(短編集)

虚空の逆マトリクス



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短編集

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虚空の逆マトリクス(INVERSE OF VOID MATRIX) (講談社文庫)

2006年07月12日 虚空の逆マトリクス(INVERSE OF VOID MATRIX) (講談社文庫)

西之園萌絵にとって、その夜は特別なものになるはずだった。けれどちょっとした心理の綾から、誘拐事件の謎解きをする展開となり…(「いつ入れ替わった?」)。上から読んでも下から読んでも同じ文章になる回文同好会のリリおばさんが、奇妙な殺人事件を解決(「ゲームの国」)など軽やかに飛翔する、短編7作を収録。 (「BOOK」データベースより)




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虚空の逆マトリクスの総合評価:7.33/10点レビュー 12件。Bランク


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(7pt)

第4森ミステリ問題集

森氏はシリーズのそれぞれ5作目、10作目と5作ごとの節目で短編集を刊行する。本書はVシリーズ10作目の節目に刊行された短編集だ。

口火を切るのは「トロイの木馬」。
本書でまず驚かされるのは2002年時点で書かれたとは思えない情報技術の世界の先駆的内容だ。
ネットワーク世界を舞台にすると虚実の境が曖昧になり、何が現実で非現実なのかが解らなくなってくる。21世紀では既にそのような作品が映画、ドラマ、小説も含めゴマンと出ているが、本作はそれらに系譜に連なる作品だ。

私は常々森氏は短編では文学的抒情が引き立つ作風になる傾向があると第1短編集から思っていたが「赤いドレスのメアリィ」はその傾向が顕著に表れた作品だ。
かつて裏に自分のレストランがあったビルにあるバスの待合所に来る日も来る日もメアリィさんと呼ばれる老婆が待っていたのは、その昔愛した男だった。
妻子ある、その常連はメアリィと呼ばれる女主人に最愛の妻の若かりし頃の面影を見ていただけだった。しかしそれがために彼は女主人に好かれるようになり、妻の嫉妬を買うようになって、ついに諍いが起き、メアリィさんが亡くなるという事態が起きた。遺体は川に遺棄したが、発覚する前に主人は恐れをなして自首した。
色んな憶測が語られる中で物語は閉じられる。
人を待つ。何ともシンプルな行為だが、これほど孤独を感じさせる行為もない。しかもその行為が長ければ長いほど人はその人の待ち人に対する思いの深さを思い知らされる。
数多あるこの種の作品がいつも胸を打つのは待っている人の想いの深さが計り知れないがゆえに感銘を打つからだ。そして本作もまた同じだ。
老いてなお若かりし頃の衣装を身に着け、バスの待合所に一日中座るその老婆はしかし最後どこを見るでもなく、老人を迎えに来た運転手に手を取られて去っていくが、もうその頃には本来の意味、誰を何のために待っていたのかは彼女の中では解らなくなり、ただ毎日その行為をしなければならないという本能だけが残っていたのではないか。
やがて人に忘れられる町の片隅の神話。そんな物語だ。

「不良探偵」はサトル君と呼ばれる人物の一人称叙述の作品だが、サトル君とは云っても30代の新進作家である。
知覚障害者の従兄シンちゃんを持つ、図らずも書いた作品がベストセラーになり、一躍有名になった作家サトル君の恋人が殺される事件の真相について語った話だ。
但しシンちゃんが知的障害者で一般の人よりも能力が劣っていることが語られるが、この語り手であるサトル君も人に関する興味や好奇心を持つ感情が非常に薄い人物で彼もまた他の人たちとは違っているようだ。恋人の真由子は彼にとっては単に親しいだけの友人のようにしか捉えてなく、作家になって有名になり、色んな美女がサトル君の許を訪れ、勝手に泊まり込みで世話をするようになっても、彼自身はその女性に対しても興味もなく、また真由子がそれに対して気分を害しても特段気にしない、非常にドライな性格である。
題名の不良探偵とはシンちゃんのことを指すのか、それともサトル君のことを指しているか。恐らくどちらもだろう。
無関心であることがクールと思われている時代だが、それも限度を超える全く人の気持ちなどが解らない人間になってしまう。本作は無関心さが招く罪を描いた作品とも読めるだろう。

