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【カーター・ディクスン】
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九人と死で十人だの評価:
7.00/10点 レビュー 1件。 B ランク
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平均点7.00pt
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戦時下に乗り合わせた名のある乗客たちのミステリ
HM卿シリーズ11作目の本書は1999年に国書刊行会から刊行されたものの改稿版。約19年を経てようやく文庫化となった。そんなディクスン作品でも希少な部類に入る本書の舞台はなんと船上ミステリ。第二次大戦下のニューヨークからイギリスへ渡航する大型客船で起きる殺人事件を扱っている。本書の冒頭で作者のディクスンは自身が第二次大戦開戦直後に経験したニューヨークからイギリスへの船旅の経験を基に作られたことが記されている。1本の作品にするほどこの船旅は作者の印象に強く残ったそうだ。更に本書は第二次大戦下での客船の大西洋渡航という設定がミソとなっている。それはつまり大型客船でありながら、イギリスへの軍需品を輸送するミッションを負っているため、乗船が許されたのは喫緊にイギリスに渡る必要のある9人しか乗れなくなっているのだ。つまりこれは海上の館物と云っていいだろう。その9人のメンバーは以下の通り。主人公を務めるマックス・マシューズは元新聞記者で乗船した客船の船長フランシス・マシューズの弟。彼は火災現場の取材中に事故に遭い、片脚に大怪我をしたが、幸いにして全快したものの、取材に同行していたカメラマンを事故で喪い、そしてそのまま辞職した。そして新天地ロンドンで新たな職にありつくために渡航している。ジョン・E・ラスロップはニューヨークの地方検事補で、ある殺人犯を追っている。しかも凶悪な恐喝犯カルロ・フェネッリのお目付け役でもある。トルコ外交官夫人でもうすぐ離婚する予定の妖艶なエステル・ジア・ベイ夫人。イギリスの実業家ジョージ・A・フーパーは息子が重病のため、急遽帰国することになった。その他医師のレジナルド・アーチャーにフランス軍人のピエール・ブノア。謎めいた若き女性ヴァレリー・チャトフォードと貴族の子息ジェローム・ケンワージー。そして最後に隠密裏にイギリスへと戻るHM卿ことヘンリ・メリヴェール卿。しかし上に述べたようにそれぞれの乗客に急遽イギリスに戻らなければならない、のっぴきならない事情があるとは明確に書かれていない。今回の事件でエドワーディック号に乗船した本来の動機が明らかになるのはブノア、チャトフォード、ケンワージーぐらいである。第2次大戦時下という緊迫した状況下での軍需品輸送の密命を帯びたイギリス渡航中の客船を舞台にディクスンが仕掛けた謎は船上での殺人現場に残された指紋に船内に該当する人物がいないという実に奇天烈な物。単に船内の登場人物に限定しない第三者の介入と、更に陸地にある館とは異なる、どこからも部外者が侵入できない船上で第三者の介入がなされたという不可解な謎を用意しているのだ。更に殺人事件はそれだけに留まらず、第2、第3の殺人が起きる。久々に読んだカーター・ディクスン作品だが、謎また真相は小粒でありながら全てが収まるべきところに収まる美しさが本書にはあった。同じ客船を舞台にしたドタバタ喜劇が過剰な『盲目の理髪師』よりもこちらを私は買う(ところで本書でも客船での理髪師とHM卿のやり取りが殊更ユーモアに書かれている。これは前掲の作品に呼応したものだろうか?)。特に指紋のトリックは21世紀でありながら私は本書で初めて知った。また犯人特定の鍵に使われた様子のない髭剃り用のブラシに着目するところはクイーンのロジックの美しさを感じさせる。つまりある意味カーター・ディクスンらしからぬロジックの美しさが感じられる作品なのだ。また注目したいのは本書の舞台が第2次大戦時下というところだ。複数の国を巻き込んだこの世界大戦において無数の人間が死ぬ状況。そんな中で軍需品輸送の密命を帯びた客船に同乗した9人の乗客とその船員たちはそれぞれに名を持ち、そしてそれぞれに使命を、希望を、そして思惑を持っている。大量に人が死ぬ時代に9名の人間が意志ある人間として描かれ、そして殺人劇が繰り広げられているところに本書の意義があるように思える。世界中で人が次々と死に、誰がどこでどのように死んだのかの確認が後手後手になり、結果、名もなき兵士たちによる死屍累々の山が築かれる中、名を持った人間たちが戦争に加担する船に乗り込み、そして命を落とすところが意義深い。しかしこうも順調にジョン・ディクスン・カー及びカーター・ディクスン作品が新訳刊行されていることは非常に喜ばしい。HM卿シリーズで未読の作品は残すところ3作品となった。そのいずれもが早川書房からかつて刊行された作品であるが、もはや著作権は切れているのでこの際東京創元社から引き続き新訳刊行してもらいたいものだ。ギデオン・フェル博士シリーズも、その他歴史ミステリ、いやカー作品を全て網羅してほしいものだ。私が生きているうちにカー作品コンプリート出来ることを願っている。 ▼以下、ネタバレ感想
