしてさらに3番目の密室殺人は学園祭真っただ中のN大学の実験室で起きる。半地下のコンクリート試験室でまたもや下着1枚着けた状態で女性の死体が見つかる。そして肌には「A」の文字とも読み取れる三角形が書かれていた。

さらには同室にあるコンクリートのノッチタンクから一連の事件の容疑者とされたN大学を退学になったロックミュージシャン結城稔の遺体が入っていたというもの。

3つの密室に4つの遺体。連続殺人事件として実に申し分ないボリュームに満ちている。
それらの物語を構成するのがN大学生でありながらロックミュージシャンとして名を馳せている結城稔。そしてその兄、寛は大学院生で西之園萌絵が所属するミステリ研のメンバーであり、さらにはS女子大の助手、杉東千佳と結婚している。さらに同じくN大学生でありながら結城稔のマネージャーをしている篠崎敏治が加わる。

そして本書では密室の謎がメインではない。先にも書いたように冒頭2つの密室は早々に解かれる。
本書のメインの謎とはこれら密室を作るための至極面倒な手順を何故犯人は行い、密室を形成したのか?だ。

そしてその謎の解は常人の理解を超えるものだった。

精密なパズルを見ているかのようなトリックとロジック。心地よい頭脳労働を強いられる内容だ。

さて本書では建築学科に所属する学生が関わる事件であるせいか、密室のトリックに建築の専門知識がふんだんに盛り込まれているのが特徴的だ。

特に大学の建築学科の教授である森氏によるこのミステリで描かれる建物が他のミステリとは一線を画しているのはやはり現行の建築基準法に則って建物が作図されているところだ。動線が考えられた部屋の配置に二方向避難を考慮したドアの配置など、今までの作品でもきちんと考えられていることが同業者として実に座り心地のいい思いがした。
そして本書では数多あるミステリに登場する建物や館の珍妙さを専門家の視点から嘆いているのが実に面白い。特に推理小説は建築基準法や消防法のない世界なのだと萌絵が吐露する件は思わず何度も頷いてしまった。
4作目の本書で世間に流布する密室ミステリに対する痛烈な皮肉が開陳されるようになったのはシリーズが世間に認められた故にようやく常日頃云いたいことを思い切って述べるようになったのからかもしれない。

そういう意味で考えれば本書における密室殺人は全て建築の知識を用いて成された物。つまりはきちんとした建築の知識があれば密室などはいとも簡単に作れるということを暗に示しているように感じた。建築業界にとっては至極当たり前のことを本書では素人相手に示したことに意義があるのだ。

さて今回も今までのシリーズ同様、西之園萌絵は自身のちょっと行き過ぎた行動故に危難に陥る。この展開ももはやシリーズの定番となってしまった。
敢えてこの定型を崩さない森氏はもしかしたら『水戸黄門』シリーズなどに見られる「偉大なるマンネリ」の信奉者なのかもしれない。

しかしそんな典型的なストーリー展開でありながらもシリーズとしてはやや進展が見られる。
本書の主人公の1人、西之園萌絵は叔父が県警本部長である特権を大いに利用して事件に介入し、人の生き死に対して哀惜や喪失感と云った通常の人間が見せる感情とは無縁に、死者と犯人、関係者を単なる駒としてみなさずに事件のトリックやロジックを嬉々として推理する、無神経で厚顔無恥ぶりを発揮していた。本書でもその傾向はまだ完全に拭えないものの、彼女の中で心境の変化が見られてくる。それは事件の捜査に夢中になるのは自分が事件に興味を持っているわけではなく、事件を解き明かすことで敬愛する犀川に認められたいという願望ゆえだったことに気付かされる。それは自分が犀川に子供のように甘えていただけだったことでもあった。
この辺はシリーズの読者ならば早々に気付いていただろうし、これゆえに私が西之園萌絵を好きになれないのだが、ようやく気付いたのかと思わず苦笑してしまった。

そして萌絵は犀川に認められるために大学院への道を目指すと決意する。学生と教授の関係、大人と子供の関係から脱しようと奮闘するそれが萌絵の決意だった。

果たしてこの後、2人の関係はどのように展開していくのか。それがこのシリーズの読みどころであると解っているのだが、やはり西之園萌絵はまだ私には受け入れ難く、やたらと犀川にべたべたするのにはいささか食傷気味になってきた。
シリーズ物はいかにキャラクターに親近感を覚えるかがカギなので、この先のシリーズで萌絵が成長してほしい。私に免疫が出来るのとどちらが先だろうか。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

詩的私的ジャックの感想

トリックや密室の理由はなかなか面白かったです。タイトルもいいですね

ほっと
2XKXV6EI

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