非常に私的な内容だと思えるのが「話好きのタクシードライバ」だ。
多分に森氏のタクシーに関する思いが吐露された、半ばエッセイとも云える作品だ。仕事で電車やバスではなくタクシーを利用する語り手はその内容からも森氏自身と云っていいだろう。物語の核心である高齢のドライバが語る昔話に至るまでのタクシードライバのエピソードの数々が非常に実感を伴って面白い。
そして高齢ドライバのまだ高速が開通していない頃の名古屋から岡山まで乗せることになった話もなかなか面白い。実際の話ではないかと思われる。
そして最後のオチもまた同様ではないだろうか。しかしそれがミステリとなっていることは確か。まさにこれは作者自身が遭遇した“日常の謎”ミステリだったのではないだろうか。

「ゲームの国」はとあるセメント会社の社員食堂を切り盛りしている星茂一家と祖父から受け継いだ丸味スープ会社を経営するリリおばさんが社員食堂で起きた殺人事件を解き明かす話だ。
ミステリとしては実に簡単な部類に入るが、三重県にあるセメント会社の社員食堂が舞台と妙に設定が細かいところが妙におかしい。
そんな非常に狭い人間関係の中でアクセントとされているのがリリおばさんが会長を務める回文同好会の作品数々。その数も内容も様々でしかも各登場人物の特徴がよく表れるように色んなパターンと内容の回文が横溢する。特にリリおばさんの作品は会長だけあって単に文字を無理矢理並べただけでなく、意味もそして文章も含めてもはや芸術の域にある。全て作者が考え付いた作品なのだろうか。

「探偵の孤影」はハードボイルド調の私立探偵小説だ。
なぜ海外を舞台にしているかは不明だが、失踪人捜しという典型的な私立探偵小説のスタイルを取りながら、最後に森氏ならではのツイストを利かせているのがミソ。
唯一妹を殺した東洋人の後に来た銃を撃った男が結局何者だったかが解かれないまま謎として残る。

最後の1編「いつ入れ替わった?」はS&Mシリーズの短編である。
衆人環視の中での消失トリック、または入れ替わりのトリックは昔からある、いわば「開かれた密室」トリックであり、本作のトリックもそのヴァリエーションを再利用しているだけであるが、タクシーを運搬の道具に使っているところが斬新。
しかし何よりも本作はシリーズのその後が補完されていることで、とうとう西之園萌絵と犀川の仲に進展が見られることが読者にとって最も大きなサービスとなっている。


森氏は既にいくつかの短編集を出しているが、本書はいわゆる森作品の本流を成すS&Mシリーズ、Vシリーズの幕間劇的に5作目ごとに刊行される短編集に連なるもので4冊目に当たる。

私は遅れてきた森作品の読者だが、逆に今だからこそ書かれている内容が理解できるものがある。そう、森作品に盛り込まれているIT技術は刊行当時最先端のものだからだ。

それが電脳世界を舞台にした1作目の「トロイの木馬」。この作品は島田荘司氏が21世紀初頭に当時生え抜きのミステリ作家たち数名に新たな世界の本格ミステリ作品を著すとの呼びかけにて編まれたアンソロジー『21世紀本格』に収録された作品で、システムエンジニアを主人公とした物語だが、一読、これが2002年に書かれたものであることに驚愕を覚えた。
ここに書かれている在宅勤務による電脳世界―この用語ももはや死語と化しているが―を介しての仕事、ネットワークトラップである「トロイの木馬」のこと、更には小型端末と表現されたモバイル機器と16年後の今読んでも全く違和感を覚えない現代性がある。いやむしろ発表当時に読んでも全く何を書いているのか解らなかったのかもしれない。IT社会として情報化が進み、タブレットやスマートフォンが流布した現代だからこそ理解できる内容だ。

