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恐怖の研究



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恐怖の研究の評価: 5.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(5pt)

クイーンがホームズを書くとき

クイーンが伝説の名探偵ホームズに挑む。しかも扱う事件は切り裂きジャック事件!
当時のミステリ界ではこんな煽情的な謳い文句が躍ったのではないかと推測されるが、クイーン作品にしては文庫本にしてたった200ページ強と今まで一番短い小説である本書は、識者によれば映画作品のノヴェライズだという。

ドイルのホームズ譚に切り裂きジャック事件がないのか、いやいや『バスカヴィル家の犬』事件で途中ホームズがいなくなるのは切り裂きジャック事件に取り組んでいたからだ、などとマニア、シャーロッキアンの間ではまことしやかに囁かれていた稀代の名探偵と稀代の殺人鬼の対決がエラリイ・クイーンの手によって実現されたのが本書。
本書はエラリイの許にワトスン博士の未発表原稿と思しき文書がもたらされ、その内容がホームズが切り裂きジャック事件に挑む話だったという作中作で構成されている。
ホームズの物語ではドイルのホームズ譚にまつわる人物や事件、舞台がそこここにあしらわれ、マニア、シャーロッキアンの興趣をくすぐる。

とにかく1章当りの分量が少なく、おまけに1ページ当りの文章量も少ない本書はサクサク読めることだろう。特にホームズ作品に慣れ親しんだ読者ならば実に親近感を持って読めるに違いない。
前述したようにホームズ作品を読んだ者にとって楽しめるネタが仕込まれているし、作中作のホームズ譚はドイルが書いたそれと比べても違和感はない(ホームズ作品が出てくる文章は他の作家の手によるものらしい)。

限られた登場人物たちで繰り広げられる切り裂きジャック事件の鍵となるのはオズボーン家という公爵の爵位を持つ貴族にまつわる忌まわしいエピソードだ。
事件の発端は何者かによってホームズの許へ送られてきた手術道具セット。そこに隠されていたのはシャイアズ公爵オズボーン家の紋章。そこから物語は行方知れずとなった公爵の次男、そしてフランス帰りと思しき白痴の男の登場と通常の切り裂きジャック事件とは変わった切り口から事件とその犯人が明かされる。

そしてやはりクイーン。単にホームズによる事件解決に話は留まらない。
まず送られた原稿がワトスン博士によるものかという真偽の問題から、ホームズの解決からさらに一歩踏み込んで別の解決を導く。
そしてその真相をワトスンの未発表原稿を叙述トリックに用いているのだからすごい。この発想の素晴らしさ。さすがクイーンと認めざるを得ない。

物語として、また一連のクイーン作品群の中においても出来栄えではごく普通の作品に過ぎないかもしれない。しかし上に書いたこの作品が内包する当時の時代背景や世情、さらにこの作品が書かれた背景ーホームズが切り裂きジャック事件に挑むという映画のノヴェライゼーションを頼まれたクイーンが、その映画の内容を作中作にしてエラリイに謎を解かせるという構造に置き換え、さらに真相をも変えてしまったらしい―を考えるとなかなかに深い作品だと云える。
さらに現代の日本のミステリシーンにおいてもしばしば作家によって試みられているテキストによる叙述トリックの走りだと考えるとこの作品の歴史的意義はかなり大きい。


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Tetchy
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