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赤い鎧戸のかげで



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赤い鎧戸のかげでの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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(7pt)

カーの怪盗物

なんとカー作品で怪盗物が読めるとは思わなかった。しかもその怪盗が実に変っている。銃を携帯しているが人は殺さず、唯一2人だけ怪我を負わせた程度。そして最たる特徴は猿の顔の意匠がついた鉄の箱を常に携えているというのだ。
そして本作の謎はこの怪盗アイアン・チェストが何者なのか、そしてコリアーがほんの数秒の間にどうやって鉄の箱とダイヤ原石の山を部屋から消したのかが焦点となっている。

今回のカーはかなりフェアプレイに徹したと思う。文章をよく読めば、アイアン・チェストの正体は解るし―実際、2人に絞っていたが最後の対決シーンで私も解った―、そこから最後に明かされる鉄の箱の真相もなるほどと納得が行くのである。
しかし、それでもやはり怪盗が嵩張る鉄の箱を携えているという設定には無理を感じる。HM卿はそれを怪盗の顔を忘れさせるためのガジェットだと論じているが、盗みに入る者が逆にそんな目立つ物を持ってくるだろうか?ただでさえ、帰りには盗品という荷物が加わるのに。こう考えていくと、本作ではまず鉄の箱のトリックが先にあったのではないかと思う。これを利用したいがために怪盗物の物語を肉付けしたのではないかと思えるのだ。実際、本作においてこの鉄の箱消失トリックはなかなかに面白く、そしてカー以外、考え付かないだろうというバカバカしさも孕んでいるのだ。

今回の物語の舞台はタンジールという北アフリカの国(市?)であり、ここではスペイン語、フランス語、アラビア語が公用語として使われている。英語は教育を受けた人たちでもわずかでしか喋る事が出来ないところであり、警視総監のデュロック大佐の勘違い英語も本作におけるギャグの1つになっている。
そしてHM卿の登場シーンは回を重ねる毎に派手になり、しかもよりドタバタコメディの度合いを強めているが、今回は本当に傑作!なんせお忍びで来たはずの―しかもハーバート・モリソンなる偽名まで使って!―訪れた旅先で、一国の大統領差ながらの手厚いセレモニー付きのお迎えと遭遇するのだから抱腹絶倒ものだ!しかもこれが事件の一連の捜査に密接に関わっているのだから、驚きだ。いやはやカーの隙のない演出に感嘆してしまった。

そしてこの異国の地において、HM卿は新たな一面、いや二面、三面を見せてくれる。まずは出鱈目なアラビア語を駆使してムーア人の心を摑むだけでなく、アラビア人の扮装をして、聖者さながら輿に乗って街を練り歩く。更には暗闇から襲い掛かるアラビア人の刺客を身軽に交わし、何の躊躇もなく、喉を掻っ捌くし、ボクシングの野試合ではレフェリーをも演じると、今まで観たことも、聞いたこともない設定が続々と登場する。特に本作においては従来の滑稽なデブのおっさんではなく、数々の修羅場を潜り抜けた百戦錬磨の人物として描かれている。
今まで述べたように、本作ではHM卿の色々な面を見せつつ、密室からの大きな鉄の箱の消失とたくさんのアイデアが放り込まれているのだが、総じて考えるとやはり全体のバランスに欠いているように感じる。それは前にも述べた怪盗が鉄の箱を携えて盗みに入るという設定に非常に無理を感じるのだ。

更に加えてこの題名。題名に書かれている赤い鎧戸とは怪盗の相棒コリアーがタンジールで借りた部屋の目印として宿主に塗らした鎧戸のことだ。この影で行われた事が謎の中心だとカー自身、断っているのだろうが、ちょっとそぐわない感じがする。
それも含めて考えると本作はやはり佳作の域を出ないだろう。

Tetchy
WHOKS60S

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