また今回初めて気付いたが、収録された作品のほとんどが一人称叙述で書かれていることだ。7作中6作が一人称叙述だ。しかも三人称叙述で唯一書かれているのがS&Mシリーズの1編だけであり、それ以外のノンシリーズ物は全て一人称叙述なのだ。

以前も書いたが長編が非常にクールかつドライで一定の距離感を持った、理系人間が書く論文めいた作風であるのに対し、短編は幻想的かつ抒情的でセンチメンタリズムを感じさせる、文学趣味が横溢した作風と趣が異なっているのが特徴だ。
長編が左脳で書かれた作品とすれば短編は右脳で書かれた作品とでも云おうか。そしてどこか非常に森氏の日常や感情が短編には多く投影されているように思える。いわゆる森氏の人間的エキスが色濃く反映されているように思えるのだ。

例えば「不良探偵」は語り手のサトル君の恋人だった真由子との別れの話だが、他者に対してさほど関心を持たない彼は真由子が自分が養うから気に食わない仕事だったら辞めてしないなよとまで云うほど、彼のことを慕っているのが明確なのに、彼はそれを友人としての忠告としか受け取らず、そして作家となって売れ出した時に他の女性が家に入ってくることを拒まず、さらにはその中の1人と一緒に映画にも云ったりするほど、真由子の想いに対して鈍感だ。そしてその真由子はそんな現状に絶望して彼の前を去るわけだが、この物語にも森氏の若かりし頃のある女性との思い出が反映されているように思える。

最たるは「話好きのタクシードライバ」だ。これはもうほとんど森氏自身の話と云っていい。エッセイとも云えるタクシーに纏わるエピソードの物語だ。ここではほとんどグチのような内容が書かれている。

またどこまで本気なのか解らないが内容にそぐわないタイトルである「ゲームの国」は『今夜はパラシュート博物館へ』にも同題の物があり、それは森作品のタイトルのアナグラムが横溢していた。そして今回は回文。つまりタイトルのゲームの国とは恐らく言葉のゲームに親しむ作者自身の稚気を優先した作品世界そのものを指しているようだ。

ちなみに前回は森博嗣氏のアナグラムである礒莉卑呂矛が探偵役でしかも磯野拡の事件簿1と副題についていたが、今回はリリおばさんの事件簿1と付いている。今後本当にそれぞれアナグラムと回文を扱った遊びに淫したミステリが書かれるのか、森氏の気まぐれというか遊び心の1つと取って期待しないでおこう。多分また新たなシリーズ探偵が出てくることだろう。

そして何よりもボーナストラックとも云うべきはS&Mシリーズの「いつ入れ替わった?」だ。本作では上にも書いたように引っ付いては離れ、または平行線を辿るかと思えば、接近していくが寸前のところで決して接しない反比例の双曲線とX軸、Y軸のような2人の関係に進展が、それも大きな進展が見られる。

シリーズ本編の最終作で肩透かしを食らった感のある読者は本作を必ず読むことをお勧めする。

さて本書のベストを挙げるとすれば「赤いドレスのメアリィ」となるか。何とも云えない抒情性を私は森氏の短編に期待しているが、それに見事に応えてくれた作品である。
ただある女性の長い待ち合わせが終わりを告げたことだけが事実として残る。

恐らくはシリーズファンにしてみれば「いつ入れ替わった?」は渇望感を満たす1編になるだろうが、やはり私は西之園萌絵にそれほど好意的ではないのでベストとまでには至らない。

しかし本書のタイトルは何を示すのだろうか。英題を直訳すれば「隙間だらけの行列の逆数」となるか。しかし使われている単語はいずれもコンピュータ用語にも使われる物で「ボイド形態となったマトリックスの逆数」となるか。
いずれにせよ深読みさせて、結局何の意味もないというのが森氏の真意なのかもしれない。