HM卿シリーズ11作目の本書は1999年に国書刊行会から刊行されたものの改稿版。約19年を経てようやく文庫化となった。
そんなディクスン作品でも希少な部類に入る本書の舞台はなんと船上ミステリ。第二次大戦下のニューヨークからイギリスへ渡航する大型客船で起きる殺人事件を扱っている。
本書の冒頭で作者のディクスンは自身が第二次大戦開戦直後に経験したニューヨークからイギリスへの船旅の経験を基に作られたことが記されている。1本の作品にするほどこの船旅は作者の印象に強く残ったそうだ。
更に本書は第二次大戦下での客船の大西洋渡航という設定がミソとなっている。それはつまり大型客船でありながら、イギリスへの軍需品を輸送するミッションを負っているため、乗船が許されたのは喫緊にイギリスに渡る必要のある9人しか乗れなくなっているのだ。つまりこれは海上の館物と云っていいだろう。
その9人のメンバーは以下の通り。
主人公を務めるマックス・マシューズは元新聞記者で乗船した客船の船長フランシス・マシューズの弟。彼は火災現場の取材中に事故に遭い、片脚に大怪我をしたが、幸いにして全快したものの、取材に同行していたカメラマンを事故で喪い、そしてそのまま辞職した。そして新天地ロンドンで新たな職にありつくために渡航している。
ジョン・E・ラスロップはニューヨークの地方検事補で、ある殺人犯を追っている。しかも凶悪な恐喝犯カルロ・フェネッリのお目付け役でもある。
トルコ外交官夫人でもうすぐ離婚する予定の妖艶なエステル・ジア・ベイ夫人。
イギリスの実業家ジョージ・A・フーパーは息子が重病のため、急遽帰国することになった。
その他医師のレジナルド・アーチャーにフランス軍人のピエール・ブノア。謎めいた若き女性ヴァレリー・チャトフォードと貴族の子息ジェローム・ケンワージー。
そして最後に隠密裏にイギリスへと戻るHM卿ことヘンリ・メリヴェール卿。
しかし上に述べたようにそれぞれの乗客に急遽イギリスに戻らなければならない、のっぴきならない事情があるとは明確に書かれていない。今回の事件でエドワーディック号に乗船した本来の動機が明らかになるのはブノア、チャトフォード、ケンワージーぐらいである。
第2次大戦時下という緊迫した状況下での軍需品輸送の密命を帯びたイギリス渡航中の客船を舞台にディクスンが仕掛けた謎は船上での殺人現場に残された指紋に船内に該当する人物がいないという実に奇天烈な物。単に船内の登場人物に限定しない第三者の介入と、更に陸地にある館とは異なる、どこからも部外者が侵入できない船上で第三者の介入がなされたという不可解な謎を用意しているのだ。
更に殺人事件はそれだけに留まらず、第2、第3の殺人が起きる。
久々に読んだカーター・ディクスン作品だが、謎また真相は小粒でありながら全てが収まるべきところに収まる美しさが本書にはあった。同じ客船を舞台にしたドタバタ喜劇が過剰な『盲目の理髪師』よりもこちらを私は買う(ところで本書でも客船での理髪師とHM卿のやり取りが殊更ユーモアに書かれている。これは前掲の作品に呼応したものだろうか?)。
特に指紋のトリックは21世紀でありながら私は本書で初めて知った。
また犯人特定の鍵に使われた様子のない髭剃り用のブラシに着目するところはクイーンのロジックの美しさを感じさせる。
つまりある意味カーター・ディクスンらしからぬロジックの美しさが感じられる作品なのだ。
また注目したいのは本書の舞台が第2次大戦時下というところだ。
複数の国を巻き込んだこの世界大戦において無数の人間が死ぬ状況。そんな中で軍需品輸送の密命を帯びた客船に同乗した9人の乗客とその船員たちはそれぞれに名を持ち、そしてそれぞれに使命を、希望を、そして思惑を持っている。大量に人が死ぬ時代に9名の人間が意志ある人間として描かれ、そして殺人劇が繰り広げられているところに本書の意義があるように思える。
世界中で人が次々と死に、誰がどこでどのように死んだのかの確認が後手後手になり、結果、名もなき兵士たちによる死屍累々の山が築かれる中、名を持った人間たちが戦争に加担する船に乗り込み、そして命を落とすところが意義深い。
しかしこうも順調にジョン・ディクスン・カー及びカーター・ディクスン作品が新訳刊行されていることは非常に喜ばしい。
HM卿シリーズで未読の作品は残すところ3作品となった。そのいずれもが早川書房からかつて刊行された作品であるが、もはや著作権は切れているのでこの際東京創元社から引き続き新訳刊行してもらいたいものだ。ギデオン・フェル博士シリーズも、その他歴史ミステリ、いやカー作品を全て網羅してほしいものだ。
私が生きているうちにカー作品コンプリート出来ることを願っている。
▼以下、ネタバレ感想