しかし全てを明かさないスタイルは本書も健在。読者はただ単純に読んでいると本書に隠された謎や真意、真相が見えなくなっている。もしかしたら私がまだ気づいていない仕掛けがあるのかもしれない。
作者のこの不親切さはある意味ミステリを読む姿勢が正される思いがして、うかうか気が抜けない。読者もまた試されている。そういう意味では森氏の短編集は問題集のようなものになるかもしれない。

さて次回の演習も私は十分説くことができるだろうか。


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Tetchy
WHOKS60S
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(7pt)

虚空の逆マトリクスの感想

久々の森ミステリィ。やはり森さんの作品は他の作家とは一線を画す独特の詩的表現や流れるような文章で一気に読ませますね!今回の短編集では近未来を舞台にしたバーチャルミステリ「トロイの木馬」、リリおばさんの超絶回文に目がぐるぐる回る「ゲームの国」、萌絵と犀川の元祖肉食女子と草食系男子のコンビが微笑ましい「いつ入れ替わった?」の3編が特に良かった。

ジャム
RXFFIEA1
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No.10:
(3pt)

普通

森氏の短編はミステリ分薄めなのが通例だが、この作品もご他聞に漏れず
全体的にミステリ要素は薄い
ダイイングメッセージ物のリリおばさんはひし形マークはともかく『2』はやや専門知識が
必要でアンフェア目、犀川シリーズは相変わらずの無難推移というところだが、
まあ楽しめないというほどではないだろう

Vシリーズの短編はないので、そのあたりファンはややがっかりかもしれない
虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)Amazon書評・レビュー:虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)より
4061822969
No.9:
(3pt)

多様性

S&Mシリーズ1篇を含んだ趣向を凝らした7作を収録した短篇集です。氏の長篇作品と短篇作品では抱く印象が異なり、長篇作品ではミステリィ色が強く、短篇作品では純文学を意識しているような印象を抱きます。とりわけ、この短篇集は今までにない多様性を伺うことが出来ます。
「嘘の方が価値がある、という場合もある」
虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)Amazon書評・レビュー:虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)より
4061822969
No.8:
(3pt)

この人の短編集はどっちかといえば苦手

強いて言えば,「話好きのタクシードライバ」,「探偵の孤影」が好きかも。ただ,この人の短編集はどっちかといえば苦手。
さあ,次は四季シリーズ。
虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)Amazon書評・レビュー:虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)より
4061822969
No.7:
(4pt)

VRを描いた「トロイの木馬」が秀逸。

森サンの短編集もだいぶ読みやすくなった感があります.私は1話めの「トロイの木馬」がオススメです。VRを扱った作品は多いですが、読み進むに従って明らかになる謎に戦慄します.いつもの作品より、ホラー系でしょうか?もちろん短編集に、おさめられるS&M、Vシリーズの外伝も楽しみのひとつです.
虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)Amazon書評・レビュー:虚空の逆マトリクス (講談社ノベルス)より
4061822969
No.6:
(2pt)

めずらしさ先行

SFやハードボイルド,ミステリにラブコメ(?)など7作の短編集.
それぞれの作品が特徴的で,趣向を凝らしてはいるのですが,
どうもそちらのほうが目立ってしまって,作品自体は弱く感じます.
また,さまざまなタイプの作品のせいか,全体的に散漫な雰囲気でした.
作品のほうは,ひとつに専門的な用語がたくさん登場するものがあり,
そちらに興味や知識がない人にはかなり苦痛に感じるかもしれません.
ほかにも,ミステリ要素のあるものはどれもパンチ不足に思えますし,
苦い後味を残す作品については,ちょっと好みがわかれそうです.
虚空の逆マトリクス(INVERSE OF VOID MATRIX) (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:虚空の逆マトリクス(INVERSE OF VOID MATRIX) (講談社文庫)より
4062754614



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